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7-5 猫は師匠である

 そして、アザリアの手から脱出出来ずにグラムエンドの宿の1つ、“銀の杯亭”の一室。

 夜も更けて、人通りが少なくなってバニッジさんを始めとした面々と、護衛につけたバルトが戻って来た。

 戻るなりアザリアの座っていた前の座り、ゼェゼェと息を吐きながら話し始める。


「お嬢、まずいかもしれん! 七色教の連中、もしかしたら俺達が街に入った事に気付いてる可能性がある!」


 可能性が有るどころか、完全にアウトだろ。

 だが、まあ、危険性を共通認識出来たのは良かったかな。


「本当ですか!?」

「ああ! 俺達の後を七色教の奴に後をつけられた。まあ、途中で撒いてやったけど」


 いや、多分撒けてねえよ。

 窓の外から、微かに視線が飛んでくる気配がするし。

 今も見張られてんな? 寝静まったら、アザリア達に気付かれないように始末しておくか? “勇者の見張り”なら、倒してしまってもそこまでアッチの連中も騒がねえだろうし。

 ……いや、待てよ? 連中が勇者に気付いてんなら、適当に(つつ)いて敢えて逃げさせても良いかも。

 それで連中が警戒を強めてコッチに手を出さなくなるなら俺1人で侵入して事を終わらせられる。もし仮に自棄になって俺達を襲いに来るのなら、その姿を街の人間に見せて七色教の信仰にひびを入れる事が出来る。

 どっちに転んでも面白い展開だ。


「それと、街の連中は近頃の七色教に何か疑問を持ってるっぽいな? 信じているけど、前のような敬虔な信徒では居られない……みたいな感じかな?」


 おっと、これは良い知らせ。

 俺等が何かしなくても、七色教の在り方に信者達が疑問を感じているってのは、七色教を壊滅に追い込みたい俺としては好都合。


「それと、七色教に大分ガラの悪い連中が集まってるって」

「では、もし七色教に踏み込むなら、戦闘は避けられない……と?」

「だろうな……」


 痛いほどの沈黙―――。

 七色教と事を構える覚悟は決めていても、実際に殴り合いをするとなればまた別の覚悟が必要になる。

 後々気付いて、こんな空気になられても困るし、あの事は先に言っておくか。


「(バルトー。七色教の中に悪魔が混じってるって皆に伝えて)」

「はい、師匠!」

「なんですか急に……」

「師匠、言う、ます。七色教、中、悪魔、潜む、ます」

「悪魔!?」

「悪魔ですって!?」「悪魔だと!?」


 皆が一杯驚く。

 まあ、神聖な教会に悪魔が居るなんて、そらビビるだろう。

 俺は教会やら宗教にそこまでドップリな人間じゃないから分からんが、アザリア達は少なからず七色教の信仰者だったらしいからなぁ。

 そんな事情を皆を待っている間に愚痴っぽく聞かされたが、自分の信仰する宗教に立ち向かうってのは、どう言う気分と覚悟が居るのやら……。


「……これは、まずいですね……」

「だな……。悪魔と言えば、下級1匹で魔族の1部隊と同等と言われてるんだぞ……それが七色教の中に居るなんて……」

「ど、ど、ど、どうするのお嬢? あ、あ、悪魔が居るのにこの戦力でどうにかなるの? 一旦引き返す? 仲間呼んでくる?」


 凄い焦りよう……。

 でも、そうか。

 悪魔ってこの世界じゃ、魔族の上を行く最上位存在なのかも。

 まあ、でも、魔族の1部隊と同等って事は、魔王と比べれば格段に格下って事だ。俺がビビるような相手じゃない。

 多分、フェンリルとかクリムゾンジャイアントとか、その辺りの上位魔物よりも能力は下なんじゃねえかな……? まあ、実際に一当てしてみないと、何とも言えんけど。

 やっぱ今夜、見張りの奴に引っかけて見るか? 相手が悪魔ならその力を体感出来るかもしれないし。

 俺が脳裏で色々考えていると、俺を抱くアザリアの手にギュッと少し力がこもる。


「いえ、このまま続行しましょう。今回は幸いにも兄様が居ますし、新しい勇者も1人居る事ですし」


 とバルトを見る。

 その視線を追いかけて皆がバルトに期待の視線を向ける。

 それがくすぐったいのか、それとも嬉しいのか軽くはにかむように笑う。


「そう言えば兄様は街の外のままでしたっけ……後で何か美味しい物でも持って行きましょう」


 いや、良い。

 対応が面倒臭いから。

 ……まあ、美味しい物は食べたいけど。

 こう言う時にはバルトを伝言役に使うのだ!!


