7-3 猫は七色教に喧嘩を売ろうとする
とりあえず、網走教会から離れ、トコトコと皆でグラムエンド? とか言う場所に向かうのだが……結局そこって何?
村とか町なの?
それとも、七色教の“御膝元”って言うくらいだから教会か何かかしら?
まあ、何にしても敵の懐だって事には変わりない。
………ぶっちゃけ面倒臭……。
アザリア達は、まだ教会の連中に気付かれてないと思っているらしいが、多分とっくの昔に教会を見張ってたのはバレてる……。
って事は、七色教関係の場所には既にその情報が届けられてる可能性が大な訳で、そんな場所に近付くのは危ない。
いや、別に危なく無いけど。
アザリアを始めとした面々は危ないじゃん、って話よ。
それ誰が護るの? 俺じゃん。
……はぁ……やっぱ俺、単独行動の方が性に合ってるわ。
俺としては、双剣の双子と教父爺さえはっ倒せれば文句は無いんだが……アザリア達は、「勇者に喧嘩売るってんなら買ったるぞオルァ!!」くらいの気合が入っている。
この機会に、教会の中の“膿”を徹底的に排除する気らしい。
正直、下手に突かない方が良くない? と俺は思っている。
なんたって、連中の中には“悪魔”が混じっている。
今のところ、俺が警戒しなければならない程の奴は見ていないが、隠れている怪物が居る可能性は捨て切れないし。
とか、色々考えているうちに町が見えて来た。
大きい街だな……。
街の中心に巨大な教会らしき建物が在る。網走教会とは比べ物にならない程大きく、立派な教会。
なるほど、アレが多分七色教の総本山か。それで“御膝元”って訳ね。
「あそこがグラムエンドです」
帝国領に侵入した時に通ったかもしれないが、ぶっちゃけビッチとの合流に急いでいたからスルーしたな。
……なんだろう? 街全体が“嫌な感じ”。
俺の中に搭載された猫としての危険感知と、【魔王】のセンスが同時に「警戒しろ」と言っている。
アザリアの手の中で、思わず全身の毛がザワッと動く。
「猫にゃん? どうしたの? 寒いの?」
「ミャァ」
違う。警戒しろつってんの。
しかし、俺の言葉を無視して(そもそも伝わって無い)、アザリアは猫をモソモソと懐に仕舞う。
いや、ええ、まあ、暖かいのは有り難いんですけどね? 大人の男としては、やっぱり少女の体温で暖をとるのは色々まずいんと思うんですよぉ。
まぁ、ともかく、注意喚起だけはしておくか、一応大人の責任として。
「(バルト、あの街なんか変だから気を付けろ)」
「はい、精霊、怯える、ます。あの、街、とても、嫌、です」
バルトの顔が青い。コイツには、俺が一々忠告する必要もなかったな?
流石……精霊憑きは羨ましくなる程感覚が鋭い。
精霊が一緒に居る時のバルトの能力は、多分現勇者の中じゃ最強だ。
元々半魔なお陰で身体能力が普通の人間を上回り、その上実直で真面目に槍の訓練をしていたらしく、我流の素人術ではあるが、時折見せるキラリと光る原石のような動きは侮れない。
それに、魔法と天術だけでなく、魔力消費はおろか、詠唱もディレイも必要としない精霊魔法を使えるって点も大きい。
俺や、他の魔王は、特性の効果やら【収集家】のお陰で詠唱もディレイもキャンセル出来るが、普通の奴が相手だったら詐欺臭い程のアドバンテージだ。
もし双剣の双子と教父同時に相手する事になったら、双子はコイツに任せても良いかもしれない。
まだまだ色んな面で未熟さが目立つが、戦闘力って点ならそれなりに信用出来る。
……まあ、流石に俺クラスの敵がもし居たら秒殺されるだろうけども……。
「なんですか急に?」
とアザリア。
……まあ、俺の声が聞こえない奴等には、唐突にバルトが喋り始めたようにしか見えねえからなぁ。
「師匠、と、話、しました」
師匠と聞いて、皆の視線がアザリアの隣を無言で歩く黄金の鎧に向く。
……そんなに見られても、何も出ませんけども。
「兄様が話しているんですか!?」
「え……? はい、師匠、と、話、します」
………バルトがポロっと猫の事を話さないかとビクビクするわ……。
悪気なく喋りそうな危険な感じがあるからなぁ。後でもう1度釘刺しとくか……まあ、それでバルトが変わるかどうかと言われると、多分変わんないけど……。
「……兄様、私には何も言ってくれないのに……羨ましい……弟子だからですか?」
違う。
お前が猫語を理解してないからだ。
と、アザリアの服の中で抱っこされながらツッコミを入れる俺。
「それで、兄様は何と?」
「あの、街、とても、嫌、感じ、警戒、しなさい、と、師匠、言う、ます」
「嫌な感じ?」
アザリア達が、足を止めて改めてグラムエンドとか言う街を見る。
まじまじと見る。
穴が開く程見る。
【仮想体】とバルトに聞こえないように、コソッと話す。
「何か、感じますか?」
「……いや、特に何も」「正直、剣と槍の気のせいじゃないかと……」「いや、でも剣の勇者が警戒しろって言ってんのよ?」「そうだな、多分本当に何かあるんだろう」
「では、皆警戒を怠らない……と言う事で」
コソコソ話するのは良いけど、アザリアの服の中に居る俺には丸聞こえやからな?
まあ、聞いたところで何かある訳じゃないが……。
にしても、そうか。あれだけ“嫌な感じ”をしていても、勇者とは言え一皮剥けば一般人とそう変わらないアザリアだと分かんねえのか。
こりゃぁ、あの街の中では、あんまりアザリア達から目を離さない方が良さそうな予感……。
教会の連中には能力不明の【悪魔】の特性持ちが混ざっている。
俺の感覚では、流石に魔王級とまではいかないが、並みの魔族よりも能力は上だと思う。
あの連中1匹2匹くらいならアザリアなら勝てるだろうけど、束になってかかられたら流石にヤバいだろう。
……別れて行動する時は、バルトの奴を護衛につけるか。
ともかく、あの街に双子と教父爺が居るのは確認しとく必要がある。
居るなら居るで、何か騒ぎが起こる前にカチコミかけて仕留めてしまいたいし、双子の方は、もし教父爺の洗脳下にあるのならさっさと助け出したい。
あと、ついでにビッチが居たら腹パンする。
「そうですね、行くのは七色教の総本山……ヴァリィエンス教会のある街ですから、警戒するには越した事はないですね。それでなくても七色教と私達勇者は仲が悪いですから」
え? そうなの?
勇者と七色教って仲悪いの? 俺が教会1つ爆破して逃げたからとか、そう言うの関係無く?
だとしたら、もしかして俺が七色教に捕らわれたのは、その辺りの事情かしら?
……いや、でも、俺を仲間に引き込もうとしてたよな? だったら、俺が捕まったのは、勇者と七色教の中の悪さとは関係ねえのか……まあ、監禁されてた時の、あの扱いの悪さに関してはその辺りの事情が絡んでそうだけども。
ま、どっちでも良いや。
喧嘩を売って来るってんなら、喜んで買ってやる。
悪いけど、元営業職としては、その喧嘩を高く売りつけられるつもりはない。全力で格安で買い叩いてやるよ。
勇者の肩書にダメージが無い形で、七色教を壊滅まで追い込み、事件後に信者共が騒げない程の正当性を持たせる。
言うところの完全勝利が目標。
あ、ヤベッ、久方ぶりに営業職で鍛えられた腕が疼くわ!




