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1-22 会話は大事

 【仮想体】の使い方は分かった。

 仮想体と、装備させているオリハルコンの鎧一式を引っ込めようとして、更なるこのスキルのヤバい性能に気付く。

 俺が触れなくても収集箱にしまう事が出来る。

 アイテムを取り出す時も、俺の体のすぐ傍じゃなくても、仮想体を遠くに創り出せばその手元にアイテムを出す事が出来る。

 ……まあ、遠くつっても仮想体が俺から離れられるのは精々30mくらいだけども。だが逆に言えば、30m範囲内ならばアイテムを自由に出し入れする事が出来るっつう事で、やっぱりこれ、かなり有用な当たりスキルだな!


 で、だ……。

 侵入方法が思い付かん。

 いや、だって無理じゃん? 正面門は警備ガッチガチだし。周りを囲む壁は高過ぎて、流石に壁上りジャンプでも届かなそうだし。仮に届いたとしても目立つし。じゃあ、正面を強行突破……なんて以ての外だし。

 何か良いアイディアでも転がってないかと、朝飯を求める散歩に出かける。

 黒猫を始めとした自称俺の手下の猫達がワラワラと着いて来たが、それを追い払う程の元気も無く……仕方無く猫の団体で歩く事にする。

 顔馴染みになりつつある仕込中の飲食店に行って少量の料理を恵んで貰って腹を満たし、ふと思い立って例の秘密の地下室のある店に行ってみる

 「もしかしたら、仲間を救出する為に作戦を立てているかも」と言う淡い期待。……まあ、昨日の様子だと絶望的だけど……。

 何かしら協力してくれると嬉しいんだけど、そもそも会話が出来ないってのが痛すぎる……なんたって、コッチの事情を説明する事もできねぇ。


 色々考えてる間に件の店に到着。

 取り巻きの猫達には外で待つように言って、1人…じゃない1匹で店に入る。

 ……人間の時の感覚で気軽に店に入ってるけど、飲食店に野良猫が入って来るって衛生上絶対にアウトだよね……。まあ、コッチの世界はそう言うの気にして無いっぽいからセーフ……いや、食中毒とか出たらアウトなんだけどね? そん時はそん時って事で。

 入り口が開いていたけどまだ営業はしていないのか、客席には人が()らず静まり返っている。

 店の奥―――キッチンの方から何かを切る音と、朝飯直後なのに腹の空く良い匂いが漂って来る。

 キッチンを覗き込んでみると、昨日地下室に居た内の1人の優男が忙しなく動き回って、スープを混ぜたり、肉を叩いたりと色々準備をしていた。

 暫くその作業を見守る。

 そう言えば、飲食店のキッチン作業なんてちゃんと見た事なかったな…。

 流れるような手際の良さとか、手元で行われる小さく繊細な技巧とか、思わず無言で魅入ってしまう。

 作業が落ち着いたのか、優男が手を止めて「フゥ」っと一息吐いて酒…らしき物? を一口飲む。

 そこで、始めてキッチンの入り口から覗き込んで居た俺に気付く。

 いやっ、ってか!? ボーっとしてて普通に見つかってんじゃん!!? バカかわしゃぁ!!!?


「おや、可愛らしいお客様ですね? でも残念ながら、まだ料理の準備が終わってないんですよ」


 そう言って膝を折ると、俺の体を撫でる。

 料理人がその最中に動物に触って良いんだろうか……。まあ、流石に後で手を洗うだろう。今日の料理に猫の毛が入ってたとか怒られても、俺は一切の責任を負いかねます、はい。

