7-7 宣戦布告
4人の【悪魔】の特性持ち、3人はサクッとブッ転がした。
最後の1人は、仲間がやられて俺を警戒したのか、近付いて来ない。
いや、むしろ近付いて来ないどころか、逃げ腰になっている。
よしよし。
黄金の兜が静かに動き、ギラリと4人目を睨みつける。
………まあ、実際は中身無いんで睨むもへったくれもないんですけどね。
ビクッと肩を震わせた途端、振り返って逃げ出す。
まあ、逃げますよね? そう言う風に仕向けてるのは俺ですけど。
黄金の鎧が「よっこいせ」っとその後を追う。
そして、鎧の後ろを【隠形】で気配と音を消して追いかける。
本気出せば2秒で追い付けるが、今回はそれが目的ではないので、程良く力を抜いて走る。
相手はコッチを撒きたいようなので、徐々に距離をあけて行く。
相手に気付かれないように、「……ああ、ダメだ。追い付けね」的な感じを醸し出す。上手く行ってるかは不明だが……近頃この手の演技が無駄に上手くなってるから、多分大丈夫だ。
10m程距離が空いた瞬間に、【仮想体】がわざと足を滑らしたような振りをして屋根から落ちる。
そして人目が無い事を確認してから、瞬時に鎧を丸ごと収集箱に戻す。
さて、こっからは猫の身1つでの追跡な訳だが、コッチの方が100倍楽だ。
相手は俺の事を撒いたと安心して居るのだろうが、残念。
お前が逃げる時に【追跡】の天術を引っかけてあるうえに、アクティブセンサーで常に追いかけているので、相手を見失う事は無い。
俺―――【仮想体】の姿が見えなくなっても不安なのか、街をグルっと周るように屋根を渡り歩き、チラチラと後ろを確認して来る。
……鬱陶しいな、早よホームに帰れや。
数分の相手の確認作業の後、ようやく安心したのかホームらしき場所に戻って行く。
街の中央にドデンッと鎮座しているヴァリィエンス教会とか言う、モンサ●ミッシェルみたいなデカイ建物。
男がノコノコと戻って行くのを音もなく着いて行く。
教会の前に誰か居る……?
夜の闇で暗くて視界の通りが悪いが、アクティブセンサーが誰か居る事を教えてくれる。
1人、2人……3人……か?
曖昧に答えたのは、最後の1人の詳細情報が閲覧できなかったからだ。
アクティブセンサーを持ってしても、本来なら見える筈の相手の特性すら見えない。
恐らく、コイツは教父爺だな。
黒いローブの男が屋根から降りて…………身軽な上に偉い身体能力の高さだな……やっぱりこれも【悪魔】の特性を持ってるからか?
まあ、ともかく、ヒラリッと屋根から降りた男は、周囲をやたらと警戒しながら教会の入り口辺りに立っていた3人に近付く。
おっと……ここからじゃ会話が聞こえねえ。
とは言え、ここから近付いて行くと流石に見つかる可能性があるか……? 魔眼で誤魔化しながら近付いても良いけど、バグの野郎みたいに相手の誰かが“幻惑無効”を持ってる可能性は捨て切れない。
仕方ない、パッと近付くか。
【転移魔法】
教会の入り口近くの柱の陰に転移で移動。
やっぱ【転移魔法】を好きに使えると行動が格段に楽だわね。魔王スキル本当に万歳。
「勇者はどうでしたか?」
この声、聞き覚えがある。
やっぱり“3人目”は教父爺だったか。
男はローブのフードを脱ぐと、バッと懺悔するように跪く。
「申し訳ございません! 監視中に剣の勇者に見つかり襲撃を受け、アグラ達3人が狩られました!」
「ふむ、そうですか」
声からは仲間が死んだ悲しみは感じない。
無感情な対応。自動音声でも聞いてる気分になる………。
あの爺……本当に人間か? それともアイツも【悪魔】側の奴か?
