7-34 後始末はヨロシク
ベリアルの体から引っ張り出した時、教父爺の体は酷い物だった。まあ、酷い物とか呑気に言ってるけど、酷い有様にした犯人は俺なんだけどな。
助け出すまでにベリアルに叩き込んだ攻撃は、そのまま教父爺のダメージになるからだ。不幸中の幸いは、ベリアルがコッチの攻撃避けまくってくれたから、貫かれた足の傷以外は大した事無かった事かね?
戦いが終わった時に、一応治癒天術かけておいたから、多分大丈夫だと思うけども、後遺症とか残ってても責任は取れねえ。何故って? 猫だからだよ。
コッチは出来る限りの事はしたんだ。
もし何かあっても、生きてるだけでも儲け物と思ってくれ。
「ぅう……何、が?」
寝惚けているのか、それとも悪魔の支配が解けて意識が定まらないのかは、俺には分からない。
「私は……いったい、ここで……何を……?」
ベリアルが意識を支配している間の事は憶えてないのか?
でも、それならそれで好都合。
ベリアルとバチバチやりあってた猫の事を憶えられて居たら、色々面倒な事になってた。
さあて、教父爺を連れて外に出るか――――と思った瞬間。
「兄様!!」「師匠!!」
ぞろぞろと、アザリアと、その肩を貸されたバルトを先頭に雪崩れ込んで来た。
おっと、意外と早かったな? もう少し時間かかると思ってたけど。まあ、遅い方が困るし、早いに越した事は無い。
こんな事もあろうかと、魔道具は急いで回収したから、もうここに用は無いし。
………にしても、バルトの奴がかなり憔悴してる……そんなに双子に苦戦したのか? バルトの戦闘力なら行けると思ったんだけどな? 読みが甘かったか。
アザリアの仲間達が部屋に入りきったところで、最後尾だったらしい双子が、お互いを支え合うように入って来た。
皆と一緒に居るって事は、教父爺……じゃねえな、ベリアルの支配が解けたか。
ベリアルぶち転がしたから解けたのか、それともバルト、もしくは誰かが倒したから解けたのか……その辺りは分からんけども。
もし解けて無かったら、呪い除去の天術【解呪術式】とかぶん投げてたところだが、その前に解けてくれたのなら手間が省けた。
「兄様、大丈夫ですか!!」
アザリアが真っ青な顔をしながら、俺……と言うか金の鎧の【仮想体】に向かって走って来る。
うん? 何故にそんなに必死な顔でござる?
別に傷を負ってる訳じゃ―――と【仮想体】を改めて見ると、見事なほどに腹をぶち抜かれていた。
ああ、そう言えばベリアルにやられたんだった。
って、中身空っぽなのが、その穴から見えてますやん!? ヤバいヤバいヤバい!
近付かれたら100%気付かれる!!
アザリアが寄って来る前に、何か、何か、手を打たねば!!
えっと、えっと……あッ、こう言う時はアレだ!!
一応【仮想体】に、腹を押さえて座らせる。
傷を痛がる振りと、ついでに、しゃがむ事で中身を覗かれる事を防ぐ。
そんで、とっておき!
無言のまま、【仮想体】がズビシっと明後日の方向を指さす。
くっくっく、これが元の世界で散々使われて来た必殺技「あっ、アレは何だ!?」だ。人は相手が指差したり、視線を別の所に向けたりすると、無意識に追ってしまう生き物なのだ(ドヤ顔)!!
そして、俺の狙い通りに皆の視線が、【仮想体】の指の先を追う。
数秒、俺から全員の注意が逸れる。
グッジョブ俺!
【仮想体】を装備品ごと収集箱に放り込み、同時に魔法を発動。
【転移魔法】
グニャリと視界がねじ曲がり、次の瞬間にはツヴァルグ王国の城の裏庭だった。
逃げた。
ええ、そうですよ? 後始末丸投げして逃げて来ましたけど、何か?
だが、それどころではない。
あーヤバ……咄嗟だったから【全は一、一は全】使わずに転移魔法使っちまった。
途端に息が切れ、体から力が抜けそうにな……る?
