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9-21 蹴散らす

 赤鬼(おっさん)は、普通のパンチ(本人談)でゴーレムゾンビの体を次々に粉々に散らし、俺は【冥府還(ターンアンデッド)】をそこら中にぶん投げながら、近付いて来た奴を旭日の剣でバッサバッサと斬る。

 2人がかりで処理すると、ものの3分で数が半分以下になっていた。


「残りは進みながら倒すとしよう」

「(了解)」


 普通に歩き出した赤鬼(おっさん)だが、拳の鋭さは1mmも衰えておらず、近付く奴を容赦なくすり潰している。

 ……怖っ!

 ただただ単純な暴力怖っ!

 赤鬼(おっさん)は体がでかい。当然の事ながら、その分腕は長いし拳も大きい。

 って事は、普通の人間や魔族よりも格段に射程(リーチ)と拳の面積が広いって事だ。

 避け辛いし、近付き辛い。

 実際に戦う前に見られて良かったな……。

 ……あれ? まさか……。

 大きな背中を追いかける。


「(なあ、おっさん?)」

「おっさん言うな。なんだ?」

「(もしかして、自分の戦う姿(・・・・・・)を見せる為に(・・・・・・)連れて来たのか?)」

「どうしてそう思う?」

「(ただの勘)」


 嘘だ。

 ある程度の根拠はある。

 色々話して、この赤鬼(おっさん)がレティの言っていた通り、魔族らしからぬ正々堂々とした人物である事が分かった。

 清廉潔白……なんて言葉は、コイツかバルト辺りにくれてやるべき言葉だろう。

 そして昨日の赤鬼の私室での会話。

 俺――――剣の勇者が闘技会に参加する事について、難色を示していたのは赤鬼本人だ。

 で、今の状況だ。

 闘技会に参加した俺は、当然色んな人に戦う姿を見られている。その情報は、当然この赤鬼の元へも届いているだろう。

 そうなると、正々堂々の赤鬼的にはどうなのよ?

 一方的に相手の情報を得ている事を、飲み込むか否か。

 どう考えても、「否」だ。

 では、ここから正々堂々……五分の条件に戻すにはどうすれば良いか?

 簡単だ。自分の戦う姿も見せれば良い。


「考え過ぎだ」


 言いながらも、ロケットランチャーみたいな威力のパンチでゾンビを粉微塵にする。

 だが、さっきまでの鋭いパンチとは違う。

 何かに動揺したのか、少しだけ力んだ、ちょっとだけ遅いパンチ。


「(ふーん……)」


 ま、そう言う事にしときましょうか?

 さてさて、無駄口叩かずに、おっさんに着いて行くとしましょうかねっと。


 2人で……1人と1匹でバカスカ敵をシバキ転がしながら、特に話す事も無く10分程進む。

 振り返れば、ゾンビとして動いていた土塊の山がそこら中に広がり、立っているゾンビは居なくなっていた。


「(片付いた……かな?)」

「……うむ」


 敵性反応の臭いは無くなった……けど、なんだろう? 何か……嫌な感じ? ってか、嫌な空気? が、この場にまだ渦巻いてるような気がする。まあ、気がするだけかもしれんけど。

 でも、強ち的外れって訳でもないだろう。

 だって、赤鬼(おっさん)もそう言う顔してるし。

 とは言え、特に何かが起こる雰囲気でもない。


「もうすぐ慰霊碑だ」

「(おう)」


 旭日の剣を鞘には戻さず、【仮想体】に持たせたまま歩く。

 心なしか、一歩進むごとに空気が重くなる気がする。

 まるで、見えない何かが俺の全身を絡み取ろうとしているかのような……酷く、鬱陶しい不快感。

 慰霊碑に近付いているのか、進むごとに周囲の地形の酷さが増して行く。

 穴。

 地割れ。

 焦土。

 針のように突き出た岩。

 マグマのように沸き立っている異臭を放つ沼。

 酷い……と言うより、怖くなる光景だった。

 地形がこれだけの事になる程の戦いが、10年前に人間と魔族の間で起きたって事だからな……。


「着いたぞ」


 赤鬼(おっさん)の言葉に視線を前に戻すと、墓石のように地面に四角く加工された黒い……岩? 石? なんだアレ? 大理石とか、そう言う感じの、ちょっと特別っぽい石。

 ともかく、その四角の黒い石がドンッと地面に置かれていた。

 周囲が荒れに荒れている中、その黒い石だけが堂々と存在を主張し、まるでこの土地の主であるかのように……。


「(これが、慰霊碑?)」

「うむ」


 黒い石に何か文字が掘られているが、異世界の文字は俺には読めない。

 だが、その掘られた文字に、何か、優しい……悲しい……強い想いが込められている事くらいは分かる。


「10年前の戦いで散った人間と魔族、双方の魂を鎮める為の物だ。本来は人間の戦士達の為の慰霊碑だったのだが、人間達が『死ねば人も魔族も同じだから』と、全ての死者の為に作り直したらしい」