「同士が居なくなるのは、とても残念ですねぇ。それで、剣の勇者はどうしましたか?」
「は、はい! 追跡をされましたが、途中で撒いて来ました」
「君は、随分甘いですね」
「は? それは……どう言う……?」
不安そうに訊き返すと、教父爺が男に手を向ける。
「ヒッ……!? ど、どうか御許しを!!」
男が驚いて尻もちを突くが、そんな事はお構いなしに教父爺は天術を唱える。
「【術式除去】」
すると、尻餅を突いて居た男の体から黒い影が漏れ出て消える。
『対象に付与していた天術:【追跡】が除去されました』
『【術式除去】
カテゴリー:天術
属性:支援
威力:-
範囲:F』
チッ……解除されたか。
だが、どうせもう必要無いし、引き換えに【 術式解除】と同じ事の出来る天術が手に入ったから、俺としてはプラス。
……それはともかく……あの爺、俺の天術を当たり前みたいに、いとも容易く解除しやがった……。
コッチは中堅魔王クラスの魔力があんだぞ? それを簡単に解除するって事は、野郎の魔力はコッチに近いか……上って事だ。
こりゃぁ、舐めてかかると痛い目みるのは俺の方かも知れんわ……。
だが、先にその情報がとれたのはグッジョブ俺。
「【追跡】の天術ですか……撒かれたと思わせて、天術で追跡されましたね」
「は……ま、まさか勇者が……!?」
「それしか無いでしょうね。どうやら、勇者にコチラが繋がって居る事も、ここが私達の拠点である事もバレた……と思った方が良さそうだ。もっとも、この街に乗り込んで来た時点で剣の勇者は気付いて居たでしょうけどね」
教父爺が薄く笑う。
俺がそっちの情報握ってるのは、織り込み済みって訳かい。
そのニヤケ面ボコボコにしてやりたいが……底が分からない相手に挑む程、俺も物好きじゃない。
遭遇戦なら仕方ないけどね?
「しかし、これほど早く勇者達が揃うのは困りましたねえ。例の物の完成をもう少し急ぎましょうか」
「は、はい!」
「幸い、必要な物は揃いましたし、そろそろ最終段階です。コチラの方が、勇者の動きより早く決してしまえば良いのですよ」
朗らかに笑う。
………いや、笑って居るように見える。だが、細めている目は、どこを見ているのか分からず、暗い光を宿しているように見える。
この爺、何か大がかりな事をやろうとしてるのか?
もしかして、その為にビッチに魔道具を集めさせていた……のか?
そして、爺は既に条件を満たしていて、後は何か作ってる? っぽい何かが完成するのを待つばかり……って感じでええんかいのぅ?
……だとしたら、ちっとマズイな……。
相手が計画を完遂する前に、コッチが仕掛けなきゃ行けないって事でしょ? 相手の方が足が早かった場合、何か良く分かんないけど……ヤバい事になる気がする……。
アザリア達が渋るようなら、いっそ俺だけで仕掛けちまうか……。
いや、でも、出来れば今回は“勇者達が解決した”って感じにしたいんだよな。
「しかし、勇者達に邪魔されないように、警戒は続けましょう」
「は、はい!」
「今後は、ミスが無いようにお願いしますね?」
ゾワリとした寒気。
俺に言葉を向けられた訳ではないのに、無意識に毛が逆立って体が勝手に警戒心を全開にする。
この感じ……下手すりゃ魔王クラスかも……。
この爺、マジで何物だっての……。
「は、はい!! 今後は必ず……!!」
教会の中に戻って行こうとする連中の動きに合わせて、俺も柱の陰からスッと姿を見せる。
他の連中は子猫の俺の事なんて気にも留めずに教会に入って行ったが、何かを感じたのか教父爺だけがバッと俺の方向に向く。
――― 視線の交換。
空中で視線が質量を持ってぶつかったような感覚。
この場で喧嘩を売るつもりはない。勿論相手が仕掛けて来たらやり返すが。
だが―――「テメェ、絶対ブッ潰してやるからな」と意思を込める。
「魔眼の右目……剣の勇者の猫ですか」
おっと……そう言えば【全は一、一は全】発動中は魔眼全部装備した状態になるんだった。
「なるほど、小さな密偵と言う訳ですか」
あん? やるんやったら、やったるぞコラ。
相手の情報が少ないが、今の俺のスペックなら猫の身1つでも負けない自信がある。
俺が若干構えるが、教父爺は向かって来る事なく、静かに告げる。
「では、剣の勇者に伝えて貰えますか? 『貴様の出る幕は無い』とね」
「ミィ」
うるせぇ。
それを決めるのはテメェじゃなくて、俺自身だろうが。
それで猫に興味を無くしたのか、視線を切って教会の中に入って行く。
教父爺……俺の予想以上にヤバいかもしれねえな。
やっぱり野郎に勝てるのは、コッチの戦力じゃ多分俺しか居ない。
野郎……ぜってぇにブッ潰してやる。
俺は音もなくアザリアの眠る宿屋へ駆け出した。




