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1-27 収穫は0ではない

 魔族屋敷を脱出し、「はぁ、落ち着いた」とはなりません。

 ダッシュのまま町中を走る。

 誰かが追って来ていないかどうか確認する。……追手が来ている様子はない……と思う。

 でも、安心は出来ないな……。なんと言っても、屋敷を脱出する時に魔族の1人に完全に姿を見られている。

 ヤバいヤバい…って!

 気を抜いていたつもりはなかったけど、まさか最後の最後で見つかるなんて思ってなかった……。

 【隠形】を使っていると言っても、今の俺のスキルレベルじゃ姿までは消せない。気配を消していても、見えるし声も聞こえてしまう。

 こんな幼気(いたいけ)な子猫が犯人と気付かれたかどうかは分からないが、少なくても屋敷から出て来た不審な奴とは思われた筈だ。

 ………肝心のユーリさんは助けられなかったし、オリハルコンの鎧一式は置いて来ちゃったし、姿は見られるし……収穫0どころかマイナスで散々過ぎる……。

 町をグルッと一周するように走った後、裏路地を迷子になりかける程入ったり出たり、曲がったり更に曲がったり……そこまでしてようやく寝床に戻る。

 はぁ……疲れた…。

 これだけやっとけば、追手が居たとしても多分撒けただろう……と思う。そう信じておかないと精神がまいってしまいそうだしな?

 裏路地の寝床に戻ると、自称俺の取り巻きの猫達が駆けて来た。

 魔族屋敷に侵入した俺の事を心配していたのかと思ったが……違った。

 俺を囲むなりニャーニャー鳴く。


「だ、ダンナ大変です!」「町の東の連中が!」「ここは俺達の縄張りにするって急に…!」


 何やら面倒臭い客が来ているらしい……。

 空の酒樽の上に見慣れない目元に傷のある猫が「お座り」していた。

 そして酒樽の下には、毛を逆立てて俺を威嚇する、やはり見慣れない猫達が3匹。


「ようやく戻って来たな新入り?」


 酒樽の上で傷の猫が偉そうに言う。まあ、実際にはニャーニャー言ってるだけだけども。

 傷猫の取り巻き達が「遅かったな」「ひっひっひ、もう手遅れさ」と笑っているが面倒なのでそちらはスルー。


「どこの猫かは存じませんが、今疲れてるから明日以降に出直してくんない?」

「ぁあ? ふざけんじゃねえぞ? ここはもう俺様の場所なんだよ!」

「そうだそうだ!」「テメエみたいな餓鬼が!」「手下共を連れてさっさと消えな!」


 一際大きく鳴く傷猫。

 その声にビビって俺の後ろに隠れる、黒猫を始めとした自称取り巻きの面々。

 ………このビビり方……さては、俺が来る前に一戦やらかして負けたなコイツ等……。


「そう言うの良いから。今日のところはさっさと帰って下さい、マジで疲れてるから」

「うるっせぇえんだよぉお!!」


 傷猫の子分達が、威嚇から攻撃に切り替わる。

 最短、最速で俺に向かって突っ込んで来る。

 ……面倒臭……。

 コッチは屋敷に侵入した上に、収穫何も無しで逃げ帰って来て、肉体的にも精神的にも疲れてるんだっつーの。……そんなタイミングで何喧嘩吹っ掛けて来てんの御宅等?


 ふっざけんなよ!


 湧き上がって来る怒りを抑えられない―――!

 有りっ丈の筋力を使って踏み込む。

 踏み締めた地面が土煙を上げる。

 普通の猫では有り得ない初速―――からの更に加速。

 反応出来ていない傷猫の手下達の横を通り過ぎ、傷猫が座っている酒樽を全力でぶん殴る!!

 子猫の丸っこい手で叩かれた酒樽は―――ゴシャッと横に(ひしゃ)げて粉々になり、木片が辺りに弾け飛んだ。

 座る場所を失った傷猫が俺の目の前にボトンっと落ちて来た。猫らしからぬ鈍い動きで着地に失敗し、尻餅を突くような姿で。

 俺と目が合う。

 明らかに怯えている。

 2秒前までは確かにあった闘争心とか、支配欲のような物が残らず消し飛んで、化物に出会った小動物のような怯えた目だけが残って居た。


「おい」

「は、はいぃ!!?」

「今、すっごく虫の居所が悪いから……回れ右してさっさと帰れ」

「ハイッ!!!!!」


 慌てて手下を連れて逃げて行く傷猫。

 ったく……救出失敗するわ、姿を見られるわ、猫には絡まれるわ……厄日過ぎないか今日?