 そう言う部分も、人魔共生の国だからこそ……か。

 天国だか地獄だか冥府だか、死者達がどこに旅立ったのかは知らないけど、向こうで仲良くやれてると良いんだけどねぇ……。死んでまで喧嘩して疲れる必要も無い。

 赤鬼(おっさん)が、どこからともなく小さな酒瓶を取り出して慰霊碑の前に置く。


「1本では足りぬかもしれぬが、仲良く飲んでくれ」

「(……霊を慰めに来た訳じゃないって言ってなかったっけ?)」

「“我は”な。酒は慰霊碑を作った人間達から『持って行ってやって欲しい』と頼まれただけだ」


 ああ、そう言う話?

 俺も一応慰霊碑に向かって南無南無しておく。

 猫(おれ)の動きにつられて、【仮想体】も旭日の剣を地面に刺してから手を合わせる。


「何故、手を合わせている?」

「(俺の――――俺“達”の故郷だと、こうやって死者を悼(いた)むんだよ)」


 興味があるのか無いのか、「ふむ」と言ったきり、俺が祈り終わるまで黙って待つ。

 心の中で「安らかに寝といてね」と名無名無する。

 まあ、魂の平穏を祈ったところで、この辺りがアンデッドと霊体の巣になってるんじゃそれどころじゃねえわな……。

 あの世で皆様が「ウルセぇッ! 静かにしろやボゲッ!!」と声を荒げていない事を祈るばかりである。

 合わせていた手を解いて、金鎧の肩で再び丸くなる。

 【仮想体】も同じように手を解き、地面に刺して手放していた旭日の剣を抜く。


「(待たせた)」

「構わん。ここには、10年前の先代勇者と共に戦った者達が眠っている。今代の勇者のお前が来て、少しは今世の様子に安心してくれていると良いのだが」


 そう言って、ほんの少しだけ優しい目で【仮想体】を見下ろす。

 

「(もしかして、俺……じゃない、剣の勇者を連れて来たのってその為?)」

「そこは否定せん。まあ、人間達にしてみれば『10年前に殺したのはお前だろう』と言う気分なのかもしれんがな」

「(それは……まあ、うん……)」


 無い、とは……とてもじゃないが言えない。

 俺はコッチの世界の人間じゃないし、10年前の戦争を経験した訳でもない。

 でも、家族が突然いなくなる事の痛みや苦しさは、婆っちゃが死んだ時に味わって知っている。

 婆っちゃが死んだのは病気だけど……それが、もし、誰かに殺されたのだとしたら、俺は間違いなくそいつを今も恨み続けていた。

 大切な人を失う痛みは、時間が経って薄れる事はあっても消える事は無い。

 だから、赤鬼(おっさん)を許せない人間は居る。

 赤鬼(おっさん)がどれだけ人間に友好的な魔王であろうが、どれだけ優れた為政者で、どれだけ人間の為の政治をしようが、それは変わらない。

 まあ、本人もそれを知ってるし、受け入れてるんだから、外野(がいや)がとやかく言う事じゃないけど……。


「(人間達は良いかもしれないけど、ここで眠ってる魔族達はむしろ怒るんじゃない?)」


 少し空気が重くなったので、場を和ます事を言ってみる。

 すると、「確かに」と薄く笑う。

 うーん、これくらいの微笑だったら怖くないんだけどなぁ……。

 よし、場が和んだところで本題。


「(ところでさぁ、おっさん? なんか――――見られてない?)」


 俺の言葉を聞くや、微笑がふっと消えて険しい顔になる。

 警戒している。

 顔を見ただけで分かるくらいに警戒のアンテナが立っている。ここに来るまで、こんな顔見せた事なかったのに……。


「やはりお前達も気付いていたか。剣を戻さぬから、そうだとは思っていたが」


 おっさん呼びを注意する余裕も無いのか? ……いや、いい加減諦めただけか。


「気を付けろ。何か、大きな力を持った奴が近くに居るぞ」

「(具体的には?)」

「分からん」


 マジかよ……。


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― 新着の感想 ―
[一言] とうとう300話ですね!おめでとうございます。 これだけ定期的に上げつつけられるのも才能だと思います。 私の日々の楽しみになっています。 これからも無理の無いようがんばってください。 応援し…
[一言] 300話おめでとうございます
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