7-22 双子の話も聞く
突然俺達の前に現れた双子。
戦いに来た……訳ではなさそうだが……。
え? じゃあ、何しに来たのアンタ等? とか思って居ると、思わぬ事を告げられた。
「お父さんを」「助けて下さい」
……は?
アンタ等のお父さんが何処の誰かは知らんが、なんで俺等に言うのさ? 仮にも勇者なんだから、自分らで助けるって選択肢は無いんかいな?
「剣の、アイツ等の父親ってのは教父の事だよ」
えッ!?
何かしら教父と双子には関係が有るとは思ってたけど、親子だったのこの人等!? え? 何? じゃあこの人等、親子で七色教牛耳ってんの?
意味が分からんな……。
「師匠、事情、分かる、ません」
「(後でまとめて説明するから、ちょっと黙っといて)」
「はい……」
悪いなバルト、お前が挟まるとどうも緊張感が持続できねえんだわ。
で、教父を助けて欲しいってのはどう言う事でしょうか?
「剣の勇者が、どう言う事だって」
俺の心の声を代弁してくれる便利なシルフさん。
バルトでも出来るけど、一々声に出さないと伝わんねえからな。こう言う時にはシルフさんが居てくれてちょっと助かる。
「お父さんには」「上級悪魔が」「憑いてます」
上級悪魔!?
出た!! メタ●キングだ!!
……って、安易に喜んで良い話しじゃねえよ。上級って事は、昨日戦った悪魔の数段強い相手って事だ。下手すりゃ魔王クラス……その上を行く可能性だって有り得る。
やっぱり、経験値の話抜きにしても、俺しか教父爺の相手は出来ねえな。
他の奴が当たる前に、何とか俺が処理したいが……どうなるかな?
「じょ、上級悪魔!?」
シルフさんがむっさ驚いてる。
バルトの奴も、昨夜戦ったガチ悪魔の格段上の相手が敵の中に知って、若干顔色が悪くな……ってねえなコイツは。むしろケロッとした顔で冷や汗1つかいてない。
「コッチ、には、師匠、居ます。相手、誰、でも、関係、無い、です」
お前がケロッとしてんのは、俺への信頼からかよ……。
まあ、言われんでも俺がどうにかするだが。
「はい」「だから」「剣の勇者に」「頼みに来ました」「貴方しか」「上級悪魔」「べリアルは倒せない」
べリアル!
出たよ、大物の名前が。
ええっと、どんな悪魔でしたっけ……?
記憶の棚を引っ掻き回して情報を探し、何とか高校時代に読んだ“悪魔について”と言う中二病な本の内容に辿り着く。
確か、元天使で何やかんやしてる悪魔……だっけ?
ぶっちゃけその程度の知識しか無い。まあ、コッチの世界では、元の世界の知識何ぞどれ程当てになるか知らんけども。
「今の」「お父さんは」「悪魔に」「操られている」「だから」「解放して」「欲しい」「頼めるのは」「貴方しか居ない」
ジッと黄金の鎧を見る。
「貴方は」「お父さんの力」「【神の声】を跳ね退けた」「悪魔を倒す力と」「【神の声】を回避出来る力は」「べリアルと戦う為の」「最低限の条件」「それを両方」「持つのは」「「貴方しか居ないの」」
嘘偽りの無い、真摯な頼み。
言われんでも、その上級悪魔のべリアルたらはブチ転がす。
けど、言っているのはそう言う事ではないのだろう。
べリアルを倒したうえで、悪魔に憑かれている教父爺を助けてくれって話でしょ?
え? 無理じゃない?
昨日も一応助けようとはしてみたけど、結局何も思い付かずダメでしたし。
ただ倒すのと、“中身”を助けた上で倒すのは、意味がまったく違うし、難易度は跳ね上がる。
それをやれってか?
