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7-23 闇は襲いかかる

 双子の双剣の勇者と別れた後、バルトはアザリア達にシルフさんを紹介する為に宿屋に2人で向かい、自由の身になった俺は目立つ黄金の鎧を引っ込めてヴァリィエンス教会の近くに居た。

 子猫の身1つ。

 侵入するだけなら行けるか?

 素知らぬ顔で入って行けば……いや、そう言えば教父には姿見せちゃったんだっけ……。魔眼を装備してる状態を見られてるから、十中八九教父は“子猫の俺”を警戒している。

 それを他の連中に伝えていたら、100%入って行ったらアウトだな。

 調子に乗って姿見せたのは失敗だったな。

 まあ、でも、魔眼で誤魔化しながら入れば行けるか。

 魔眼外しの能力や幻覚無効のスキルを持ってても、コッチには【夜の帳ナイトアウト】の天術があるから、コッチの幻視効果は無効には出来ない。

 

 うん、侵入する分には、特に問題は無いな。

 問題は、アクティブセンサーを使っても教会の中が見通せなくなっている事だ。前は見えたのに、今は中が見えない。

 アクティブセンサーの表示には、


『深い闇に覆われています』


 と出ている。

 既に教会内で何かが起こっているのか?

 教父爺が言ってた何か大がかりな計画が始まってるのか?

 突っ込んで行きたい気持ちは多大にあるが、それ以上に教会内から漂って来る“気持ち悪さ”が教会に踏み込む事を躊躇わせる。

 この気持ち悪さはアレだ。悪魔化した教団員と向き合った時と同じ奴だ。だが、その気持ち悪さが段違い。

 気を抜いたらゲボ吐きそうになるくらい強い気持ち悪さ。

 躊躇う。

 踏み込んで行けない自分に若干呆れながら、教会に変化が無いかと様子を眺めていたら



 暗闇に包まれた。



 なんだ!?

 敵から攻撃されたのかと思ったら違った。

 今まで雲1つ無い晴天だったのに、突然どす黒い厚い雲が集まって来て陽の光を追いやる。

 そして―――今まで教会の中だけだった気持ち悪さが、まるで蛇口を全開にしたかのように噴き出して街を―――その外に広がる草原を、森を、山を包み込む。

 アクティブセンサーがブラックアウトして何も情報が閲覧出来なくなる。

 う……ってか、マジで気持ち悪い。

 本気で1回ゲボ吐いた方が楽になる気がする。

 いや、でもゲボ吐くって恥ずかしくない? 例え猫でもゲボ吐くと息がゲボの臭いになって周りから即行でバレるじゃん? しかも子猫が吐いたと知ったら無駄に心配する人がいますし。

 しゃーない、我慢しよう。


 良く分からない決意を固めた時、街の異変に気付く。

 街の住人達が、フラフラと亡者のような足取りで教会に集まり出した。

 え? 何事? こんな時になんかの集会?

 いや、こんな異常事態だから神頼みって事かしら?

 ………冗談言ってる場合じゃねえか。

 あの足取りと虚ろな目。洗脳されてるのか? それとも意識を“持って行かれた”だけか?


