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1-21 魔族屋敷

 猫に生まれ変わって分かった事が1つある。

 獣の体になっても、こうして思考している俺自身が人間と同じように考えて行動している限り、悩みの無い自由気ままな生活……とは行かないって事だ。

 悩みなんて、生きていればどこからでも湧いて来る。

 実際、今こうして俺も悩んでますし。


 夜の闇に紛れて町を走る。

 向かう先は、勿論魔族屋敷。

 ぶっちゃけ猫1匹が行ったところでどうなる物ではないのだが……。

 すでに捕まっているなら手出しできないし、侵入前にそのユーリと言う人を発見出来たとしても、俺には止める為の手も言葉もない。と言うか、そもそもその人がどんな人なのかさえ知らないと言う事実に飛び出した後に気付いた。

 ……まあ、飛び出してしまったんだから、行くだけ行ってみよう……。

 なんだろう? 気合い入れて出て来た筈なのに、途端にグダグダな感じになってしまった…。


 とか考えてる間に目的地に到着。

 改めて見ると、屋敷を囲む塀がくそ高い……。目測約3mってところかな? ただ、猫の視点で見上げると10mくらいに感じるんだよなぁ…。

 城塞みたい……。

 まあ、守ってるのが異形の怪物達だってんだから、強ち間違いじゃ無いけど。

 さてさて、来てみたは良いけど……特に異常無し…かな?

 いつも通りに門は閉められ、いつも通りに魔族の見張りが人通りが無くなったと言うのに立って居て、他にも数名の魔族が屋敷の周りを巡回している。

 周囲に不審者の影は無し。

 少し中の様子探ってみるか?

 見張りと巡回の魔族に見つからないように茂みの中に身を隠す。

 【バードアイ】を発動して、視覚を塀の向こう側に飛ばす。しかし、


――― バチンッ


「ミッ!?」


 ぃってぇ!?

 なんだ!? 視界を、弾かれた(・・・・)……?

 目の奥がビリビリして、痛みと息苦しさが脳の裏側まで貫いてくる。

 あぁ、くっそ、なんだコレ……?

 もしかして、防御魔法とか阻害魔法とか、そう言う類の物が張られてるのか?

 つまり―――「覗き見すんな」って事ね…。流石魔族のお偉いさんが居る御屋敷、警備が厳重なこって。

 頭の痛みで動けずに居ると、通りの先から足音が近付いて来た。

 足音から読み取れる情報は、恐らく3人だって事。動きが早いって事。それと、周囲をやたらと警戒してるっぽい。

 茂みの中で身を小さく丸め、【隠形】で気配を断つ。

 それと同時のタイミングで、近付いて来た足音が角から現れる。


――― 3人の魔族


 油断無くお互いの死角を潰す様に立ち位置を変えて歩いている。

 統制のとれた動き。

 使い込まれているが、手入れの行き届いた武器と防具。

 町中で見る魔族達は基本的に武装していない―――って事は、この3人はちゃんとした戦士格って事か? 人間で言えば、兵士的な奴だと思えば良いのかな?


「ここら辺か?」

「間違いない」

「……誰も居ないな?」

「チッ、逃げ足の早い…!」


 もしかして……俺を探してる?

 さっきの【バードアイ】を無効にされた事で、コッチの居場所が特定されたのか!? くっそ! 流石に軽率な行動だった…。相手は魔族で、しかも俺が盗みを働いた場所だ。

 ってか、逆探知なんて…アリかよ……!?

 ビビっているのか、無意識更に小さくなろうと体が動いてしまう。


「例の侵入者の仲間かな?」

「だろうな。昼間の侵入者の直後だ、間違いないだろう」

「仲間を取り戻す為に屋敷を探って居た…と言う事か」

「ジェンス様に報告した方が良いな」

「だな」

「敵がまだ近くに潜伏しているかもしれん。捜索にもう何人か出して貰おう」

「うむ」


 警戒を解かないままガチャガチャと鎧を鳴らしながら屋敷の入り口の方へ去って行く。

 今の会話で分かった事が2つ。

 1つ、ユーリって人は多分もう捕まってる。

 2つ、ここに留まっていると魔族が一杯来る。

 流石に犯人が猫って事には気付いてないみたいだけど、だからと言って疑いをもたれる可能性のある事を呑み込む理由にはならない。

 ……今日はこれ以上踏み込むのは無理だな。

 頭痛を我慢して寝床へ戻る事にする。



*  *  *



 夜が明けて、目を覚ます―――。

 昨夜は少し寒かったから、俺の取り巻き(自称)の猫達が集まって、俺を中心に猫団子になって寝ていた。

 これが意外と心地良くてなぁ。

 フワフワした干した布団に包まれているような暖かさと、程良い感じの閉鎖感が猫の体に丁度良いらしく、とっても熟睡出来る。

 昨日の頭痛もすっかり抜けて元気いっぱい。

 体を伸ばしてから、まだ寝ている周りの猫達を踏まないように軽く飛び越す。


 さってと…どうしたもんかな?

