8-21 お化け屋敷
天井を見上げれば、中々立派な大きな穴。
甲板までぶち抜きで穴が開いているので、船底からでも深い霧に包まれて、真っ白になった空が良く見える。
【空中機動】使えば上に戻る事は簡単だけど……まあ、良いか。どうせ船内一通り見て回るつもりだったし。上から回るか、下から回るかの違いでしかない。
さて、探索始める前に……
【全は一、一は全】
魔王スキル発動。
体の奥底から力が湧きあがり、全身に熱となって巡る。
他人の目がなくなったから、ここからは全力解禁だ。
アクティブセンサー使えば探索楽だし、使わない理由がない。
えーっと……とりあえず、短剣系の小回りが利く武器を10個ほど浮かべる。
船内だと、槍や斧だののリーチがあったり、大振りする武器は使えねえからな。
……っと。ただの短剣じゃ幽霊相手にダメージ与えられねえから、ついでに
【属性変化】
俺の装備する全ての武器の属性を“超神聖”属性に変更。
【エレメントブースト】
超神聖属性を指定。
指定された属性値を5倍化。
コレで良し。
それに、魔法や天術使うにしても、属性選びは気を付けねえとだな? 火、爆裂、雷は元より、威力が高い術式は船ぶっ壊すから使えねえ。まあ、今の俺の魔力で使うと、大抵の魔法と天術は威力高くなっちゃうんだけどさ……。
準備が整ったので探索を始めようとした……のだが、足元を見て、出しかけた足を引っ込める。
穴だった。
紛れもない穴。
しかも、良く見ると1つではなく、大きな穴から小さな穴までいくつも開いている
船底なのに、穴が開いている。
ダメじゃない? これダメじゃない? って言うかヤバくない? 超ヤバくない?
普通ならば海水が穴から流れ込んで来るのだが――――どう言う訳か、そんな様子は一切無い。
穴の表面に見えない膜でも張られているかのように、海水が一滴も船内に侵入していない。
まるで、水中に設置された窓のようだが…………どう言う原理だコレ? 幽霊の不思議パワーかしら? 穴開けても水入って来ないってんなら、多少は無茶やっても構わないかもしれないが、俺の開けた穴を同じように塞いでくれるとは限らない。
やはり、探索終わるまでは大人しく戦うのが無難だな。
穴を飛び越え、改めて歩き出す。
外は深い霧な上に、明かりの1つもねえから船内は暗い。
通路もボロボロなうえに、色んな物が転がってて危ないな……。
まあ、どっちも普通の人間だったら面倒な事かもしれないが、夜目の利く猫の俺には暗さはそこまで苦じゃねえし、尖った木片やら折れたナイフの刃先とか落ちてるのも、【全は一、一は全】展開してる時の防御力なら、そんな物で体が傷付く心配もねえ。
アクティブセンサーで大雑把な船内図を確認しつつ、手当たり次第部屋を確認して行く。まあ、本当は部屋の中の情報も取得してくれてるから、中が空っぽなのは分かっているんだが、やはり自分の目で確認しないと不安があるのだ。
3つばかり部屋を確認したが、今のところ収穫なし。
4つ目の部屋の手前で立ち止まり、改めてアクティブセンサーの寄越す情報を閲覧。部屋の中に複数の敵性反応。
クンクンっと嗅覚で敵を探してみるが……相手が幽霊だからか、敵の臭いがしない。
いつもなら体が危険を感じたら臭いとしてそれを教えてくれるのだが、そもそもこの幽霊船自体が俺への敵性反応を持っているせいで、それに紛れて小さな敵の反応を体が拾えていない。
アクティブセンサー無しで突っ込んでたら不意打ち受けたかもな……危ない危ない。
【仮想体】が旭日の剣を抜いて戦闘体勢に入ると同時に、俺を護るように浮いている10本の短剣を部屋の中へ飛び込ませる。
2秒待ってから【仮想体】と共に部屋に入ると、6体の骸骨が飛び回る短剣と格闘していた。
うォわああっ!!
スケルトンだ! 生のスケルトンだよオイ!!
ゲームや漫画じゃ良く見る姿だけど、実際に動く姿は無茶苦茶気持ち悪ッ!?
ドン引きしている間に、部屋に入って来た俺に気付いたスケルトンの1体が向かって来る。
気持ち悪さはとりあえず横に置いといて、一当てしてみるか? RPGでお決まりの敵であるスケルトンが、どの程度の能力なのかは非情に興味がある。
【仮想体】が、スケルトンの突っ込んで来る速度に合わせて旭日の剣を横に振る。
生き物相手の時に首吹っ飛ばすと、微かでも罪悪感はある。が、今回は相手が既に死んでいるのでそんな物は欠片も浮かばない。ですので容赦無用のフルスイングである。
ヒュンっと白刃が空気を割いて空間を走る。
刃がスケルトンの首元を捉え――――振り抜くッ!!
