7-18 休息日
殺した悪魔憑きの体を収集箱に放り込んで証拠隠滅し(地面の血は土ごと回収した)、【転移魔法】で「よいしょ」っと一瞬でグラムエンドまで戻る。
さってと、どうするかね?
アザリア達の所に戻るって選択肢はあるが、今戻るとアザリアに捕まる可能性大……と言うか確実に捕まる。
そして昨日の二の舞で着替えでバタバタしてから、慰める為に抱っこされて俺がニャンニャン言わされるって展開な訳よ……。
面倒臭。
どっか適当な所で寝るか。
いや、もういっそ、1回レティの所に戻るか? バルト探しに行く前にコッソリ出て来たから心配してるかもだし。
飯は適当に済ませば良いし。最悪屋敷のコック長の所に顔出せば、何かしらくれるし……あの髭のコック長も地味に猫好きなんだよな……。
ま、良いや。
んじゃ、改めて転移するか……っつか【転移魔法】1回分無駄にしたな。始めっからアッチに飛べば良かった。
「ミィ……」
ハァ……。
ともかく、転移でパッと行きましょう。
チンタラしてたらレティが寝ちまうかもだし。
はい、じゃあ、
【転移魔法】
視界が一瞬グニャッと歪む。
今まで見えていた視界と、転移する先の光景が混ざって……あ、ダメだ。やっぱり転移中のこの景色の解け合う“動く抽象絵画”みたいなのは慣れない……。
気持ち悪い光景がスッと通り過ぎ、気付けばツヴァルグ王国のジャハルの町にある、元王族の軟禁場所である屋敷の前だった。
ぁい、【全は一、一は全】解除。
プッはぁ、疲れた……。
やっぱり【全は一、一は全】は体力消費してんなコレ。それに、流石に【転移魔法】連発はMP消費がしんどいな……戦いで転移使う時には気を付けよう……。
とりあえず飯の前にレティに顔見せておくか。
トコトコと庭をグルッと回り、レティの部屋のバルコニーにヒョイッとジャンプする。……この高さを当たり前のように飛んでる俺は、完全に化け猫だと思うの……。
部屋の中を覗くと、誰も居なかった。
アレ? 留守?
【仮想体】に窓を開けさせて中に入るが、人の気配がしない。
何? 神隠しとかじゃないよね? オカルトは面倒見きれないよ俺。
ふと、そう言えばレティの言っていた事を思い出す。
そう言えば、そろそろ城に引っ越すって言ってたっけ。
あれ? もしかして引っ越し終わった後かしら? じゃあ、城の方に行かなきゃダメな奴?
これ以上移動するの面倒臭……。
もう良いや、今日の寝床はここで。
俺の寝床であるバスケットも、ベッドには毛布も枕も残っていないが……まあ、薄いマットが残ってるのがせめてもの救いか。
誰も居ないなら居ないで、起こされる心配も無いし、これはこれで俺好みの寝床だな。
つっても、腹が空いたままでは眠れん!
夕飯に収集箱から朝に食ったパンの残りやらの適当な物を、静かで暗い部屋の中で1人……1匹でモシャモシャと食う。
あまりにも味気ない食事に、前の世界で1人、部屋で食べていた食事を思い出して、少しだけ寂しさが込み上げて泣きそうになる。
ヒョイッとベッドに上り、いつもならレティが寝ているスペースに丸くなる。
お休み、俺。
目を閉じると、睡魔が襲って来てすぐに俺の意識は眠りの波に呑まれた。
* * *
「みゃぁあああ……」
ふぁあああ……。
良く寝た。
近頃は、まともな寝床じゃないとか、一緒に寝てる猫キチさんに起こされたりで快眠できなかったが、今日はグッスリ眠れて全快って感じ。
やっぱり猫は、孤独の方が生活しやすいって事かね?
……孤独に、ね……。
………猫に生まれ変わった俺は……誰にも関わらずに、孤独に死ね。そう、見えない何かが言っている気がした。
……そんなもん、知るか。
俺は生きたいように生きるだけだ。誰かに生き方を決められて堪るか。
「ミャっ」
うしっ。
気合い入れに鳴く。
気持ちを切り替えて行こう。下向きになった気持ちで居ても、良い事なんて1つも無い。
古人曰く「笑顔と元気があれば、大抵はなんとかなる」だ。
さてさて、早いところ戻らないと、教父爺が何するか分からんし、グラムエンドに戻りますかねっと。
……いや、折角コッチに戻って来たし、レティに顔ぐらい見せておくか。
まあ、のんびりはしてられねえけど。レティの事だから俺の心配してそうだし、顔見せるだけでも安心するだろう。
うっし、行くか。
いつまでも、誰も居ない屋敷に居てもしょうがねえし。
幸い、城へはガジェット倒す時に行った事あるから、転移でパッと行けっし。
【転移魔法】
視界がグニャっとするのは慣れないので、2秒程目を閉じる。
そろそろ良いかしら?
