8-19 黄金の勇者は幽霊とも戯れる
幽霊船。
改めてその言葉を頭の中で反芻すると、中々浪漫に溢れた言葉だと思う。
だって、“幽霊”の“船”だぜ?
存在があやふやな幽霊。それが、船に乗っかって海の上を漂っていると思うと、何とも言えないワクワク感が湧いて来る。
元の世界の感覚で言えば、ただの幽霊だって普通に暮らしていては会えるのか分からないってのに、幽霊船に会えるなんて宝くじで1等当てるくらいの倍率じゃないでしょうか?
そう考えると、俺って超絶ラッキーじゃない?
普段碌な目にあっていない俺だが、今回は普通にラッキーなのではなかろうか? こんな面白い物に出会えたんだから、そら、ラッキーで良いでしょう。文句は言わせねえよ。
焦る気持ちを落ち着ける為に、1度大きく深呼吸をする。
うしッ、乗り込もう!
遊園地の幽霊屋敷に入る時と同じ高揚感が体に広がり、それにつれて体が熱くなる。
「さあ乗り込むぞ!」と、船の鼻先をコチラの船の腹に突っ込ませている幽霊船に飛び移ろうとした時――――
幽霊船の中から何かが大量に飛び出して来る。
何だアレ?
仮面だった。
ピエロの面。
笑った顔。怒った顔。泣いた顔。沈んだ顔。明るい顔。
色んな顔をしたピエロの面が、フヨフヨと空中を泳いで真っ直ぐ俺に向かって来る。
おやおや、これはアレですかな?
お・も・て・な・し――――御持て成し。って奴ですかな?
良かろう! 持て成してくれると言うのなら、喜んで
―――― ブチ転がす!!
とは言え、幽霊と言えばお決まりとして“物理無効”とか付いてるじゃない? まあ、実際にそんな能力持ってるかどうかは知らねえけど。
物理無効とか凄い能力は持ってなかったとしても相手は幽霊だ。普通の奴が持ってない特殊な能力を持ってる可能性は十分に在り得る。
そんな相手をどうやって倒せば良いのか?
昔のエロい……じゃない、偉い人が言っていた。困った時は「レベルを上げて物理で殴れ」と。
【仮想体】が旭日の剣に手をかけ、抜きつけの一閃で目の前まで迫っていた“泣き顔”と“怒り顔”を横に両断する。
一瞬苦しそうにピエロの顔が歪み、シュンっと四散して消える。
「ミャァ?」
なんだ?
斬った手応えがねえ……。なんつーの? 豆腐に刃を通した感じ? 実際に斬れているけど、感触はない……みたいな。
まあ、でも、普通に倒せるみたいだから良いか。
近付いて来た“無表情”なお面を「おいしょ」っと軽く斬って捨てる。
その途端、他のお面が一斉にピカッと目を光らせ――――眼光が閃光となって襲って来た。
「ミャゥ」
おっと。
バックステップで躱す。
加速使う程じゃねえな。
1秒前まで俺が立っていた場所に、ジュッと小さな音と共に微かな焦げた臭い。閃光が通り過ぎた場所に、1mmの小さな穴があいている。
まともに食らえば、問答無用で蜂の巣ってか。
この攻撃、魔法でも天術でも無い。スキル……かな? 若しくは、幽霊ってのは皆、“目からレーザー”が出来る物なのか……。
「ゆ、勇者殿! ご無事ですか!?」「う、うォわああッ!? な、な、なんだコイツ等!?」「か、か、かめ、仮面が宙に浮いてる……!?」「これが、ゆ、ゆ、幽霊か!」
仮眠やら食事やらで甲板に居なかった傭兵達が、武器を携えて船室からゾロゾロと出て来る。
そしてその最後尾に、この船旅でいい加減見慣れたロールパン頭が居た。
「この私! エルギス帝国子爵ヴィセール=トト・レゼンスの娘、シアレンス=レア・レゼンス来たからには、もう安心ですわ!!」
この女は登場するたびに名乗らないと死ぬ病気でも患っているんだろうか?
「我が家に伝わるこの究極の鎧――――スパイクアーマーエターナルフォースブリザードセカンドオープンがあれば、私は無敵ですもの!」
無敵云々の前に自慢の鎧の名前を安定させた方が良いと思うの。
ロールパンが長々と意味の無い名乗りと鎧の紹介をしている間に、働き者の他の傭兵の皆様はフヨフヨと空中を泳ぐピエロの仮面へ攻撃を始めていた。
槍で突き刺し、剣で斬り、矢で貫く。
しかし――――
「なっ!?」「き、効いてない!?」「武器が素通りするぞ!?」
傭兵達の攻撃は全て命中したように見えたが、ピエロの面はまるで幻のようにその攻撃を素通りさせ、何事もなかったように空中遊泳を再開する。
あれ? 攻撃が効いてない? でも、俺の攻撃は効いたよな?
