7-13 槍の勇者は修業する
バルトと朝飯のパンを食い終わった後、残ったパンは収集箱に放り込み、起き出して来たアザリアの仲間連中と七色教会の戦力を探りに行くバルトを見送り、俺はアザリアに見つからないように適当に街をブラブラしつつ、街の様子を探り、いざという時の為に街の地形を覚えたり……まあ、そんな感じの事をやっていたら日が暮れた……。
結局、今日1日は俺の方に、敵に関する情報の収穫は無し……か。
俺の方で収穫が無かったって事は、アザリア連中の方も期待できねえなぁ。
アザリアに見つかると五月蠅そうだし、今日の報告会はスルーで。
となると、だ。
ちょっと暇になるな……?
先に夕飯食いに行くか? いや、でも、今の時間は混むしな。何か適当に時間潰してからにするか。
と、街のメインストリートから1本外れた通りを歩いて居ると……。
「師匠!」
バルトだった。
アイツは俺を見つけるセンサーでも搭載しとんのか……あ、精霊がそれなのか。
金鎧を纏った【仮想体】を振り向かせると、バルトが忠犬のように嬉しそうに、通りの大分遠い所から駆けて来た。
「(おお、バルト。護衛は終わったんか?)」
「はい、今日は、これ以上、やる、収穫無い、言う、ました」
となると、俺の予想通りアッチも情報収集は難航気味か……。
報告会はスルーして正解だったな。
ま、そこはともかく―――。
「(そんじゃあ、こっからは暇人か?)」
「はい、だから、師匠、一緒に、居よう、思いました」
「(良い判断。丁度良いや、今のうちに【空中機動】使った空中戦術とか教えてやるよ)」
「本当、ですか!?」
うぉ……バルトがむっさキラキラして目で見て来る。
まあ、コイツ結構修行好きらしいしな。
それに何より、俺が直接的に何か教えるのってコレが初めてだし。
師匠から修行つけて貰えるとなったら、そら、コイツは大喜びだろうさね。
こっからは、いつ【悪魔】の特性持ちとの戦闘になるか分からんし、バルトには出来るだけ強くなって貰わんとね?
そうすりゃ、アザリア達の護衛任せて、俺は気がねなく教父爺をぶん殴りに突っ込めるって寸法よ。
「(んじゃ、街の外行くか。流石に街中でバカスカやり合う訳にもいかんし)」
「はい!」
* * *
【空中機動】での空中戦は、結構慣れてないと難しい。
そもそも空中での立ち回りなんて普通ならする事がないからだ。
空中に足場が有ると言っても、それは足元だけだから、やはり地面での戦闘とは違う。
空ってのは、自由に動き回れるようで、動き方が分かってないと、むしろ動きづらくて足の置き場が結構狭くなる。
では空中戦で強くなるにはどうするか?
体と思考を空中戦に慣れさせるしかない。
って、訳で【空中機動】で空中を走るバルトに向かって、鉄の剣を連続で投射する。
俺の攻撃を見て、飛んでくる剣を迎撃するか、回避するか迷うバルト。
「(対空攻撃で一々慌てんな!! 無理なら1度地面に降りてたて直す!)」
「はい!」
言われた通りに地面に立って距離を取ろうとする。
無防備に降り過ぎだアホ。
【拘束術式】
バルトが地面に足をつけた途端に、その足に光の帯が伸びて来て地面に縛り付ける。
「あッ!?」
「(降りる時も、敵は狙って来るぞ。警戒怠んな)」
「はい!」
【拘束術式】を解いてバルトを自由にする。
改めて距離を取るのを見送る。
追撃かけても良いが、今はバルトに空中での立ち回りを教えるのが第一だからな。地面に足付けてる状態での殴り合いで倒しても意味無い。
若干息を切らせながら、バルトが空中に足場を作って空に上がる。
さてっと、そろそろバルトも慣れて来たし、もう1段階難易度上げるか。
バルトを追いかけるように俺も【空中機動】を使って空中に舞う。
「クッ!?」
バルトが慌てたように、迎撃に灯の槍を突きだすが、猫らしい素早くしなやかな体捌きでそれを避け、ナイフを投射してバルトの肩を狙う。
「……ッ!?」
