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1-24 猫アサシン

 3階侵入。

 微妙に良い絨毯が廊下に敷かれている。

 手入れされてない植え込みや木々に比べると、屋敷の中は結構ちゃんとされている。

 ……おっと!。

 扉から現れた魔族を、飾られて居た鈍色(にびいろ)の壺に隠れてやり過ごす。

 危ない危ない、屋敷の中は気が抜けねえやね。

 若干居心地の良い壺から抜け出して探索を始める。

 抜き足、差し足、猫の足っと。

 床が絨毯なのは俺にとって良かったな? 足音気にしなくて良いし、毛が落ちてもそこまで目立たないし。

 何度か魔族とニアミスするが、幸い見つかる事はなく、順調な流れのまま廊下奥の一室に辿り着く。

 部屋の中では誰かが話しているのか、微かに声が漏れている。ただ、そこまで大きな声で話している訳ではないようで、扉越しでは猫の聴覚を持ってしてもちゃんと聞きとれない。


「侵入者は――――だ――――か?」

「――――ぃ――――地下室――――」

「奴―――か?」

「――配は―――は?」


 ダメだ。全然聞こえねえ。

 窓でも開けててくれれば外で聞くって方法もあったんだが……。

 いや、でも断片的に聞こえた単語があった。「侵入者」と「地下室」。もしかして、地下室に捕らわれてるって事かな?

 チッ、だとしたら読みが外れたな。

 折角3階まで上って来たけど、チンタラしてられる程余裕ねーし、さっさと1階に行って地下室を探した方が良いなこりゃ。

 その時、中で話している奴等が動いたのか、少し会話が聞きとりやすくなる。


「そこまで心配する必要もないだろう。あの女の体から鎖が離れればすぐに術式が起動して屋敷中に教えてくれる」

「それもそうだな」


 ……鎖とな?

 まあ、いいや。とりあえず下に行くべ。

 魔族の親玉の面を拝めなかったのがちと残念だが、変に欲出すと碌な事がないからキッパリ諦めよう。

 上がる時と違って、下に行くのは楽だ。

 まず手頃な窓に上ります。

 飛び降ります。

 【仮想体】に持たせた盾に乗ります。

 下ります。

 はい、終了。

 決めてから2秒で庭に到着。実に簡単ですね?


 改めて1階に侵入。

 地下室への行き方はアッサリと見つかった。なんでって? いや、だって、扉の前に見張りが立ってるし。

 で、だ…。

 問題は、どうやってあの扉の先に行くかだ。

 ここの見張りは動く気配が全くない。その上、鎧兜でガッチガチに武装してる。何より警戒心が他と比べ物にならないくらい高い。廊下の角から覗き込んだ時に「見つかる!?」と思ったくらいヤバかった。

 ………覚悟決めるしかねえな。

 避けて通れないと言うのなら、排除して押し通るしかない。

 時間をかければ状況が変わると言うのなら別だが、そう言う気配が一切ない。それに、俺の方も何がきっかけで見つかるか分かったもんじゃないので急ぎたいと言う事情もある。

 ……問題なのは、俺の力で魔族を排除出来るのかどうかって1点に尽きる。

 そら、来る前に備えはして来たつもりだが……もし、魔族の能力が俺の予想を遥かに超えて居たら? 予想も出来ない魔法を使って来たら?

 ………。

 いや、もう止め。可能性を考え始めたらきりが無い。

 自分の力を信じてやってみるしかねえだろ。それでダメだった時は……うん、まあ、全力で逃げるって事で。現実として、逃げられるのかどうかは分かんないけど……。

 よし、頑張れ俺!

 正直、異形とは言え人型と命のやり取りをするのはかなり勘弁願いたい。魔物や兎を狩るのとは意味が違うからな……。

 だが―――それは、それだ。

 殺さなければ殺される。弱肉強食がこの世界のルール。

 “殺す”と言う絶対的な覚悟。その行為に対しての忌避感や罪悪感は横に退けて置く。


 一発勝負―――!


 初撃で仕留め損ねたら、仲間を呼ばれる。

 1対1でも勝てるかどうか分からないのに、もし囲まれたら敗北は必至。それどころか逃げる事すら絶望的だ。

 真正面から戦うつもりは毛頭ない。不意打ちの一撃で殺す。


 油断無く立っている見張り。

 その頭の上に―――突然布が降る。


「ぬッ!?」


 頭を覆った布で見張りの視界が閉ざされる。

 慌てて布を取り去った。と、同時に


――― 真っ白な刃が吸い込まれるように眉間を貫いた。


 悲鳴も無く倒れる見張り。

 噴き出した血が辺りに飛び散り、床や壁を赤く濡らす。

 ………やった…のか?

