7-21 腹パン族の話を聞く
シルフさんの意識の表層を【妖精の耳】で読み取っても、嘘を言ってる感じはしない。
まあ、元々【妖精の耳】はこの人のスキルだし、もしかしたら本音は深層に隠してるのかもしんないけど……俺は人の事言えねえか。
でも、俺の元営業職の嘘を見抜く力で見た限りでは嘘を言って居ない……と思う。
それならそれで、この人コッチに引き込めねえかな? 悪魔の弱点が超神聖属性だから、神器持ちはいくら居たって困る事は無い。
って訳で。
おいこら、今後一切裏切らないと誓うなら返してやらん事もねえぞ。
「本当か!」
ただし、全面的に他の勇者に協力する事。
「はぁぁぁぁ? 面倒臭い」
じゃあ、返さねえ。
「えええぇ。んじゃ、俺からも条件。勇者に全面的に協力する代わりに、戦いの戦利品や探索で手に入れた道具の中に性別を変えられる魔道具や薬があったら、俺に優先的に使わせてくれ。それなら協力する」
まあ、ここはこの人の譲れねえ部分だろう。
その為に、居たくもねえ七色教に居て、魔道具を集めてたらしいし。
別にそれは渡しちゃっても良くない? 別に俺にも他の連中にも必要無いし。
ただ、あっさりそれが見つかった場合、この人がどう出るか分からない辺りが怖いんだよなぁ。
「分かった。それなら、もしそれが見つかっても協力は続ける。って事でどうだ?」
……アンタが味方で居る保証は?
俺は契約って物を絶対の物として働いて来た営業マンである。なんの担保も無しに信用する程お人好しではない。
「もし裏切ったらって? ……そうだな、そん時は俺の首を持って行って良いぜ? お前なら軽く狩れるだろ?」
………。
そう来ましたか。
担保は自分の命ってか。
確かに、俺なら、もし逃げられても即行で居場所を突き止められるし、この人が神器を持っていようが居まいが瞬殺出来る。
ああ、クソ、地味に交渉が上手い。
担保として命を差し出したのはアッチだが、それで折れなければならないのはコッチの方だ。
口八丁で負けるつもりはなかったが、過信してたな……クソ。
コッチの答えは、1つしか無い。
分かった、そんじゃあそれで。
「交渉成立だな」
小さくフフンっと笑う。
まあ、でも口の回る人間は1人くらいコッチに居た方が良い。
アザリアは正義馬鹿だし、バルトは馬鹿正直だし、2人共嘘とか騙しとか出来る性格じゃない。その点多少性格に難があって口が回る奴が居てくれるなら、俺も少しは“勇者組”に安心出来る。
それに、戦力としても期待できる。
流石に例の双子や教父には敵わなそうだが、機動力と俊敏性ならバルトを凌ぐ。あ、それと微妙に持久力もある。
関係無いけど飯も上手い。
ぶっちゃけ、信用度が低い事を除けば、この人は勇者として間違いなく優良株だ。
【仮想体】のマントの中にさり気無く風絶の短剣を出し、シルフさんに差し出す。
「どうも」
風絶の短剣を当たり前のように受け取る。
神器を普通に触れられる。知っていたが、この人ちゃんと勇者なんだよなぁ。
「それじゃ、他の勇者に挨拶でも―――」
とシルフさんの言葉の途中で、どてっ腹に拳がめり込む。
「ブヘぇ!」
地面を転がるシルフさんと……
「師匠、やる、ました! これで、腹パン族、大丈夫、です!」
うん、そうね。
その腹パン族が、恨みのこもった目でお前を見上げている事を除けば、色々完璧だったな、うん。
「おい……! なんで無防備な俺の腹を殴る!」
「腹パン族、さん、もう、大丈夫、です!」
バルトが邪気や悪意の一欠片も無い笑顔で手を差し出す。
一方突然腹パンされたシルフさんは、若干納得のいかない顔をしながら「腹パン族……?」とバルトの手を取る。
「ってか、お前はどこのどいつだ! そして何故に俺の腹を殴る!?」
「僕、バルト、言います。師匠……剣の勇者、様、の、弟子、です!」
「コイツがお前の弟子ぃ……まあ、良い動きしてたのは認めるけど……」
「それと、僕、槍の勇者、です!」
お、今度は堂々と言った。
やっぱり、悪魔憑きの教団員と戦ったのが、少しは自信に繋がったかな?
