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1-23 屋敷侵入

 どうしたもんかしら……?

 これ侵入するって、ソリッドス●ークでもなきゃ無理じゃない? 猫の俺には難易度高過ぎない?

 いや、でも、やるって決めた以上やるんですけどね?

 途中で投げるにしたって、それは自分の限界までやった後の話だ。

 1人でグチャグチャ考えていると、周りに居た猫達がニャーニャー鳴く。人間や魔族にはただの鳴き声だが、猫同士にはちゃんと意味が伝わる。


「どうしたんですかダンナ?」「ボス、何か御困りなら手伝いやすぜ?」「何か力になれます?」


 ふむ………。

 俺1人だとどうしようもないが、コイツ等が協力してくれるなら行けるか?


 ……


 ………


 …………


 3分の作戦タイムを終えて、取り巻き達から離れる。

 俺は門のすぐ傍にある植え込みに身を隠し、門番達に見つからないように【隠形】を発動してタイミングを待つ。

 一方他の猫の皆様は、少し離れた通りを挟んだ向かいの茂みの中で丸くなっている。

 ジッとして待つ。

 数分ごとに巡回の魔族が前を通るのだが、その度に自分でも分かる程ビビって体が強張る。いや、だって、普通に怖ぇし。

 巡回役が6回程通り過ぎた頃、ようやく待ったチャンスが来る。

 交代のタイミングなのか、巡回していた内の1人が立ち止まり、門番にそれっぽい事を話している。


「1度戻る、門を開けてくれ」

「少し待て」


 門番が何やら魔法らしき物を巡回の魔族にかける。恐らく本人かどうかの認証用の魔法と思われる。


「よし、大丈夫だな」

「勿論だ」


 門が開く―――とは言っても、ギリギリ1人が通れる隙間分だが。

 子猫が通るには十分過ぎる隙間だ!

 だが、ただ突っ込んだって通る前に門番達に捕まって終わり。だから、もう一手。

 通りの反対側の茂みに隠れていた猫達が一斉に飛び出し、ニャーニャー叫びながらバタバタと文字通りのキャットファイトを始めた。


「なんだ!?」「うぉッ!?」


 門番達の意識が猫達に向く。

 視線が猫達を追い、一瞬俺に背を向ける。


――― GO!!


 今の俺が持ち得る瞬発力の全てを注ぎ込んだ踏み込みからのダッシュ!

 実際には音速の半分にも届かない速度だろうが、気分的には光速で走ってる………うん、まあ、気分だけだけど。

 門番達の後ろを擦り抜けて門を潜って中に滑り込む。そこで立ち止まるような馬鹿な真似はせず、枯れかけの植え込みに隠れる。

 手入れがされていないのか、葉が少なくて枝が体にザクザク刺さってクソ痛いんですけど……血が出る程の怪我じゃないから、とりあえずスルーするけどさ……。


「なんだ、ただの猫の喧嘩かよ…」

「驚かすなっての…! コッチは侵入者が来ないかとピリピリしてんのによ…」


 侵入成功! あとは、猫達が無事に逃げてくれるのを祈るばかり……まあ、アイツ等逃げ足速いし、魔族達もそこまで必死に追わないだろうから、そこまで心配してねえけど。


「通るぞ?」

「ご自由に」


 巡回役だった魔族が門の隙間を狭そうに潜って入って来る。途端に門の隙間が閉じる。

 目の前を通り過ぎるのを、身を小さくして見送る。

 ふぅ……良かった、気付かれなかったな。

 敷地内に入ったのは初めてだな? 馬車から荷を盗んだ時は入口の門の所で逃げたし。

 現在隠れている枯れかけの植え込みに沿って歩いて行くと、その先には2つ目の門。目的の屋敷はその先……っつう事は、もう1つ門を越えなきゃならん訳か…。

 2つ目の門に向かって歩いて行く魔族にコソコソと着いて行く。

 ここから先は、進むか隠れるかの2択だ。常に【隠形】を張りっ放しにしておかないと怖くて仕方ねえな……。

 植え込みの中を音を立てないように気を付けながら進む。

 幸いな事に2つ目の門には見張りが立って居ない。

 たまたま居ない時間なのか、それとも元々コッチの門には見張りが居ないのかは分からないが、侵入する俺としては有り難い話しだ。

 屋敷に向かう魔族が門を少しだけ開ける。


 その瞬間がチャンス!


