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1-19 人間性は捨てません

 床板は思ったより簡単にはずれた。

 恐らく、先に通った人間が慌てていたせいで閉めが甘かったんだと思われる。っつか、俺が気付けたのもそのお陰だな。

 猫1匹分の隙間を通って地下階段を下りる。

 話声。

 男…3人かな? 声の野太い女が混じって無い限りは。


「急ぎの呼び出しってなんだよ?」

「魔族達がなんか忙しく動いてるし、暫くは集まるの止めるって話じゃなかったっけ?」

「すまない。だが、どうしても…な」


 声の聞こえる階段の中頃で止まり、下の部屋に【バードアイ】で視覚を飛ばす。

 部屋の中は蝋燭1本の微かな明かりしかなく、頼りない光がテーブルを囲む3人の男を照らしていた。

 がっしり体形の筋肉さんと、ヒョロッとした優男、そして狐みたいな細い目の若干ガキっぽいの。

 

「ってか、ユーリはどうしたのさ? 話し始めらんないじゃないか」


 狐目が優男に訊くと、暗がりでただでさえ悪い顔色が更に酷くなる。


「実は…2人を呼んだ理由はそれなんだ…」

「どう言う意味だ?」

「今朝方からユーリがどこにも居ないんだ」

「店の方にもか?」

「ああ。遅刻する事はあっても、無断で休んだ事なんて今までなかったから気になってな。夕方に家の方に行ってみたが人の気配がなかった」


 優男の説明を聞いて筋肉さんと狐目が黙る。

 ふむ……。

 横聞きする限りだと、そのユーリ? とか言う奴が行方不明って事?


「おい…まさか、ユーリの奴!?」

「ちょっ、この前の話し1人で実行しに行ったとかじゃないよね!?」

「それを心配して来て貰ったんだよ」


 再びの沈黙。

 だが空気の重さが10秒前とは桁違いなのは、階段に居る俺のところまで伝わってくる。

 何やら宜しくない話の流れらしい。


「まずいぞ……ただでさえ魔族屋敷への侵入は危険度が高いのに、今は何かあったらしくって警戒度が増してる。どんな方法で侵入するのかは知らないけど、絶対に捕まるぞ」

「ど、どうするのさ!? ユーリが捕まったら、俺達だってヤバいんじゃないの!?」

「落ち付けガル。まだユーリが行ったとは決まってない」

「ガルじゃないが、もしユーリが行ってた……そして捕まった時の心構えくらいはしておくべきだろう? その為に慌てて呼んだんだから」

「ふむ……まあ、そうだな」


 魔族屋敷ってのは、あれか? 荷物が運び込まれようとしてた所の事かな?

 その行方不明のユーリさんとやらが、あそこに侵入を試みて捕まって居るかもしれない…と。

 で、仲間が捕まったら仲間のこの人達も芋蔓で捕まるかもしれんから現在大慌て中って事か。

 ……薄々思ってたけど、こんな秘密の地下室でこっそり話してて、仲間が捕まるとヤバくなるって状況……この人達は魔族にとってあんまり宜しくない感じの人達っぽいな? 地下室を見回して見ると、壁際に武器や防具が一杯あるし……。

 ………あの武器防具、全部収集箱に入れたら結構なボーナス貰えるんじゃね…? いや、でも、それは流石に……完全に泥棒だしな…。まあ、魔族から荷をかっぱらってるから今更か。

 まあ、別に持ち出さなくても、収集箱に入れてボーナス貰うだけでも良いしな。

 俺が頭の中で獲らぬ狸の皮算用している間に、男達の話は続く。


「だが、ユーリはリベリオンズとしての覚悟を持っている。もし捕まったとしても、俺達の事を話したりはしないだろう。まあ、ユーリの働くこの店と、店主であるディールには何かしらして来るかもしれんがな?」