「(ヘイ、バルト!)」


 若干アメリキャンなノリで言ってみた。

 ……ええ、そうですよ? 意味なんて欠片も有りませんけど何か?


「はい、師匠!」


 急に喋り出したバルトにビックリする面々。まあ、実際は“急に”じゃなくて、俺の「ミィミィ」鳴いてる声に反応してんだけどね、普通の人には分からんわ。


「(俺―――ってか、「剣の勇者の事を放って置いて良い」って、皆に伝えて)」

「はい! 師匠、放って置く、で、良い、言ってます」

「………兄様、どっかで私達の会話聞いてるんじゃないですか……」


 鋭い。

 そしてバルトは脂汗流すな! 不必要に視線を逸らすな! そしてソワソワすな!! 不自然に口笛吹くな!

 コイツの辞書には“上手く誤魔化す”と言う言葉は無いらしい。

 それにしたって、もうちょっと誤魔化し方あるじゃん? 小学生だってもうちょっと上手く誤魔化すって………この馬鹿正直野郎。

 説教案件に1つ追加しておく。


「流石にそれはねえだろう。たまたま弟子に念話するタイミングが重なっただけだろ?」


 よし、良い流れ。


「……まあ、聞かれて困る話もしてないですし、どっちでも良いんですけどね?」


 あ、良かった。良い感じに流れてくれたわ。

 よしよし、変な噂流されたら困りますからね。

 こちとら、品行方正に生きてますから。え? 何? なんか文句あんの? 品行方正は品行方正だよ。


「どうせ兄様の事ですから、今も何か裏で動いてるんでしょうし、それを邪魔するなって事でしょう」

「なるほど」「在り得る」「うん、有り得る!」


 ……すいません、アンタ様の手の中でぬくぬくしてて、一切今日は行動らしい事何もしてないです……。

 そしてバルトの脂汗が偉い事になってる……。

 どんだけ誤魔化すの下手クソか!?


「ともかく―――」


 アザリアが話を戻す合図のように軽くコンッと机を叩く。


「相手に悪魔が居る事を知れたのは、コチラにとっての利です」


 仲間達が「それは間違いない」と頷く。


「問題は、敵の戦力がどれ程か、と言う点です。コチラには兄様と槍の勇者のバルトさんが居ますが、相手の戦力がコチラを上回っている可能性は十分にあり得ます」


 神妙な顔で皆がもう一度頷く。

 心配しなくても、下級の悪魔が何十匹居ようが関係ねえけどな?

 まあ、でも、下級が魔族1部隊って事は、中級や上級レベルになれば魔王クラスになる可能性は十分に有り得る。

 流石に俺も、魔王レベルが数十人とか居たら手が出ない。


「ですから、敵の戦力を計る事が重要です。ですから、明日からは七色教の中の戦力調査を優先して行きましょう」

「はい!」「お任せを!」「任しといてお嬢!」

「ああ、バルトさん、貴方は兄様の指示で動いてるようですから自由にして貰って構いません」


 とは言われても、調査は俺自身が勝手にやるので、ぶっちゃけバルトの出番は無い。

 っつう訳で。


「(バルト、お前は調査に出る人達の護衛につけ。やる事は今日と同じ、危なくなったら神器抜いてでも皆を護れ)」

「はい、師匠!」

「……なんですか? 兄様が何か言ったんですか?」

「師匠、皆、護れ、言いました。僕、皆、護衛、付きます!」

「兄様の調査は良いのかしら……? まあ、貴方が護衛に付いてくれるのはありがたいですけど、良いんですか?」

「はい! 師匠、言う、絶対、です!」


 絶対って言われるとアレだけども……。

 これも俺への信頼って事かな……?

 はぁ……師匠って、何のかんの言っても弟子の事考えなきゃ行けないんだな……。

 行きがかりでなった師匠だけど、ちゃんと弟子を導けるのか心配になって来たわ。



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