7-24 闇に襲いかかる
俺が教父爺の話に割って入ったからか、それとも単純に教父爺がこの場から居なくなったからなのか、住民達に変化があった。
「あれ? ……ここで何を……?」「え? あれ? 食事の用意をしてたのに……」「なんだ、何が起こった!?」
3分の1程の住人が、亡者状態から立ち直って正気に戻った。
戻ったのがこの程度で良かった……とホッとする。
もし全員……いや、半分が元に戻って居たらパニックになって収拾がつかなくなってた。
「お、おい! どう言う事だよコレ!?」「何、何が起こったのよ!?」「教団の御方達と勇者が戦っている……!?」
あ、ダメだ。結局パニックにはなってる。
なんとかやっとこ住民の波を掻き分けていたアザリア達が、パニックの波に呑まれて身動きできなくなっている。
役立たず! と叫びそうになるのを何とか我慢する。
バカ言ってねえで、俺も【仮想体】の所に移動するべや。
【転移魔法】
さり気無く柱の影に転移して、しれっと【仮想体】の肩に乗る。
さってと、どうした物かしら? このままこの場に居る教団員をぶち殺す事は普通に出来るが、それをやると周りの住人達から、ただの人殺しに見えるやん?
やるなら、あくまで受動的にやるべきでしょう。七色教の皆様が攻撃してきたら、「あ、痛ーい」とか言って、正当防衛で反撃する感じで。
とか頭の中で勇者のイメージダウンにならないように計算していたら……
「師匠、に、続く、ます!!」
と言って、【空中機動】で飛んで来たバルトが、容赦なく右脇に居た黒いローブの教団員を刺し貫く。
って、おいぃぃぃい! バルトこの野郎、俺の勇者のイメージアップ計画が台無しだよぉ!!
「おっし! 3番乗り!」
言いながら、バルトに続いて空中から突っ込んで来たシルフさんが、バルトと逆の左脇の教団員の首を、恐ろしい程の鋭い機動で絶風の短剣で首をかっ切る。
ダメだ。
ダメだこの人達、今後の勇者の展開とか考えてねえ。……まあ、俺もそこまで深くは考えてないけど。だって、俺、勇者ちゃうし。
だが、予想だにしない方向に話が転がる。
「くっ、勇者共め! 闇の領域の中でもこれ程の力を発揮できるとは……だが、それもここまでよ!!」
教会の入り口に居た教団員達の体から、黒い靄が噴き出す。
おっと、これはぁ? 例のアレじゃない? 俺が狙ってた展開じゃないコレ?
毛が逆立つ程の“気持ち悪さ”が辺りに満ちる。
ぞわっとした、自分の体を虫が這いまわるような感覚。
教団員たちの体から噴き出した靄が、その体に纏わりつき、体を覆いながら靄が、実像に近い状態になる。
バサッとその姿を象徴する黒い翼が広がる。
――― 悪魔
信じていた教団員達が、黒き悪魔に変わり、住民たちが悲鳴をあげる。
コッチもバルト以外のメンツが顔を引き攣らせるが、辛うじて悲鳴もあげないし、逃げ出すこともない。良い胆力してんじゃねえかアザリア、とその仲間たち!
「いやぁあぁああああああ!」「あ、あ、悪魔ッ!!!?」「七色教の中に、あんな化け物たちが!?」「聖典の闇が、教会の中に居たのか!!?」
まあ、気持ちは分かる。
俺だって、絶対安全だと思っていた自室に見知らぬ親父や、大量のゴキブリが居たら、絶対に悲鳴をあげて扉を閉めて逃げ出す。
今の教団員達は悲鳴をあげて、未だに亡者状態の住民たちを突き飛ばすようにどかして街へと逃げ出す。
一方、突き飛ばされた住民たちが、衝撃でハッとなり正気に戻り出す。
やっぱ、支配力が落ちてんな? 軽く突き飛ばされたくらいで洗脳が解けてる。
「助けて!! 誰か助けてぇえ!!」「おい、邪魔だ! どけよ!!」
ダメだ、完全なパニックになった。
こりゃ、住民たちを宥めるより、悪魔たちを排除する方が早いか?
ぼんやりとそんな事を考えていると、横合いから悪魔の1匹が襲ってくる。
「剣の勇者!! 貴様さえ消えれば―――」
【仮想体】が、ヒュンッと動き、悪魔の頭を旭日の剣で刺し貫く。
「ぐぉ……ガッ……!?」
相手に反応を許さない、音速の踏み込み。
ドンッと踏み足から衝撃波が周囲に飛び、追撃を狙っていた悪魔たちを吹き飛ばす。
そして、頭を刺し貫かれた悪魔の体から靄が剥げ落ち、旭日の剣をただの人間に戻った頭から引き抜く。
あれ? 思ったより弱い。
いや、俺の方が能力的に強いってんじゃなくて、前に戦った悪魔よりも明らかに弱い。
有象無象、と言う言葉が頭に浮かんだ。
もしかして、前に戦った奴が特別強かっただけかしら? まあ、仲間への伝令を任されて、亀状態になってた教会から出て単独行動をさせてもらってた奴だし、特別な奴だったって事かな?
この程度の相手なら、アザリア達でも大丈夫だろう。コッチには戦闘力特化のバルトが居るし、立ち回りを心得てるシルフさんも居る。
アザリアの取り巻きの仲間たちも結構やり手揃いっぽいし、これならこの場は任せてしまって良いだろう。
……まあ、問題なのは、俺の目の前から微動だにしない双子だ。
双剣の勇者。
多分だけど……この双子は1人1人は多分シルフさんくらいの力しかない。でも、予感がする。この双子、多分2人揃ったら、戦闘力はここに居る悪魔なんて目じゃないくらい強くなる。
だとしたら、コイツの相手を任せられるのは、コッチには1人しか居ない。
「(バルト!! この双子の相手はお前に任せるぞ!!)」
「っ!! はい、任せる、られました!!」
バルトが戦っていた悪魔を蹴り飛ばし、【空中機動】で素早く空を泳いで俺の前に立つ。
素早い。
動きに迷いもない。
俺に敵を任されたのが嬉しいのか?
ま、良いや。
「(出来る限りは殺すな。ただし、お前自身が危ないと感じたら―――構わず殺せ!)」
「分かる、ました! 必ず、殺す、せずに、倒す、ます!!」
お人好しめ。
朝方に双子の話聞いて情が移ったな……。
本来師匠なら、「馬鹿野郎、この甘ちゃんが!」と叱るべき部分なんだろうが、お人好しなのはバルトの良いところであり、武器であると思っている。
コイツは、自分の為に強くなる俺とは違う。
バルトは、人を守る為に強くなれる男だから。
だから、多分、コイツはこのままで良い。
「(無理しねえ程度にな!)」
「はい!」
「(取り巻きの悪魔共の相手はアザリアと腹パン族に任せて、お前は双子に集中!)」
「分かる、ました!」
これでヨシ。外の事はものほんの勇者たちに任せてっと。
さぁって、偽物の勇者は、偽物らしく、偽物の教父爺を殴りに行きますかね。




