6-12 師匠……?
「(なんで師匠?)」
「僕、凄い、未熟。貴方、凄い、強い。だから、僕、貴方、勇者、の、力、使う、方法、教え、欲しい」
そう言われてもなぁ……。
俺が強いのは【魔王】の特性持ってるからだし、勇者の力の使い方なんてちっとも分からんちんどもとっちめちんだわ。
まあ、アザリアの所に連れて行けば、勇者としての強くなり方とかも教えて貰えるだろうし、別に良いか。
え? 何? ええ、だからアザリアに丸投げですけど何か?
「(分かった。まあ、呼び方はそれで良いや)」
「宜しく、お願い、ます」
ペコっとバルトがお辞儀をすると、それに倣うようにその周囲をフヨフヨと浮いて居た精霊達も「宜しく」と言うように明滅する。
「ところで、師匠、どうして、喋る、出来る、ですか? 森、外、皆、喋る、ですか?」
「(ああ、まあ……俺は特別でな? 色々あって喋れるし戦える、特殊な猫なんだわ。人には知られたくねえから、俺の正体は内緒で頼む)」
「はい、師匠、喋る、戦える、皆、には、内緒、です」
口にチャックするように、槍を持って居ない左手で口を塞ぐジェスチャーをする。
……若干口を滑らしそうな雰囲気があるけど……少なくとも自分から話す様な事はなさそうだし、これで大丈夫かな?
まあ、そこはそれとして―――
「(ところで、バルトの目が赤いのはなんなんだ? 突然変異的な奴か?)」
目の事を訊くと、今まで笑顔だったバルトの顔が曇る。
明らかに、「そこは訊かれたくなかった」と言う顔だ……。
え? 何? ツッコんじゃダメな所だったかしら?
……ああ、でも、そうか。元の世界だって、自分の体にコンプレックス持ってる人は山ほどいた。と言うか、コンプレックス無い人の方が珍しいくらいだった。
そこを初対面の人間……じゃない、猫に突かれるなんて、そりゃあ嫌だったろうな……。流石に今のは俺のマナー違反だ。
「(ああ、スマン。変な事訊いたなら答えなくて良い)」
「いえ、良い、です。師匠は、知らない、ですか? 赤い瞳、の、事……」
レッドアイ? ホー●アイたらの弓の名手なら知ってるけど、そんな物は知らん。
「(知らない。なんか意味あるのか?)」
「この、赤い目、半魔、証、です……」
「(え? 何? ハンマー? ハンマー使ってると目が赤くなるの?)」
「……いえ、ハンマー、違う。半魔、です」
「(何、“はんま”って?)」
勇●郎? 絶対違うよね? この風貌で背中の筋肉が鬼の顔になってる訳じゃないよね? だったら俺全力で逃げ出すけど。
「魔族、人間、混ざり物、が、半魔、です」
魔族と人間のハーフって事か? ああ、“はんま”って半魔ね。
魔族にしては大人しいし、人間としては能力が高い。
両方の特性を持ってるのが半魔って事か?
いや、チョイ待ち。
さっき魔法と天術の両方を使って来たのってコイツじゃない? てっきり人間と魔族が一緒に居るのかと思ったが、半魔なら両方使えるとか、そんな感じの事じゃない?
「(なあ、もしかして半魔って魔法と天術両方使えたりしない?)」
「はい、魔法、天術、2つ、共、使えます」
やっぱりだぁ、なんだ、じゃあ襲撃者はコイツ1人だったって事じゃん。
……アレ? そう言えば俺も昔「ハンマー」って呼ばれた事があったけど、もしかしてアレって半魔って呼んでたのかしら? まあ、俺も魔法と天術両方使えるし、間違わられても文句は言えんわな。
にしても、半魔って超強くない?
