5-6 勇者の裏技
魔王の城に侵入……?
侵入って言いましたか?
之繞とか親友とかの聞き間違いじゃ無くて?
侵入って事はアレですよね? 分かります分かります。そう、アレです。不法侵入の侵入ですよね?
いや、なんでだよ!?
なんで魔王の城に忍び込むんだよ!?
気付かれずに魔王に近付いて、「その綺麗な顔を吹っ飛ばしてやる!」とかやるんか? そしてあわよくば経験値とレアアイテム一杯手に入れようってか!?
……
…………
…………俺何日か前にやったばかりだわ、それ。
そうだよ、俺もうそれやったじゃん?
忍び込んで、魔王の体を文字通りに粉々に吹っ飛ばして、城に有ったレアアイテム一杯貰って来たじゃん!
なんだ、じゃあ、もう、アレだよ、うん。罪悪感とか恐怖とか感じる必要ねえよ、うん。だってもう1回やっちゃってるし。
「手伝ってくれるか?」
いいよ。
【仮想体】が「うん」と頷く。
「そうか。国境超えて来た甲斐があったな? お前と会う為に、もう1回国境越えするところだった」
ん? あれ? そう言えば「居城に侵入する」って微妙な言い回しじゃない?
勇者が魔王の城に侵入するって事は、当然狙いは魔王の首だろう。であれば、「魔王を倒すのに協力してくれ」って言うのが普通じゃない?
「いや、魔王バグリースには手を出さない」
は? じゃあ、何しに行くの? サイトシーイングですか?
そんな事に関わってる暇ねーんだけども?
「“手を出さない”と言うより、“手を出せない”だな」
どう言う意味じゃろうか?
……まさか、人質を取られてて手を出せない……とか? それならば、その人質を救出する為に魔王の城に侵入しようとするのも頷ける。
「お前は魔王を2人倒しているし、腕に相当自信があるのだろうが……お前が倒した魔王アドレアスと魔王バジェットは、どちらも10年前の戦争で先代が死んで代替わりしたばかりの、言うところの“新参組”だ」
新参組……とな?
昨日の歴史の授業で、戦争に参戦した8人の魔王のうち半分の4人が死んだって話は聞いた。
俺が倒した2人は、その死んだ4人の特性を継承された後釜だったって訳ね。
「対して、魔王バグリースは戦争の“帰還組”だ」
帰還組って事は、10年前の戦争の生き残った方の魔王なのか。
「ある種の例外はあるが、基本的に魔族や魔王は生きてる時間がそのまま強さに直結する」
それは、分かる。
魔族はどうやら人間と比べて相当長命のようだから、老化による肉体能力の低下が100年程度では無いも同然なのだろう。
それならば、年齢=能力を鍛えた時間と言っても過言ではない。
だから、歳食ってる魔族や魔王で有る程強いって事になる訳だ。
実際、100年前から生きてるらしい“最古の血”の3人が魔王の頂点に居る訳だし。
「“帰還組”は、少なくても魔王として30年以上力を研鑚して来た連中だ。魔王として10年ぽっちの“新参組”とは、文字通り格が違う。お前と言えど、挑んだところで返り討ち遭うだろうよ」
マジか……。
いや、でも【魔王】の特性には能力限界突破の効果が付いてるから、どれだけ鍛えても能力値の頭打ちが無い。
鍛えたら鍛えた分だけ強さを得られるんだから、そりゃそうか。
30年魔王として能力を磨いて来たって事は、単純に考えれば新参組の3倍以上の強さを得て居るって事になる。
………3倍か……。
アドバンスを倒した直後の俺がアビスと戦った時、スキルも魔法も使ってない野郎の2割の力でも対応がギリギリだった。
アビスの1割がおよそ“新参組”と同程度だとすると、“帰還組”はアビスの3割位って事になる……。
……なるほど、確かにこりゃヤバい。
アビスと戦ってから能力強化したし、新しいスキルも手に入れて、必殺技も編み出した。
だが、それで勝てると言う保証はどこにもない。
魔王を倒して強くなるってのは俺の目的ではあるが、だからと言って倒せない相手に挑みたい訳じゃない。
有る程度の危険は呑み込むが……帰還組と戦うにはちと早いと思う。
俺の神妙な雰囲気が伝わったようで、シルフさんが納得したように頷く。
「“手を出せない”の意味を理解して貰えたようで何より」
いや、でも、倒さないってんなら、結局魔王の所に何しに行くのさ?
「ちょっと探し物をしていてな? それが、もしかしたら魔王バグリースの元にあるかも知れんらしい」
……え?
