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6-14 村人は槍の勇者に文句を言う

 村―――小さな村。

 村人全員合わせて20人ってところか?

 ここもやっぱり霧に包まれてるな。まあ、ここだけ霧が()げてたら、空飛ぶ魔物や魔族の良い(まと)だろうしね?


 まあ、村が小さい事も、霧で全体が見えない事も別にどうでも良いんだが……。


「◆ΔΝв!!!」「вΓ★〒!!!」「ΦΛΘα!!」


 ……村の連中が、バルトの姿を見るや集まって来て、凄い剣幕で猿山の猿並みに何か叫んでいる。

 何言ってるか全然分かんねえ……。

 バルトと言葉が通じない時から薄々感じていたが、もしかして、この霧の森の中に居る連中って帝国の外の国から来たんじゃないか?

 少なくてもツヴァルグ王国の人間じゃないだろうけど……あそこは普通に言葉が聞きとれたからな。

 俺がそんな事を思っていると、バルトが少しだけ痛みを堪えるような顔で、諭すように静かに言葉を村人達に返す。


「ΔΔ■Γ……」


 それに反応して、また猿山が叫ぶ。

 何言ってるか分かんないけど、多分かなり酷い言葉をバルトにぶん投げて来てるな、この連中。

 今にも石でも投げてきそうな雰囲気だ。

 まあ、石を投げて来たら、俺が遠慮なく投射(スリングショット)で、そこらの大木3、4本貫通出来る威力でお返しするけども。

 小声で、村人が何言ってるのかそっと訊いてみる。


「(なんつってんの? 俺ここの人等の言語分かんねえんだけど)」

「僕、外、厄災、連れて来た、言って、ます」


 村人達から視線を逸らさず、出来るだけ口を動かさずに答えるバルト。


「(何、厄災って? もしかして俺か?)」


 確かに俺は人から見たら厄災かもしれない。

 ……いや、だって俺魔王だし……そこらの人間が束になっても敵わないくらいの力は持ってるし……。この森も一部破壊してるしさ……。


「師匠、違う、ます。村、近く、白い魔物、出る、言ってます。多分、外から、霧、超えて、来た、強い、魔物、です」


 強い魔物か……。

 霧を越えて来たって事は、精霊の創り出す“振り出しに戻る”力を何かしらの方法で突破して来たって事か。

 俺は結果的に【エクスプロード】で精霊達をビビらせて入って来た感じだけど……。

 まあ、でも精霊の力が通用しないとなれば、ここの連中は大騒ぎだろう。

 普段は霧に守られて安全、安心な揺りかごの中のような小さな村だが、敵が霧を越えて来れるってんなら、ここの連中は良い餌だ。

 ああ、だからか。こんな猿山状態になってんのは。

 っつか、別に魔物の侵入はバルトのせいじゃねえじゃん? むしろ、コイツは普段から村を護ってる側の人間な訳だし、それを責めるのはおかしくねえか?

 俺はこの村とは無関係な人間―――猫だが、それでも村人の態度にイラッとする。


「(なあ、この村の人間1発づつ殴って良い?)」

「止めて、下さい。師匠、殴る、村人、体、吹き飛ぶ、ます」


 大丈夫だよ。

 3人くらいトマトケチャップにしたら、多分手加減の仕方覚えるから、きっと、うん。

 まあ、俺の猫パンチ(強)を叩き込むかどうかはさて置き、この流れは退散した方が良さそうだな?


「(バルト、戻ろう)」

「でも、師匠……」

「(良いから。どうせ、今のままじゃ村の連中も血が上って話し聞いちゃくれねえよ)」

「は、はい」


 バルトは無言のまま村人達にペコっと一礼してから振り返って歩き出す。

 その背に、投げかけられる言葉は、俺には何言ってるのか分かんないけど、バルトの悲しそうな、悔しそうな顔をみれば、なんとなく予想は付く。

 村に入ってアイテム集めようかと思ったが、そういう雰囲気じゃなさそうだな?

