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6-23 猫と槍の勇者はクルガの町を歩く

 1秒にも満たない視界の混濁。

 気持ち悪さに目を背けるように閉じていた目を開ける。

 そこは既に霧の森では無く―――見慣れたクルガの町の防壁の前だった。

 懐かしす……1ヶ月? 2ヶ月? ぶりだっけか?

 正直、この町から離れてから散々濃い時間を過ごしたせいか、結構時間間隔がバカになっている。

 まあ、俺の今のホームはレティの所だし、あんまり“戻って来た”感は無いな。

 とりあえず魔王スキルを閉じて、体を通常モードに戻す。


 さて、俺自身の事はともかく―――俺を肩に乗せているバルトの奴は……むっちゃ目をキラキラさせてる。


「転移、初めて、です!!!」


 まあ、そらそうだろう。転移術式使える奴は、人間には皆無だし、魔族の中でもかなり希少だって爺さん先生が言ってたし。

 貴重な転移経験出来て良かったな。


「(とりあえず町入るか。人多い所大丈夫か?)」


 一応半魔だって事に気を使う。

 いや、だって、ようやっと“人怖い”を乗り越えたのに、また恐怖症になったら困るじゃん?


「大丈夫、です。怖い、変わらない、けど、師匠、一緒、怖くない」


 ………微妙に俺依存になりかけてない?

 まあ、敵になる心配がないのは良いけどもさ。

 コイツが御淑やか系の巨乳美女だったら嬉しいかもなぁ……、等と阿呆な事を考えながら、バルトに町の入り口に案内する。


 2分程歩いて門の前に到着。

 バルトは、初めて来る町だからか、若干恐る恐ると言った感じで門を潜る。

 町並みが前と違う。

 まず第一に、中央通りの人通りが圧倒的に多い。

 そして、露天商達が通りの左右に軒を連ねて、騒がしい程の喧騒が街全体に満ちている。

 始めて来た時には“死の町”くらいに思っていたのが懐かしく思えるほど、人々の顔にも歩く姿にも活気……と言うか、生きる力? が溢れているのが分かる。

 何より―――町中が笑顔だ。

 暗く、怯えて下を向いていた過去とは比べるまでもない。


 思わずフッと笑ってしまう。

 俺がこの町を解放したのは、ぶっちゃけユーリさんを助けるついでだったのだが、今更ながら「やって良かった」と思う。

 その後にアドバンスと戦う羽目になったが、それでも町の解放は間違ってなかったのだと確信が持てた。


「ここ、町、師匠、が、魔族、から、解放、した、ですか?」

「(ああ、まあな)」

「ここ、帝国、違う、です。この、国、支配、する、魔王、も、師匠、倒した、ですか?」

「(そう。この国を支配してたアドバンス―――)」


 いや、違う、アドバンスじゃねえよ。

 あの蜥蜴の本名なんだっけ………? アド……ベンチャー? 違うな。アド……レス? あ、なんか近付いてる気がする。

 アド、アド、アド……あッ!! アドレンズ!! コレだ!!

 思わず自身の記憶力にドヤる。


「(―――アドレンズを倒したのも俺だ)」

「アド……レンズ? もしかして、アドレアス、ですか?」

「(……そうとも言うな)」


 人間だったら耳まで真っ赤にして、顔を手で覆っていただろう。

 だが! 俺はやらない! 何故なら、師匠の威厳があるからな!!

 恥ずかしいよ? 恥ずかしいけど、そんな素振りは見せないの。だって師匠だもの。

 頑張って平気な顔を作るの、なんでって? だって師匠だもの。

 そんな俺の努力が報われたかどうかは知らないが、バルトは変わらずキラッキラした少年のような尊敬の眼差しを俺に向けて来る。

 ……若干居たたまれない……いや、若干どころか、相当居たたまれない……。

 アドバンスの話題はさっさと流そう。


「(ついでに、隣の国の魔王も俺が倒したんだぜ?)」

「師匠、凄い……!! 魔王、倒した、ですか!!?」

「(前にそう話したろ? そうそう、アイツはなあ、性格が悪くてしんどかったわ……名前は、えーっと……)」


 ガジェット。いや、やっぱり違う。

 ジェットは合ってた気がする……。ジェット、ジェット……えー…なんでしたっけ、あの金ぴか野郎は。


「(ジェット推進機とか言う魔王だった)」


 あまりにも思い出せなかったので、凄まじく適当な名前をでっち上げた。


「ジェット、すいしんき……もしかして、魔王バジェット、ですか?」

「(そう、それそれ)」


 いかんな。

 契約打ち切られた相手を即行で忘れようとする、人間の時の癖が妙なところで出やがる。

 これじゃまるで、俺が人の名前を覚えないダメ社会人みたいじゃないか。俺だって、契約者や関係者の名前とか、大事な事はちゃんと覚える1人前の社会人だったっつーの。


「師匠、凄い、です!!」

「(うむ)」


 名前を適当に覚えている事にツッコまない、人の好い弟子に若干感謝しつつ、とりあえず町の中を歩くように言う。


「(とりあえずアザリアに面通ししに行くか)」

「アザリア? 師匠、飼い主、ですか?」

「(なんでだよ……。俺は誰にも飼われてねえよ、分類で言えば野良猫だって。それと、アザリアはお前と同じ勇者の1人でな、杖の勇者なんだわ)」

「僕、以外、勇者!」


 お、目がキラッキラしとる。

 コイツは、本当に何にでも目を輝かせるな……マジで少年かよ。

 オッサンに片足突っ込みかけてる俺には、眩しすぎますな。


「(今はそいつが勇者のまとめ役っぽい事してるから、とりあえず顔見せはしとかないとな?)」


 あと、あわよくばバルトの世話を押し付ける。

 一応言っておくが、別にバルトが嫌いな訳ではない。むしろ、どっちかと言えば好ましいと思っている。

 けど、俺って単独行動主義な人間だし。

 魔王に挑むにも、1人の方が何かと楽だし。

 そもそも、今の勇者連中連れて行っても、魔王と戦う時には足で纏いだし、勇者自身も危ないしで、連れて行くメリットが何も無いしな。


 で、だ。

 アザリアは何処におるんじゃろうか?

 宿屋か、ユーリさんの店か……外に出てるって可能性もあるか……。もし外に出てたら、来損だったな?

 足で探すのも面倒臭いし、追跡の天術の【追跡(チェイス)】使うか。

 本来は天術をかける対象が近くに居ないと発動出来ないんだが、俺の魔王級の魔力があれば、半径1kmくらいなら天術が届く筈。それだけの範囲があれば町全体をカバーできる。

 それじゃ、やってみますか―――と、目を閉じて収集箱(コレクトボックス)のリストから天術の欄を選び、スクロールをさせて【追跡(チェイス)】を選ぼうとした瞬間。


「猫ちゃん?」


 横合いから女性に声をかけられて、発動を中断する。

 相手は目を開くまでも分かった。

 嗅ぎ慣れた……と言う程でもないが、良く知っている匂いだ。それに、この声にも聞き覚えがある。


「勇者様の猫ちゃん?」


 ユーリさんだった。



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