 捕まってるのがほぼ確定として、俺の行動は……ああっもうッ! こんなん助けに行くしかねーじゃねえか!

 けど、どうやって?

 【バードアイ】が使えない以上、中の様子を確認するだけでも、直接乗り込む以外に選択肢がない。

 屋敷の中は当然、魔族がわんさか……見つかって、囲まれるような事になったら間違いなく死亡確定。

 俺がやる事は、結局隠れんぼ(スニーキングミッション)だ。

 ……とは言え、最低限戦える力は必要だ。

 今のところ、まともに魔族にダメージを通せそうなのは投射くらいか。……ただ、鎧で固めている相手には、石やナイフを投げても多分ダメージを通せない。肌の露出している部分を狙えば別だろうが、そこまで正確に狙える技量が俺には無い。

 何か無いかと瞼の裏で収集箱のリストを捲っていると、スキルの欄で目が止まる。

 そう言えば旭日の剣を手に入れた時に解放された【仮想体】とか言う能力、まだ試した事なかったっけ。

 現状打破の一手になってくれると良いんだが。

 とりあえずアクティブスキルのようなので、発動させてみる。


 …


 ………


 …………


 ん? 何も起こりませんけども?

 スキル発動中に感じる体の倦怠感は有るし、ちゃんとスキルは使えている筈なのだが…どう言う事だろう?

 意味が分からず、改めて収集箱から詳細情報を引き出す。


【仮想体】

『疑似的な肉体を創り出す事が出来るようになる。その際の肉体能力は、スキル発動者の能力に依存する。

 ただし、物質的には存在せず、物理的な干渉は出来ず、される事もない。

 唯一、収集箱から取り出したアイテムだけは触れる事が出来る』


 収集箱から取り出した物には干渉出来る?

 試しにナイフを取り出してみる。

 このナイフを、“そこに体があると仮定して”拾わせるイメージ。

 すると


「ミャッ!?」


 ナイフが浮き上がり、思わず驚きの声を出してしまった。

 何匹か猫達が起き出したが、今はそれどころではない。

 ナイフが浮いている。だが、実際は浮いているのではなく、“見えない体”がナイフを持っているのだ。

 俺の視線よりずっと高い所に浮いてるって事は、この“見えない体”は人の形をしているのか…?

 いや、違う!? 形は関係ないんだ! だって“仮想”体だから!

 俺が思った通りの形の体がそこに存在している―――と仮定して、って事だ。

 って事は、待てよ待てよ! この体に収集箱のアイテムだけは触れる事が出来るって事はさぁ、もしかして―――!

 収集箱からオリハルコンの鎧一式を取り出し、それを全部“見えない体”に装備させる。


――― 黄金の鎧を纏う騎士だった。


 手をグッと握る。

 その場でジャンプする。

 頭を横に振る。

 俺の思い通りに動く。


 ………マジか、これ?


 足元に落ちていた木片を拾わせて、鎧の隙間に突き立てる―――木片は何かに触れる事無く鎧の中をカランカランっと音を立てて落ちて行った。


 うっそだろ? このスキル、マジでヤバくない?

 もし仮に、この中身空っぽの鎧が何かと戦ったとしよう。その場合どうなるか?

 相手がどんな攻撃をして来ても、仮想体には干渉出来ないからダメージを受ける事はない訳で、相手の攻撃は全部素通り。対してコッチは肉体的な制限がないから、殴り放題だし、関節駆動の限界を越えた動きだって出来る。

 しかも、本体である俺は一切痛くも痒くもない……って言うか、下手すりゃ近くに居る必要すらない。

 仮想体の肉体能力は猫の体依存だって事だから、そこまで過度の期待は出来ない。……いや、本当にそうか? 全部で100Kg以上ある鎧を装備した状態で平気で飛んだり跳ねたり出来るぞ。猫の体じゃ絶対一歩も動けない。

 ……って事はもしかして、猫の体そのままの能力値って意味じゃなくて、猫の体の能力を人間の能力に換算してって事じゃね!?

 ヤバくない!? ターミネーターみたいなパワー出せんじゃねーのコレ!?

 しかも、そのパワーに加えて火力を出せる武器を装備していたらどうだろうか?

 倒れる事無く延々戦い続ける最強の戦士の出来上がりじゃない?

 そして―――俺の手元には、超高レベルで超絶レアの旭日の剣が有る。


 これなら、魔族とだって戦える!!


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