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1-25 救出……

 手早く2つ目の死体を回収してっと…。

 手に入ったのは、魔族の肉と鉄の鎧一式とインナーと鉄の剣。新しい物がないからボーナスが入らない。

 言いたくないけど、若干無駄な殺しをした感が……いや、無駄じゃない! 無駄じゃないんだよ! だって地下室に行くのにこの人(?)邪魔だったし、仕方無いんだよ! たとえレアなアイテムの1つも持ってなかったとしても!

 と、まあブラックな冗談はさて置き、2人目の見張りを殺した事で収穫が無かった訳ではない。


『【魔族 Lv.2】

 カテゴリー:特性

 レアリティ:E』


 特性の魔族の所が1つレベルアップした。

 それが何を意味するのかは、詳細情報を確認して無いから分からないが……まあ、レベルが上がって悪い事はないだろうし、とりあえずそこだけは喜んでおこう。

 改めて、レッツゴー地下室。

 扉を閉めて階段を下りる―――のだが、昨日飲食店の地下に侵入した時も思ったが、猫の体に階段は辛い……! サイズが合ってないから、ピョンコピョンコ下りるしかねえし。動画サイトで観る階段の猫ってこんなに苦労してんのかい!?

 なんとか頑張って1分程で階段を下りきる。

 暗い廊下が続き、その先には見るからに重そうな扉。

 ………まさに牢獄って感じ……。まあ、本来は倉庫とかそんな感じの場所だろうけど。

 仮想体で扉を開ける。

 廊下に輪をかけて暗い……。

 剥き出しの石壁と、どう使うのか考えるのも恐ろしい道具がそこら中に転がっている。

 そして部屋に充満する血と何かが饐えた臭い。とてもじゃないが、まともな人間が過ごせる環境ではない。ここは間違いなく鼠やゴキブリの領域だ。

 ………それなのに、部屋の奥には女の子が鎖で繋がれていた。

 女の子……と、判断出来たのは服を脱がされ、その肢体を露わにされていたからだ。正直服を着て居たら性別の判別出来なかっただろう。

 何故なら―――何故なら……彼女の顔は、原形が分からぬ程に腫れあがり、一目見ただけでどれだけの暴力を受けたのかが分かる。

 それは何も顔だけではない。

 全身に痣や牙や爪をたてられた痕が痛々しく……生々しく血を流している。股の間から流れる血と白い液体には……正直目を背けたくなる。

 この子がユーリさん……。


「ミィ……」


 血と色んな体液の混じった物に濡れる足に触れる。

 まだ暖かい、死んでない!

 けど、完全に意識が飛んで体が弛緩しきっている。

 魔族の奴等がギリギリで殺さないラインで痛めつけてたって事か…。

 いや、でも“死んでない”ってだけで元気とは程遠い状態である事は変わり無い。えーとっえーっとこう言う時は……あっ、回復薬(ポーション)有るじゃん!!?

 猫の体ではどうしようもないので、仮想体にオリハルコンの鎧一式を着せて、収集箱から出した緑ポーションを持たせる。

 飲ませる……のは流石に無理か。

 体に振りかけるだけでも効果あるかな? まあ、多少なりともあるだろう。あって欲しい。きっとあると信じる。うん、よし。

 蓋を開けて傷の深い場所と顔を中心に、緑の液体を振りかける。


「ぅ……ん……」


 大目にかけた場所は、傷口から止め処なく流れていた血が止まり、急速に血が固まって傷口に蓋がされる。

 うん、ちゃんと効果あったみたいだ。

 流石にゲームのように一口全回復みたいな感じにはならないけど、多少は良くなっただろう。

 心なしか呼吸が少しだけ柔らかくなったような気がするし。

 さて、んじゃ目を覚ます前にさっさと解放しちまうか。中身空っぽの鎧が動いてるところを見られたらマズイし。って言うか、それを操ってる俺の姿を見られるのも後々面倒な事になるだろうしね。

 ユーリさんを繋ぐ鎖は、両腕を拘束し、反対側は壁に直接埋め込まれている。

 まあ、どんなに頑丈な物で縛ろうが、俺が触れれば収集箱に放り込んで瞬殺ですけどね。

 ついでに鎖も収集(コレクト)出来るし、一石二鳥ですよ。

 仮想体の手に乗って鎖に手を伸ばす―――が、その手を途中で止める。

 3階で盗み聞いた会話が頭を過ぎったからだ。


――― そこまで心配する必要もないだろう。あの女の体から鎖が離れればすぐに術式が起動して屋敷中に教えてくれる


 ……もしかして、何かしらの警報装置のような魔法がかけてあるのか……? だとしたら、このまま鎖を外すのはマズイな……。鎖の方に魔法がかけてあるのなら、収集箱に放り込めば発動しないって可能性があるかもしれないが、ユーリさんの方に魔法がかかって居た場合は発動を避ける方法が無い。

 出しかけていた手を引っ込め、仮想体の手から飛び降りて冷たい地面に着地する。

 いや、でも待てよ? ユーリさんから鎖が離れたらダメだって事は……鎖ごと持って行けば良いんじゃん? 鎖を外すのは外に出てからやれば良いし。

 問題は、壁に繋がっている鎖をどうやって持って行くかって事だが……。

 こう言う時はアレだな。うん。パワーこそ正義だ!!

