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9-10 闘技と言うよりただの暴力

「ダンデが……1撃で……!? っとと、ダンデ戦闘不能! 残り4人!」


 髭の声が終わると、観客達の喧騒が遠くなる。

 周りが静かになったのか、俺が戦いに集中しだして周囲の音を気にしなくなったのか。

 多分後者だ。

 体の奥の方から破壊衝動が湧き上がって来てるし、全身に炎が回った様に熱くなる。

 テンションのゲージが上がって行くのが分かる。

 ただ、無制限に上げると破壊衝動に食われて暴れ出してしまいそうになるので、ある程度のところで理性がブレーキをかける。


「ミュゥ」


 ふぅ。

 小さく息を吐いて気を落ち付け、残りの3人を流し見する。

 先程【拘束術式(バインド)】を使っていた大剣(クレイモア)の男が、ダンデが戦闘不能になるや否や、「今度は自分が!」と言わんばかりにコチラに突っ込んで来る。

 切り替えが早いのはとても良い。だが、テメエの相手は最後だ。

 バニーボーイは剣を構えたままその場から動かない。

 多分、その後方で次の魔法の詠唱をしている1本角を護る気なのだろう。魔法の方が高火力で俺を倒せる可能性が高いと判断したのか? って事は、バニーボーイはそこまで戦闘能力に自信が無いのかも……まあ、どうでも良いか。

 1本角は、【ライトニングブラスト】のディレイが解除されるや次の魔法の詠唱を始めている。

 とりあえず、最初に潰すべきは1本角か……。

 観客の居ないただの戦場であったのならば、個人的には魔法をもう少し撃って貰って収集したいところだけど、予想外の物を出されて人前で苦戦でもしたら色々洒落にならんしな?

 そもそもこの大会への出場の理由が「俺が魔王と戦うに足る者だと示す」為のものだから、魔王と戦う前にケチ付けられるような真似は出来ねえ。

 状況観察終了。


 じゃあ、行きますか――――!


 踏み込む。

 それなりに手を抜いている6割のスピードだが、そこらの有象無象にとっては“目にも止まらぬ”超スピードの踏み込み。

 トントンっと軽い足取りで1本角に真っ直ぐ突っ込んで行く。

 バニーボーイが慌てて俺と1本角の間に割って入ろうとするが、バニーボーイが立ち塞がるより早く駆け抜ける。

 同時に、自分が狙われている事を察した1本角が、舌打ちしながら手元の魔法を発動させる。


「【エクリプス】」


 1本角の周囲1mが薄暗くなる。

 光が手元へ収束した――――違うっ、吸い込まれたのか?

 光を飲み込む闇の力。

 圧縮されたエネルギーが、球状になって放たれる。

 中々凄そうな魔法ではあるが、残念な事に俺とお前の魔力量の差が埋まった訳ではない。

 黒い闇の球が俺に直撃するが、次の瞬間バシュンッと四散して消える。


『【エクリプス】

 カテゴリー:魔法

 属性:深淵/虚無

 威力:A

 範囲:C』


「グ、くゥッ!? な、何と言う魔法防御力だ――――!?」


 スマンな? どんな魔法使って来ても、俺には届かないんだわ。

 魔法が効かなかった事で、1本角が俺への対応を逃げに切り替える。だが、もう遅い。

 ドンッと土煙を巻き上げて、少しだけ強めに踏み込み、一気に7歩分の距離を詰める。


「チィっ!」


 1本角が何とか抵抗しようとするが、先程魔法を撃ったディレイで魔法は使えない――――そして、コイツは武器も持って無い。

 苦し紛れに放たれたパンチを軽く避け、カウンター気味に軽く下から顎を掌底で突き上げて吹き飛ばす。

 顎の骨がゴキャッと嫌な音をたてて、口から血を吹き出したが……まあ、多分大丈夫でしょう……きっと、うん……俺はそう信じる。


「クソおオオッ!!」


 1本角がやられて、バニーボーイが突っ込んで来る。

 その少し後ろに大剣使い。

 2人で一緒に攻撃すれば良いのに……。「やっぱ事前打ち合わせのない即席チームだと連携に難があるなぁ……」等とボンヤリ思いつつ、バニーボーイの剣を左手の籠手でキンッと受け止め、槍のような真っ直ぐ突き刺す蹴りで後ろに吹き飛ばす。


