7-10 槍の勇者と街を歩く
偵察が終わったので来た道を、警戒しつつトコトコと歩く。
さて……連中が亀作戦に切り替えたとすると、コッチから下手に突けねえな……。
だが、何かやろうとしている気配はビンビンに感じている。
後手に回る覚悟で、連中が何か仕掛けて来るのを待つか? 相当致命的な事でもされない限りは、俺の力尽くでどうにでもなるし。
正直、七色教がそこまで致命的な事を出来るとは思えないし。って事は、多分、何をされてもどうとでもなるって事だ。
とすると、暫くはコッチも静観かなぁ……。
教会に猫の身1つで侵入して、双子と教父爺をボコっても良いけど、後々考えると絶対面倒臭い展開になるしなぁ……。
『教父、暗殺される! 犯人は剣の勇者!』
なんて新聞の見出しになったら笑いごっちゃねえし。いや、コッチの世界に新聞なんて文化まだ無いけど……。
古人曰く、『悪い噂は良い噂より人の耳に入る』ってね。
人の口から口にそんな噂が広まったら、もう止めようが無い。
……まあ、誰にも気付かれないように教父爺を殺す手段は、正直手持ちにいくつかあるが、今回はそう言う話しじゃないし。
今回は見られなくても、街に複数の“勇者”が滞在しているのを連中が知っている。って事は、たとえ暗殺の瞬間を見られなくても、その後教会はこう言う訳だ。
「教父は、勇者達によって殺された」と。
言葉は嘘であろうが真実であろうが関係ない。ようは、疑いの目が俺達に向けられれば連中の勝ちになる。
ああ、面倒臭。
真正面から魔王と切った張ったしてた方が、正直楽だわ……。いや、やっぱり魔王の強さ考えたら、コッチのが楽かも……。
ま、ともかく……だ。
連中の動き待ちだと言うのなら、暫くはこの街で好き勝手やるか。
アッチが勝手に剣の勇者……っつか、俺の事を警戒してくれると言うのなら、姿見せてた方が効果的かな?
朝方で人通りが少ないのを良い事にサッと黄金の鎧を纏った【仮想体】を出し、その肩に飛び乗る。
こうして“剣の勇者”が姿を見せてるだけでも、教会の連中は見張られてると思って警戒して行動が小さくなるもんだ。
んじゃ、朝飯にするかね。……つっても、収集箱の中身を特に料理とかしないから味気ないもんだけど……。
適当に飯食う場所探すか。
と歩き出そうとしたら―――
「師匠!」
バルトが宿屋の方から駆けて来た。
まあ、来るのは予想していた。
さっき教会の前でアクティブセンサー使った時に、俺の位置を確認してた精霊が居たのは知ってるからな。
バルトなら精霊からの情報で俺を追っかけて来ると思った。
コイツ、微妙に忠犬属性持ってるからな。
「(おはようさん。昨日はよく眠れたか?)」
アザリアと違って、男連中は大部屋での雑魚寝だったからな。
他人と一緒の部屋だと眠れん! って人は結構多いと聞く。
バルトもそっちの人だったら、雑魚寝は結構しんどかっただろう。と言う俺の気遣いだ。
「はい、一杯、寝た、です」
あら、意外と平気な人だったか。
まあ、良く寝れたってんなら何よりだ。
「(他の連中は?)」
「まだ、寝る、です。杖の勇者、様、は、師匠、探して、宿、歩く、回る、して、ました」
「(そうかい)」
突然飛び出して来たから、流石にアザリアが心配してんのか……悪い事したな。
「杖の勇者、様、師匠、モフモフ、したい、言う、ました」
……あれ? これって心配か? アイツ、ただ単に俺の丸くてフワフワな体を味わいたいだけじゃない?