無茶言わんで欲しい、俺にだって出来る事と出来ない事がある。
1対1の殴り合いの切った張ったは得意分野だが、「人を護りながら戦え」とか「捕らわれた人を助け出して戦え」ってのは俺の分野から外れている。
「お願い」「します」
双子が頭を下げる。
下げられてもなぁ……。と思って居ると、双子が膝をついて頭を押さえて苦しみ出す。
「うぅぅ」「い、たい」
「お、おい! 大丈夫か!?」
シルフさんが慌てて手を出そうとするが、双子がそれを制する。
「触ら……」「ないで……」「私達も……」「【神の声】の……」「支配下……」「にある……から」「自我が」「保てるのは」「短い…時間」「だけ、なの……」
息苦しいのか、喘ぐように息を切らせながら喋る双子。
その様子から、どれ程の強制力が働いているのかは想像に容易い。
この双子は、その強制力を押し退けてでも、俺に助けを求めに来たってか……。
「剣の、ついでに槍の、離れよう」
グイッとシルフさんが黄金の籠手を引っ張る。
この双子を放っておくのか?
朝っぱらから、人通りが少ないとは言え、住民達が何事かと騒ぎ始めている。
バルトの奴も、苦しんでいる人を放って離れる事に若干嫌な顔をしているし……。お前はもう少しポーカーフェイスを身に付けろと言うツッコミは、今は腹の中に戻しておこう。
「ここに居ても何も出来ないだろ」
………悔しいがその通り。
魔法や天術外しの術式は持っているが、洗脳を解く事の出来るような便利な物は手持ちには無い。
そもそも、この双子を助ける為には、【神の声】の元である教父爺の方を何とかしないと意味が無い……っつう事情は、俺もバルトも理解している。
理解はしているが、人間としての善性が「逃げて良いのか?」と俺に問うている。
「双子をこの場で救う手立ては無い。このまま止まれば双子が襲って来る。そうなったら住民が巻き込まれるだろうが。その展開は、お前が1番嫌がる状況じゃないのか?」
……チッと猫のブツブツした口内で舌打ちする。
痛いところを突く。
別に、人間全部を救うつもりなんて毛頭ない。
だが、関係無い人間が巻き込まれる展開は、出来るだけ回避したい。これは俺の本音だ。
悪党だろうと、最低限の人間性や善性は有る。
「(バルト、行くぞ……)」
「はい……」
バルトも分かっている。
俺が離れると言った時点で、「俺にすら救えない」と理解して、素直に歩き出した【仮想体】とシルフさんに着いて来る。
「(落ち込むな。まだ何も終わってねえ)」
「はい……!」
苦しむ双子から離れながら今後を考える。
教父爺を本気で助け出したいのなら、あんまりノンビリ構えてられねえな? 教父爺を悪魔が憑依してんのか、それとも遠隔操作してるのかは知らないが、どちらにしたって長時間放置して良い事はないだろう。
何より【悪魔】の特性に書いてあった文言が俺を急かす。
備考:魂を食らうごとに能力値ボーナス
つまり、悪魔が強くなろうと思ったら、魂食っちまうのが手っとり早い。
教父爺の魂が無事かどうかは分からないが、少なくても娘の双子が助けを求めに来たって事は、まだ助かる可能性は有る……と思いたい。
スタスタと若干早足で歩きながら、シルフさんが口を開く。
「アイツ等、聞いた話しじゃ教父と血の繋がりは無いらしい」
突然の双子の身内話ターン?
もし仮に、助ける事が出来なくて殺す事になった時に気持ちが鈍るから止めて欲しいんだが……。
とか思いつつも話を遮る気にはならなかった。
「双子が小さい頃、住んでた村から捨てられて、魔物に襲われてたところを、偶然通りかかった教父が助けて、それで養子として引き取ったんだと」
……コッチの世界でも、子供を見放す親は居るらしい。
俺の世界だって、ネグレクトとか暴力で子を殺す親はニュースで散々見て来た。
けど、直接的に子を捨てる親ってのは、子に対する愛情を上回っている負の感情があるんだろうか?
子を持つ親の気持ちは分からないが、少なくてもそんな気持ちを分かりたいとは思わない。
っつー訳で、なんとか助けてやれるもんなら助けてやりたい。
時間はかけないに越した事は無い。
今日中に、仕掛けるタイミングがあったら、やるか。