 それに、村全体が、かなり貧困してるように見えた。

 出て来て騒いでいた村人は、全員痩せ細っていた。どう考えても食料の供給が出来ていない。

 あの調子じゃ、レアアイテムが有ったとしても、どこかに売り捌いて金やら食料やらに変えられてそうな感じだ。

 沈んだ空気を纏っているバルト。

 俺が村に行く前に色々言ったから、俺にはそれを悟らせないように頑張っているが、コッチも前世の職業病で相手の感情や空気読むのはそこそこ得意なんだっつうの。

 気持ち紛らわす意味でも、少し世間話振ってみるか?


「(なあ、あの村って結構貧困か?)」

「はい。霧、濃い、です。だから、光、通らない、作物、あまり、育たない。たまに、僕、魔物、倒す、肉、持って行く。村の人、魔物、出会わない、ように、野草、集める」


 成程。

 この霧のお陰で安全、安心の生活が出来るけど、その引き換えに作物の育ちが悪くなって貧困生活を余儀なくされるってか……。

 っつか、村の連中は肉の調達もバルト頼りじゃねえか!?

 どこもかしこもバルトの力頼りの状況なのに、良くあんな態度で居られるな? もしかして村の連中は、1人残らず馬鹿なんじゃねえのか?


「村の人、餓死、嫌、です。だから、僕、いっぱい、魔物、倒す。肉、いっぱい、村の人、喜ぶ、です」

「(そうな……。お前は偉いよ)」


 村の連中は、少しでもバルトの“お人好し”に頼りきりなのを気付くべきだ。

 もし、ここに居たのがコイツじゃなかったら、今頃村の事も森の事も全部放り投げて外に出て行っていただろう。

 少なくても、俺だったらそうする。

 あんな村人達の為になんて、「やってられるか」と、即行で見捨てて行く。その後、村の連中が魔物に食われようが、魔族に見つかって奴隷にされようが知った事じゃない。全部自業自得だ。

 けど―――コイツは森の中で、半魔だからと差別されても、軽蔑されても、それでも村の人間を護る為に力を尽くしている。

 会ったばかりだが、確信を持って言える。

 バルトは俺のような偽物の善人じゃない。底無しの、人からは大馬鹿と呼ばれるような―――本物の善人だ。

 善人が痛い思いをして、それを虐げる奴等に尽くしているなんて馬鹿馬鹿しい話しだ。


「(バルト、俺の事を本当に師匠だと思ってるなら、俺と一緒に外の世界に来い。お前はここに留まるべきじゃない)」

「え……でも、僕……」


 ……まあ、今までの生活捨てて、良く知らない外の世界に出ろって言っても、そりゃ簡単に答えは出ないか……。

 出来れば力付くでも連れて行きたいところだが、バルトがそれを望まないのなら、連れ出す意味が無い。


「(いや、答えは急がなくて良い。ただ、心に留めておいてくれ)」

「はい……」


 ……この反応だと、難色っぽいかな? こう言う交渉事すると前世の営業マンとしての(さが)か、妙にワクワクしてしまう自分にちょっと苦笑する。


 まあ、バルトの方はこれで大丈夫かな?

 七色教の連中が来ても、俺の事があるから「仲間になれ」って言われても突っぱねてくれるだろうし……。いや、でも教会が村への食糧支援とか言い出したら、人の好いバルトはコロッと着いて行ってしまうかもしれない。

 それに、教父爺の洗脳をかけられるって事もあるか……。

 やっぱり、出来ればさっさと連れ出してしまいたいな。

 もう少し信頼して貰えば、言う事聞いて着いて来てくれそうな気がすんだけどな……。

 うーん、何か困ってる事を助けてやったら信頼度的な物が上がったりしないかしら?


「(ところで、今、何か困ってる事とかあるか? どうせこの森の中でやる事もねえし、手貸すぜ?)」


 俺の言葉に、少し考える素振りをして何も思い当らなかったのか、今度は頭を抱えて「うんうん」唸り始めた。

 ……マジかコイツ? どんだけ困ってる事がねえんだ?

