10-26 猫vs赤鬼
おっさん相手に手を抜くなんて有り得ない。……と言うより、手を抜いて様子見なんてしてる余裕はない!
最初っから全力全開で行かなきゃ即座に狩られる。
出し惜しみはない――――
【全は一、一は全】
魔王スキル発動。
全身の血に火が付いたように熱くなる。
強化天術、魔法によりオートで全能力を底上げ。
装備解除されていた魔眼の能力が右目に宿り、瞳の奥の星空のような瞬きが宿る。
特性【星の加護を持つ者】の装備時効果により【アクティブセンサー】発動。天空闘技場の様々なデータが即座に取得されて頭に流れ込んでくる。
同時に――――収集箱を解放!
蓋が開いて中から854の武器が飛び出す。箱の中に残った防具の全ての防御力、耐久力、硬度、耐性が小さな子猫の体に付与される。
よしっ! 準備完了…………っと、ジワジワと湧き上がって来る、何もかも忘れて暴れだしたくなる破壊衝動。それをチッと舌打ちしながら奥に押し戻す。
戦いを始めれば、先手必勝でぶん殴りに来るかと思っていたのだが……意外にも……いや、これもある意味予想通りに……おっさんはジッと俺が動き始めるのを待っていた。
その顔に浮かぶのは――――笑みだった。
戦いの高揚を、目の前の敵の力を噛み締め、全力で楽しんでいる、子供のような純粋な笑顔だ。
「お前の力の底を見た気でいたが……侮っていた事を詫びよう。そして、お前が我の敵であった運命に感謝を言いたい」
「(笑うの止めろや。顔怖くてビビんだよ……)」
俺の底を見た気になってんなら、まだ甘いぜ? もう1段階上があんだよコッチには!
空中に浮かぶ854の武器を、【偽物】の魔眼で複製。数を倍に――更にそれを【欺瞞と虚構】で幻を被せて倍に!!
総数3416。
天を覆い尽くす……とまでは行かなくても、この数には相当な威圧感がある。まあ……4分の3は見せかけだけのハッタリだけど。
「ほう」
おっさんが感嘆の声を漏らすと同時に――――魔眼の力で生み出した紛い物の武器がパキンッと割れて砕け、あるいは霧のようにスゥッと消える。
「(な……んだっ!?)」
俺自身が魔眼の効果を解いた訳じゃない。今も能力は維持しようとしてるし、その分の魔力も消費されている――――のに、なんで!?
「そうか、今のは魔眼の効果であったか」
何かを納得したように、おっさんが左目を掌で隠す。
その手を退けると――――左目に、俺と同じ、魔眼の輝きが宿っていた。
「済まぬな。個人的にはお前の魔眼有りきの攻撃を受けてみたかった気もするが……魔眼は自身よりランクの低い能力を勝手に無効にしてしまう故、許して欲しい」
「(マッジ、かよ……)」
ヤバい……完全に計算外!!
普段のおっさんの目が魔眼じゃないから完全に油断してた……!! しかもコッチより上位ランクの魔眼なんて……!!
クソっ、そうだよ、アビスの野郎も魔眼を隠してたし、魔王の上位連中は同じような事してたっておかしくねえじゃんか!?
っつか、おい、マジでヤベェって!? 魔眼が効かないばかりか、相手の魔眼の対策なんてしてねえぞ!?
そもそも魔眼使いとの戦闘経験なんてアドバンス1人だけだ。アビスも魔眼持ちだけど、あの野郎は俺との戦いでは“異能禁止”の手抜きだったし。
いや、いやいや、落ち着け俺!
コッチの不利なんて始める前から分かってた事だろうが。不利な要素が1つ2つ増えようが、どれ程の変わらん。
それに――――魔眼を使わせなきゃ良いだけだ!!
武器を動かす。
わざわざ「行くぞ」なんて相手に合図を送ってやる気はない。
突然の襲撃にして速攻――――不意打ちこそが俺の生きる道です!!