攻撃力の違い……じゃねえな? 硬度やら防御力高いとかの要素で攻撃が効かないってんならそうだが、今回はそうじゃない。
とすると――――使ってる武器の違いかな?
傭兵が使っているのは、何の変哲もない鉄製の武器。対して俺が使っているのは神器の旭日の剣。
神器つっても基本的には普通の武器と変わらない。
違う点が有るとすれば…………付与属性か!
神器は例外無く超神聖属性を持っている。確かに考えてみれば、幽霊なんてどう考えたって神聖とは真反対の存在だ。超神聖属性が幽霊達にとっての反属性であったとしても何の不思議もない。
一応確認してみるか?
皆に気付かれないように、適当に近くに居たピエロ面に向かって、収集箱の中から鉄の剣を投射で撃ち出す。
素通り。
仮面を通り過ぎて明後日の方向に飛んで行こうとする鉄の剣を回収。
今度は同じ鉄の剣に【属性変化】で超神聖属性を付与。そして、先程と同じピエロのお面に向かって投射。
ヒット。
仮面が四散して消える。
ふむ……予想通り無属性攻撃は素通りだけど、超神聖属性ならダメが通るな。
他の属性でも倒せるのか試してみるか? いや、まあ別に良いか。とりあえず通じる属性1つ分かってれば、後はどうとでもなるし、時間の無駄だ。
「うわっうわああッ!」「こ、コイツ等どうやって倒せば良いんだよ!?」「キャぁッ! コッチ来ないでよ!!」
あっちゃこっちゃで大騒ぎですな……。
……あれ? ピエロ面って、皆を面白おかしく追いかけ回してるけど、俺相手とは違って攻撃してる様子が一切ねえな?
もしかして――――……。
嫌な予感がした。
いや、いやいやまさか……そんな阿呆な展開は無いだろう。無いと信じたい。きっと無い。うん、無い、無いと思う、多分、きっと、信じれば、きっと、うん、多分、大丈夫……な、気がする。
若干冷や汗を流しながら思考停止していると、ロールパンが皆を護るように前に出る。
「落ち着きなさい!!」
ビリビリと空気を震わせる、やたらと響く声。
ピエロのお面に追いかけ回されてワーキャー言っていた乗客や船員も、攻撃が効かなくて半分自棄になって武器を振り回していた傭兵達も、全員が響き渡る声でスイッチが切れたように静かになり、視線が声の主に集まる。
「怖がるくらいなら船室に隠れていなさい! 戦える者はまず落ち着きなさい! 冷静さを欠いた者は邪魔よ!」
堂々と胸を張って声を響かせる。
不覚にも、その姿を少し恰好良いと思ってしまった……いや、ちょっとだけだよ? 本当にちょこっとだけね?
「し、しかし、攻撃が通じないんだぞコイツ等!」「そうだぜ、落ち付けってったって!」
他の傭兵達の言葉はもっとも。
だが、ロールパンは揺るがない。
鎧の名前はふざけているのに、一切揺るがない。
「この手合いとの戦い方は心得て居ますわ! なんと言っても、私は聖騎士ですから!」
ホーリーナイト……それが何かは知らんが、何か凄そうな肩書……。
皆が「まさか……」と言う空気が流れている中、ロールパンは高らかに持ってい錫杖のような……? ロッドなのかハンマーなのか判断しかねる武器を空に掲げる。
そして――――
「【冥府還】」
ロールパンを中心として、空中に描かれた巨大な光の魔法陣。
幾何学模様で描かれていて、それにどんな意味が込められているのかは俺には一切理解出来ない。だが、それを恐れるように幽霊船に逃げ出したピエロの仮面を見れば、アレがどう言う物なのかは想像がつく。
船全体を包むように広がった魔法陣は、ゆっくりと下降する。
船も人も素通りするが、逃げ遅れたピエロの仮面達を魔法陣が通過すると、仮面が満ち足りたような表情になりスゥッと消える。
徐霊術……的な奴かな?
ん?
ログが流れた。
『【冥府還】
カテゴリー:天術
属性:神聖/浄化
威力:-
範囲:C
物理的に“この世に存在していない存在”に安らぎと終わりを与える。
それ以外の対象に対しては効果を発揮しない』
おっと、収集出来た。
別に俺をターゲットに天術を発動した訳じゃねえだろうし、多分効果範囲内に居ると敵味方関係無く効果対象にされるタイプの奴だな。
まあ、これから幽霊船に乗り込むし、対幽霊用の天術が手に入ったのはラッキー。
ありがとうロールパンさん。




