7-25 悪魔侯爵ベリアル
教会の中には、既に悪魔化した教団員でひしめいていた。
うぜぇ、邪魔だメタルスライム共! 今の俺はメタル●キングをぶち転がす事で忙しいんじゃボケ!
教会の中を、すさまじい速度で武器が飛び回る。
【全は一、一は全】
俺の魔王スキルにかかれば、有象無象なんぞ道端に転がる石ころ以下だ。
邪魔だゴミ共! 切り刻まれて、さっさとゴキブリの餌にでもなれ!!
………?
……なんだろう? 近頃急激に意識がささくれ立つってか、やたらと好戦的になっている気がする。
そら、力付けたから、相応に敵と戦いたいって意識は当然にあるが……それだけじゃない気がする。
【魔王】の特性のレベルが上がるごとに、時々無性に暴れたくなる……と言うか、何もかもを破壊して、ぶっ壊して、踏み潰し、焼き尽くし、何もかもを破滅の海に沈めてやりたくなる。
もしかして……いや、もしかしなくても、【魔王】の特性って、レベルが上がるごとにバーサク効果があるのか?
バーサク……いや、もっとやばい奴だコレ。破壊衝動を増加させられて、意識を問答無用で“魔王”に書き換える奴だな。
時々意識を引っ張られる感じがあるけど、今のところは自分でブレーキをかけられる。あ、そういう機能がある事を理解したら、微妙に魔王の力が怖くなったかも……まあ、俺が強くなるうえで必須の力だから、今まで通りに使うんですけどね。
ばっさばっさと悪魔を床に転がしながら、迷わず地下室に続く通路に向かう。なぜ地下室に向かうのかと問われれば、悪党は高い所か地下に行くのがお決まりだからだ。
今はアクティブセンサーが使えないが、前に使った時に見取り図は把握してる。我ながら記憶力良いな。まあ、魔王の名前は覚えらんないけど……。
悪魔を17匹ほどぶち転がしたところで、ようやく地下への階段に到着。
……階段の壁がやけにボロいな?
階段も急ごしらえの間に合わせっぽく、土が剥き出しになっている。
もしかしたら、教父爺がベリアルの支配下になった後に用意された場所なのかな?
上に逃げてるって可能性もチラッと頭を過ぎったが、こっちで正解だな、こりゃ。
【仮想体】の肩に乗って階段をトトッと降りると、地下室も土剥き出しの、急ごしらえの通路。
でも、こういう感じの方がダンジョン感があって、俺は好きだけどね。つっても、生き埋めにされたら洒落にならんし、少しは気を付けていこう。
そして正面―――光1つ無い真っ暗な通路を迷わず歩いている、ガタイの良い背中が見えた。
「ミャァっ!!!」
おいっ!!!
俺が鳴くと、前を歩いていた男が振り返る。
恰幅の良く、どこか旅の商人のように見える。
金の刺繍の入った白いローブを身に着けた―――教父爺。
俺の姿を―――黄金の鎧を纏う【仮想体】の姿を見るや、フッと嘲笑うように笑みを浮かべる。
「やはり貴様はここまで追って来たか。だが、予想より格段に早い。それに上に居た者達の気配も消えている。まさか、この短時間で全員倒してきたか」
うん。邪魔だったから。
「まったく、貴様だけが私の予想外だった。その力も、その存在その物もなっ!!」
言うや否や、教父の足が10cm程空中に浮きあがり、滑るように通路の奥へと飛んでいく。
「ミ、みゃぁあああ!」
あ、逃げんなや!
慌てて追いかけて【仮想体】がダッシュする。
「くくっ、着いてこられるならどうぞ。【サモン・デーモン】」
飛びながら、俺の方に視線を向けると、何か魔法らしき物を唱える。
途端に、通路を満たすほどの悪魔が大量に現れる。
悪魔を召喚した―――!?
一瞬“悪魔召喚”と言う単語に「かっけぇ……」と釣られそうになるが、何とか踏みとどまる。
それどころじゃねえ!
目の前にはウジャウジャと悪魔の波。
上等!!
そっちが悪魔の波だと言うのなら、コッチは刃の波だ!!