 ともかく―――非常事態になったのは間違いない。

 これが教父爺の言っていた計画かどうかは知らない。だが、今すぐに動かなければならない事態になった事は間違いない。


 素早く【仮想体】を出して勇者装備一式を身に付けさせ、その肩に飛び乗って隠れていた裏路地から飛び出す。

 すると遠くから、


「兄様!」「剣の!」「師匠!」


 異常事態に慌てて、虚ろに歩く住民達の中を泳いで、その中心地であろう教会に向かって走って来る勇者3人とその仲間の皆様方。

 立ち止まって待つと、1分でなんとか合流。


「いったい何が!」

「(分かんねえ。けど、宜しく無い状況っぽい)」

「師匠、も、分からない、言ってます。でも、とても、危険、状況、だと」

「危険なのは、この空気で分かるっつうの」


 バルトの通訳に、シルフさんがまぜっかえす。

 まあ、そら、子猫の俺ですらこんなに気持ち悪いのだから、アザリア達は一層気持ち悪いだろう。

 それを押して、ここまで来たコイツ等を「流石本職勇者」と褒めてやりたい。


「ようこそ、勇者とそれに与する愚か者の諸君!」


 声だった。

 静かに語るような口調なのに、拡声器を使っているかのように街中に声が響く。

 教会の入り口を見ると、黒いローブを纏った教団員が10人以上並び、その前に教父爺と、若干虚ろな目をした双子が立っていた。


「教父! これは貴方がした事か!!」


 アザリアが叫ぶ。


「いかにも。闇の静けさの中でこそ人々は安らかに生き、そして死ぬ事が出来る」

「ふざけないで!! 住民達皆が亡者のように意識を奪われている、この有様が貴方の望みとでも!?」

「そうだ。闇に包まれた静寂なるこの街は、私の望み、私の求めし―――闇だ」

「だったら、その闇は私達勇者が晴らしてみせる!!」


 言うや否や、アザリアがローブの中から極光の杖を抜く。

 それに呼応するようにバルトが灯の槍に巻かれていた布を取り去って即座に構え、シルフさんが「やれやれ」と言うように絶風の短剣を抜いて、静かに、自然体で緩く構える。

 後ろに居た仲間達もそれぞれに剣や弓を構えて臨戦態勢に入る。


「出来る物なら、な。貴様等が戦うと言うのなら、今、ここに集まった人間共を殺す」

「なっ!?」「卑劣……!」「ま、そう言う展開だろうさ」

「貴様等は住民を見捨てられないのだろう? ここに居る住民達は何も関係無い、ただの一般人だ。それを見捨てられない。何故か? 貴様等が勇者だからだよ」

「くっ……」

「さあ、状況を理解できたなら、武器を―――」


 瞬間、黄金が空間を飛び越える。

 一瞬の出来事だった。

 肩に乗っていた俺がヒョイッと飛び降りるや否や、鎧と【仮想体】を収集箱に戻し、即座に教父の目の前に出す。

 疑似空間転移。

 教父のどてっ腹目掛けて、黄金の籠手に包まれた拳を振る。

 敢えて剣を抜かなかったのは双子の「お父さんを助けて」と言う真摯な言葉が頭を過ぎったからだ。


―――― 先手必勝!


 ようは、連中が住民に手出しする前にぶち転がせば問題無いって事じゃん!

 が、拳は届かなかった。

 拳の軌跡を塞ぐように、双剣を交差させて、それを抑える虚ろな目の双子。


「教父は」「やらせない」


 チッ、旭日の剣抜いてりゃ首取れたかもしれんのに……一瞬迷っちまった、クソ!

 教父爺を初撃でやれなかったのは失敗。

 だが、この展開は俺も想定済み。

 教父爺が慌てた様子も無く、


「では、後は宜しくお願いします」


 と言い残して、教会の中に入って行く。

 コレで良し。

 教父爺の相手は後だ。一先ずこの状況を何とかしないと話が始まらない。


「おのれ!」「忌まわしき太陽の剣の使い手!!」


 旭日の剣を太陽の剣と来たか。

 中々洒落た言い方するじゃねえの!


「兄様、何を!! 人質が殺されて―――」

「いや、あれが正解だ。俺達も突っ込むぞ!」


 静かな空間だから、アザリア達の声が良く聞こえる。

 俺に―――俺を囲む教団員に向かって、亡者のように動かない住人達を掻き分けて来る。

 バルトとシルフさんは【空中機動】で空飛んでるけど……。

 走りながらも会話を続ける勇者の方々。


「あれが正解ってどう言う意味です!」

「あの瞬間に動かなかったら、人質がコッチに対して有効だって証明しちまうだろうが! そうなったら手遅れだ! まあ、剣の奴だったら、人質が傷付けられる前に全員ブッ倒すくらいの気持ちだったのかもしれんけど……」

「在り得る。兄様なら有り得ます……」

「師匠、無茶、大好き、です、から」


 いや、そんな考えがあって突っ込んだ訳じゃないけども……。

 人質の住人を無傷で助け出せるなら、それに越した事は無い。

 人に被害を出さないってのは、元人間としての最低限の善性だ。

 だが―――俺は悪党だ。

 目的の為なら、善性だろうが理性だろうが、なんだって捨てる。

 俺は、そう言う人間だ。

 だから、あの瞬間に迷わず突っ込んで行った。……まあ、肝心なところで理性が働いて剣ではなく拳を振ってしまったが。



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