6-7 猫は姫とお茶会をする
ようやく泣き止んだレティと、何故かお茶会をする俺。
いや……ねえ? だって、断って寝ようとしたら涙目になるしこの子……。そしてレティが泣きそうになると、お茶会の準備をしているメイドさんが「テメェ姫様を泣かすんじゃねえぞゴルァ!!」と黒い殺意の波動を俺に叩きつけて来るし……。
「あれ? ブラウンの右目、どうしたんです?」
「(どうしたって、何が?)」
キラキラした目で俺を見つつ、メイドさんの淹れた紅茶を飲んで居たレティが、俺の目を覗き込みながら訊いて来る。
「だって、星空みたいだったのに、普通の猫さんの目になってるんです?」
ああ、そう言う話し?
そら、魔眼の装備外してるからだけども、それを正直に言う訳にもいかん。
「(うん、旅先でちょっと色々あって)」
ドライベリーのタルトっぽいお菓子をモシャモシャしながら答える。
関係ねえけど、これ、超うめぇ!! 10日間監禁生活で糞マズイ毒入り飯しか食べなかったってのも有るけど、普通に美味しいわコレ!
猫にとっては糖分過多かもしれんけども、どうせ【毒無効】が口に入れた物を良い感じにしてくれるから関係ねえしな。
俺が口を止めずに居ると、レティが心配そうな顔をしながら俺を撫でながら抱き上げる。
ちょっと、食事の邪魔しないで欲しいんですけど?
抗議の声を出そうと見上げると、レティが心配そうな顔で俺を見ていた。
「怪我したんです?」
怪我はした。
って言うか1回死んだ。まあ、2秒後には蘇ったけど。
………そう言えば、2回目の死にかけた時、レティとの約束のお陰で最後の最後まで踏ん張ろうって頑張れたんだっけか……。
「(少しね。でも、別に大騒ぎするようなこっちゃねえよ)」
「本当です?」
「(本当。それに、ちゃんと帰って来るって約束したじゃん)」
無言のまま、俺をギューっと抱きしめて来る。
若干苦しい。……けど、何となく「帰って来た感」が心の中に満ちて行く。
「無理しちゃ嫌なんですからね」
「(分かってる。心配しなくても大丈夫だよ、ただの猫の散歩だから)」
2分程俺を抱いていたが、それで満足したのか安心したのか、俺を机の上に戻す。
無言で俺を見つめて来るレティに何を言えば良いのか分からずタルトもどきを食べる作業に戻る。
言葉も見つからないので、今後の事でも食いながら考えよう。
七色教の連中はどうしよう?
コッチから手を出さなくても、連中が俺を放って置かないと言うのなら、何処かで決着はつけなければならない。
だが、アッチには短剣と双剣の勇者、それに―――正体不明の教父爺が居る。
教父爺のスペックがイマイチ掴めないが、少なくても勇者連中は俺1人で余裕で全殺し出来る。
ただ、その教父爺が問題だ。何か底知れないし、【妖精の耳】を持ってしても何を考えてるのかが分からなかった。
考え無しに敵に回して良い奴ではない。
何より、あの爺には強力な洗脳だか支配だかの能力がある。
………あれ? もしかして、クソビッチと双剣の双子って、この能力の影響下にあるって可能性は無いかしら?
……まあ、良いや。次エンカウントした時に確かめりゃ。
そもそも、コッチの大陸最大宗派に喧嘩を売ると、その宗派の一般人達に何を言われるか分かったもんじゃないってのも有る。
猫の俺としては、基本的に周囲の評価なんて気にしないが、変に敵を作るつもりも無い。人間が敵に回ると、町を見つけても碌に買い物も出来なくなるし、アザリアやレティにも迷惑がかかる可能性もあるし。
やっぱり、そっちは一旦放置しかねえか? しゃーねえな、うん。
とりあえず連中の動き待ちで。どうせ俺が何かすれば、連中も何かしら動いて来るだろうし、その時に対応を考えよう。
ふと、教会に地下室に忍び込む時に聞いた話を思い出す。
――― 迷いの森の奥に居る勇者候補。
敵なのか味方なのか……。
連中の話しぶりだと、まだ接触してないっぽいから、多分敵……ではない、と思いたい。
だが、どっちにしろ、放置しておけば七色教の連中が接触して俺の敵になる可能性は大だ。
だったら、連中より先に俺が会って仲間にするって事は出来ねえかな?