「ごぁッ!?」


 吹っ飛んだバニーボーイが大剣使いに直撃。

 人間砲弾と共に地面に倒れる。


「クッ、どけっ!」


 慌てて意識を失ったバニーボーイをどかして大剣使いが立ち上がろうとするが……既に俺が目の前まで来ている。


「ッ!!」

「ミィミ」


 4人目。

 倒れている男をゴガンッとぶん殴って昏倒させる。

 はい、終了。


「せ、戦闘不能! 勝者、剣の勇者!! つ、つつ、強過ぎるぅううう!! 噂に違わぬ無茶苦茶な強さ!! 歴代最強の勇者とすら称されるだけの事はあるぞおおッ!!」


 何? 俺って余所じゃ「歴代最強の勇者」とか呼ばれてんの? そんなん聞いた事ねえんだけど? 呼ぶなら本人の許可とってからにして欲しいんですけど? まあ、許可云々を言い出したら、そもそも俺は“勇者”呼びを許可しねえんだけども。

 で、これで終わりなのは良いんだが、この後どうすりゃ良いんだろう? 元来た入り口から出て帰れば良いんかね?

 帰る前に、勝者の「持ち物奪える権利」で、この気絶した人等の武器防具欲しいんだけど?

 その場で案内の人とか来ねえのかなぁ……と待っていると、気絶した皆様を回収係の方々が拾って行き――――観客の声が少し変わる。


「ゆ、勇者凄ええッ!」「滅茶苦茶強過ぎでしょ!」「何アレ? 何あれ!? どんな強さ!?」「ダンデさんを秒殺しちゃったわよあの鎧の人!?」「魔法も天術も全然効いてないって、あの鎧強過ぎじゃない!? ずるくない!?」「剣も天術も使わずに勝っちまったぞ!? どうなってんだ!?」「か、カッコイイ!! 勇者様のファンになるわ私!」


 好意的な声が、試合前よりちょっと大きくなった……かな?

 やっぱ、この国じゃ闘技場で活躍する奴が一目置かれる奴って事か。

 一応「応援ありがとう」の意味を込めて【仮想体】に手を上げさせる。

 すると周囲から「キャー」と黄色い嬉声が飛んで来て……これは、とても良い気分ですな。

 元の世界じゃ女の子にキャーキャー言われる事なんてまったく無かったし(涙目)。コッチの世界でキャーキャー言われるのは、猫を可愛がる方々の声だけですし、こんな真っ当に女子にチヤホヤされるのは相当レアですからね。

 と、良い気分になっていると……


「よくも父ちゃんを!!」


 観客席の1番前で、今にも俺の所に飛びかかって来そうな子供が何やら騒いでいた。

 お前の父ちゃんなんぞ知らん。人違いじゃないだろうか?

 更に「俺がぶっ飛ばしてやる!」やら「勝負しろ!」とか叫び続ける子供を、母親らしき女性が後ろから抱きしめて(なだ)めている……のだが、その女性の目もどこか俺に敵意を向けている気がする……。

 なんなん、アンタ等?


「剣の勇者、予選1勝目ええええええッ! これは、大本命と言うべきか、それともダークホースと言うべきかッッ!? だが、間違いなくこの男が今季の大会の台風の目なのは間違いない!! 今後の戦いも大注目だぜええッ!!」


 髭のMCが今までの倍くらいのテンションで叫ぶのを聞き流しながら、案内係らしき闘技場の職員っぽい女性に連れられて門を出る。

 薄暗い石造りの廊下を女性と2人でトコトコ歩く。


「剣の勇者様、先程の試合御見事でした! 私もここで数多くの戦士達を観てきましたが、ここまで特出した強さの方を見たのは始めてかもしれません!」


 少し興奮気味に言われる。

 女性に褒められて悪い気はしない。


「魔王様が直接戦いの相手を指名したと聞いた時には、正直失礼ながら相手にならないと思いましたが、先程の戦いを見てどれ程勇者様を見下していたのか思い知らされました!! きっと、試合を見ていた皆様も同じではないでしょうか?」


 だと良いなぁ。

 とは言え、まあ、ぶっちゃけこの国での俺の評判になんて、そこまで興味無いけど。

 評判は良いに越した事はないだろうけど、別にこの国に長居するつもりはないし、そこまで関わるつもりもない。

 そもそも、俺の評判じゃなくて“剣の勇者”の評判だから関係無いしな。


「そうそう、対戦者の方達の持ち物を貰う事が出来ますが、どうしますか?」


 それぇえええ!!

 その話を待ってました!!



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