8-23 幽霊と鬼ごっこ
読者の皆様スイマセン、投稿順を間違えてました!
こちらが本来の10/31の投稿分でございます。
俺が子猫って事を差し引いても、アレじゃん?
傍目には“本体”に見える【仮想体】は、腰に勇者の証である旭日の剣をぶら提げてるやん? こう言う時は大抵「ああ、勇者様でしたか! これは失礼しました」となるのだが……背後に立っている幽霊船の船長(?)は、そうはなってくれないらしい。
「――――此処カら、逃がしは、シナい――――」
やる気満々ですな。
コッチとしては穏便に済ませたい気もするのだが……まあ、逃がしてくれないと言うのならやるしかねえよなぁ?
元々やるつもりで来たんだし、心の準備は出来ている。
幸い、アイテムの山の回収はもう終わっているから、もうこの船に用は無い。
「――――変な動キは、すルな――――」
「するな」と言われればやってみたくなるのが、人間の性ってね?
せーのッ!
【仮想体】を右にステップさせ、猫は反対に左に飛ぶ。
「――――愚カ。俺に、勝負ヲ挑むつもカ? カっカカカカッ――――」
舌打ちのような濁った音を混じらせながら、船長が笑う。
笑いながら、猫の存在を無視して、【仮想体】に向かって武器を向ける気配。
その間に俺は振り返って、敵の正体を確認。
骸骨だった。
頭にはボロボロの三角帽子。やたらカラフルな鳥の羽根で彩られたそれは、骸骨の頭を飾るには派手に思える程で……顔の怖さとのミスマッチで妙に禍々しい。
首と手元に宝石のついた飾り物――――だが、多分アレは自分を飾る物では無い。俺のコレクターとしての勘が言っている。アレは何かしらの力を持った魔道具だ、と。
人間なんて死んで骨だけになれば同じだろうと思っていたが、身に付ける物が違うだけで、これ程禍々しく、恐ろしさを纏うようになるのか……。
なるほど……“お化け屋敷”の締めとしてコイツが最後に出て来たら、そら皆ビビるだろうさ。実際俺もちょっとビビっているし。
それに――――スケルトンは、この船の中で何度も出会ったが、コイツは違う。
今まで出会った骨共は、何と言うか……機械っぽいって言うのかな? 妙にカクカクとした、意思の伴って居ない動きをしていた。
だが、コイツは違う。
体が骨だけのくせに、普通の人間と遜色ない、ビックリする程滑らかな動きをする。
だが、それはぶっちゃけどうでも良い。と言うか、容姿とか装飾品とか動きとか、全部どうでも良い。
そんな事よりも、俺を驚かせている物――――それは、この骸骨船長の持っている武器だ。
今現在、【仮想体】にピタリと向けられているその武器。
それは、誰がどう見ても、紛れも無く、
―――― 銃だった。
銃に関しての知識なんて大して持っていないが、あのタイプは知っている。昔観た映画の海賊が持っていたのが恰好良くて、ネットで調べた事がある。
クイーン・アン・ピストルって言うんだっけか?
特徴的な丸いグリップと、引き金と薬室が直結してる構造のフリントロック式の拳銃。
でも、なんでこんな所に銃が有るんだ?
コッチの世界じゃ、どう考えたってオーパーツ過ぎる。
技術的な意味でもそうだし、銃なんて作られなくても魔法や天術で火力技術が発展してるから、そもそも銃なんて作る必要性がねえし。
いや……とりあえず、銃の出所を考えるのは後だ。
色々悩むのは、コイツをぶち転がして、その銃を奪った後でノンビリやれば良い。
今は、「目の前に銃を持った敵が居る」って事の方が重要だ。
「――――無駄ダ――――」
ステップしている【仮想体】に向けられた銃口。
骸骨船長が容赦なく引き金を――――引く。
ドンッと小さな破裂音。
同時に、銃口からチカッと小さな光が漏れ――――凄まじい速度で閃光が放たれる。
【仮想体】の頭を直撃する軌道。
が、ウチの【仮想体】の反応と反射のスピードを舐めて貰っては困る。
ステップの着地と同時に、その勢いのまま体を前に倒す。
黄金の兜の角をかすめて素通りし、微妙に軌道を変えながら壁に小さな穴を開ける。
あれ? 今の実弾だったか?