撃ち出されたように、音より速くおっさんに襲い掛かる854の武器。
「魔纏」
鬼の両拳が、黒い魔力光に包まれる。
阿修羅と戦った時に見せた魔導拳か!?
ステップしながら、殺到する剣を、槍を、矢を、おっさんの巨大な拳が次々に叩き落す。しかも――――左手だけで。
800を超える武器の、津波の如き攻撃の波を、片拳だけで捌いてやがる!?
おっさんの左手の動きが目で追えない……! 速い速いとは思っていたけど、まだ上の速度があんのかよこの野郎!? マジで鬼かよ!? …………あ、鬼か。
叩きつけてる武器は、勿論全部魔力を通して性能を限界まで強化してある。その武器が腕ごとぶち抜くつもりでぶつかってるのに――――おっさんの左拳は血の一滴すら流していない。
速いだけじゃねえ……硬い!!
魔導拳は攻撃の為の技かと思ってたけど――――違う……防御の技としてもクソ性能じゃねえかよ!?
「なるほど……やる!」
「(どっちが!!)」
だったら――――【属性変化】で俺の装備する全ての武器の属性を“虹”に変更。虹属性は、相手に効果のある属性ダメージを勝手に選んで発動してくれる。
更に【エレメントブースト】で属性値を5倍に!
「むっ……」
武器の纏う輝きが変わったのに気づき、おっさんが両手に纏う魔力光を濃くする。
だが――――飛んできた旭日の剣を拳で弾いた途端、そこから小さな血飛沫が舞う。
よし! ダメが通った!
おっさんがダメを負うって事は、単純に防御力を抜けたって意味ではない。腕の動きが速すぎてよく見えないが、おっさんは確実に“柔法”での受け流しをしている筈。それなのに傷を負ったって事は、物量を捌き切れてない証拠だ。
「ほう!」
自分が傷を負ったと言うのに、それを怒るどころか相手に対する称賛の目で返す辺り、流石あの戦闘狂の弟子……!!
そら、武器1つで与えられるダメージはかすり傷程度かもしれないが、854の物量でなら相応のダメージになる。
だが――――おっさんがこれで大人しく倒れてくれるとは、俺は爪の先程も思っていない。
魔王の中での戦闘力4位が、こんなあっさり沈んでくれるなら、今までの勇者もそこまで苦労しなかったし、10年前の戦争でも敗北しなかっただろう。
だから、畳みかける!!
絶え間なくおっさんに襲い掛かり続ける武器の流れを少しだけ操作。
おっさんを囲むような位置取りに。
収集箱のリストから天術選択。
悪いなおっさん? そっちが手札開き始めたら、確実に俺のが追いつめられるのは目に見えてるからな。行動起こす前に速攻で片を付けさせてもらう!!
【審判の雷】
夕闇に染まった空が一瞬チカッと輝き、巨大な白い雷が天空闘技場に落ちる。
これだけ上空なら、下にいる魔族にまでは当たらんだろう!!
「――――グッ……」
おっさんが足を止め、防御の姿勢になる。
正しい。
【審判の雷】の超広範囲攻撃は、転移でもしなきゃ逃げられない。下手に動こうとするより、その場で防御固めて亀になる方がずっと被害が少なくて済む。
かつてアドバンスの野郎は深淵のマントでこの天術を完全防御し、ガジェットの野郎は片腕を盾にして受け切った。だが、2人と戦った時とは俺の魔力が桁外れに上がっているから威力もそれ相応に上がっている。
だが、俺は慢心しない。おっさんなら、【審判の雷】1発くらい軽々と受け切る可能性は十分に有り得る。
じゃあ――――だったら――――連打ならどうよ!!
“連鎖起動”
おっさんを取り囲んでいる武器の先から、天術が吐き出される。
【審判の雷】×50
一気に、詰みまで持って行く――――!!