あれ? 言う程しんどくねえな?
いつもなら転移魔法使った後はフラフラになるのに、今は結構余裕がある。
ああ、そっか。【魔王】の特性がゴリッとレベルアップしたから、俺の魔力量がモリモリと底上げされてるのか。
今なら、転移魔法もう一回使うくらい出来そう。
…………いや、やんないよ? やんないけど、出来そうって話ね?
よしよし、順調に育ってんじゃないの俺。
中堅どころらしい魔王バグを倒したし、悪魔侯爵ベリアルも倒した。
戦闘力は、確実に上がっている。
となれば、もう少しランクの高い魔王との戦いも視野に入れねえとな? ボヤボヤしてると、アビスの野郎がヒョッコリ現れて「ぶっ殺しに来たぞ」とか言いかねない。
できれば、ギリギリ勝てるレベルの魔王と戦えれば良いんですけどねぇ、そんな都合良く現れてくんないしなぁ………いや、でも、今まで出会った魔王たちって、俺がギリギリ倒せるレベルだったな? まあ、バグの奴だけは、アレだけども……。
まあ、運が良いって事かな?
この調子で、運良くギリ勝てる魔王と戦い続けられれば良いけど。
頭の中でグチャグチャ考えながら、城の中へとシレッとした顔でトコトコ入る。
「え? 私この城の住人ですけど?」くらいの気持ちで城へ入って行く。
いや、もう、俺、立ち位置的にレティの飼い猫(と思われてる)ポジションじゃん? だったら、この城の関係者で良くね? 良くね?
レティの部屋の前に来ると、フワフワの毛に覆われた丸い手で、トントンっとドアをノックする。
中から「はい」と返事がして、扉が開く。
扉の隙間から顔を出したのは、レティではなくメイドさんだった。相変わらず眼光が鋭過ぎて、目にカミソリでも仕込んでるんじゃないかと思ってしまう。
メイドさんがキョロキョロと辺りを見回す。
ドアをノックした人物を探しているのだろうが、視線の高さ的に俺はアウトオブ眼中。
「ミィ」
一鳴きすると、メイドさんの視線が下に来て、俺を見つける。
「勇者の猫……」
嫌な顔をする。
その顔止めて。
そして眼光鋭くするのは、もっと止めて。
超怖いから。
おしっこチビリそうになるくらい怖いから。
「ネリア、どうしたんです?」
扉の近くまでレティが寄って来る気配。
よし、ここ、多分アピールチャンス。
「ミャァ」
「え? ブラウン?」
レティが半開きのドアから顔を出して俺を見つける。
パァッと花が咲く様な笑顔。
この子、今更ながら美少女やなぁ……。これで胸大きかったら、男が(俺が)放っておかんだろうに。いや、今のままでも十分放って置かれないだろうけども。
「(ただいま)」
「おかえりなさい」
言いながら、メイドさんの横から手を伸ばして俺を抱き上げる。
俺を抱いたまま部屋に戻ると、勉強中だったのか、机の上には何やら紙が置かれていた。
コッチの世界じゃ、紙はまだ高級品だ。
「流石王族……」とか、レティの勉強にいくら消費してんのか、とか色々考えていると、その机の上に俺を乗せて、レティは椅子に座る。
「ねえ、ブラウン? 剣の勇者様と連絡出来たりするんです?」
「(何唐突に……? まあ、出来るけど)」
「本当です!?」
「(本当だけど?)」
「じゃあ、急ぎで伝えて欲しいんです」
「(何を?)」
「これです」
そう言って、机に広げられていた紙の端を持ち上げる。
「(何、この紙?)」
紙には、墨のような何か黒い液体で書かれた、何やら綺麗な字―――コッチの世界の文字の美醜は良く分からんが、まあ、多分綺麗な字―――が、長々と並んでいるが、俺には一切読めない。
「決闘状ですって」
「(は?)」
「他国の魔王様から、剣の勇者様への決闘状なんですって」
レティが丁寧に言い直してくれたが、事情が呑み込めない。
え?
何?
これ?
どう言う事さ?