猫の動体視力でなら銃弾だって目で追える……筈なのだが、それらしい物が見えなかった。銃弾の代わりに光の粒が空中を走っているように見えたんだが……?
「――――上手い事避ケやがル――――」
続けざまに2度、3度と引き金を引く。
その度に銃口から閃光が…………え? ちょっと待って、その銃って、そんなに連射出来る仕様でしたっけ?
それに、やっぱり撃ち出してるのって実弾じゃねえよな?
なんだあの銃? 見かけは普通の銃に見えるけど、俺の知っている物とは明らかに別物だ。
と言うか――――こんな狭い部屋の中で銃の乱射とか止めて欲しい。
まあ、【仮想体】はどうせダメージ受けないし、俺は俺で【全は一、一は全】の効果で防御力爆上がりしてるから、当たっても大丈夫っちゃ大丈夫だと思うが……。それでも銃ってのは、やはり俺にとっては剣や槍なんぞより、よっぽど“怖い物”だ。
勿論、本物の銃なんて、警察が持っているのを目にするくらいで、実際に発砲してるところなんて見た事は無い。
だが、毎日のようにどこかしらで街中での発砲事件やら、海外での乱射事件やらのニュースが流れ、大勢の人が死んでいるのを知っているだけに、銃ってのは俺等現代人にとっては最上級に“恐ろしい物”だ。
まあ、だからと言ってビビって動けなくなる訳じゃねえけど。
ともかく、いつまでも狭い部屋の中でパンパン撃たれたら堪らん。いい加減ここを脱出して甲板に上がるか? 外に出れば【全は一、一は全】全開にして、一気に勝負をつけられるし。
「――――どうシた? 諦メたカ?――――」
部屋の隅に追い込まれて足を止めた【仮想体】。
追い詰められた鼠を痛ぶるように、楽しそうに銃を軽く揺らして見せる。
楽しそうなところスイマセンね。その隙に、猫は脱出させて貰いますよ、っと。
【隠形】を発動。
これで、俺の気配と音が周囲から消され、俺を見た奴の知覚から俺の存在が隠蔽される。
と言う訳で、扉の前に陣取っている骸骨船長の足元を軽い足取りで擦り抜け、部屋から少し離れた所で、残して来た【仮想体】を鎧ごと収集箱に戻して、即座に俺の後ろに出す。
はい、脱出完了。
さってと……上り階段はどこじゃろなっと。
頭の中の船内図を確認しようとしたら、慌てて骸骨船長が飛び出して来た。
「――――転移術式カ!――――」
違うけど、もう面倒臭いのでそれで良いです。
そして振り返る事もなく、とりあえず【仮想体】と一緒にダッシュで距離をとる。
「――――逃ガさンと言っタ――――」
骸骨顔でクワっと威嚇しながら追って来る。
正直、あの面で追いかけられると、流石にちょっと怖い。しかも、バカボ●の本官さんみたいに遠慮なしにパンパン銃乱射してくるし。まあ、後ろに【仮想体】走らせてるから、全部金ぴかの鎧で受けてくれるんですけどね。
ってか、あの骸骨歩いてなくない? 空中を滑ってない? どっかのモビル●ーツの如く浮遊移動してない、この人……人じゃない、“元”人は。
軽く足止めしておくか?
走りながら【仮想体】が脇の腐りかけのドアに手を伸ばし、勢いのままに止め具をバキバキと引き千切って――――ぶん投げる。
狭い通路じゃ逃げ道は無い。と思ったら、そもそも骸骨船長は避けずに、飛来する扉に突っ込んで来た。
え? 何? 自殺志願者?
次の瞬間、扉をスゥッと擦り抜けて、何事も無かったように追って来る。
「ミャァあああッ!!」
ええええええッ!!
アンタ、スケルトンのくせに“物理透過”なの!? ずるくない!? それずるくない!?
心の中で、100万人の俺がブーイングデモをしてみたが、現実には何の変化も無かった。
「――――人ノ船を壊すナ! やハリ、魔族は害しカ生マなイな――――」
そう言うテメェだって、さっきから銃でバカスカ穴開けまくっとるやんけ!! 何自分の事は棚に上げてんだコルァ!!