 【仮想体】を発動。

 扉を開けている魔族のすぐ傍に、巨大で、見えない体を創造。その巨大な手の上に、収集箱(コレクトボックス)から取り出した木の枝を乗せる。

 木の枝が丁度魔族の頭の上に来る。

 そして【仮想体】を解除。

 木の枝が、魔族の頭にコンッと当たって地面に落ちる。


「ん?」


 若干の警戒をしながら何が頭に当たったのかを確認し、ただの枝である事に小さな安堵を漏らし、「なんで上から枝が降って来たんだ? 鳥か?」と空を見上げる。

 その隙に、足元を抜ける―――!

 門2つ目通過っと。

 こうスンナリ行くと怖いぐらいだな……。それと、こう言う時には子猫の小さい体に感謝してしまう。

 2つ目の門を閉めて屋敷に歩いて行く魔族を見送る。

 流石に、俺は玄関から「お邪魔しまーす」とはいかねえからな。


 花壇や、正体不明の石像の陰に隠れながら屋敷の周りを歩く。

 窓から中を覗くと、屋敷の中は外とは比較にならない程の人数の魔族が居る。……まあ、当たり前か。

 見回りをしているのは居なそうだけど、大人数がバタバタと色んな部屋を行ったり来たりしてるから、見つかる可能性はやはり高い。

 さて……どうするかな?

 門を素通りして来たから、不審者(不審猫?)が来ている事には気付いていない。屋敷内の警戒度は入り口の門程高くはないっぽいけど……無暗に突っ込めば捕まるのは火を見るより明らかだ。

 行き先を決めて向かった方が良いかな?

 こういう場合は、とりあえず………上かな? 人が捕まってるなら地下って可能性もあるけど、やっぱり逃げづらい上の方がそれっぽいし。

 それにどこの世界も、馬鹿と煙と偉い奴は高い所が好きってのはお決まりでしょ。捕まってるユーリさんが見つからなかったとしても、上に行けば偉い奴が居ると思うし。偉い奴なら相応の情報を貰えるかもしらんしね。ついでに親玉の面を拝んでおくのも悪くない。

 上に行くのは良いけど、屋敷の中の階段を上るのは危ないな。

 3階建て……か。

 どこかに高い木は無い物かと探してみる。

 コソコソと移動していたら、裏手に1本だけ立派な木があった。……ただ、やはり手入れはされてないらしく枝が伸びっ放しで若干野性味を帯びている。

 けど、お陰で枝の高さが2階の窓より上まで行っている。

 ありがてぇ。

 周囲を確認してから木を登る。

 森の中で散々登ったお陰で手慣れた物である。しかも身体能力が更に強化されてるから、軽業師のようにスイスイっと登れる。

 天辺近くの枝まで1分とかからずに辿り着いた。

 これ以上登ると枝が細くなり過ぎるからな、ここが限界だ。

 この高さで2階の窓と同じくらいか……まあ、行けるか。

 ふぅ……よし!

 気合いを入れ直し、細く不安定な枝の上を、先っぽに向かってダッシュ。


「―――ィッ!!」


 2階の窓に向かって全力のジャンプ―――が、距離が足りない! でも、


――― 想定内!


 不意に空中に現れる木の盾。

 勿論俺が収集箱から出した物を、【仮想体】で作った腕に持たせているだけだ。

 それを足場にして、もう1度空中に舞う!

 今度は余裕で届く。しかし、そこは2階の窓枠の上―――飛び過ぎた……訳ではない。

 窓枠に足を引っ掛けて上に飛び上がる。

 俺は最初から2階に用はないのだ、行き先は最上階だけ!

 壁蹴りで更に上に。

 窓枠に爪を引っ掛けてぶら下がる。

 コソッと中を覗く。

 よし、誰も居ないな。

 猫らしい動きでスルっと侵入。

 ふぃ~…。


 俺のステータス画面があったら、きっとジョブの欄は“忍者”になってるな。間違いない。



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