6-15 運命はかく語りき
村の奴等の言ってた“白い魔物”が気になる、と言って村の方に戻って行ったバルトと別れ―――本当にアイツは人が好いな……あんな扱いされたのに、まだ村人が心配らしい。
まあ、ともかく、その底抜けに人の好いバルトと別れて、俺は現在3つの光の粒こと精霊に導かれて、バルトの言うところの「獣の王の眠る場所」らしき場所に向かっている。
道中は特に何も無い。
魔物も出ないし、何かしらの事件も起きない。
ただただ導かれるまま20分程歩く。
そろそろ森を囲む山に辿り着くんじゃない? とか思い始めた頃、精霊が急に空中でピタリと動きを止め、透明な【仮想体】の持った木の盾の上でウトウトしていた猫の後ろに、ピューッと今まで見た事無い程の速度で隠れる。
「(何? なんかあったか?)」
俺の背中に張り付いて、心臓の脈動の如く明滅を繰り返す精霊。
……これは、怯えてるのか?
って事は、目的地はここら辺って事かな?
一応周囲を警戒して木の盾から降りる。
飛び降りた俺を追っかけて来て、背中に隠れる精霊達。
本当に怖がってるんだな……。
とりあえず、辺りを探ってみますかね?
何とか俺の後ろに隠れようとする3つの光を連れて、トコトコと歩く。精霊達の明滅が強くなる方向を目指して。
2分程歩くと、小さな岩陰に辿り着く。そして目の前には断崖絶壁。
森を囲む山の1つに突き当たったらしい。
「ミ?」
ん?
絶壁の下……地面に小さな穴が開いている。
子猫の低い視点だから発見出来たが、人間の視点では落ちた木の枝や石が邪魔になって誰も見つけられないだろう。
俺がその穴に向かって歩こうとすると、精霊が嫌がって俺から離れる。
成程、この穴で間違いなさそうだ。
「(あの穴の中を確かめて来るから、お前達はここで待ってな)」
言うと、精霊達が穴から離れて近くの木陰に隠れる。
………凄いビビり方……この穴、何があるんだ?
トコトコと穴に近付く。
……穴、小っさ!?
ギリギリ子猫の頭を突っ込めるくらいの大きさの穴だった。まあ、猫は頭さえ抜ければ、体はどうとでもなる。
レッツチャレンジ!
【仮想体】をウッドシールドごと収集箱に放り込み、岩壁の下の小さな穴に頭を突っ込む。
「ミャッ、ミィミャ!!」
いかん、サイズ規格がピッタリ過ぎる!
このままでは穴に嵌まって、壁尻状態になってしまう!! 嫌だ恥ずかしい!
チキショウ、舐めんなこんな壁に俺が負けてなるものか!!
自分の顔と体を削る勢いで穴の中を進む。
痛い! 体全体がむっさゴリゴリされて痛い!
しかし負けるものか! 魔王3人シバキ殺してる俺を舐めんなや!!
岩壁に対して意味の無い気合いを入れて、なんとか3m程の穴を通り抜ける。
「みゃぁあぁぁああ!」
だっしゃああぁぁぁあ! ざまあみろ!! 岩壁なんぞに負けるかボケぇッ!!
意味も無く叫んでしまった。
そして、子猫の鳴き声が反響する。
穴を抜けたら、洞窟でしたってか……まさにお決まりの展開ですな。
しかし……やってしまったな? 敵が居るかもしれない洞窟の中で叫んでしまった……。敵が阿呆でもない限りは、今ので完全に気付かれたな……? これで、不意打ちは通じない。真正面から殴り合うしかない。
洞窟は広い。
冷たく、異常に澄んだ空気と、俺の通って来た穴から射しこむ小さな光だけの暗闇の世界。
暗闇に強い猫の目を持ってしても見通せない暗闇が、洞窟の奥まで支配している。
ダメだ、穴から射しこむ光つっても、外は霧に覆われてて大した光量は入って来ないし……。
仕方ない……相手に先手取られる覚悟で光確保するか。何も見えないんじゃ話にならん。
えーっと、こう言う時に使える便利グッズが、教会から貰ったアイテムの中に有った筈。
お、あったコレだコレ。
『【魔動ランプ Lv.3】
カテゴリー:素材
サイズ:小
レアリティ:D
所持数:60/60
使用者の魔力を消費する事で、半永久的に光を灯すランプ』
何も防具を装備して居ない【仮想体】の両手に魔動ランプを持たせ、武器に魔力を通す時と同じようにランプに魔力を流す。
はぁぁ、こんな時の為に装備出来ない素材系の増やせる物も増やしといて正解だったな?
