8-22 骸骨船長
誰も居ないのに閉まるドア。
俺を迷わせるように灯る壊れた照明。
襲いかかって来る調理器具。
楽器なんて無いのに聞こえて来る、おどろおどろしい音楽。
壁を擦り抜けて現れるピエロ仮面。
俺が近付くと立ち上がって襲って来るスケルトン。
大きな首狩り鎌を持った黒いローブの骸骨。いかにも“死神”っぽい感じの幽霊。
色んな仕掛けで俺を「おもてなし」してくれるのは嬉しいんだが、どうにも怖さに欠けるんだよなぁ……。
ジャパニーズホラーで育った俺としては、どうにも物足りない。
なんつーの? こう、さ? 例えば、暗がりで前方から不意に音がするでしょ? 何事かと恐る恐る音の正体を確かめるが、それは猫とか虫とかがたてた音なんよ。で、ホッとして振り返ると、息がかかるような距離にむっさ怖い奴がドーンッ!! 女の子がキャァアアアア!!
はい、これ! これがジャパニーズホラーですよ。
ピエロ仮面や死神っぽい奴が、呪いのビデオとかから出てくれば、もうちょっと評価上げてやっても……いや、それはそれでシュールなギャグだな……。
ともかく――――この、船型お化け屋敷は失敗作ですな?
100点満点で点数つけるなら30点だ。いや、だから別に辛口評価ではない。
……あ、いや、あれよ? 幽霊が殺しに来るって点は、多分怖いよ? 普通の人には。でも、そこはそれじゃん? お化け屋敷の評価ポイントとちゃいますやん?
俺だって最初の頃は「わぁー幽霊だ!」とテンションを上げたものだが、行く先行く先で出て来るのでいい加減面倒臭くなって、今では姿が見えたと同時に【冥府還】を叩き込んで、あの世にお帰り願っている。
で、だ。
船底から始めた“お化け屋敷”探訪だが、現在3層目に到達。
多分高さ的に、この上は甲板だと思うんだが……収穫が本当に何もねえんだけど……? どう言う事? 幽霊船のくせに金銀財宝ざっくざくしてないじゃん!!
このままじゃ、ただの出来そこないのお化け屋敷で終わっちゃうぞ!! 良いのかそれで!? お前の本気はこんな物か!? 根性見せろ!! 幽霊船の本気を俺に見せてみやがれ!!
「ミャぅ……」
とりあえず意味も無く、誰に向けたのかよく分からない激励をしておいた。
【仮想体】の肩に揺られて更に廊下を進む。
アクティブセンサーで左右の部屋の中が空っぽなのを確認しながら、1つ、2つと通り過ぎ――――いや、待った。
足を止めて、逆再生するように【仮想体】が3歩ほど戻る。そして、猫が視線を向けて居る方向を追って、黄金の兜がグリンッと動く。
目の前には扉。
扉が有るのは良いんだが……。
目を瞑って、もう1度アクティブセンサーが取得した船内図を確認。
………やっぱりだ。
この扉、
―――― 船内図に無い。
どう言う事だ?
扉だけしかないってオチはねえよな? 扉を開けたら壁でしたー的な。
一応警戒しつつ【仮想体】に半分だけ扉を開けさせる。
その先に、部屋は確かに存在した。
中は他の部屋同様に明かりはなく、真っ暗……けど、なんだ? 妙に他の部屋よりも暗く感じる。
敵……は、居ないかな?
静かに扉を全開にして、部屋の中に足を踏み入れる。
アクティブセンサーで脳内に表示している船内図から、俺自身の反応が消えて『LOST』と表示される。
どう言う理屈かは分からないが、この部屋自体がアクティブセンサーの探知外になっているらしい。
部屋の奥には、無造作に積まれた――――アイテムの山!?
金銀財宝ざっくざく!!
これこれ、こう言うのを待ってたんだよ!
ウキウキしながら、【仮想体】の肩から飛び降り、とりあえず山の1番上に積まれていた剣に触れる。そして、収集箱にゲットイン。
『【雷鳴剣 Lv.34】
カテゴリー:武器
サイズ:中
レアリティ:C
所持数:1/20』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』
剣1本抜いた事で、アイテムの山がバランスを崩してガラガラと崩れ、下敷きにされていたアイテム達が顔を出す。
その中の1つに妙な物を発見。
ランプ……のように見える、ガラスの入れ物。その中では、炎ではなく黒い魔法陣がクルクルと回転していた。
なんじゃこれ?
