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5-19 「そもそも俺は●●●だ」

 魔族の去った町は、上や下への大騒ぎだ。

 勇者への文句は30分程で言い飽きたのか、そこからは町から逃げる準備を始めて、恐ろしい程の速度で夜逃げの準備を終わらせ、背後に迫る魔王の影に怯えながら皆揃って逃げて行った。


「何処に逃げるつもりなんだか……」


 隠れて居た木陰から顔を出して、シルフさんが溜息を吐く。

 その視線の先には、夜逃げ………昼逃げの住人達の後ろ姿。

 哀れで、哀愁漂う皆の背中。

 まあ、あの方達が町を捨てる事になったのは、俺のせいと言えばそうなんですけどね……。元をただせば、この町全部食い潰さんばかりだったクリムゾンジャイアントが全部悪い訳で、それを倒して皆を救ったのに文句を言われてもコッチは「知るか」って話し。

 責任? 何それ美味しいの? 社会人としてどうなのって? 今の俺は猫ですし。責任なんて負えませんし。都合のいい時だけ猫になるなって? いや、知らんし。実際猫なんだから仕方ねえじゃん。


「他の町に行けば(たちま)ち魔族に捕まって殺され、森にでも隠れれば魔物に食われる。人間の逃げ場所なんてどこにもないのにな」


 住民の背中に向ける視線が鋭い。

 その視線に込められた思いは「ざまぁみろ」だ。

 俺はまったく気にして居ないが、現勇者のシルフさんにしてみれば、住民達の勇者に向けて放たれた刃のような言葉は、全て心を切り裂いて突き刺す物だったのだろう。

 だからって、その視線は止めてあげて……。

 アンタ元々狐目で何考えてるのか分かんなくて怖い人なのに、睨んでるとクソ程雰囲気怖いから。

 とは言え、住民達の未来が“死”しか無いと言うのなら、ここで見捨てるのは後味が悪い。

 この状況にしたのは俺でもある訳だし。

 なんとかならんもんかと、思考でシルフさんに相談してみる。


「なんともなんねーだろ。まさか、住民達を守って別の国にでも行くってか?」


 ハンッと鼻で笑われる。

 そんなおかしい? まあ、流石に住民守って国境越えるつもりはねえけどもさ。


「……お前、人が良過ぎないか? あんだけ文句垂れやがった奴等も救おうってか?」


 いや、そこは別にどうでも良いです。

 何故って、俺には一切関係ないクレームだったし。


「……なんで、そんな平気なんだお前……? 誰も勇者になんて期待して無い。10年前、命がけで戦った勇者達の覚悟は大した物だし尊敬する。けど、そんな物普通の人間には一欠片も伝わらない。アイツ等が気にしているのはいつだって、自分に影響のある“結果”だけだ。あの戦争に参加した勇者を始めとした戦士達が、どれだけの覚悟を持って戦ったのかなんて、興味が無いし、知ろうともしない。自分達が血を流すのは嫌がるくせに、必死に血を流して戦った奴等を、“敗北”の結果だけで無能と決めつけて、自分達に降りかかる不幸に不満を並べるだけで、自分じゃ何も変えようとしないクソ共だ」


 うわぁ……それ言っちゃいます? 勇者がそれ言っちゃいます?

 部外者の俺ですら言わないようにしていた事をハッキリ言いなさる……。

 まあ、言いたい気持ちは分からなくも無いけどね? 今回は俺に無関係だが、俺だってあの手のクレームを直撃されたらブチキレる。


「それを、一々助けるってか?」


 いや、一々は助けない。

 今回が特別なだけや。


「……底無しのお人好しだな」


 お人好しでは無い。むしろ性格は悪いと自負しております。


「だが、まあ、そんなだから剣の勇者なのか……」


 何度も言うが勇者でも無い。


「……お前、本当に助けたいのか?」


 うん、出来るなら。

 その思考を読み、「ハァァぁっ」と深い、深い溜息を吐く。


「方法が無くも無い……」


 え? マジで?

 結構無茶言ったけど、なんとかなんの?


「俺が七色(しちし)教に召喚されたって話はしたろ? その伝手(ツテ)で、連中に話を通せば、アッチで何か手を打ってくれるかもしれない。ただ、あんまり期待するなよ? 連中も近頃は動きがおかしいからな」


 流石神様に仕える人達、困った時には頼りになるぅ。

 え? でも、何? 動きがおかしいってどう言う事よ? 世界を平和にする為に勇者を集めようとしている正義の団体じゃないの?