人間の理性と、魔族並みの身体能力持ってるって事でしょ? その上魔法と天術両方使えるとか優遇され過ぎじゃない? キャラクリエイト系のゲームなら、大多数が半魔を選ぶよ。
………それなのに、世界的に超優遇されている半魔なのに、バルトの顔は曇っていた。
「(……半魔なの、嫌なのか?)」
「半魔、は、人間、魔族、両方、違う、ます……。人間、は、魔族、混ざり物、だって、嫌う、ます……。魔族、半端者、馬鹿にします……。半魔、どこにも、居場所、ない、です……」
混ざり物への差別って事か……。
何処の世界に行っても、この手の話は湧いて出るらしい。
コイツが、こんな霧深い森の中で隠れるように―――いや、実際隠れて暮らしているのも、根っ子の話はそのせいなのかな……?
「魔族、半魔、が、人間、味方、する事、嫌、です……。だから、半魔、が、人間、一緒、出来ない、ように、半魔、追い出す、言って、ます」
なるほど、ね。
半魔の力は、人間に比べて魔族にとっては圧倒的に脅威だ。
だからと言って、人間の理性を持っている半魔を、魔族の仲間に引き入れるのは難しい。だから、徹底的に半魔を排除するように人間達を支配してるって訳か。
そして半魔は居場所を無くし、仕方なく魔族の仲間になるか、人間の目から逃れるように隠れて暮らすか……。
まぁまぁ、随分と魔族連中がクソみたいな事をしてるじゃないの。
元を辿れば、テメェ等が人間に種付けしたのが原因で生まれたんじゃないの、半魔って? それを脅威だから排除させますってのは、納得のいかん話だわね。
「(バルト、お前は自身が半魔である事を嫌がってるんだろうけど、それはお前が下を向く理由にはならないぜ?)」
「どう言う、意味、です?」
「(お前が半魔で生まれた事は、きっと今この瞬間の為だ。今、ここから、お前が勇者として歩き出す為だ。半魔の力と勇者の力、両方を持ってるお前は、きっとこれからたくさんの命を助けるだろう。だから、お前が半魔である事は絶対無意味じゃない! お前が半魔で生まれた事は絶対に無駄じゃない!)」
子供に言い聞かせるように、それでいて心を吐きだすように叫ぶ。
俺は自慢じゃないが、悪党だし、屑野郎だ。
でも、コイツは違う。
生まれた瞬間に、勝手に“排斥されるべき”とレッテルを貼られて、苦しんで悲しい思いをするなんて、バカバカしい事この上ない。
だから、少しでもコイツには前を向いていて欲しいと思う。
俺が悪で屑だからこそ、真っ直ぐに生きるべき人間にはそうして欲しいと思う。
そんな俺の想いが伝わったかどうかは分からないが、バルトが俺を真っ直ぐに見て、そして少しだけ目を潤ませる。
「師匠……」
「(捻くれずに真っ直ぐ生きろ。お前にはその資格があるし、その力がある。人に何言われたって、お前が曲がる必要も、下を向く必要もねえ。俺が保証してやる)」
そこまで言ってから、「初対面の猫が何偉そうに語ってんだ……」と我に返り、急に恥ずかしくなった。
「(……と、ところでお前の家ってどっちよ?)」
顔を見せるのが恥ずかしくなって、後ろを向いて歩き出そうとする。
「師匠!」
「(な、何さ?)」
「猫が偉そうに言うな!」とか怒られるのかと、若干ビクッとなってから振り返る。
「貴方、を、師匠、決めた、間違い、違う! 僕、貴方、みたい、なりたい!!」
良かった、怒ってる感じじゃない……けども……、俺みたいになりたい? いや、ダメだろ。俺を目指したらダメだろ。絶対それ目指す場所間違えてるよ。
だって俺、ぶっちゃけ魔族連中やら七色教会から物盗んでる泥棒だぜ? しかも、魔族相手なら大量虐殺上等だし。必要なら人間も殺すし。
どう考えても、お前が目指しちゃいけない筆頭だろう?
って言うか、そもそも、俺猫だし。目指されても困るし。
「(俺を目指してもダメじゃない? むしろ、俺みたいになったらアカンやろ?)」
「いいえ、師匠、心、力、どちらも、強い、人―――猫、です!」
さり気無く言い直したな……。
まあ、別に「人扱いしろ」なんて言うつもりは小指の爪程もねえから良いけど。