女の子に求められたら嬉しいけど、あの子若干猫キチ気味になってるから微妙に嫌だわ……。
「(まあ、良いや……バルト、朝飯食った?)」
「まだ、です」
流石にバルト一緒だとどこかで野飯って訳にもいかんか……。
しゃーない、どっか開いてる店探すか。幸い、魔王達から奪った金が一杯あるから、金に困る生活はしてないしな。
とりあえず、街の様子見ながら適当な店を探すか……と歩きだす。
「(バルトー、何食いてぇ?)」
「僕、魚、食べたい、です」
「(魚かぁ……ここは海から遠いし、あんま期待できねえな……)」
ちなみに、「期待出来ない」のは味の話では無く、コッチの世界の流通力だと、海から離れた場所まで鮮度維持して運べるのかって話。
ぶっちゃけ無理。
俺のように転移魔法や転移の道具でも使えれば別だろうが、そんな物其処等に転がってる訳無い。
って事は、流通は人の手で運ぶか、馬車か何かで運ぶしかない。
………それで、まともな魚介類が流通するわきゃねえ。
まあ、でも、川魚くらいなら、店で出してるところ在るんかねえ?
「(一応探してみるけど、あんま期待すんなよ? 後、魚扱ってる店無かったら、適当な店で手を打とうぜ)」
「はい、それ、良い、思う、ます」
バルトも納得してくれたみたいだし、そんな感じで行くか。
さあて、朝っぱらから勤勉に働く店を探しましょうかねっと。
暫くバルトを連れてトコトコと通りを歩く。
「(この街の感想は?)」
「とても、大きい、です。僕、今まで、大きい、街、来た、無いです」
まあ、お前さんは色々事情が複雑だからねぇ。
大きい街に入る程、面倒事が増えるだろうし………実際、擦れ違う街の人間が黄金の鎧を見てギョッとした後、その後ろを歩いて居るバルトの赤い目を見て、更にギョッとしてるし。
半魔への反応が、明らかに忌避感に溢れている。
まあ、どの街でも、クルガの町やアザリア達のような反応って訳にはいかんしな。
そのうち、半魔へのこの忌避感は消してやるつもりだけど、今はまだバルトに我慢して貰わねえとな。
ま、それはともかく……。
「(店、開いてねえなぁ)」
「朝、早い、です、から」
「(ですよねぇ~)」
大通りを歩いてみたが、飲食店が1つも開いて無い……。
辛うじてパン屋が開いて居たから、あそこで出来たてのパンでも買って、どっかで食べるか。猫ってパン食えたっけ……? まあ、【毒無効】のお陰で、何食っても死にゃしないんだけど。
「さっき、パン、店、開く、ました」
「(だな。あそこで手を打つか)」
「はい! 出来たて、暖かい、パン、美味しい、好き、です!」
「(そっか、朝一だからどのパンも出来たてなのか。それは良いな)」
こっちでも、パンはやっぱり俺の知ってるパンの様で、出来たてはフワフワで美味しい。まあ、流石に元の世界のパンと比べると若干……いや、かなり質が落ちるが、それでもやっぱり美味しい。
「(おーっし、じゃあパン屋行くか)」
「はい!」
「(今日は俺の驕りだから、好きなだけ食って良いぞ)」
「ありがとう、ます!」
まあ、パンばっかり食わすのは、栄養観点からどうなのかと思うが……。まあ、昼飯と夕飯でバランス取るって事で。
俺達がパン屋に引き返そうと振り返った時―――そこには、路地の中央に「ゼェゼェ」と息を切らせて仁王立ちする人物が居た。
ぶっちゃけ誰かは気付いている。
正直、見なかった事にして別の道に行きたい。
しかし、それは許されなかった。
何故なら、その仁王立ちした人物が、ビシッと俺―――【仮想体】を指差してロックオンしやがったからだ。
面倒臭……。
「見つけたぞ剣の勇者!!!」
相変わらず歌でも歌えば人気が出そうな声だなぁ。と若干無駄に現実逃避してみた。
バルトが俺の敵だと感じて、俺の前に立って布に巻かれたままの神器を背中から抜く。
いや……良いのよバルト、その人は。
「どれだけ、俺が探したと思ってる!!」
「師匠、僕、護ります!!」
「(ああ、良いから良いから)」
バルトを下がらせるや否や、目の前に立つ人物は鬼の形相で叫んだ。
「お前!!! 俺の神器返せよ!!」
クソなビッチの登場に、俺はうんざりして溜息を吐いた。