とりあえず収集箱に放り込む。
『【黒の天幕 Lv.2】
カテゴリー:素材
サイズ:小
レアリティ:A
所持数:1/60
封入されている術式を起動すると、黒の天幕の周囲では探知・感知・索敵の能力が機能しなくなる』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:中)』
この黒の天幕とか言うアイテムを収集箱に入れた途端、アクティブセンサーの船内図にこの部屋が表示され、転がっているアイテムの一覧がズラッと並んで、その手前に、俺自身の現在地を示すポインタが点る。
なるほど、コイツのせいで表示されてなかったって事ね?
これはアレでしょ? 簡易アイテム版の【夜の帳】って事でしょ?
効果範囲は、丁度この部屋1つ分。【夜の帳】の効果範囲が町1つ分くらいだから、能力的には大分劣る……。まあ、究極天術と普通のアイテムだしな。
だが、潜入やらのコッソリ行動する時には、むしろこの方が都合が良いんじゃなかろうか? 下手に究極天術ぶっ放すと敵に気付かれる危険性があるし。
それに何より、もしかしてこのアイテムって、魔力の消費無しに常時発動出来るタイプじゃないかな? でなきゃ、持ち主が居ないのに、ずっと術式が起動していた事を説明出来ない。
だとすると、このアイテム超有用だぞ! なんたって、俺が何もしなくても、敵の探知に引っ掛からない。下手すりゃ、これと【隠形】の合わせ技で最古の血共の目から逃れられる可能性すらある。
いやー、良い拾い物でしたね――――って、アレ?
アクティブセンサーが拾って来た、落ちているアイテムの一覧情報。その1番上に表示されていたアイテムを、山の中から探してみる。
邪魔になるアイテムを収集箱に放り込み。既に収集限界まで持っているアイテムは【仮想体】が部屋の隅に運び、山を崩す事5分。
目的のブツを発見した。
何やら呪文? のような物の彫られた赤い刀身の剣。
もう1つ。
美しい曲線を描く、緑色の刀身の剣。
『【朱 Lv.81】
カテゴリー:武器
サイズ:中
レアリティ:★
属性:深淵/火/爆裂
装備制限:特性・魔王
所持数:1/1
裏神器の1つ。
神器に対抗する為に魔王達が創り出した武器』
『【碧 Lv.70】
カテゴリー:武器
サイズ:中
レアリティ:★
属性:深淵/風/雷
装備制限:特性・魔王
所持数:1/1
裏神器の1つ。
神器に対抗する為に魔王達が創り出した武器』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:大)』
裏神器だ……。
バグの奴が持ってた“蒼”と合わせて、これで3つ。
ってか、これ全部でいくつ有るんだろうな? 神器への対抗武器だってんなら、もしかして10個以上有る……とか?
まあ、数が有るならそれでも良いんだが、コレクターとしてはシリーズ全部集めたくなるんですよねぇ。
そいで、全部集めたら「シリーズコンプリートボーナス」的な何かが……いや、それは流石に夢見過ぎか。
他のアイテムは……って、あんまりノンビリしてる時間無いんだった……。
細かい確認は船戻ってからにして、とりあえず収集箱に放り込めるだけ放り込んでおこう。
残りの山を片っ端から触れて消して行く。
と――――
「――――動クな――――」
背後から野太い男の声。
そして、脳内の船内図に突然現れた敵性反応を示す赤いマーカー。
この声……さっきの姿の見えない“船長”の声……だよな? 背後に居るから姿を確認出来ていないが、まあ、間違いなく幽霊関連の奴だろう。だって、いきなり現れたし。
「――――俺ノ船デ好き勝手やりヤガッた上二、海賊かラ宝ヲ奪ウつもリカ?」
あら、声が若干怒ってる風だわ。
でも怒られる理由はなくない? 船に侵入したのを怒っているのなら、コッチはそちらの招待に応じただけだし。
仲間の幽霊共を成仏させられたのが気に食わないってんなら、そもそも襲って来たアイツ等が悪いし。
アイテムを持って行かれたのが許せないのは…………まあ、うん、アレだよ、うん。俺が悪いか……。
「――――薄汚イ、魔族メ――――」
いや、いい加減ツッコミ入れようと思ってたけども、俺魔族じゃねえんだけど? ただの可愛いだけが取り柄の子猫なんですけど?