「槍の勇者……10年前に神器を奪われたから後継が居ないって言われてた勇者の1人か……。お前が魔王から取り戻した神器を渡したのか?」
と、中身空っぽの黄金の鎧を見る。
別に隠すべき事でもないので、素直に「うん」と頷かせる。
「まあ、勇者が増えるのは悪い事じゃないが……まさか半魔も勇者になれるとはな。これは流石に盲点だった」
「半魔……嫌、ですか?」
若干怯えたように訊くバルト。
今まで出会った皆が、きっと「半魔である」と言うただ1つの理由でバルトを忌み嫌って来た。
半魔である事をバルトが受け入れていると言っても、やはり人の目は怖いのだろう。そう言う気持ちは……差別排斥の流れを現代で散々見て来たから、少しは俺にも分かる。
「いや、別に。西の大陸だと、そこまで半魔に対して差別感情を魔族が刷り込んでねえし」
ああ、そっか。この人向こうの大陸の人だっけか。
まあ、考えて見れば半魔排斥の流れは、魔族が半魔の力が人間側になるのを恐れて作った物だしな? 西の大陸は最古の血が支配している大陸らしいし。あのアビスや同格の化物集団が半魔の力を恐れるなんて事は有り得ない。
そら、差別感情も植え付けられる事もねえわな。
「まあ、そんな事より同じ勇者だってんならコッチも名乗っておく」
「同じ?」
バルトが首を傾げてから、シルフさんの腰に下げられた短剣の神器に気付く。
「もしかして……!」
「短剣の勇者のシルフだ。名前は偽名だけどな?」
自分と同じ使命を帯びた勇者だと知ると、バルトの顔がパァっと明るくなって、思わずその手を握ってブンブンと振り回す。
「ああ、ハイハイ。分かった分かった……って、しつこい! いい加減手ぇ放せ! 腕振り回されて痛えんだよ!!」
バッとシルフさんがバルトの手を振り払う。
しかしバルトの嬉しさ爆発は収まらないらしく、もう1度腹パンしようと拳を構える。
「おいッ、ちょっ!? なんで腹パンの構えしてんだよ!? おい剣の勇者! 何だお前の弟子は! 嬉しくなると腹パンする変な奴じゃねえか!?」
すいません。
うちの子はそう言う風に育っちゃったんですよ。諦めて腹パン食らってやって下さい。
「ふざけんな!?」
ふざけてないです、本気です。
そんな、朝っぱらから街の中央通りの真ん中でワーキャー騒いでいる俺達に、誰かが近付いて来る。
最初に気付いたのは俺。
次にシルフさんが気付き、最後にバルトがその人物達に気付く。
同じ服装、同じ仕草、左右対称の髪型、そして―――2人で分け合うように腰に帯びた白と黒の双剣。
「双剣の勇者……!」
双剣の双子だった。
シルフさんが素早く腰の短剣に手をかける。この人は元々七色教に手を貸していたから、それを裏切ってコッチに来た事を知って始末しに来たとでも思ったのだろう。
しかし、武器を抜かせないように、【仮想体】が手で制する。
シルフさんが「何故止める」と視線で抗議して来る。そして双子が敵である事を知らないバルトは状況に置いてけぼり。
だが俺は特に戦闘行動に移るような事は無い。
相手から殺気を感じない。
前会った時にはピリピリと感じていた“嫌な感じ”を今は感じない。
「お願いが」「あって来ました」
なんだ?
教父爺の大掛かりな何かしようとしているけど、それを邪魔するなってんなら無理だ。
何しようとしてるのか知らんが、その何かが始まった前か後には、必ず俺が立ち塞がってぶち破る。
が、全然違った。
彼女達は敵としてお願いしに来たのではなかった。
「お父さんを」「助けて下さい」
双子は、消えそうな声で言った。




