7-1 猫は杖の勇者を発見する
はい、皆様こんにちは。
毎回子猫から代わり映えしない俺です。
現在、網走? 教会とか言う、例の俺が捕まっていた教会の近くまで来ております。
なんでこんな場所に居るかっつーと、アレだよ、うん、本当アレだよ。
俺一切関係無いのに、他人が要らん事して、その尻拭いが俺の所に回って来る奴だよ。
っつう訳で、アザリア達が七色教の……あの網走教会に喧嘩売りに行こうとしているって話をユーリさんから聞き、「しょんねーなぁ……」とピカピカの勇者1年生のバルトを連れて、【転移魔法】でここまでやって来た訳です、はい。
「師匠、ここ、杖の勇者、居る、ですか?」
「(多分な)」
多分、と一応言葉を濁したが、アザリアが居るのは知っている。
【転移魔法】を使う時に魔王スキルの【全は一、一は全】を発動していたから、コッチに着いた瞬間にアクティブセンサーが勝手に周囲の情報を取得して、頭の中に強制的に捻じ込んで来た。
その情報の中に、近くに“勇者”の特性を持っていて、極光の杖を持ち歩いている人物がいた。
……まぁ、どう考えてもアザリアだよね。
今は【全は一、一は全】のスイッチ切ってるけど、居場所は覚えている。
俺は金色の鎧の肩に乗り、その少し後ろをバルトが歩く。
「師匠、なんで、鎧、動かす、ですか?」
まあ、バルトにしてみれば、自分の肩に乗ってた方が、何か“良い感じ”なんだろう。とは言え、俺も俺でアザリアに会うには“黄金の勇者”しなきゃならない理由も有りますし。
このままアザリア達に網走教会に踏み込まれると、色々面倒臭い事になる。
と言う訳で、アザリア達が七色教に喧嘩を売る理由である剣の勇者にご登場願うって訳よ。
5分程トコトコ歩くと、木陰に隠れている黒いローブ達を発見。
……どうでも良いけど、闇夜でもなけりゃ、その黒いローブ逆に目立たない?
耳を澄ますと、何やらコソコソと話しているようで、バルトに「シーッ」と黄金の鎧が合図をして、バルトが口を片手で押さえて黙る。
「ですから、正面から行けば良いんですって!」
「ちょっ、お嬢本当に落ち着いて」「そうだよ、正面突破は流石に無理があるって」「違うでしょ! 無理とか言う話じゃなくて、七色教に喧嘩を売るのはマズイって話でしょうが!」
「大丈夫です! 私勇者ですし、猫にゃんを助け出すだけですから!」
「それがダメだつってんでしょうが!! 猫絡むとどんだけ脳味噌がポンコツになるんですか!?」
何やら揉めているらしい。
わざわざ【隠形】で俺とバルトの気配と音を消し、そっとその輪の中に加わる。
しかし、議論に熱が入っているのか誰も気付かない。
バルトはともかく、俺……ってか【仮想体】はこんなに目立つ恰好してんのに……。
「と、とにかく、1度教会の方に話し合いの場を設けるように言ってみましょう?」
「で、でも……その間に猫にゃんが死んじゃったら……」
「大丈夫だってお嬢! あの猫は剣の勇者と一緒に旅してるんだぜ? きっと普通の猫よりずっと頑丈だし、そう簡単には死なないって」
「そんな事分からないじゃないですか!! 今も牢屋の片隅で私の事を呼んでるかもしれないじゃないですか!!!」
いや、呼ばねえよ。
例え限界ギリギリの状況になったとしても、アザリアを呼ぶ事は絶対ねえよ。
俺の心の中のツッコミが聞こえた訳ではないだろうが、議論に熱中していたアザリアが、ふと視線を、さり気無く輪に加わっていた黄金の鎧に向ける。
「兄様……?」
新居様? あっ、違う兄様か。そう言えば、アザリアにはそう呼んでも良いって言ったんだっけか。
アザリアが俺を呼ぶと、輪になっていた全員がバッと振り返って俺を見る。そしてその流れに乗っかってバルトも俺を見る。お前は見る必要ねえだろうが。
「剣の勇者!?」「出た!! お化けか!?」「相変わらず金ぴか!?」
金ぴかなのは放っとけや。
近頃目立ち過ぎるのを色々気にしてんだから……。
まあ、気付かれたのなら、コッチも応対しなければならない。
とりあえず、隣のバルトを見て皆が「え? 誰?」と言う顔をしているので、コイツの自己紹介から始めようか。
バルトに「自己紹介しなさい」と言おうとした―――のだが、
「猫にゃん……?」
「ミ?」
え? なんじゃろげ?