勇者の戦力アップは人類的観点からも良いだろうし……まあ、俺はそこら辺ちっとも興味無いが、アザリア辺りが喜びそう。
とにかく、会うだけ会ってみるか? その後の対応はアッチの態度次第って事で。
………とは言え、そいつが居る場所が分かんねえんだよなぁ。
「(レティ、ちょっと訊きたいんだが?)」
「なんです?」
「(帝国領に“迷いの森”とか呼ばれてる場所とか無い?)」
今の俺に与えられた、たった1つのその場所に辿り着く為のキーワード“迷いの森”。ゲームじゃお決まりの名称だが、コッチの世界だとそこんとこどうなんだろうか?
もしも、そこら中に“迷いの森”と呼ばれる森があったりしたら、それこそお手上げなんだが……。
「えっと……」
レティが目を瞑って記憶の棚を開けて居るらしい。
何か思い当たる物が見つかったらしく、パチッと勢い良く目を開いて顔を上げる。
「もしかして、クウェル森林の事でしょうか?」
「(どんな所よ?)」
「入った者を惑わし、真っ直ぐに踏み行っても、入った場所に戻されてしまうと言う魔の森です」
「(……迷って死ぬとかは?)」
「詳しい事は分かりませんけど、先生の話だと何者をも寄せ付けない結界のような物があるんじゃないかって。だから、人が死ぬような事は無いと聞きましたけど……」
人が死ぬ事は無い……か。
だったら、行っても大丈夫かね? 迷った挙句に餓死して魔物に食われるなんて展開は御免だ。
危険が少ないってんなら、行くだけ行ってみるか。
「(その、なんたら森林ってのは、帝国のどの辺にあるの?)」
「帝国の南……国境近くの険しい山に囲まれた場所に在ると聞きましたけど」
南の国境って事は、ツヴァルグ王国寄りの場所って事か……。
そう言えば、帝国に侵入した時に険しい山を見た気がする。まあ、特に用も無かったから横目に見てスルーしたけど。
あの山を越えた先に在るのか……?
山越えをするのはしんどいけど、どこでも●ア使ってショートカット出来ないかな?
なんたら森林に辿り着く方法を考えていると、ジトっとレティが俺を見て居た。
「(何?)」
「もしかして、今度はクウェル森林まで散歩に行くって言うんじゃないんです!?」
「(えー……まあ、うん。ちょっとそこに用事があって)」
「もう! 折角帰って来たのに、また何処かに行くつもりなんです!!」
ぷぅっと頬を膨らませて怒る。
前回はともかく、今回は俺に怒られても困る。
「(俺も別に行きたくて行く訳じゃねえよ。色々周りが面倒臭い事になってて仕方なくだって。文句ならそいつらに言ってくれよ……)」
主に七色教とか言う、俺には一切関係ない宗教の人達に。
「もう……なんで仔猫のブラウンが面倒事に巻き込まれるんです?」
「(なんででしょうね? 俺の方が訊きたいんだけど……)」
俺はただ、魔王をブチ転がして回っているだけなんだが……なんで横から意味不明な連中がしゃしゃり出て来るのかがサッパリ分からん。
「ブラウン、何か危ない事してるんじゃないんです?」
「(………してない)」
「また間があったんです……」
微妙に鋭い。
普段はポーっとしてるように見えるのに、こう言う時は妙に鋭いんだよなぁレティ……。




