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10-29 “鬼”

 苦手は苦手だが、対処法が何にも無いって訳じゃない。

 あくまでも相性が悪いって意味だ。


「どうした? 手が尽きたか?」

「(まさかでしょ)」


 苦手な相手なら、それ相応の対応をしろ!

 おっさんと俺の能力値の差は歴然。悔しいが、何をどう足掻いたって、その差は埋まらない。だが、縮める事くらいなら出来る――――!


【ブレイクストレングス】


 弱体化の魔法を飛ばす――――しかし、その効果は発揮される事なく、おっさんの体の表面でパキンッと魔法のエフェクトが弾けて消える。


「我が【決闘場(コロシアム)】の中では、我に対する弱体化効果は全て無効だ」

「(くっそ!? せめて弱体化(デバフ)くらいは素直に食らって欲しいんだがね!!)」

「断る」


 短く言いながら、ドンッと凄まじい轟音をたてる踏み込みで突っ込んでくる。

 チッ……! 3mの巨体があの速度で突っ込んでくると、避けれる避けれない別にして、普通に怖ぇんだよ……!!

 なまじ現代社会で高速で走る車やトラックを見慣れている分、その怖さが妙に実体に近い怖さなのが厄介だ。

 接近戦はコッチに不利な要素が多すぎる、距離を取れ!

 息を止めて【アクセルブレス】を発動。

 ゆっくり動く世界を、猫らしい俊敏さで横に飛ぶ――――が、スローになっている世界の中でも、赤鬼の巨体はかなりのスピードで突っ込んでくる。

 速い……! 拳打のスピードも無茶苦茶速いけど、単純な肉体稼働も尋常じゃなく速い。あのでかさで、あの俊敏さは……どれだけ肉体を苛め抜いたら実現できるんだろうな?

 想像するだけでも気が遠くなる……。

 いや、気を遠くしてる場合じゃねえよ!? あの速度で突っ込んでこられたら、【アクセルブレス】使っても逃げ切れねえぞ!?

 【タイムアクセラレータ】を使えばもっと速く動けるが、アレは本当にしんどいから、ほんの一瞬か、頑張っても1秒かそこらしか持続できねえ。緊急回避程度にしか使えねえしな……。

 ま、距離を取る方法は“素早く動く”以外にも有るけどな?


 【隠形】


 俺の気配と、俺から発生した音を周囲から消される。そして、周囲の者から俺を知覚できなくさせる――――。

 隠れながら逃げたり攻撃するのは、あんまり格好良くないし卑怯臭いが……見栄えを選んでられる相手じゃねえしな?

 それに、不意打ちやバックスタブは俺の専売特許ですし。

 心なしか微妙に言い訳臭い事を思いながら、今まで進んでいた方向とは逆にコソコソと移動する。


「逃がさん!」


 ズザザッと踏み足を地面に滑らせながら、俺に向かって(・・・・・・)黒い魔力光を揺らめかせながら拳を――――いや、瞬時に切り替えた掌底を振る。


「“衝”!!」


 おっさんの掌底に叩かれた空気が、見えない砲弾となって飛んでくる。


「ミッ!?」


 何それ!?

 俺の位置を正確に分かったうえで放たれた空気の弾丸。

 咄嗟にバックステップを踏んでギリギリで回避――――するが、空気の渦に巻かれて腹の毛が少し持って行かれる。


「ミィ……!」


 俺の腹の毛を持って行った空気の渦は、その先にあった1m以上の岩の塊を粉砕した。

 ヤッバ……!? この空気弾も魔導拳の一種か? アビスの野郎が形にした技なら、こんなトンデモ技があってもおかしくねえか。


「良く避けた」

「(……なんで、俺の位置が分かんの……?)」

「【決闘場】の内側においては、空間そのものが我の目であり耳だ。どれ程巧みに隠蔽(ハイド)しようとも逃れられんよ」


 マジかよ……?

 いや、【隠形】を切ってないのに俺の声が聞こえてるって事は、マジで【隠形】の効果がおっさんに通じてない証拠だ。

 ヤベエって……攻撃能力が無いからって、舐めてかかれるレベルの物じゃねえぞこの魔王スキル……!! 下手すりゃ今まで味わったどの魔王スキルより厄介かもしれねえ!?

 武器と天術に続き、弱体化とハイドも禁止と来たか……徹頭徹尾、ガチンコの殴り合い以外は認めないって事かよ……!! どこまでも分っかりやすい脳筋め!!


「逃げ場所は無いぞ?」

「(上等だぁ)」


 【隠形】と解除し、チョコチョコと歩いて改めておっさんと向き合う。

 逃げ場所は無い。隠れる事も出来ない。

 だったら、やってやろうじゃねえか……!

 おっさんの異常な魔法防御相手じゃ、魔法じゃ致命打は与えられない。やるしかない。活路は1つ。おっさんの土俵での殴り合い――――!!