と思ったら、アザリアが夢遊病のようにフラフラと近付いて来て、引っ手繰るように、鎧の肩に居た猫を宝物のように抱き上げてギューっと抱きしめる。
「猫にゃん!! 猫にゃん、ニャンニャンニャン」
ご機嫌に謎の歌を歌いながら俺を撫でたり、頬擦りしたり、抱きしめたり……むっちゃ「猫可愛がり」される……。
正直、猫の立場としてはコレ止めて欲しいんだが……。ムツゴロ●さん的な可愛がり方とかされたら、多分俺は無言で猫パンチを叩き込む。
……とは言え、こんなにポロポロ泣きながら、俺との再会を喜んでいる子を無下には出来ませんし。
猫として、っつうよりは……大人として、かな?
「猫にゃん、猫にゃん、猫猫にゃんにゃん」
とは言え、流石に、これは勘弁願いたい。
一応抗議しておこう。
「ミャッ、ミィ」
アザリアの小さな、若干体温の高い手の中から脱出しようと試みる。
しかし、妙にアザリアの捕縛スキルが上がってるのか、ガッチリホールドされて手の中から脱出出来ない。
いや、そら力尽くの脱出は可能だが、それをやるとこの子絶対泣くやん?
「猫にゃん」
俺の抗議を無視して、幸せ一杯の顔で頬擦りして来る。
そして、そんなアザリアを若干呆れ顔で見る仲間達。
ついでに、少女に良いようにされている猫を見て「し、師匠……」と顔を青くするバルト。
おい、別にアザリアに逆らえない訳じゃねえからな? この子が“大師匠”な訳じゃないんだからね!
……若干ツンデレっぽい事を言ってしまった……。
いや、だが待てよ? バルトがアザリアを大師匠と誤解してくれてるんなら、好都合じゃない? 後々アザリアに押し付けるのに。
「お嬢……そろそろ話進めて良い?」
「いえ、まだ猫にゃん成分の補給が足りません」
「後にして」「それは別の機会にやってくれ……」「いい加減、猫取り上げるぞ!」
仲間達から抗議(正論)されて、渋々と頬擦りしていた俺を胸に抱く。
……多分「取り上げる」の一言が大きかったんだろう……って言うか、俺を手放すって選択肢はねえのかい?
いい加減放して欲しいんだが……。
「分かりました、分かりましたよ。話進めれば良いんでしょう!」
若干不貞腐れながら話を進める。
そんなふくれっ面すんなよ……全部自業自得やないかい。
「ともかく、猫にゃんと兄様が無事脱出出来て良かったです。それで―――そこの方は……」
アザリア達の目がバルトに向く。
正確には、バルトの持っている深紅の槍……神器の1つ“灯の槍”に。
どこか期待の満ちた視線。
その視線の意味するところは、まず間違いなく「新しい勇者」に向けられた物だろう。
バルトはバルトでその視線を受けて、恥ずかしそうにしてるし……。
「(バルト、挨拶)」
「は、はい! 僕、バルト、言います。槍の勇者、です」
本人から槍の勇者と聞いて、皆の顔が一気に明るくなる。
世の中じゃ、「勇者」の名前はあんまり良く思われてないかもしれないが、アザリアと一緒に居る連中は違う。
アザリアの事を勇者と認め、ずっと一緒に行動して来たコイツ等は「勇者」の肩書に強いの信頼を置いて居る。
………まあ、多少、俺の……剣の勇者の事もあるかもしれんけど。




