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7-27 闇は広がる

 一々吠えんなや。

 闇の住人なのは、テメェ等悪魔の専売特許じゃねえんだよ

 闇と影を渡り歩くのは、俺も得意でね。

 ギュルッと渦を巻くように武器が動く。

 一瞬でベリアルを取り囲む。

 そして即座に―――襲い掛かる。

 

「無駄と言った」


 スゥッとベリアルの姿が闇に溶けて消える。

 チッ、逃げ足が速ぇ。

 【全は一、一は全(レギオン)】で操る武器スピードを以てしても、野郎を捕まえる事が出来ない。


「(ハハッ)」

「何を笑っている?」


 部屋の壁からヌルリと現れたベリアルが、不快気に問うてくる。

 なぜ笑うのかって?

 決まってるじゃねえか。

 俺は、こう言う相手を求めていたからだ。

 次の魔王へ挑む前哨戦としては申し分ない!

 俺の基本は強くなる事にある。

 それは特性のレベルアップであり、収集による能力ボーナスであり、そして―――自身の能力の研究を意味する。

 能力の研究……その為には、そこそこ強い相手が必要だ。

 【全は一、一は全(レギオン)】の瞬殺で終わるような相手では意味が無い。それ相応の対応をしてくる程度には強くなくては意味が無い。

 その意味では、この野郎はドンピシャな相手だ。

 現れたベリアルに向かって武器を向けると、即座に姿を消す。

 捕まえられないどころか、捉えさせる事すらさせないつもりらしい。

 逃げ回られたら面倒臭ぇな。とか思っていたら―――


「ほぉら、こんなに隙だらけだ!」


 背後にベリアルが立っていた。

 クソッ、ようは相手の移動は全て“転移”と同レベルのスピードと思えって事かよ。


「【シャドウランサー】」


 片腕で魔法を唱えながら、もう片方の腕を振り、その爪でコチラの首を狙ってくる。

 魔法と近接の両刀。

 魔法を避ければ爪を食らい、爪を避ければ追尾性能の高い魔法に捕まる。

 (さば)けッ!!


 【魔滅の盾(インバリットマジック)


 速攻で発動した魔法を天術で打ち消す。

 そして同時に【仮想体】を動かし、旭日の剣で爪を受ける。


「流石に良い動きだ天使!!」


 だから天使じゃねえけどな。

 そのまま、剣と爪をぶつけ合う。

 ギィン、キンッ、と金属をぶつけ合うような音が部屋の中に響く。

 アホか、この野郎!! 旭日の剣には、魔力通して硬度と攻撃力増し増しにしてんのに、爪が欠けもしねえじゃねえか!!

 硬いっつうより、ただ単純に強いって感じ。

 呑気に感想言ってる場合じゃねえって!!

 絶賛打ち合い中の【仮想体】の肩から飛び降り、金色の鎧を壁にして、ベリアルからは見えないように離れる。

 そして―――その金鎧の掌の中で魔法を発動。


 【エクスプロード】


 ドンッと即座に起爆した爆裂魔法が、【仮想体】とベリアルを同時に吹き飛ばす。

 

「チィッ」


 体から微かにプスプスと煙をあげながら、ベリアルが舌打ちしつつ、俺の追撃をさせない為に“闇潜り”で姿を消し、次の瞬間には反対側の壁から姿を現す。

 その顔は、驚愕と憤怒に染まっていた。


「貴様、何故魔法を!?」


 そら、魔王ですもん、魔法ぐらい使いますよ。

 とは言え、相手はコッチを天使たらと思っているらしいので、口にはしないが。

 ベリアルが若干煙をあげている反対で、金鎧のうちの【仮想体】は、ノーダメージでザーッと地面を滑る。

 前にこの手を使った時は、籠手が吹っ飛で、とてもではないが「大丈夫」な状態ではなかったが、俺の能力値のアップは【仮想体】にも乗るから、その分防御力が増してるって事か。

 コッチがノーダメージで済むとすれば、この手は“有り”だな。

 

「まさか、天使ではないのか? いや、だとすれば、どうしてこれ程の力を持った人間が居る……!」


 ブツブツと言ってる暇があんのかゴルぁ!!

 空中で今か今かと待機していた武器たちが、一斉に動いてベリアルに殺到する。

 闇に紛れて回避しようとベリアルが動く。

 しかし―――俺の武器たちの動きの方が速い!!

 1番前……ベリアルに最も近い位置に待機していた、アイスランスがベリアルを捕まえる。

 左足を深々と貫き、即座に属性効果を発揮して傷ごと足を凍らせようとする。


「グゥッ!?」


 ダメージを受けながらも、それ以上の武器の追撃をさせぬように闇に潜って逃げる。

 ヨシ、1発通った。

 調子こいてんじゃねえっつうの。マジざまあ。


「(俺を目の前にして、余所見してる暇があんのか?)」


 部屋の隅の方に逃げたベリアルが、足に刺さった槍を抜きながら「チっ」と舌打ちする。

 ベリアルが投げ捨てた槍を回収して、再び空中に浮かべる。


「魔法も天術も使える天使……か? いや、半魔か? いや、いやいや有り得ん。これ程の力を持つ者が、まともな人間であるはずがない!」


 大正解。

 天使でも、半魔でもなく、それどころか人じゃなくて猫ですから、俺。しかも子猫ですから。

 可愛いだけが取り柄で、フワフワとした毛と丸い手の―――ただの子猫(まおう)ですからねえ。

 槍の1撃受けても、ケロッとしてんな……。例の悪魔の血の代わりっぽい黒い(もや)も、全然出てねえし。

 野郎の弱点を持つ神器で刺していれば、もっとダメージ大きかったかもしれないが……まあ、終わった事をグチグチ言っても仕方ない。切り替えだ切り替え。


「まあ、良い。貴様の正体が何であれ、遊びは終わりだ」


 ぁん?

 ゾワッとした。

 全身の毛が逆立つ程の“気持ち悪さ”が部屋中に広がる。

 なんだ、なんだッ! なんだ、コレ!?

 気持ち悪さと共に、どす黒い闇色が部屋の奥―――例の魔道具を繋ぎ合わせた、歪な機械のような物から、何もかもを呑み込もうと広がってくる。


――― 闇に、呑まれる!!?


 逃げる間もなく広がっていた闇が俺を呑み込む。


「ミャッ!?」


 一瞬、恐ろしさに目を閉じる。

 しかし、敵は目の前に居る、とすぐさま目を開ける。

 そこには―――闇が広がっていた。

 視界が真っ黒で、何も見えない。

 部屋の様子どころか、自分の手足すら見えない。

 【仮想体】が体にぶら下げていた魔道ランプの光も、闇に呑まれてどこに有るのか分からないくらいだ。

 息苦しい。

 山の高所に登ったように、息が無意識に荒くなる。

 クソ、なんだコレ。


「くっくっく……ハハッハハハハッハッ! 私の用意した“闇の領域”はお気に召したかな?」

 

 召さねえよ。何も見えなくて難儀しとるわ。

 何がヤバいって、敵の姿が見えなくなったのがヤバイ。

 しかも、相手の方は俺の姿が見えているらしいってのが、更にヤバイ。

 どうする? どうする!?

 瞬間の思考。

 結論、どうしようもねえ。



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