 まあ、それはともかく。

 香辛料の香りだろうか? とても美味しそうな匂いのする手だった。ぶっちゃけちょっと舐めたい……ゴメン嘘だ、ちょっとじゃなくてかなり舐めたい。

 いや、しかし、人として、男として、男の手をペロペロするのは色々アウトだろう。あっ、人としてって、今は人じゃねえや。


「ミィ」


 腹減ったアピールに一鳴きしてみた。


「もしかして、君はユーリを目当てに来たんですか? そういうお客様は多いんですよ」

「ミャァ」


 いや、ちゃいます。アンタが良い匂いさせてるから腹が減ったんです。


「あはは、やっぱり当たりでしたか」


 ………やっぱり会話出来ないのは致命的だと思うの……。

 俺の心がドンヨリさせていると、優男の顔も曇る。


「でも……残念ですね? 多分、もう、ユーリは店には戻って来ません」

「ミ…」


 やっぱり、助けに行く気はないって事か…。


「ええ、僕もとても残念です……でも、仕方無いんですよ……」


 仕方無いってのは、自分を納得させる為に言ってるように聞こえるのは……俺の気のせいじゃないよな?

 少し悲しそうな顔。

 俺から手を離すと、戸棚を開けて緑色の液体の入った小瓶を取り出す。

 少し揺らして液体をジッと眺める。そして、自嘲めいた笑いをフッと浮かべる。


「……仮にユーリがこんな物を持って居たところで、どうにかなるような話じゃないな」


 小瓶を戸棚に戻そうとした時、客席の方から「おーい、もうやってるかい?」と声が聞こえた。どうやら誰か来たらしい。


「はーい、大丈夫ですー」


 優男の顔と声が接客モードに切り替わり、小瓶を机の上に置いて客席の方に出て行く。

 取り残される俺。

 ……あの小瓶はなんだろうか?

 あの口ぶりだと、何かしら現状打破の取っ掛かりになるようなアイテムだったりするんだろうか?

 気になったら確かめずには居られない。

 仮想体で机の上の小瓶に―――ってダメだ収集箱から出した物じゃなきゃ触れられないんだっけ。仕方無くオリハルコンの籠手を片手だけ装備させてから、改めて触れる。

 ……あれ? 収集箱に入れられない?

 もしかして、初めて収集箱に入れる物に関しては、俺が直接触れないとダメなのか?

 空中に浮く黄金の籠手が小瓶を持って俺の目の前まで下りてくる。

 ………ビックリする程、シュールな絵面……。子供が見たら間違いなく泣いて逃げ出すなこれ…。

 人に見られる前に、さっさと籠手の持っている小瓶に触れる。


『【緑ポーション Lv.2】

 カテゴリー:素材

 サイズ:小

 レアリティ:E

 所持数:1/30』


『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』


 ポーションと言えば回復薬ですよねぇ?

 

『ポーションは効果の高さや用途によって色が変わる。

 緑のポーションは傷や体力の回復の効果がある。ただし、その効果は低い。

 薬品の合成に使われる場合にも変化は弱く、ポーションとしては最も低級の物。

 料理の味付けに使われる事もある』


 なる程。

 って事は、さっきの優男の言葉はあれか?

 捕まって痛い思いをしていても、ポーションが有れば多少はましだろうなぁ…的な発言だったって事だろうか?

 ……何かの役に立つよな? このまま持って行くのは完全な泥棒な訳だが、あの人の仲間を助ける為に使うって事で見逃して貰おう。


 店に客が流れて来たようなので、その流れに逆らって外に出る。

 店の前で招き猫の如く俺を待って居た取り巻きの猫達と合流し、とりあえず魔族屋敷に向かってみる。

 侵入方法は思い付いてないけども、まあ現場を見てから考えよう。


 30分程かけて魔族屋敷に到着。

 俺1人ならもっと早かったけども、取り巻きが一緒だと急げやしねぇ。


 ま、ともかく到着……したのは良いんだが、さてさてどうしたものかね……?

 門は相変わらず閉じられていて、その前には見張りが2人。ついでに巡回の魔族が数人。

 警備固いなぁ。

 やっぱ正面突破はどう考えても無理。

 頑張って見つからないように壁上りしてみようかとも考えてたが、昨日より巡回に来る頻度が上がってる気がする……。俺が昨日逆探知かけられたから警戒度が上がってんのか…。

 まいったな……。

 昨夜より輪をかけてどうしようもなくなってんぞ……。



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