とりあえずランプ2つ分の明かりは調達できた。
光を周囲に向けてみると、だだっ広い空間が広がっていた。
バグと戦ったダンスホールくらいかな? ってか、この大きさの空洞が在るって、山の方がヤバくない? こんな場所で生き埋めとか勘弁願いたいわ。
ま、それはともかく―――奥に目を向ける。
俺の居る大きな空間の先に、通路らしき物が在る……って事は、まだこの洞窟には先があるって事ですよねぇ?
「ふぅ」っと息を吐いて気持ちを落ち着ける。
この洞窟はヤバい。
魔王と相対した時のヤバさに似ているが、微妙に違う感じ。強いて言うなら、アビスが少しだけ見せた“本気モード”のヤバさに近いかもしれない。
今も、猫の体に備えられた“危険感知”が凄まじい勢いで「回れ右して引き返せ!」と言っている。
洞窟を包む―――強大で、凶暴で、圧倒的な、化物の気配。
この洞窟に小動物はおろか、虫の1匹すらいない理由が分かった。この押し潰すような気配に耐えられないから、中に入って来ないんだ。
この洞窟の奥には何か居る。
それも、俺が想像も出来ないくらいヤバい奴が。
どうする?
行くか?
退くか?
もう1度「ふぅ」っと大きく息を吐く。
何が居るのか分からないが、バルトに頼まれた以上、この気配の主の姿くらいは確認しないと「師匠」の面子丸潰れだ。
震える足を前に踏み出そうとして、引っ込める。
ビビった訳ではない。
ここから先は敵の腹の中だ。いつ襲われてもおかしくない。
コッチも警戒して戦闘モードになっておく必要がある。
【全は一、一は全】を発動。
カチンッと体の中で何かが嵌まり、力が全身に巡る。
全防具の総防御力が俺の体に付与され、支援系の天術と魔法が俺の体を限界まで強化。
外していた特性が全て装備され、全ての能力が乗算されて、特性の持っている効果が上乗せされる。
とりあえず、手持ちの神器だけ外に出して浮かせる。
旭日の剣。
絶風の短剣。
黒土の剛拳。
白夜の戦斧。
黄昏の大鎌。
天映の盾―――は別にいいか。俺の防御力に乗ってるし、装備効果も発動してるし。
で、【星の加護を持つ者】の特性効果、アクティブセンサーが勝手に展開される。
センサーから頭に捻じ込まれる情報を適当に並列思考に割り振って閲覧。
とりあえず洞窟の地図を頭の中で広げる。
この洞窟、広いのはここだけで、奥はそこまで広くねえな? 奥の通路を抜けたら、その奥には小さい部屋が在るだけだ。
けど―――奥の部屋に変な表示がされているのが気になる……。
――― 詳細不明
何だコレ?
多分、この小部屋に気配の主が居る筈だが、そいつの情報を読み込めなかったって事か? アクティブセンサーの精度は詳しく検証してないから分からないが、少なくてもレアリティ★の特性に付いてる効果を擦り抜けるって事は、相手は相当ヤバいって事だ。
……まあ、そもそも、この化物みたいな気配で実際は雑魚なんて展開はねえよなぁ……。
問題は“詳細不明”が居る事じゃない。
今問題なのは、奥の部屋に
――― 詳細不明の表示が2つある事だ。
……これって、もしかして敵が2人居るって事じゃない?