歯をカタカタと鳴らしながら骸骨の頭が宙を舞う。
が、首を無くしたと言うのに、スケルトンの体の動きは止まらない。
錆びて刃がノコギリのようになった剣を【仮想体】に振り被る。
「ミャァア」
頭無くても動けるんかい。
まあ、相手は既に死んでる訳だし、頭の1つや2つ無くなっても大した事ないんだろう。
なるほど――――こりゃ、ちと面倒な相手もかもしれねえな?
普通なら頭を飛ばすか、心臓ぶち抜けば確実に殺せる訳だが、スケルトンにはそう言う1撃必殺の定石が通用しない。
どうしたもんかな?
とか呑気に分析している間に、スケルトンの刃が迫る。
まあ、だが避ける必要もなければ、防御する必要もない。
―――― 横から飛んで来た短剣がスケルトンの手に突き刺さる。
剣を握っていた骨の指を切り落とすように刺さった短剣は、勿論俺が【全は一、一は全】で操っている物だ。
指だった小さな骨がコロンコロンと床を転がり、一瞬遅れてスケルトンの手から滑り落ちた剣が、床に浅く刺さる。
骨の切断自体は、鉄の短剣でもそこまで難しくない。多分船上であったピエロ仮面と同じで、超神聖属性が有効だからだ。
問題なのは、コイツを戦闘不能にするにはどうすりゃ良いんだって点よ。
首が飛んでも、指が飛んでも、痛みを感じてる風もなければ、動きを止める事もない。
とりあえず、1番利きそうな手を使ってみる。
【冥府還】
先程ロールパンから貰ったばかりの、対幽霊だか、対不死物だか特攻の天術。
天井に例の魔法陣が現れて、ゆっくりと降下。
魔法陣が通り過ぎるや否や、スケルトンとして動いて居た骨が崩れて、其々のパーツにバラバラなって床に落ちる。
部屋の中に居た6体全部一発で倒せたって事は……ふむ、やっぱりこの天術は有効か。
スケルトンの始末の仕方はイマイチ分かんないけど、とりあえずは【冥府還】で対応すれば問題無さそうだな?
じゃ、次の部屋に――――と踵を返そうとしたのだが……
『――――オノレ――――』
ん?
声……?
確かに今、声が聞こえた。それも、野太い男の声。
でも……なんだ? どこから声が響いているのか分からない。
『――――オノレ――――マ族メ――――オレの――――船ヲ――――仲マを――――奪ッタ――――忌々シい――――異ギョウどモ――――』
廊下に出てみるが、やはり声の主の姿はどこにもない。
声を聞きながら更に廊下を進むが、俺を追いかけて声が廊下中に響く。
『――――逃がサン――――生カシて――――帰ス――――モノか――――』
声を無視して廊下をズンズン進んで行ると、突然バタンッと廊下を仕切る扉が閉まり、即座にガチンっと鍵がかかる。
勝手に出歩くなって事かしら?
ゲーム的な展開で言えば、この扉を開ける為の鍵がどこかの部屋に落ちていて、それを探す為にあっちゃこっちゃ歩き回されるんだろうが……そんな事を呑気にやってる時間はないので省略して進む。
【仮想体】が足を振り被り、思いっきり鍵のかかった扉を
「ミィー」
せーの。
―――― 蹴る!
ドゴッ
腐りかけに見えるのが嘘のように硬かったが、それでも俺のパワーには耐えられなかったようで、扉は蹴った部分で真っ二つに折れて廊下の先へと吹っ飛んで行く。
セオリーガン無視。「何それ美味しいの?」って感じ。
こちとら、さっさとコッチでの用事終わらせて、俺等の船を追っかけなきゃならねーんだからチンタラ鍵探しなんぞやってられん。
『――――オノレ――――オノレ――――』
呪言のように響いていた、“どっかの誰か”の声は、俺の行動にビビったのか呆れたのか、徐々に小さくなって、やがて聞こえなくなった。
声の主が誰かは知らんが……ヒントはあったな?
「俺の船を」って言ってたって事は、この幽霊船の元になった船の船長か何かかな?
まあ、とりあえず、この船の中には、言葉が通じるらしい相手が1人……若しくは1匹は居るらしい事は確定だ。
もっとも、そいつが会話出来る相手なのかどうかは、まったく別問題だが。