 はぁ……こう言う日は不貞寝するに限る。

 路地裏で貴重な陽の当たるスペースに移動し、丸くなって寝る体勢に入る。

 すると、自称俺の取り巻き達が寄って来て、俺を中心に猫団子になる。


「流石ダンナ!」「東の連中もこれで大人しくなりますね」「これでボスは名実共にこの町最強ですよ!」


 最強って……“猫としては”じゃん……。

 魔族相手に喧嘩売ってしまった俺としては、そんな称号まったく要らないんだが。

 「やれやれ…」と溜息と吐いて目を閉じる。

 まあ、でも……こんな寝心地の良い猫団子の中心に居られるのがボスの特権ってんなら、これもちょっと悪くないかな?

 ん?

 ログが流れてる。そう言えば、3階から飛び降りた辺りから確認した憶えがねえや。


『【バーニングエクシード】

 カテゴリー:魔法

 属性:爆裂/火炎

 威力:D

 範囲:C』


 あれ? 魔法が収集(コレクト)されてる……? なんでだ?

 ログが挟まってるタイミングを考えると、もしかして……魔法を食らったからか? だとすると、食らって覚えるラーニングシステムって事か。

 俺の推測が正しいとすると、魔法を食らうのは俺じゃなくて【仮想体】でも良いって事になる。いや、まあ、正確に言えば仮想体も食らってはないんだけどね? 魔法を食らったのは装備してた鎧だけで、見えない体には1mmもダメージ無いし。

 魔法を収集する方法は、今まで分からなかったから放置して来たけど、俺が痛い思いしなくても良いってんなら、積極的に集めてみようかな? 猫が使えるかどうかはさて置き、集めておいて損はないだろうし………ん? いや、使えるんじゃね? だって俺【制限解除】のスキル持ってるし。

 【制限解除】のスキルは、収集箱に有る物ならば装備制限や使用制限を全部無視する。

 魔法を使うのにどんな資格が必要なのかは知らないが、少なくても収集した魔法なら使えるだろう。

 よしよし、これは良いぞ。

 屋敷に侵入して収穫無しかと思ったけど、意外な所に拾い物があった。

 あっ……そう言えば特性も収集出来たんだっけ。今のうちに詳細確認しとこ……っつか、“特性”が何なのか理解してないんだよなぁ…。


『【魔族 Lv.2】

 カテゴリー:特性

 レアリティ:E

 能力補正:魔力

 効果:魔法使用可

    暗黒/深淵属性強化』


 んーっと、どう言う事じゃい?

 もう少し詳細情報を引き出せないかと(いじ)っていると……


『特性【魔族】を装備しますか? Y/N』


 ……え? 何? 特性って装備する物なの?

 あっ、なるほど! 能力補正ってのは、装備すると貰えるステータス補正の事か!? じゃあ、効果ってのは、装備する事で得られる効果って事ね! なるほどなるほど。

 それじゃあ装備した方が良いに決まってんじゃん。イエスっと。


『現在の特性が【魔族】になりました。スロットが埋まった為、特性を変更する場合は現在装備中の特性を解除して下さい』


 スロットが埋まった? ようは、特性は1つしか装備出来ないって事で良いんかね? まあ、どうせ今は1つしか持ってないから、気にしなくて良いや。

 よし! またまた良い感じじゃん。

 こうなると、まだ1つも収集出来ていない天術のカテゴリーにも何か入れてみたいな。……とは言っても、天術が何か全然分かってないんですけどね……。

 手に入れたアイテムの中に何か天術の正体が分かるヒントでもないかと探してみる。

 収集箱の中を漁っていると、ふと目が止まる。

 旭日の剣―――その詳細情報の中にある“付与術”の欄。付与さているのが魔法なら付与魔法ってなるんじゃない?

 もしかして、この付与術ってのが天術じゃなかろうか?

 詳細情報を弄ってみる。


『旭日の剣に付与されている天術を抽出する事が出来ます。抽出しても付与さている天術は失われません。抽出しますか Y/N』


 おお、キタキタ! 今日の俺冴えてんじゃん!

 どん底なテンションからのこの右肩上がりな展開。幸せと不幸はバランスが取れているってのは本当ですな。

 ではではイエスっと。


『【審判の雷(ジャッジメントボルト)

 カテゴリー:天術

 属性:超神聖/雷

 威力:AA

 範囲:AA

 使用制限:特性【勇者】

 暗黒/深淵属性の対象に対して超特効。

 特性【魔族】【魔王】を持つ対象に対してのみダメージ判定』


 情報の書き方が魔法と同じって事は、コッチも特殊な力を発揮する為のカテゴリーって事かな?

 とは言え、これ………気軽に試せないよね?

 威力と範囲が、両方ともAA評価って相当ヤバい奴じゃない? ゲームで言うと、Lv.85くらいでようやく覚えるクラスの奴だよね?

 こんな物が付与されてるって、旭日の剣マジでヤバくない?

 そら魔族の方々が躍起になって犯人捜ししてる訳だわ。



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