 まあ、でも、とりあえず、何とかしてくれる可能性があるのなら、その七色教の方々に頼るしか無いんだけども。俺等じゃ、あの人達の面倒は見られないからな。

 「じゃあ、そんな感じでお願いします」と思考を送る。


「連絡は取るけど、それはもうちょっと後でな」


 ……後で? 連絡するなら早い方がええんでないの?

 まあ、俺自身はその七色教に繋がり(ツテ)は無いし、シルフさんが後にすると言うのなら、それに従うしかないか……。


「それより、今の内に町の中に入っておこう。俺達がこの町に留まって居るか、魔族共が確認に来るかもしれないし、一応形だけでも居る振りはしておかないとな?」


 すぐに魔王城に行かなくて良いの?

 ゆっくりしてると魔王が来ちゃうんじゃないの? それで、もしエンカウントしたら、この計画終わりじゃん?


「魔王の城はここから急いで約半日。逃げて行った魔族連中が戻って、魔王が直ぐに城から出立したとしても来るのは1日後だ。移動するのは明日の早朝で問題無い。って言うか、ここで休んでおかないと、この先は休みを入れる間が無い」


 まあ、そうか。

 ここから魔王城に移動を始めたら、街道を歩くにも前から来る魔王の姿にビクビクしなきゃならないし、そこから魔王の城に乗り込んだら脱出して国を抜けるまで間違いなくノンストップだ。

 休める時に休むのは確かに必要だ。


「とりあえず飯でも食っておくか」


 言いながら、適当な家から薪を拝借して、無人の町のど真ん中で火を起こす。

 近頃の飯当番は全部シルフさん任せだ。

 本人はいつも「味に期待するな」と言うが、地味に料理上手なんだよなぁこの人。

 同じような食材ばかりなのに、舌を飽きさせない工夫をしてくれるし、正直料理の一点に関して言えばこの人の好感度はかなり高い。……まあ、この人の人間性はあんまり信用して無いけど……。

 それはそうと、ここが作戦前の最後の休息だと言うのなら、今のうちに訊いて置かなければならない事がある。


 この人が、魔王城にまで侵入して何を求めて居るのか?


 何かしら、この人にとって譲れない物だと言う事は分かっている。

 最初は、他の勇者の為に魔王の手元にある神器を探しているのかと思ったが、この人は根本的に勇者である事を諦めて居る。って事は、神器を求める理由は無い。

 じゃあ、何を欲しがってるのよって話。

 俺も魔王城に一緒に侵入するんだし、知っておけば俺のレアアイテム探しのついでに見つけてやれるかもしれないしね? まあ、渡す前に収集箱に登録させて貰うけど……。

 ってな訳で、素直に訊いてみる。


「俺が何探してるって? ……そんな事に興味あるのか?」


 そら有るだろ。

 魔王怖がってる奴が、魔王城に忍び込む程の物だし。

 シルフさんがジト目で【仮想体】を見る。

 観察する……と言うより、素直に言って良い物かと迷っている感じ。

 徐々に大きくなる焚き火に視線を移し、細い瞳の奥で何かを考えている。

 いや、別に、そこまで言いたくないなら良いですよ?

 無理に聞かなくても、俺の方が協力できないってだけで、特にシルフさんにリスクが発生する訳でもねえし。

 そんな俺の思考を【妖精の耳】で見たのか、諦めるような溜息を1度吐く。


「まあ、良いか……お前はベラベラ人に喋る奴でもないし」


 言うと、腰の四次元●ケットから鍋を取り出して火にかけ、【スプラッシュ】の天術で水を入れる。


「俺が欲しい物は―――」


 一瞬の溜め。

 思わず俺も、緊張でゴクリと唾を呑みそうになる。


「チン●だ」


 何言ってんだこの尻軽(ビッチ)

 全力の真顔で返した。


「いや、待て、違う、誤解してるぞ。俺はただ、股にチン●が欲しいだけだ」


 何で卑猥に言い直したんだこの尻軽(ビッチ)

 俺の中でこのシル……ビッチさんの情報の最上段に“性欲の権化”と刻んでおく。


「いや、いやいやいや、待て、違う! 本当に違うから! ああ……ええっと、認識の根底が間違ってるんだ」


 間違ってるのは、お前の貞操観念だと思うの。


「だから違うんだって! そもそも俺は―――」


 そして、ビッチさんは、俺のこの人に対する認識の何が間違いなのかを口にする。


「―――男だ!」



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