「(隠れる気はあっても、逃げるつもりなんて毛頭ねえ――――よッ!!)」


 収集箱内の防具カテゴリーから、籠手を有りっ丈引っ張り出す。

 空中に浮かぶ、総数260の腕。

 革、鉄、銀、ミスリル、オリハルコン……様々な素材の腕が、拳を固めておっさんを睨んでいる。

 神器の1つ……黒土の剛拳。アレも見た目は籠手っぽいけど、カテゴリーは武器だしナックルガード扱いだから出せないか……。

 

「ほう」


 驚かない。それどころか嬉しそうに笑う。

 だから……顔怖いから、笑うの止めろや!


「((おれ)式――――百裂拳!!)」


 260の腕が、一斉に襲い掛かる。

 前から後ろから、右から左から、上から下から。

 全方位、逃げ場無し!


()い」


 おっさんは止まらない。

 俺に向かって踏み出しながら、向かってくる籠手を左手で叩き落とす。いや、落とすだけではない。防御と同時に籠手を叩いて砕いてやがる!?

 おっさんの左腕が動く(たび)に、(ひしゃ)げ、砕けた籠手が地面に落ちる。

 まるで――――重戦車。

 物量なんてお構いなし、多少攻撃を浴びようが、構うことなく進んでくる。

 くっそが……!? 強過ぎるだろ!!

 慌てて距離を取ろうとした途端――――


「逃がさんと言った!」


 おっさんの左目――――魔眼が怪しく輝く。

 瞬間、俺の体が、空中で静止して動かなくなる。まるで、見えないロープで縛り上げられたように――――。

 自分の意思で動けなくなっただけではない。向かってくるおっさんに吸い寄せられるように、空中を引っ張られる!?


「(何っ!?)」

「【オーバーハンド】。我が視界に入った物を“掴む”魔眼だ」


 拘束系の魔眼……!? 何これ、使い勝手良さそうで羨ましい!!

 とか、言ってる場合じゃねえ!! 手の届かない相手を掴むって、一昔前の格ゲーの投げキャラかよ……!?

 子供の頃、親戚の兄ちゃんに某ザン●エフのパイルドライバーを泣くほどブチ込まれたトラウマが蘇ってくる……。当時、波●拳の入力も満足に出来なかった俺に、なんて大人気ない……。

 等と、どうでもいい事を思い出している間におっさんの振り被る右拳が迫って来る。

 マジで要らん事考えてる場合じゃねえよッ!!

 ジタバタするが拘束が解けない。

 ヤバい――――いや、待て、魔眼の効果なら回避できる!!

 一瞬目を閉じて収集箱の魔法のリストを開き、瞬時に目的の物を選んで発動。


 【盲目(ブラインド)


 相手の視界を一時的に使えなくする魔法。

 アドバンスとの戦いでは、こいつで効果を潰せたから、魔眼相手には有効な手なのは間違いない。

 問題なのは、おっさんにこの魔法が効くかどうか……。

 弱体化は通らなかったが、コレは分類上は状態異常になる筈。だったら通る可能性は有るだろ!


「むっ!?」


 おっさんの左目から魔眼の光が消える。

 良し、通った!!

 拘束が消えて空中で自由になる――――が、視界は奪われたままなのに、振られた拳は俺を追って軌道を修正する。

 チッ! 【決闘場】の中じゃ、視界を奪った程度じゃ俺を見失ってくれねえか!?

 逃げ――――ダメだ余裕が無ぇ!! せめて直撃は外せっ!!

 咄嗟に【空中機動(エアスライド)】で足場を作り、それを後ろ右脚で蹴って身を捻る。

 体が痛むほど捻ってもギリギリで避け切れず、巨大な拳の親指が後ろ脚を撫でるように通り過ぎる。


「ギィ、ミャァあああ!?」


 痛ってぇええええええっ!?

 撫でた……いや、(かす)っただけだと言うのに、衝撃が全身に広がって10m以上吹っ飛ばされる。

 受け身を取ろうとするが、右半身が動かず地面に叩きつけられた。


「ミャっうぅ……」


 追い打ちが来る、すぐ立て!

 が、後ろ右脚が絞った雑巾のように拉げて、まったく動かず、脚が体にくっ付いているかも感覚では分からない。いや、見た目的には、ちゃんと付いてるけどさ。

 くっそ……マジか……!? パンチ一発掠めただけで半死じゃねえかよ……!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 盛り上がってきましたね! 先が気になってしょうがありません。
[気になる点] 260の腕攻撃・・・ 壊されなければ合体して1つの巨大パンチになれたかな~
[一言] さすがオッサンやスキル構成に穴が無い 近接戦を強制する魔王スキル ガチガチの防御力 装備に頼らない格闘特化の戦術 間合い調整におあつらえ向きの魔眼 ソロ戦特化でレベルマまで育てたタンクみたい…
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