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1-15 脱出

 モタモタしている間に件の屋敷へと着いてしまった……。

 いかん…どうしよう。結構本気でヤバい展開じゃないのコレ?

 猫の体で大丈夫か、と心配になる程心臓をバクバクさせる。いや、だって、このまま行くと、あの化物達と直接戦闘って事だぜ?

 こう言う時はあれだな。うん、そうです、その通りです。こんな時にやる事はあれです。


 神  頼  み  ですよね。


 ええ、そうですよ? だって、もう自分じゃどうしようもねーですし。

 屋敷の前に居た、やたら(いか)つい顔の魔族。多分見張りだろうけど……町の入り口のように人間の見張りが居ない。魔族の重要な場所…なのか…?

 すると、その厳つい顔の魔族が荷車に乗って来た。

 来ちゃった!? 顔怖い人来ちゃった!? あっ、人じゃねえや魔族だ。

 などと思っている間に、鎧の入って居る木箱を開けて中を確認し始めた。


 やっべぇぇえええ!


 籠手の包まれた布の下で、子猫の小さな体を更に小さく丸め、【隠形】で気配を消す。

 見つかりませんように見つかりませんように見つかりませんように……!!

 本気の御祈り。なんたって命がかかっている。

 俺の隠れている木箱の蓋が開けられる。

 体が震えないように、目を閉じてグッと歯を食いしばる。

 気付かれるな―――悟られるな―――存在感を限界まで削り落とせ―――敵の知覚から逃げ続けろ―――!!


『【隠形 Lv.1】のスキルレベルが上がり【隠形 Lv.2】になりました』


 なんかレベルが上がった。だが、今はそんな事を気にしている余裕はない。

 【隠形】発動中に感じる体の重さも若干増した気がするけど、そんな事今はどうでもいい! 木箱を覗き込み、布をずらして籠手と脛当てを確認している魔族がさっさとどっかに行ってくれないとマジでヤバいから…!!

 時間にすればたった数秒の出来事。

 魔族が蓋を開けて、中に入っている物を確認するだけの、それだけの短い時間。

 そのたった数秒が永遠に思える程長く感じる。

 鼓動が早くなるのが五月蠅くて仕方ない。


「よし、問題無い」


 上の方かそんな声が降って来て、丁寧に布が戻されて蓋が閉じられる。再び木箱の中が暗闇に満ちる。

 ………うまく隠れられた……?

 強面が荷車から降りて、御者台に座ったままの御者の方に歩いて行く。すると、護衛達にも何か話があるらしく、呼ばれて皆が2人の周りに集まる。


 荷馬車の後ろに誰も居なくなった!!


 チャンス!

 古人曰く「ピンチとチャンスはとっても仲良し」ってね!

 積まれて居た荷を木箱ごと回収―――その間2秒。


『【木箱 Lv.8】

 カテゴリー:素材

 サイズ:中

 レアリティ:F

 所持数:3/30』


『【布 Lv.10】

 カテゴリー:素材

 サイズ:中

 レアリティ:F

 所持数:3/30』


『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』


 おっ、棚ぼたラッキー。

 とか言ってる場合じゃねえ、さっさとケツ巻くって逃げよう。

 一応外の様子を【バードアイ】で見つつ、レベルの上がった【隠形】で気配を消して馬車から降りる。

 そして、近くの植え込みまでスーパーダッシュ!!

 走る時にも、魔族達から馬車が死角になるように気をつける。

 茂みの中にダイブ!

 飛び込んだ勢いのまま、土の上をコロコロと転がって体を小さくする。

 どうだ? 気付かれてない? 気付かれてないよね?

 魔族達は話し終わった後、荷車の中をもう1度確認するような事もなく、馬車を敷地の中へと引いて行った。


「ミィ…」


 ふぃ~……世紀の大脱出成功!

 力が抜けて地面にペタンっと寝転ぶ。

 ああ、緊張した…っつかしんどかった……。出来ればこう言う事は2度とやりたくねえなぁ。

 町に着いたんだし、これからは平穏でマッタリな猫生活を目指そうか? いや、そもそも平穏な猫生活ってなんだよ。

 飼い主か。

 誰かに飼って貰ってゴロゴロムシャムシャな生活か……それも良いかもしれない。

 元人間として人に飼われると言うのは正直抵抗があるが、引き換えに働かなくて良いし、飯も勝手に出て来るし、危険な事しなくて良いし……。

 あれ? 良いんじゃない? 本当にナイスアイディアじゃない? ヒモにでもなったと思えば、飼われている事実は受け入れられる。

 よし、よしよし。

 しかし、飼われる先も重要だ。その日の食べ物にも困るような貧困家庭に拾われた日にゃ、俺の方が食料の面倒をみるなんて展開になりかねない。金持ちなんて贅沢は言わないから、ちゃんと飯くらい食える所が良い。そして暖かい寝床と、レアなアイテムと、可愛い女の子が居ればもっと良い。