目を開けると、巨大な城の前で“お座り”していた。
はぁ~、改めて見るとでっかい城だわねぇ。この巨大な城を、一カ月で修繕したとは、この国の大工は優秀なのね。
正直、俺がガジェットをやり合ってボロボロの血染めにしてしまった謁見の間とか、どう言う風に直されたのか見に行きたいけど、子猫がそんな所に行くのは不自然なので止めておこう。
バカな事考えてないで行くか……。
チョコチョコと子猫らしい動きで……いや、子猫らしい動きっつか、俺としては普通に歩いてるんだけど……ともかく、そのチョコチョコ歩きで門を潜る。
門番達も子猫はスルーらしい。それとも、俺がレティと一緒に居るのを見た事ある人達だったのかな? それなら“姫様の猫”として素通りさせてくれても不思議じゃない。
さってさて、レティは何処かしらっと。
アクティブセンサー使って探す手も考えたが、アレって特性と特殊な装備品くらいしか閲覧できないから、レティかそうじゃないか確認できないんだよね。
直接歩いて探すしかねえなぁ……。
チョコチョコ歩いて城の中に入る。
怖い位止められないな? 城の警戒、こんな感じで良いのか? まあ、コッチは見た目ただの子猫だから無警戒なのか。
やっぱり子猫の姿は無敵だよなぁ。強いて言うなら、髭の土管工が星を取った感じ?
バカな事を考えながら歩いて居ると、廊下の先から嗅ぎ慣れた匂いが近付いて来た。
「ミ?」
チョコチョコと歩いてその匂いに近付くと、そこには殺し屋かと誤解されそうな程目つきの鋭いメイドさんが居た。
そして、その殺し屋のような目が俺を見下ろしている。
「剣の勇者の猫……」
“勇者”の単語を吐くのに、そんな嫌そうな顔せんでも……。
この人、本当に勇者嫌いだな。まあ、別に俺勇者じゃねえから関係無いけど。
とか思っていると、メイドさんがヒョイッと俺を両手で持ち上げる。
「ミィ?」
え? 何?
問い返しても通じる訳もなく、メイドさんは俺を両手で抱えたまま移動開始。
……行き先が肉の解体場じゃない事を祈る。
いや、冗談じゃ無くて……。
俺が戦々恐々している間に目的地に着いたらしく、コンコンッと扉をノックする。
「はい」
「姫様、例の子猫を見つけたので捕縛しました」
捕縛て……。
そんな「犯人捕まえました」みたいに言われても。
俺が心の中でツッコミを入れていると、部屋の中で何やらバタバタと動く音が聞こえて、バンっと勢い良く扉が開かれる。
レティだった。
まあ、そうなりますよね。
メイドさんは俺とレティが仲良し(?)なの知ってる人だし、そら見つかったらこうなりますわな。
解体場とか冗談だから、うん、本当本当、マジでマジで。
「ブラウン……!」
メイドさんに抱っこされている俺を、今にも泣きだしそうな潤んだ瞳で見つめる。
「(おう、ただい―――)」
言い終わる前に、メイドさんから手渡された俺を、レティが力一杯ギュゥっと抱きしめて来た。
「(ちょい、苦しいんだけど……)」
「勝手に居なくなったんですから、それくらい我慢して下さい」
それを言われると返す言葉も無い。
何より、ポロポロ泣いてる女の子に反論できる程、俺の女性経験値は高くない。
「もう、なんで一杯心配かけるんです!」
「(スイマセン……)」
でも今回も俺悪く無くね?
文句は全部七色教に言ってくれって事よ。バルトの所に行ったのも、そこからアザリア追いかけてグラムエンドに行き着いたのも、全部七色教がバカやってるからだ。
それで俺が責められるのおかしくない?
おかしいと思うので、この怒りは教父爺にでもぶつける事にしよう。