つまり、こっそり魔王の城に忍び込んで、目的の物を探してかっぱらって来ようって話なの?
それ……普通に泥棒じゃん?
「そうだよ、泥棒だよ」
コイツ、まったく悪びれねえ!?
悪戯した小学生くらい悪びれねえな!!
………まあ、俺も魔王の城に忍び込んで、あまつさえ皆殺しにしてからアイテム奪ってるからなぁ……。
泥棒どころか強盗殺人してんじゃん俺。
まあ、魔族相手だから特に気にしないけど。
………って、アレ?
「なんだ?」
さっきから、なんか、この人と会話が成立してない?
俺、一言も発して無いのに……っつか、発したところで、レティじゃないと会話成立しないけど……。
「………今更だな? 噂では隙の無い完璧な人間って感じだったが、本物は随分抜けてるのな?」
ほっとけ。
剣の勇者が謎なくらい過剰評価されてるだけで、俺自身は元々隙だらけな一般人だっつうの。
「まあ良いや、それぐらいの奴の方がコッチも付き合いやすいし。それと、何で喋って無いのに会話が成立してるかっつう話だが、答えは―――ああ、丁度良いからお前に渡しておく」
言うと、腰から緑色のオーラを纏う短剣を抜く。
「ほら、お前も旭日の剣を抜けよ」
……え? なんで? いきなり決闘でも始めんの?
いや、流石にそれはねえか。
言われた通りに【仮想体】に旭日の剣を抜かせる。
すると、シルフさんが旭日の剣の刀身に、自身の短剣の刃をコンッと当てる。
「“共鳴”」
キィンっと耳鳴りのような音が2つの神器から響き、旭日の剣と白いオーラとシルフさんの短剣の緑のオーラが、手を握り合うように微かに混ざりあう。
すると―――
『派生スキル【妖精の耳】が譲渡されました』
えッ!? 何!? 何がどうなったの!?
急に来た?
急や!
――― おい、聞こえてるか?
は?
頭の中に声が聞こえた。
何事かとキョロキョロすると、俺の意思を受けた【仮想体】も同じようにキョロキョロと辺りを見回す。
「その様子だと、ちゃんとスキル受け取ったみたいだな? 俺もやるのは初めてだったから、本当に出来るのか疑問だったんだが。なるほど、これも勇者の特権って奴かな?」
どう言う事だ?
とりあえず先程いきなり現れたスキルの確認をする。
『【妖精の耳】
対象の表層にある思考を聞きとる事が出来る』
なんじゃ、そりゃ!?
考えを読めますってか!?
ってか、何!? スキルの譲渡って出てたけど、スキルって受け渡し出来るもんだったの!?
「神器の共鳴現象を利用した裏技って奴かな? まあ、話じゃ受け渡し出来るスキルはかなり限定的らしいけど。これはお近づきの印って事で」
何それ! 神器ってそんな事できたの!?
いや、いやいやいや、それよりも問題なのは【妖精の耳】の方だろう!? 今までの会話の中で俺が考えて居た事、全部この人に筒抜けだったって事じゃん!?
ヤバい、ヤバいって!! 何考えてたか思い出せないくらいテンパってるけど、絶対聞かれちゃいけない事考えてたって!?
「ああ、お前の思考は聞こえてたけど……お前、何か特別な事してないか? 表層の思考も小さくて細いし、無茶苦茶聞きとり辛いんだよ。まるで、赤ん坊か、動物でも相手にしてる気分だ」
大当たり!!
いや、でも、ヤバい事は聞かれてないっぽい……? セーフ? セーフだよね? セーフって事にしとく? しておこう。俺の精神の平穏の為に。
「あ、それと、神器を使ったスキルの譲渡に関しては秘密だぞ? 知られると色々面倒臭いだろ?」
それは同感。
神器を使えるのは勇者だけだから、この裏技は勇者の特権だ。
受け渡し出来る物に制限があるって言っても、これは超チートと言って良い。
だって、俺に【妖精の耳】を渡した後もシルフさんが俺の思考を読んで会話してるって事は、この能力譲渡はスキルその物を相手に渡しているのではなく、相手にコピーした物を渡してるって事だ。
って事は、勇者の中の誰か1人が持つスキルを、勇者全員で共有出来るって事になる。
………ヤバいなコレ! 勇者の戦力を爆発的に底上げ出来んじゃん!
でも、アザリアはこんな事出来るなんて話してなかったな……? もしかして、勇者の中でも一部しか知らない、本当の意味での“裏技”なのか?




