6-3 猫はパンチを叩きこむ
脱出のタイミングは以外と早く訪れた。
爺と双子の来訪から半日程経った頃、倉庫の中でゴロゴロしていた俺達(と言うか俺1人)の元に訪れた人物が居たからだ。
扉にかかっていた【封印術式】が解かれ、ガチャンっと鍵が開く。
また爺が来たのか? と猫が顔を上げると、扉が開いてその人物が入って来た。
「おーい、剣の勇者元気にしてるかあ?」
クソビッチだった。
相変わらず無駄なナイスボデーしてやが―――いや、そこはどうでも良い。どうせコイツの中身は男だ。
狐のような糸目も、無駄に似合っているポニーテールも何も変わっていない。
まるで、俺に対して悪い事をしたと言う自覚の無い顔。
何より、俺から奪いやがった旭日の剣を腰に差しているのが超絶腹立つ。
【仮想体】を放置して、バッとベットから飛び降りて床を走る。
クソビッチが猫の事に目もくれず、部屋の奥に立っている金色の鎧に近づこうとする。
その無防備な一歩に合わせて飛び上がる、そして―――
――― 猫パンチ(獄)!!
「(ドラァッッ!!!)」
クレイジーダイ●モンド張りのパンチをどてっ腹に叩き込んだ。
「へゴッ!!?」
変な断末魔(死んでない)と共に意識が飛んで崩れ落ちるクソビッチ。
良し、結構すっきりした。
ちなみに―――説明しよう!
猫パンチ(獄)とは、猫パンチ(極)を極めた猫の怒りが頂点に達した時にのみ使える超必殺技である。
←(溜め)→KK(3ゲージ消費)で発動。相手は死ぬ(死んでない)。
扉を閉じてから、【仮想体】にクソビッチを部屋の奥に運ばせ、適当な紐を収集箱から出してふん縛る。
まずはこの部屋の鍵を貰っておく。
さて、そんじゃあ旭日の剣は返して貰うとして―――ついでにクソビッチの持っていた短剣の神器も貰っておく。
『【絶風の短剣 Lv.97】
カテゴリー:武器
サイズ:小
レアリティ:★★★
属性:超神聖/風
装備制限:特性・勇者
付与術:審判の風
所持数:1/1
第九神器。
神が人類に与えたと言われる武具の1つ。
吹き荒ぶ嵐すら両断すると言われる短剣』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:大)』
はーい、まいどありー。
俺を嵌めやがった慰謝料に神器貰ってきまーす。
ついでに天術も取り出しておこう。
『【審判の風】
カテゴリー:天術
属性:超神聖/風
威力:A
範囲:S
使用制限:特性【勇者】
暗黒/深淵属性の対象に対して超特効。
特性【魔族】【魔王】を持つ対象に対してのみダメージ判定』
お、範囲Sが来た。
あ、でも威力がAだから結構微妙かも……。
大体範囲広くっても目立つだけだから、結構使いどころねえしな?
『【星の加護を持つ者 Lv.6】
カテゴリー:特性
レアリティ:★
能力補正:???(レベルアップで解放)
付与スキル:???(レベルアップで解放)
効果:属性“虹”を解放
アクティブセンサー
???(レベルアップで解放)
???(レベルアップで解放)
備考:通常経験値ではレベルアップしない。
レアリティ★のアイテム入手でレベル上昇』
お、来た来た。
解放されたのは、えーと……アクティブセンサー?
なんじゃそりゃ? 名前から察するに探知系の何かだと言うのは予想がつくけど。
使ってみるか?
特性の【魔族】を外して、【星の加護を持つ者】に切り替える。
途端―――
『アクティブセンサーが展開されました』
世界が広がる。
教会の中全ての情報が頭の中に入って来る。
建物の構造。
人の位置。
教会内の人間の持っている特性。
そして、そのレベル。
窓から入る風の流れ。
人の良く通る廊下。
建物の老朽化具合。
様々な情報が頭の中で濁流のように流れて来る。
すげぇ……すげぇ、けど――――頭がクソ痛い!!!!