 喜び、と同じくらいの困惑。

 確かにイメージした通りの結果なのだが……思い通りに行き過ぎて。

 っと、呆けてる場合じゃねえ!

 倒れた音と血の臭いで誰か来るかもしれんし、急がねば。

 扉に向かおうとして、ふと……この死体回収できんじゃねえか? と思い立つ。

 触れてみる。


『【魔族の肉 Lv.10】

 カテゴリー:素材

 サイズ:大

 レアリティ:E

 所持数:1/30』


『【鉄の鎧 Lv.5】

 カテゴリー:防具

 サイズ:中

 レアリティ:E

 所持数:1/10』


『【鉄の籠手 Lv.5】

 カテゴリー:防具

 サイズ:中

 レアリティ:E

 所持数:2/10』


『【鉄の脛当て Lv.5】

 カテゴリー:防具

 サイズ:中

 レアリティ:E

 所持数:2/10』


『【鉄の兜 Lv.2】

 カテゴリー:防具

 サイズ:中

 レアリティ:E

 所持数:1/10』


『【アイアンソード Lv.5】

 カテゴリー:武器

 サイズ:中

 レアリティ:E

 所持数:1/10』


『【黒いインナー(上) Lv.1】

 カテゴリー:防具

 サイズ:中

 レアリティ:F

 所持数:1/10』


『【黒いインナー(下) Lv.1】

 カテゴリー:防具

 サイズ:中

 レアリティ:F

 所持数:1/10』


『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』


 あら、いっぱい手に入った。

 ってか、魔族は魔物みたいに部位分けされずに肉で一纏めなのか……。まあ、収集箱の中でバラバラ死体になられても困るから良いけど。

 ん?

 気付かないうちにログが流れていた。どうやら、さっき魔族を倒した時の物らしい。ログの確認は目を瞑らないと出来ないから、戦闘中は呑気に見てられないんだよなぁ。


『【魔族 Lv.1】

 カテゴリー:特性

 レアリティ:E』


 あ、カテゴリー“特性”だ。始めて収集(コレクト)出来たわ。

 喜ばしいけども、今は呑気にそれを喜ぶ暇も、詳細情報を見てる暇もないので全部後回し。

 死体は消せたけど、壁や床の血痕まではどうにもならんし、臭いも暫くは消えない。

 未だ誰かに気付かれる可能性は高い。

 ………とは言え、旭日の剣の火力にはビビったな? 魔族の頭どころか、8mm厚の鉄の兜を豆腐みたいに貫通しやがった……。

 俺の投射の威力が乗って居たとは言え、兜貫通するってどんな威力だコレ……?

 もしかして、旭日の剣って俺が思ってる以上に超火力武器なのか…? まあ、だとしたら嬉しい誤算だけども。

 さて、さっさと地下に行くか。

 【仮想体】に貰った(奪った)ばかりの鉄の籠手をつけて扉を開けさせる。

 下り階段。

 思った通り地下行きの扉だった。

 薄暗く、足元さえ覚束(おぼつか)ない。

 扉が開いているから階段がちゃんと視認出来るが、閉めたら当てになるのは地下から漏れ出す頼りない光だけだ。とは言え、それは“人間なら”って話で、暗い所大好きな猫にはそこまでの事でも無い。

 んじゃ早速―――と、足を出しかけて止まる。

 こう言うシーン、映画で良く見た事あるわ……。

 足を引っ込めて、階下に向かって収集箱から出した石を転がす。

 カツンカツンっと音を立てて転がり落ちて行くのを見送って、俺は廊下に戻って半端に開けたままにしてある扉の脇に身を隠す。

 数秒待つと、誰かが階段を上がって来た。


「おい、扉開けっぱなしで何やって―――」


 魔族が顔を出した瞬間、側頭部を旭日の剣が串刺しにした。

 倒れる魔族を見ながら溜息を吐く。

 俺、本当に忍者の素質あるんちゃうの? って言うか、前世忍者だったんじゃないの? ……あ、前世はただのサラリーマンだ……前々世だな。

 映画でこう言うシーン何度も観たし。地下室に行くと、絶対に見張りがもう1人居て直接バトルに突入する奴だ。

 そんな危ないフラグを誰が踏むかっつーの。コッチは小さくて可愛いだけが取り柄の子猫やぞ。



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