収集箱に戻していた武器を引っ張り出す。
ギチッとなる程の、大量の武器が現れる。
刃が津波のように悪魔たちに押し寄せる。
1cmの隙間もなく通路に敷き詰められた武器が、呼び出された悪魔たちを轢き潰す。突き刺さり、食い破り、一瞬でひき肉になった悪魔達が何かを叫ぶが、断末魔の声なんて一々聞いていられないので、聞かなかった事にする。
ヨシ、道が出来た。
今なお悪魔を轢き続ける、トラックの如き大量の武器たち。それを追いかけて通路を進んでいく。
教父爺が連続で悪魔を呼び出す魔法だか天術だかを唱えているらしく、雑魚悪魔を屠っても屠っても湧いて出てくる。
だが、こんな物俺の相手じゃねえし、足止めにすらなっていないし、目眩ましにもならない。ぶっちゃけ無駄。
俺の方に経験値がバリバリ入って来ている分、むしろマイナスなんじゃないかと思う。
『【魔王 Lv.27】
カテゴリー:特性
レアリティ:A
能力補正:魔力(効果特大)・筋力(効果大)・感覚器官(効果大)
付与スキル:【フィジカルブースト】【ダブルハート】
効果:魔法使用可
暗黒/深淵属性超強化
魔法使用時の詠唱、ディレイをキャンセル
魔法使用時の魔力消費10分の1
能力値限界突破
所持する様々な能力の経験値上昇』
ヤバイ、経験値がマジで美味すぎるぞ悪魔共。
冗談なしに、ベリアル生かして飼うか? そしたら無限に悪魔呼び出させて経験値稼ぎ放題じゃね?
もっとも、飼ってやるのは、野郎が俺に従順な態度をするのならだが。
それ以外なら、容赦なく―――ぶち殺す!
………おっと、また【魔王】の特性に精神引っ張られてたか。
2分程進むと、突然空間が開ける。
闇が濃いな……。
5m先を、闇に強い猫の目を以てしても見通せない。
こういう時には―――ペケペペン“魔道ランプ”だよ、の●太君。
はい、青い狸ごっこでしたっと。
【仮想体】に持たせたランプからパッと光が空間に走り、パアッと闇に包まれていた周囲を照らし出す。
まだ闇が濃いが、辛うじて壁が見えた。
無数のパイプが壁に絡む蔦のように走り、所々に魔道具らしき物がパイプに繋がれている。
そして、パイプの伸びる先―――部屋の奥には、全長8mはあるだろうか? 巨大な機械のような物が佇んでいた。
機械のような物には無数の魔道具が埋め込まれ、色んな所から不自然に刃が出て居たり、鎧の腕が飛び出して居たりする。
その姿はまるで―――捕食植物。
数多の命と武具やアイテムを食らって育って来た、巨大な植物。
「ようこそ……と歓迎するところかな?」
歓迎のファンファーレでも鳴らしてくれるんか?
まあ、大勢の悪魔から手厚い歓迎を受けたから、もうお腹一杯だけどな。
「ふふ、まったく、貴様は、本当に、本っ当に! “俺”をイラつかせる!!」
呼称変わってんぞ。
キャラ作りするならちゃんとやれ。芸能人張りにちゃんとやれ。
笑っている。
怒りと嘲笑で歪んだ笑み。
狂人の笑い―――悪魔の笑み。
「だが、だがッ!! それも、ここで終わりだ!! この俺の……ベリアル様の力をその身に刻んで死ねッ!!!」
阿呆が、誰に言ってやがる?
テメエこそ、猫の―――俺の魔王の力をその身に刻んで消え失せろや!
ドンッと同時に飛び出す。
迷いなく旭日の剣を抜く。
今度は入り口の時のような躊躇いはない。多分、【魔王】の特性に意識を引っ張られてるせいで、破壊衝動のブレーキが利かなくなってる。
それを自分でも意識してるのに、止まらない。止められない。止めたくない。
一瞬も、一欠けらも躊躇せず、教父爺に向かって抜きつけの一撃を放つ。
当たれば即死の速度とパワー……だったのに。
「はっはぁッ!!」
教父爺は右腕で当たり前のようにガードした。
チっ、今まで戦ってきた雑魚悪魔のように簡単にはいかねえか。