だとしたら、ちょっと本気でここから逃げたいんですけど……。
後ろ向きになる気持ちを頭を振って飛ばす。
奥に居るのが何者だか知らないが、ここから先、俺の敵になる可能性は十分に有り得る。ここで正体を確かめられるなら、それに越した事はない。
深呼吸して逃げそうになる気持ちを心の奥に沈める。
ヨシ、行くぞ―――!
なけなしの勇気を振り絞って前に踏み出す。
敵の動きに注意するが、奥の部屋の“詳細不明”はまったく動く気配がない。
もしかして、俺に気付いてないのかな?
洞窟を満たす気配も一切揺らがないし、何かしらの警戒行動をしているような気配も伝わって来ない。
完全な無反応。
俺の事を虫けらだと思って動かないのか、それとも本当に気付いてないのか……。
トコトコと歩を進め、奥の通路を抜けて小さな部屋の手前まで来る。
中の様子を窺うが、やはり何も動く気配がない。
試しに隠れながら【仮想体】にランプを1つ中に投げ込んで貰うが、カランカランっと乾いた音をたてて地面を転がるだけで、他に変化は無い。
大丈夫……かな?
ゆっくり、小さな歩幅で部屋の中に入る。
剥き出しの岩と、崩れた形跡のある岩壁。
人の手が入った形跡は……無いな?
そろりそろりと侵入すると、部屋の奥に台座のような大きな岩が有り、その上には
――― 灰色の剣が置かれていた。
何だアレ?
近付いて、ヒョイッと軽くジャンプして台座の岩に乗る。
陶器のような表面の剣。
詳細不明の1つって……もしかして、これの事かな?
上から降って来た土埃が層になっている、かなり長い時間放置されていたようだが、どれだけの時間放置すればこうなるのかは俺には分からない。
まあ、放置されてるってんなら、俺が貰ってもいいよね?
剣に触れる。
剣がその場から消えて、上に堆積して居た土だけが台座の岩に落ちる。
『【虹の器 Lv.-】
カテゴリー:素材
サイズ:中
レアリティ:★
所持数:1/1
運命を切り開く鍵。
条件を満たす事で真なる力を発揮する』
え……?
なんじゃこれ?
レベル表示が無いし、剣なのに素材カテゴリーだし……それに、なんだこの説明書き? 意味が分からん。
まあ、今どうにか出来る物じゃなさそうだし、一旦放置。
一応確認してみるが、【星の加護を持つ者】の項目は解放されてない、っと。
台座に上ってみて気付いた。
台座の岩に隠されるように、更に奥に何かが置かれていた。
ランプで光を向けてみると、黒い水晶? のような物だった。
何コレ?
台座から降りて触れてみる。
キンッと耳鳴りのような物が脳を抜けて行き、黒い水晶に触れている部分から力が吸い出される感覚。
慌ててバッと手を離す。
なんだ、この水晶……なんか変だぞ?
いや、それ以前に、これ物体なのか? 収拾しようとしたのに出来なかったぞ!?
魔法か天術で作られた物なのかな?
とりあえず【術式解除】をかけてみる。
すると―――
『天魔式:【天罰の檻】の封印は解除できません』
え? 何? 天魔式って、なんじゃい?
ってか、封印……?
改めてランプで黒い水晶を照らしてみる。
「―――ッ!?」
息を呑む。
黒い水晶の中に、居た。
獣の王―――その言葉が頭を過ぎる。
いや、だが、そんな事はどうでも良い。
思考が乱れる。
息が荒くなる。
心臓が勝手に鼓動を早くする。
動揺。
そうだ、俺は、今、動揺している。
だって、黒い水晶の中には……
「(俺………?)」
俺とまったく同じ姿の子猫が眠っていたのだから。