槍を突きだした体勢から、無理矢理体を捻って飛んで来たナイフを避ける―――が、避け切れずに肩をかすめる。
その隙を狙い、息を止めて【アクセルブレス】発動。
スローになった世界の中で、【空中機動】で空中に足場を2つ作成。
一足、バルトの横に並ぶ。
二足、バルトの肩に乗る。
加速解除。
収集箱から取り出した鉄のナイフを咥えて、バルトの首に刃をピタリと当てる。
「―――ッッ!?」
バルトが少しの怯えと、今の高速軌道への尊敬の混じった瞳で俺を見る。
「負け……です」
咥えていたナイフを収集箱に引っ込めて、バルトの肩から降りて地面に立つ。
少し遅れて、ストンっと俺の隣に降りて来るバルト。
「(我流だからか、槍の扱いがまだ荒いな。槍のリーチは脅威だけど、避けられれば“戻し”が遅いから、間合いの内側に踏み込まれると反応が間に合ってねえ)」
「はい……」
「(それと、【空中機動】は連続で足場作ると、魔力消費がしんどくなって反応が遅くなるから、できるだけ足場の数は減らせ)」
まあ、俺のように魔力がアホ程あるのなら別だけど、普通の人間……あ、コイツは半魔か、ともかく、魔力が大分劣るバルト達には【空中機動】の連続使用は、そら、しんどいだろうさ。
「(まあ、でも、色々言ったが、筋は良いんじゃねえか? 防御面では難有りだけど、攻め手に回れば結構良い動きするし)」
「本当、ですか!!!?」
「(ああ、この調子で訓練続ければ、俺程じゃないけど、かなり強くなると思う)」
「やったぁ!!」
槍を掲げるように万歳する。
……いや、そんなに諸手を挙げて喜ぶ程の事かい……。
本当に純粋馬鹿だな……。こう言う姿を見ると、「ちゃんとコイツが半魔であっても幸せになれるようにしないとな」とか思ってしまう。
「(動き鈍って来たし、今日はここらで切り上げな)」
魔力無くなるまでやっても、体が重くなって気絶するのがオチだし。
「はい!」
良いお返事。
今日はちょっと良い飯食わせて、体力回復させてやるか。
何が良いかな? そう言えば、今朝は魚が食いたいって言ってたっけ。この時間なら、まだどの店も開いてるだろうし、探してみるかね。
「(おーっし、飯食いに―――)」
行こうぜ。
と続けようとした……のだが、上から何かが降って来た。
「(ん?)」
「何、です?」
降って来たのは人だった。
いや、降って来たんじゃなくて、降りて来たのか?
黒ローブに身を包み、宵闇に紛れるような姿。
そして、隙の無い身のこなし、かなりの高所からの落下だったっぽいのに、着地の衝撃を完全に殺して無傷。
アクティブセンサーを展開するまでもなく分かる。
【悪魔】の特性持ちだ。
……いや、でも、アイツ等は教会の中が引き籠ったんちゃうんか?
まあ、でも、出て来たって事は、何かしら理由があるんだろう。
それに、俺の―――剣の勇者の前に現れたって事は……ん? 黒ローブの様子がおかしい。
「やっべ、やっちまった!?」と言わんばかりに慌てた後、無言のまま街から離れるように走りだした。
うん? 何故逃げる? 俺に喧嘩売りに来たんじゃねえのか?
いや、ちょっと待て、さっきの慌て方は「会いたくない奴に遭ってしまった!?」みたいな感じじゃなかった?
……もしかして、街の外で何か行動を起こそうとしてる?
ま、なんにしても、ここで見逃す理由はねえやね。街の外なら、誰かに見られる心配も少ねえしな!!
「(バルト、今の奴追うぞ!!)」
「は、はい!!」
トンっと軽い踏み込み―――に見えただろう。だが、俺の身体能力値でのトンっは、普通の人間にとってのズドンッのレベルだ。
踏み込んだ地面が跳ね上がり、一気に体が加速する。
子猫の小さく軽い体が、超常的なパワーで前に前に押し出され、凄まじい加速力を生み出す。
「し、し、師匠!?」
「(遅れんなよ弟子! 良い所全部俺が持っていっちまうぞ!)」
「はい!」
バルトも俺に負けず劣らずの人間離れした肉体のバネで、たった2歩で加速して俺の後に続く。
さあって、逃がしゃしねえぞ!!




