9-6 爺さんは黄金の勇者に闘技会を説明する
「剣の勇者殿、本当に闘技会への参加を承諾して頂けるのですか?」
爺さんが恐る恐る訊いてくる。
いや、まあ、今魔王に「めっ」ってされたばかりだから、ビビるのは分かるけども……大変だなぁアンタも。自業自得っちゃ自業自得なんだが……。
ともかく、1度参加を頷いてしまったのだから、それを引っ込める訳にはいかん。
もう1度、今度は爺さんに向かって頷く。
「おおっ! コチラの都合を汲んで頂きありがとう御座います」
いえいえ、どういたしまして。
こう言うのは、もう慣れっこですから。
「それなら急いだ方が良いのでは?」
と虎君。
言いながらも、既に外に飛び出そうと体が動いている。
何をそんなに急いでるんだか。
「そうですな。そろそろ本戦の出場者が決まり出す頃ですからな。あ、いや、それならば、いっその事剣の勇者殿は“特別招待枠”として予選は免除してしまえば……」
「それでは、先程お前の言った『国民達の不信感』の元になる特別扱いになるだろう? 本末転倒ではないか」
「魔王様の言はもっとも、私の思慮が足りませんでしたな。では、勇者殿には急ぎ予選に参加して頂くと言う事で構いませんか?」
良く分かんないけど良いんじゃね? と当の本人である俺が、他人事のように言ってみる。いや、喋れないから言ってはないけど。
「あ、勇者殿は話し分かりませんよね? ええっと――――」
「説明はコチラでしますから、ともかく先に剣の勇者殿のエントリーだけでも!」
「は、はい分かりました! では、魔王様失礼します!」
「うむ」
赤鬼に深々と礼をした虎君は、静かに部屋を出て行き、扉がパタンっと閉じられると共に駆けて行く足音が聞こえて、すぐさま遠ざかる。
「では、簡単に闘技会の説明だけでもさせて頂いてもよろしいですかな?」
俺に訊いた……訳じゃねえな、魔王に訊いたのか。
それに対して赤鬼は無言で頷く。
「闘技会は年に3回開かれます。花季、陽季、そして今開かれている雪季です」
年3回って半端じゃない? 四季……って、ああ、そっか、この国もしかして季節分けが3つしかねえのかも。
「予選と本戦の2部構成になっていまして、予選で3勝あげた者が本戦にエントリーされ、本戦の優勝者が魔王様……つまりチャンピオンへの挑戦権を得ます」
ふむふむ。まあ、良くある大会の形態じゃない?
「ただ、本戦へのエントリーは早い者勝ちですから、勇者殿には急ぎ予選に参加し、3勝して頂かなければなりません。予選は3日前から始まっていますから、足の早い者は既に本戦へ進んでいますので……」
ああ、なるほど。虎君が急いで出てったのはそう言う事ね。
「予選は5人で1人になるまで戦うバトルロワイヤルとなります。1日に対戦できる回数に制限は設けておりませんが、体力を考えて大抵の者は日に1度か2度しか戦いません」
じゃあ、やろうと思えば1日に3回戦って3勝しちまえるって訳か。
楽勝じゃない? 相手が魔王やら超級の魔物とかでもないのなら、3回だろうが10回だろうが余裕だろ。
いや、でも、大会って言うと大抵当たり前のように1つのルールが存在する。
俺にとって厄介なルール。
“武器、防具の持ち込み禁止”だ。
このルールが有るとヤバい。なんたって、鎧の中身の無い【仮想体】を出す訳にはいかなくなるからだ。
「細かいルールの説明もさせて頂きます。まず、勇者殿が気にされているであろう武具の持ち込みですが、制限はございません。好きな物をお使いになって構いませんのでご安心下さい」
え? あれ? そんな簡単に解決?
ってか、良いの? 武具持ち込み可って事は、俺は当然のように神器を持ち込む訳ですけど、相手の選手から怒られない?
「我が国の闘技会は“持ち得る力の全てを賭ける”がルールですからな。資産を貯めて手に入れた武具も、己の力の内と言う訳です」
素敵なルール過ぎる。
金持ち最強説……って訳でもねえか。金持ってれば強い装備が手に入るって簡単な世界じゃねえし、良い装備してれば勝てるってゲームみたいな世界でもない。
良い装備は、それを使いこなす腕があって始めて真価を発揮する。
そう言う意味じゃ、強い武具を使うのも闘“技”会の範疇って事か。
まあ、何にしても、これで俺は憂いなく金ぴかのオリハルコンの鎧一式と、旭日の剣を持ちこめるって訳だ。
「ただ、武具を持ち込んで負けた場合は、勝者に奪われる可能性がありますのでご注意下さい。もし奪われた場合は、コチラでは対処いたしかねますので……」
アンティルールって訳ね。
まあ、別に良いんでない? ようは負けなきゃ良いんでしょ。そこらの有象無象が束になってかかって来たって負ける気はしねえよ。
ってか、むしろ、このルールは俺向きじゃない? レアアイテム持ってる相手と当たったら奪って良いって事でしょ?
コソコソアイテムを盗……貰うなんて真似しなくて良いなんて、実に素晴らしいルールじゃないか!
このルール考えた奴、マジグッジョブ!!
「それと当然ですが魔法、天術、スキルの使用も制限は御座いません」
え……? マジで?
まあ、武器防具持ち込み可で魔法天術禁止はねえだろうとは思ってたけど……「当然」なの?
「最後になりましたが、当国の闘技場では対戦中の死亡に関しては罪に問われません」
それは、別に、まあ。
俺等の世界で言うところの、クソ危ないアクティビティの前に書かされる誓約書的な事だろう。
「死んでも責任とりませんので自己責任で」って事だ。
まあ、スポーツ競技してんじゃないんだから、そら死人も出るだろう。出場者だってそこら辺は覚悟の上でしょうしね?
死ぬ覚悟の出来てない出場者なんて俺くらいな物だろう。
「死ぬ覚悟を問うような真似は、名高き剣の勇者殿には失礼でしたな」
ペコリと爺さんが頭を下げる。
そうだよ、失礼だよ! そんな物出来てる訳ねえじゃろうがぃ! 死にそうになったら、即行で逃げるわ!! え? 情けない? そんな事俺の知った事では御座いません!
「では、早速ですが勇者殿は闘技場に御急ぎを。先に行ってエントリーは済ませている筈なので、上手く行けば今日中に1度くらいは対戦が組まれるかもしれません。魔王様も、それで宜しいでしょうか?」
「うむ、問題無い。必要無いとは思うが、ここで剣の勇者の武運を祈らせて貰おう」
ご丁寧にどうも。
「ミ」
んじゃ、失礼しまっす。
……ん?
魔王が俺を見ていた。
勇者の姿をした【仮想体】ではなく、その肩で丸くなっていた猫を黒い瞳がジッと見ている。
睨んでいる……って感じじゃないけど、なんだろう……? 観察されてるような、向けられると落ち着かない視線。
俺、別に変な事してないよね?
猫らしく丸くなってニャーニャー鳴いてただけだよね?
…………まさかとは思うが、あの恐ろしい容姿で、アザリアと同じく猫まっしぐらさんとかじゃないよね……? あの丸太みたいな腕でムツ●ロウさん撫でとか絶対嫌なんだけど……って言うか下手すりゃそれで死にそうなんだけど……。
バッと視線を逸らす。
こう言う時はアレだな?
うん。
ヨシ。
気付かなかった事にしよう!
俺はそそくさと部屋を後にした。