 まあ、人の好いコイツなら、どんな事も自己責任で何でもやっちまうから、困ってる事なんて無い……って事なんだろうな、多分。

 だが、10秒程頭を抱えていたところに、精霊が1匹? 1人? 寄って来て、何か耳打ちするようにバルトの耳に近付く。

 すると、それでピンっと、ようやく何かに思い当ったのか笑顔を浮かべる。


「困る、あります!!」


 いや、そんな眩しい笑顔で言われても……。

 あんなに悩んだ末に、やっとこさ絞り出した奴じゃん? って事は、そこまで困って無かったけど、手を貸してくれるって言った俺に気を使って何とか捻りだした“困った事”って事じゃん?

 ……まあ、「手を貸す」って言った手前、やるけどさ……。


「実は、森の中、とても、強い、獣の王、眠ってます」

「(獣の王? 魔王とかってオチじゃなくて?)」

「魔王、違う、ます。精霊、言う。遠く、昔、強大、力、持った、神、ような、獣、が、森、奥で、眠り、ついた」


 え? 何? 「大昔に化物のような力を持った神のような獣が森の奥で眠りについた?」

一応聞き間違えが無いように、頭の中で言われた事をちゃんとした言語に変換する。

 正直なんじゃそれ? って感じだが……。

 まあ、どうせ凶暴な魔物とか、そんなオチでしょこれ?

 大昔って事は、もう死んでんじゃない?


「(本当にそんな(もん)居るの? 大昔の獣ってんなら死んでるんじゃないか?)」

「はい、僕も、思う、ました。だから、数回、獣の王、眠った、場所、探す、して、みた、です」

「(そいで? 本当にいたのか、その獣の王とやらは?)」

「いえ、居ません、です」


 なんだ、やっぱり居ないんじゃん。

 ……いや、でも、バルトがその話を俺に持ち出して来たって事は、この話、まだ何かあるんじゃないか?


「でも、獣の王、探す、時、精霊、とても、怖がる、場所、在る、です。精霊、話、訊く。でも、何も、教えてくれない、です」


 ふむ……?

 精霊は、バルトのマスタースキルのお陰で無条件にバルトと仲良しだ。

 その精霊が、バルトに何も教えない怖い場所……? 成程、こりゃぁ、確かに何かありそうだわな?

 獣の話抜きにしても、嫌な感じがビンビンする。


「(分かった。とりあえず、その場所見て来るよ)」

「師匠、1人、行く?」

「(ああ。もし本当に何か居て戦いになったら、俺1人……1匹の方が断然戦いやすいし強いからな)」


 言いたくないが、神器を持ったとしてもバルトは足手纏いだ。

 いざとなったら【全は一、一は全(レギオン)】を発動する訳だが、その時に周りに護るべき対象が居ると戦い辛い事この上ない。って言うか、もっと言ってしまえば邪魔だ。

 バルトにも、そんな俺の考えが伝わったようで、自分の無力さを感じたのか少しだけ落ち込んだ顔になる。

 まあ、こればっかりは仕方ねえべや。ここで連れて行って危険な目に合わせたら、それこそ意味ねえし。


「(ただ、俺その場所知らねえから、精霊を道案内に付けて欲しいんだけど?)」

「……はい、精霊、頼み、ます」


 バルトが指をクルクル回してから、肩に乗っている俺を指さす。

 すると、光の粒が俺の周りにいくつか集まって来る。精霊が何を考えたり喋ってるかは知らないが、何となく「任せとけッつーの」「案内なんて楽勝だぜ」とか、そんな感じの事を考えているような気がする……多分。

 ……いや、でも今から行く場所は精霊が怖がってる場所らしいし、それはないか?



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[一言] 〉少なくても、俺だったらそうする。 「少なくとも」の方が一般的かな。
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