 全身金ぴかの仮想体が壁に近い部分の鎖をグッと掴むと、壁に足を突いて力任せに引っ張る。

 引っ張る! 全力で引っ張る!

 本体の俺は横で見ているだけで特に何もしないけど……。

 ただ見てるだけなのもあれなので、とりあえず心の中で「ウオオオオオッ!!!」と雄叫びをあげてみた。いや、別にそれで何か変わる訳じゃないけども。

 ………言っておくが俺が役立たずな訳ではない。仮想体だって動かしているのは俺なんだから、すでに頑張ってますし。ええ、本当に。

 などと誰に言ってるのか分からない言い訳を心の中で並べている間に、引っ張っている鎖の方が悲鳴をあげ始めた。

 壁から鎖が抜ける前に、その手前の接続部が千切れ始めたのだ。

 おっしゃー! もうちょいっ!

 この鎖が取れたらその後は―――!! 

 ………その後は……?

 ハッとなって、仮想体の手を鎖から放す。

 そうか……! クソッ!! この後の事を考えて無かった!!

 助け出す。

 それは良い。だが、その後はどうする? 俺1人だって脱出するのは一筋縄じゃいかない。それなのに、こんな重傷者抱えて逃げるなんて絶対無理だ。

 どうする…どうする?

 屋敷に侵入する次のチャンスが有るかは分からない。見張り2人殺しちまってるし、多分更に警戒は強くなる。となると、今回で助け出すってのが理想的―――ではあるけども、見張りが居ない事に魔族がいつまでも気付かない阿呆だとは思えないし、そう考えると屋敷に留まって居られる時間は決して長くない。

 ああっ、もうッ!! 考えるのは後だ! 何か都合良く脱出の方法が転がってるかもしれないし、ダメ元で何か探してみるか!

 目を覚まさないユーリさんを置いて、仮想体の手に乗って扉の外に出る。扉を閉める瞬間、中の方で呻き声が聞こえた気がしたが、それを気にしている余裕はないので急いで階段を上がる。

 金ぴかの鎧を纏う仮想体は目立つので引っ込める。

 しゃーない、もう1度上に行くか。

 外に回ってる時間はないので、多少の危険は覚悟して階段を上がる。運が良い事に誰にも見つからずに3階に到着した

 普段は運の良さなんてどこにも無いくせに、こう言う時には発揮する。

 もしかして、追い込まれるとLuck値が大幅上昇する的な特殊な体質なのかしら俺? まあ、どうでも良いか。

 部屋はいくつかあるけども、どこかに入ってみるか? 出来れば誰も居ない所を狙いたいけど……敷地内だと【バードアイ】使えないんだよなぁ……。

 五感を頼りに部屋の中の気配を探り、誰も居ないと思われる1室を発見。

 よし、行くか。

 猫の手では扉を開けられないので、仕方無くオリハルコン装備一式を纏った仮想体を引っ張り出す。

 その瞬間―――廊下の角を曲がって誰かが現れた。

 ヤバいッ!!!? と頭が思考するよりも早く、体が鎧の後ろに隠れる。

 相手が近付いて来る……かと思ったら、思いもよらない行動に出た。


「【バーニングエクシード】!!」


 その手から放たれた―――巨大な火球!?

 いきなり魔法撃ってくんのかいッ!?

 仮想体を放置して後ろの窓から慌てて外に飛び出す。

 一瞬遅れて起こる爆発!

 3階の窓が砕け散り、俺の後を追うように粉々になった破片が飛んでくる。

 衝撃と爆風に煽られた俺自身は受け身を取る余裕はない―――けども、仮想体を使う余裕はある!

 今出している仮想体を消して、俺の落下方向に向かって素早く出現させる。鉄の籠手を装備させて、俺自身をキャッチ!

 よし、オッケー! スタントマン要らずの派手なアクションをありがとうございます!

 仮想体の手から降りて、鉄の籠手ごと仮想体を消す。

 ………あっぶなぁ…。いきなり相手を確認せずに魔法撃つとか馬鹿じゃないの?

 オリハルコンの鎧一式が盾になってくれたから、俺が食らう衝撃も爆風も熱も大した事なかったから良かったけど………あ、そう言えばオリハルコン装備一式は3階に転がしたままだ。

 でも、今回収するのはまずいな。絶対魔法ぶっぱした奴が近くに居るし、突然目の前で鎧が消えたらどう考えたって不審過ぎる。

 って、のんびりしてる場合じゃねえ!

 鎧に隠れて飛び出したつもりだけど、窓から飛んだ時に見られてる可能性がある。早い所脱出しねえとマジでヤバい。

 収集箱の中に入ってる見張りの死体はどうする? 下手に捨てて行くより、手元に置いておく方が良い様な気がしたが、コッチの世界には魔法だのスキルだの理解出来ない物が溢れている。

 手元に死体が有ると、何かしらの方法で追跡される可能性があるってのは無視できない。

 ……まあ、そんな便利な事が出来るなら、とっくに盗んだ荷を追いかけて俺の所に辿り着いてるだろうけども……。

 しかし、それでも可能性だ。死体を持って居なければならない絶対的な理由も無いし、必要無いリスクは負うべきじゃない。適当に見つかり辛い壁沿いの植え込みにでも投げておけ。

 くっそ……! 結局、助ける事出来ないどころか、収穫無しで逃げるしかねえじゃねえか!


 自分の無力さに舌打ちしつつ、門に向かって走る事しか俺には出来なかった。



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