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1-16 猫の世界

 寝床を探して町を歩く。

 子猫の足だと、普通に結構な広さの町が一層広く感じる。ただ、徹夜明けで歩いていても大して疲れない。やっぱり身体能力がぐんと上がってるっぽいな。やろうと思えば、犬くらいなら投射使わなくても素手で殴り殺せる気がする……。いや、まあ、そんな事必要でない限りしないけども。

 とは言え、体が疲れない訳じゃないし、さっさと仮眠出来る場所探そう。

 もうすぐお日様が顔を出すし、陽の当たる暖かい場所が良いなぁ。……でも、陽の当たる場所って事は人の目につく場所って事だし、変に人や魔族に絡まれるような事になったら面倒臭いんだよねぇ。


「ミィ……」


 はぁ……。

 暖かい場所は諦めて、猫は猫らしく人の目が少ない路地裏にでも行くか。

 家と家の間にある小さな路地に入る。

 道を一本外れれば道の舗装が途端に荒くなり、雰囲気が重くなり空気が冷たく感じる。裏路地はほとんど土が剥き出しの状態で、雑草の処理もされておらず、苔や埃に混じって虫達が蠢いている。

 ……ザ・路地裏って感じ…。まあ、木の上で落下の心配しながら寝るのに比べれば大分ましだな。

 さてっと、どっか良い場所はありませんかね。

 ウロウロしていると、路地裏迷路の行き止まりに辿り着き―――そこには、猫がいた。

 痩せ細った親猫っぽいのが1匹と、その子供であろう子猫が2匹。一様に全身の毛が薄汚れ、明らかに食料が足りて無いガリガリな体だった。


「ニャー」「ミィ…」「ミャ…」


 ニャーニャー鳴いているようにしか聞こえない……筈なのだが、なんとなく何を言おうとしているのかが伝わる。子猫たちは2匹とも「お腹空いた…」と言っていて、親猫は「お前はどこの猫だ?」と言っている……ような気がする…多分。

 まあ、猫に明確な考えや言葉は存在しない。それでも何となく言ってる事が分かるのは、俺も猫だからか。

 ……どうしよう? 別に気にせず立ち去っても良いんだが……俺も今猫なんだよなぁ…。一応同族としてほっとけない精神が働くっつうの? それに子猫たちの腹減ってる姿が他人事じゃねえし。

 仕方無い…。

 トコトコと近寄る。

 親猫が「警戒」から「威嚇」へと切り替わる。

 毛を逆立てて今にも襲いかかって来そうな親猫の目の前に干し肉(俺の食いかけ)をドスンっと置く。


「ミィ(食え)」


 すると、固まっている親猫の横を通り過ぎて子猫たちが何の警戒もなくモシャモシャと干し肉にかぶりつく。

 俺への威嚇真っ最中だった親猫も、食欲には勝てずに子猫の隣でモグモグし始める。

 とりあえず猫達が満腹になるまで座って待つ事にする。

 幸せそうに食べている親子の姿を見ていると、なんだか暖かい気持ちになって……フワフワとした心地良さに包まれて、いつの間にか俺は眠っていた。


 …………


 …………


 …………


 裏通りの冷たい土の上で目を覚ます。

 ありゃ…? いつの間にか眠っていたらしい。

 太陽が真上に有る……って事は、日の出が6時くらいとすると、そこそこガッツリな睡眠をとってしまって居たらしい。

 仮眠のつもりだったけど、なんかグッスリ寝てしまったな? 魔物に襲われる心配がないからか、異世界に来て始めて安心して眠れたかも。

 寝起きのお決まりとして体を伸ばす。

 ふぃ~…今日も元気に調子が良い。

 さて、現状認識を始めよう。

 目の前には眠る前に餌をやった親子猫。俺が起きるの律義に待って居たのか、ちょこちょこと寄って来てニャーニャー鳴く。

 子猫達が「嬉しい」とか「ありがとう」とか、そんな感じの事を言っている。鳴き声に張りがあるのは腹が満腹になって元気になったからだろう。

 ってか、そこそこの大きさだった干し肉が綺麗に無くなってる……。軟式ボールくらいの大きさは有ったのに、全部無くなるってどんだけ腹が空いてたんだこの猫達…。

 俺の食料が無くなったのは悲しいし困った事だが、まぁ森の中で魔物に怯えながら食料探しするのに比べれば、町での食料調達なんぞ楽勝だろう。

 さて、陽も昇って明るくなったし、異世界の町を探索しに出かけるか。と思ったら、親猫が何やら気になる事を言っている。


 餌が奪われた


 餌…って言うと、俺がやった干し肉の事だよな?

 詳しい話しを聞くと、どうやら町の西側を根城にしているボス猫の一団が現れて奪って行ったらしい。だが、別にそれは今日だけの話しではなく毎日の事で、ボス猫一味が町中の猫や犬の食料を掻っ攫っているそうな。

 そのせいで、ボス猫の一味になれない奴等はまともに食べる物に有りつけず、毎日極貧の極貧生活で餓死する奴も居るらしい。

 町中での食糧が無いなら―――と町の外に出れば、途端に魔物に襲われてあっと言う間に命が終わる。結局、猫や犬達は耐えるしかない……と言う事らしい。

 ふむ……。


 ぶっちゃけ、どうでも良い。


 猫の世界が弱肉強食なのは元の世界も異世界も変わらない、と言う事実が分かっただけで、それ以上の事は特に。……まあ、極貧生活を強いられる奴等を可哀想だとは思うが、今の俺は自分の事だけで手一杯ですし。

 とは言え、1つだけ看過できない事がある。


 そのクソ猫共が、俺のアイテムを奪って行ったと言う事実だ!