 いや、でも待てよ? コッチの世界の人間って魔族の奴隷的な扱いらしいじゃん? 猫飼う余裕とかなくね? じゃあ魔族に飼われるか? ……動物虐待の末にぶっ殺される未来しか見えねえな…。

 はぁ……やっぱり気ままな野良(のら)暮らしが安定なのかなぁ…。

 気合いを入れ直して立ち上がる。

 そろそろ夜が明ける。……つっても、変な時間に起きて一晩中緊張しっぱなしだったから疲れた。どこかで仮眠取らねえとやってられねえな。

 折角町に来たんだし、ちゃんとした寝床―――は流石に無理として…、せめて木の上よりは寝心地の良い場所が見つかると良いなぁ。

 敷き詰めた石で舗装された道を歩く。

 足元が固い…。ぶっちゃけ土の上の方が歩きやすいわ。元の世界でアスファルトを歩く猫を思い出し、その苦労が偲ばれる。

 森の中ではそこまで気にならなかったが、人の世界に足を踏み入れると己の小ささを改めて実感してしまう。

 視線が低い。

 目に映る物全てが大きい。

 家一軒通り過ぎるのに凄まじい歩数がかかる。

 受け入れたつもりで居たけど、自分が子猫である事実にちょっとだけ心が挫けそうになる……。


「ミィミ」


 落ち込んでる場合じゃねえや。凹みタイム終了!

 元気に寝床探しの小さな旅に再び歩きだす―――途端に、通りの陰から何かがノソッと出て来た。

 一瞬癖で「魔物か!?」と身を固くしてしまったが、町の中にそんな物が闊歩している訳も無く、今俺の前に現れたのは犬だった。

 痩せ細ったガリガリの犬。

 泥や埃で黒ずんだ全身の毛が、雨や体液を吸って固くなって体に張り付いている。目には生気がなく、ただただ飢餓の苦しみから解放されたい一心で獲物を求めて涎を垂らしている。

 一瞬本当に魔物かと思ってしまうぐらいヤバい雰囲気を出していた。

 俺を見つけるなりグルルっと喉を鳴らす。

 ………もしかして、狙われてますか俺? 魔物だけでなく、腹ペコな犬からも狙われるんですか俺?

 逃げるか追い払うか、迷っている間に犬が襲って来た―――!?

 ビクッとなる。だが……


――― 遅い


 それも、笑える程に。

 だが、決して犬の動きが悪い訳ではない。ガリガリの体の割りに、獣特有のしなやかで柔軟な筋肉稼働が損なわれていない。

 飢餓でギリギリまで追い込まれた精神が、肉体の限界の能力を発揮している……多分! まあ、それぐらい見事な走りだって事。

 しかし―――俺にはそれが(のろ)く感じる。

 この猫の体は、今まで収集を続けた事で身体能力が強化されている。身体能力ってのは何も単純なパワーやスピードだけの話ではない。感覚依存の能力だって強化されている。それは反射であったり、動体視力であったり…。

 特に馬車の中で身体能力強化の効果(中)と(大)を貰ったのが大きい気がする。馬車に乗る前と後では明らかに体の軽さや、周囲の音や匂いを拾う精度が違う。

 自分の体の変化に若干の戸惑いを感じつつ、向かって来る犬に意識を集中する。

 石を投射すれば、カウンターの要領で倒せる。……ただ、威力が出過ぎて多分犬の顔をグチャグチャにしてしまう。って言うか下手すれば一撃で殺してしまう。

 命を狙って来ているとは言え、この犬も腹が減って止むに止まれずの行動だろう。

 魔物と違って、よく見慣れた動物を殺す事への忌避感も有るしな。

 と言う訳で。

 体勢を低くして、左前脚をグッと踏ん張る。からの―――


――― 猫パンチ(強)!


 突っ込んで来た犬の爪を避け、カウンターで短い右前脚を犬の鼻っ柱に叩き込む。


「ミャァッ!!!!」


 犬が「痛たたた…」となる程度のダメージを想像しての猫パンチだった……のだが、実際はゴガンッと重い音をたて、叩いた犬の首がバットでぶん殴られたように横に吹っ飛んだ。

 鼻と口から血を吹きながら「ギャインッ」と地面を転がる犬を見て血の気が引く。


 ぇぇぇええええ……!?


 猫パンチって、もっと可愛らしい物じゃありませんでしたっけ…?

 身体能力上がってるって言っても、ただの子猫ですよ俺!?

 犬がヨロヨロと立ち上がって、怯えた目で俺を一瞥してから頼りない足取りで逃げて行くのを黙って見送る。

 いやー…流石に予想外過ぎた。ゴメンね犬さん。



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[気になる点] 、獣特有のしなやかで柔軟な筋肉稼働が損なわれていない。 稼働→可動では
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