慌てて特性の枠から【星の加護を持つ者】を外す。
ああ、痛かった……。
ビキビキ? メリメリ? まあ、そんな感じの痛さが脳味噌の表層に残っているような気がする。まあ、多分ただの幻痛だ。
頭に入って来る情報が多過ぎる。俺の一般ピープル……っつか、猫の脳味噌だと処理し切れない。
いや……待てよ?
脳味噌の処理能力が足りないなら、増やせば良いんじゃん?
【全は一、一は全】
適当な武器を2、3個浮かべてから【星の加護を持つ者】を装備し直す。あ、能力も全部装備した状態になるから、一々装備し直す必要ねえんだっけか。
一瞬ビキッと頭が痛んだ気がしたが……気のせいだった。
アクティブセンサーの取得した情報が頭の中に次々に捻じ込まれるが、空中に浮かべている武器の数だけ俺の思考が分割されるので、適当に流れて来る情報を割り振ってそれぞれが情報を閲覧する。
よし、これなら大丈夫だ。
でも、これだと【星の加護を持つ者】単品での運用は無理だな? 【全は一、一は全】との合わせ技じゃないと、とてもではないが使えない。
まあ、でも、幸い【全は一、一は全】の方は発動に特にリスクらしい物もないし……って言うか魔力の支払いすらねえし、運用は問題無いな。
出していた武器を引っ込めて【全は一、一は全】を解除し、特性を【魔族】に付け直す。
よし、脱出するかね。
【仮想体】に扉を開けさせて、廊下をキョロキョロと確認。
人は居ないっと。まあ、確認するまでもなく、さっきアクティブセンサーで見たから知ってたけどね。
金の鎧が扉を閉めて、鍵をかける。そして、鍵を刺した状態のままボキッと圧し折る。
よし、これで時間稼ぎにはなるだろう。
おっと、ついでに【封印術式】もかけ直しておくか。……っと、俺のかけた天術だと、普通の人間じゃまず解除出来ない。
クソビッチがいくら憎らしいと言っても、一生ここに閉じ込めて置く程の事でもない。とか温情をかける気になったのは、さっき一撃叩き込んでスッキリしたからだけど……。
とりあえず24時間くらいで解除されるように設定しておく。
コレで良しっと。
さぁて、行きますかね。
どうやら、今は都合良くあの双子も爺も居ねえみたいだし、ちゃちゃっと仕事しましょうか?
え? 脱出するんじゃないのって?
騒ぎが起こるなら即脱出しようかと思ったが、静かに脱出出来たから作戦変更。
教会の中に有るレア物を根こそぎ頂いて行きます!!
泥棒? いいえ、これは慰謝料です。
俺の心に大きな傷を残したので、その支払いです。俺の心の傷は、そりゃぁ、もう、大きくて大きくて、レアアイテムを一杯手に入れないと埋まりません。
これは、決して泥棒などではありません。ええ、決して違いますとも、はい、ええ、本当に、全然、ちっとも、そんな物欲に駆られるような下心は一切ございませんとも、本当に、うん、本当に本当に。
はい、と言う訳でアイテムは全部貰って行きますね?
歩いて居るだけで目立つ【仮想体】を装備品ごと収集箱に戻し、「ひゃっほう」と歩き出す。
【隠形】で気配と音を断ちつつ、トコトコと廊下を歩く。
教会なんて初めて入ったけど、結構殺風景なんだなぁ?
綺麗は綺麗なんだけど、廊下も部屋も碌に物が無くて飾りっ気が欠片も無い。……って言うか、収集すべき物が何も無ぇ!!!?
クソビッチが色んな魔道具を魔族から盗んでたって言ってたから、絶対教会にそれを集めてると睨んだけどな……?
いや、待て。
咋に置いてあるとは限らないじゃん?
さっきアクティブセンサーで教会の構造を見た時、地下室があった。
何かを集めて隠すなら、やっぱり地下ですよねぇ。
よーし、レッツら地下室!
そして根こそぎアイテム盗んでケツ巻くって逃げるぞぃ! ……あ、盗むって言っちゃった。