 収集家が、集めたアイテムを奪われるなんて笑い話にしたって笑えない。

 じょーとーじゃねえか! コレクターから収集品を奪うって事が、それだけ罪深いか身をもって教えてやろう!! 殴り飛ばしてでも盗られた物は取り返す!!



*  *  *



 15分後、俺はボス猫達の根城である町の西側……その中でも1番薄暗い路地裏に来ていた。

 ここがあの猫のハウスね…。いや、ハウスじゃねーよ。ただの路地裏だよ。

 薄暗くジメジメした裏路地に足を踏み入れる。

 傍目(はため)には猫が散歩しているようにしか見えないんだろうが、コッチとしては魔王城に乗り込む勇者くらいの気分だ。

 ………まあ、魔王役も勇者役も両方猫だけども。

 朝露が乾き切って居ないのか、地面がしっとりとしている。ただ、森を散々歩いたせいで、足元がこう言う場所の方がちょっと落ち着く。

 真っ直ぐ進んで行くと、通せんぼするように2匹の猫が居た。

 猫親子や俺を襲おうとした犬の様に体がそこまで薄汚れていない。それになにより、体にちゃんと肉が付いている。それなりに食っているって事は、コイツ等はボス猫の一味か。


「ニャー」

「ニャフ」


 猫語だと何言ったのか分からないので、コッチで勝手に人間の言葉に訳させて頂きます。


「見ない面だな?」

「新顔が挨拶に来たのか?」


 まことに勝手ながら、俺の方も人間の言葉に翻訳させて貰います。


「挨拶じゃないけど、ボス猫に会いたいんだが?」

「ぁあ?」「どう言う意味だ小僧?」

「どう言う意味? 決まってんだろ―――」


 4本の足に力を込め、一足飛びで右側の猫に突っ込む。


「カチコミじゃあああッ!!!」


 相手が反応するよりも早く、フワフワした毛に覆われた小さな前脚をボディーに叩き込む。

――― 猫パンチ(小)!

 ボディーブローをもろに受けて猫の体がのけ反る。


「ぉぼッ!!?」


 左の猫が驚いて距離を取ろうと飛び退いた。

 逃げる判断は正しい―――だが、遅い!

 切り返しのターンから素早く左の猫を追う。悪いが、ただの猫じゃ能力強化されてる俺の相手じゃない。

 猫が次の一歩踏み出すより早く横っ面をぶん殴る。


「げぼッ!!?」


 吹っ飛んで地面を転がる。

 よし、猫2匹撃破。

 もう相手が善か悪かなんて一々確認しねえの。だって俺の怒りの鉄拳は止まらないから。動物愛護団体からの虐待云々も、猫の俺には怖くありませんとも!


「く、くそぉ!」

「ぼ、ボスぅウう!!」


 よろけながら路地の奥へと逃げて行く2匹を歩いて追う。

 3度角を曲がり、路地裏の少しだけ開けた場所。

 ここが、この町を牛耳るボス猫の玉座の間だった。

 真新しい酒樽の上に、少しポチャッとした黒猫が丸くなっていた。

 酒樽の下には、黒猫を護るように3匹の猫。そして周囲を囲む、先程の殴り飛ばした奴等を含めた5匹。

 どう見ても、酒樽の上に居る黒猫がボスだな。

 黒猫が丸くなったまま、見下した視線を俺に向け口を開く。


「ウチの若ぇのが世話になったみてぇじゃねえか? テメェ、どこのもんだ?」

「ただの流れ者だ」

「で、俺に用があるそうだが……一応聞いてやる、言ってみろ」

「テメェ等が盗って行った食料は俺の物だ、返せ。あと他にアイテム持ってたら全部寄越せ」

「面白い事を言う小僧だ…。それに頷くとでも?」

「いや、まったく」


 注・なんかシリアスっぽい雰囲気で話していますが、現実では猫がニャーニャー言い合ってるだけです。


「しかし、中々やるようじゃねえか? どうだ? 俺の下に来い。そうすれば食う事に困る事も無い。この町の絶対強者で居られる」

「何言ってんだお前? 猫や犬から食い物をかっぱらう盗人(ぬすっと)なだけじゃねえか。大体、絶対強者ってただの猫だろお前…」

「ふんっ、言いやがる。まるで自分は違うとでも言いたげだな?」

「うん」

「ぬかすな!! 尻尾も伸び切らねえ小僧が、この俺様に喧嘩を売ってるのかぁ!!?」

「ようやく気付いたのかデブ猫」


 注・しつこいようですが、実際は猫がニャーニャー言い合ってるだけです。


「俺に舐めた口をきいた事を後悔しろッ!!」


 取り巻きの猫達が一斉に動き出す。……と、同時に俺は投射を準備する。

 投射の威力をかなり絞って、使う弾は水にしておこう。1デシリットルも有れば十分だな。

 猫達が俺の所まで辿り着くまで後1秒弱。狙い定めて一発撃つには十分過ぎる。

 黒猫の顔目掛けて―――ショット!

 狙い違わず、放たれた水球が黒猫の顔面に直撃。衝突の衝撃に負けて水球が弾け、黒猫の顔を濡らす。


「うミャァッ!!?」


 酒樽から転がり落ちる黒猫。

 動きが止まる取り巻き。


 その隙を―――逃さん!


 ダッシュで一気に立ち上がろうとしている黒猫との距離を詰める。スピードを緩めず、飛びかかる―――からの、猫パンチ(中)!!


「ォごふっ!!!?」


 地面に倒れ、動かなくなる黒猫。

 殺してないけど、完全に意識は飛ばした。

 ノックアウト―――我ながら見事なKO勝ち。

 振り返って、未だ動きを止めている猫達に宣言する。


「俺の勝ちだッ、こんチクショウが!!!!」




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