「その時は、知らぬ存ぜぬを決め込めば良いんですね?」

「ああ。ユーリが俺達に黙って行動を起こしていたと言うのならば、自分が切り捨てられる事も覚悟の上だろう」


 筋肉さんと優男の間で話が決まると、狐目が口を尖がらせて言う。


「じゃあ、もしユーリが捕まった…もしくは捕まってるとしても、俺達は助けに行かなくて良いって事?」

「そうなる」

「まあ、仕方無いでしょう。助けに行こうにも戦力が足りな過ぎます、口惜しいですが……。策を練ろうにも、魔族が目を光らせている現状では満足な準備も出来ませんし」


 3人揃って溜息を吐く。

 彼等もそのユーリとやらを見捨てたくはないが、魔族が強過ぎて手が出せないから泣く泣く諦める……って感じなのか。

 仲間を見捨てる事に関しても、強い者に逆らえない事も、俺は彼等を責めない。むしろ俺もそっち側の人間だから、大いに同意する。

 あんな角やら尻尾やらが生えてる上に、魔法をぶっ放す化物達を相手に戦うなんて正気じゃない。

 強い者には逆らわず、長い物には巻かれるのが庶民の処世術である。

 「仲間を助ける為に命を賭ける」そんな人間の善性や正義感を恰好良いと思うし、美しいとも思う。だが、それは、俺自身には出来ない行為だからこそそう思うってだけだ。

 要らん事に首を突っ込んで命を落とすなんて、俺は嫌だ。だったら、見ない振りして聞こえない振りして、騒ぎも争いも関わらずに生きて行く方を選ぶ。


「でも、ユーリの奴本当に行ったのかな?」

「どうでしょう……。明日の朝になったらケロッとした顔で帰って来た…なんて展開だと嬉しいんですけどね」

「そうだな。だが、ユーリの奴の神器に対する執着はかなりの物だった、やはり行っただろう」


 じんき? 何それ? 凄そうな名前だ……。きっとレアな奴だな! 具体的に何かは知らないけど…。


「どうする? 今からでも町を探しに行ってみる? もしかしたら、まだ間に合うかも」

「やめて置け。もうすぐ人通りが無くなる時間だ。そんな中走り回って居たら否が応でも魔族の目に止まる」


 筋肉さんに言われて、狐目が諦めたように項垂れる。


「ちっきしょう…! ユーリの馬鹿、魔族の運んでた物が神器だと決まった訳じゃないのに…」


 ……え? 魔族が運んで来た物?

 もしかしたら―――と思い、旭日の剣の詳細情報を閲覧してみる。


『【旭日の剣 Lv.382】

 カテゴリー:武器

 サイズ:中

 レアリティ:★★★★★

 属性:超神聖

 装備制限:特性・勇者

 付与術:審判の雷(ジャッジメントボルト)

 所持数:1/1

 第一神器。

 神が人類に与えたと言われる武具の1つ。

 装備効果として“天術の消費エネルギーを2分の1”“天術の効果プラス補正”を持つ』


 ………この人達が言う神器って、もしかしなくてもこれの事じゃね?

 え? え? って事は、ユーリって人は、もう既に俺が持ち出してしまった物を求めて、魔族の屋敷に侵入しに行っちゃったって事!?

 いや、いやいやいやいや、別に俺悪くないよね? 俺のせいじゃなくね? 不幸な擦れ違いじゃないですか?

 ………でも、あれだ…。魔族達が今現在警戒バリバリなのは、俺が盗み出したからな訳で…、もし捕まったのだとしたら、俺にも責任の一端があるんじゃないだろうか…?

 ああっ、クソ!

 階段を駆け上がる。

 面倒事に首を突っ込みたくない。関わらないで済むのならそれに越した事はない。だが、それは、俺自身とは関係ない所で起こった場合は、だ。

 俺自身が、事情の一部であるのなら、無視する訳には行かねーじゃねえか!

 今の俺は猫だ。

 だけど、中身はちゃんとした成人した大人の男なのだ。

 いい大人がこれを見て見ぬふりするなんて、人間として―――“元”人間として出来ねえだろうが!!

 猫になったって、最低限の人間性まで放棄するつもりはない!



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