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1-12 お宝を求めて

 皆様こんばんは、毎度おなじみの猫です。

 現在、忍者ばりに隠密行動をしている最中でございます。

 森を抜ける道を、異形達の守る荷馬車が休む事無く進む。その20m後を、森の木々と夜の闇に紛れながら、気付かれないように俺が走る。

 少し離れ過ぎかもしれない…とも思ったが、今は【隠形】を解いているので警戒するに越した事は無い。

 本当は【隠形】は発動しっ放しにしてもう少し近くに居たいんだが、使い続けると疲れるからな…仕方無い。

 チャンスを待つ。

 近付くチャンス…。

 ……とは言え、正直ちょっと「もう諦めたら?」と心が折れかけている。と言うのも、さっき野生の魔物―――クビナガイーターの首の短い奴―――が、数匹群れになって荷馬車に襲いかかって居た。多分、明かりに釣られて来た奴だ。

 それを、異形達は秒殺した。

 それぞれの手の平から氷や雷が迸り、あっと言う間に魔物の群れが死体の山になった。

 …もしかしなくても、あれって所謂(いわゆる)“魔法”って奴ですよねぇ…?

 魔法が存在する事を予想してなかった訳じゃないけど、本当に見ると凄いビビる。って言うかビビった!

 いや、だって、何も無いところから雷がバリバリ走ったり、氷が魔物に突き刺さったりしたらビビるでしょ!?

 え? 俺の投射(スリングショット)も似たり寄ったり? いやいやいや、俺のはただ物をぶん投げてるだけの可愛いもんだから。


 ともかく、肉体的な戦闘能力だって1人にすら勝てなさそうなのに、魔法みたいな超常な力を持ってるとか…あの異形達ヤバ過ぎるでしょ…。戦闘になったら絶対死ぬわ。

 死にたくないなら、あの荷馬車は見なかった事にして通り過ぎるのが正しい。だが、それでもあの荷馬車の中身が気になって仕方ない。

 収集家としての欲求ではなく、何と言うか……使命感? いや、義務感? まあ、そんな感じの物が心の中に湧いて来て、こうして今もチャンスを窺っている。


 【隠形】を使えば近付く事は多分出来る。

 問題は、護衛達の目を掻い潜り、どうやって荷車に侵入するか…だ。

 相手が「子猫だから」と油断してくれれば良いが、夜中に森の中を歩く子猫なんて、普通に考えれば怪しく見える。下手をすれば、魔物と判断されて速攻で魔法を叩き込まれる可能性だってある……って言うか多分される。

 ん?

 荷車と護衛達が足を止めた。

 休憩…か?

 あの異形達は、見るからに体力∞みたいな感じだけど、荷車を引いている馬達はそうじゃないだろうしな。

 が―――違った。

 猫の体になってから味わう、何度目か分からない毛が逆立つような悪寒…!


――― 何か居る!?


 背後から押されるような錯覚。

 大きな気配―――いや、殺気が迫って来るのを、動物の感覚が教えてくれる。

 ヤバい何かが来る!

 慌てて【隠形】で気配を消し、木に登る。

 次の瞬間、俺の足元を黒い影が通り過ぎて行った。

 影―――そう、影だ。

 2m以上ある狼のような形をした影が走って居た。

 影の獣。

 闇の中に居れば溶けて見えなくなってしまう、曖昧で、明確な存在感。


 森の主


 そんな言葉が頭に浮かんだ。

 俺の事をスルーして(隠形使ってるから当たり前か…)、立ち止まっている荷馬車と護衛達に突っ込んで行く。

 もしかして、さっき異形達に魔法で殺された魔物達が手下とかで、その仇討ちに現れた…とか?

 異形達も、影の獣に気付いたから足を止めていたようで、すでに荷馬車を護るようにポジショニングを整え終わっている。


「シャドウダンサーだと!? こんな所に現れるのか!?」

「確かに予想外。だが、俺達が慌てる程の事じゃない」

「そうだ。何の為の護衛だと思っているんだ? むしろ、少しは歯応えがあるのが現れて嬉しいじゃないか」

「それは言えてるな」

「誰が倒すか勝負するか?」

「ノった!」「良いねぇ!」「そうこなきゃ!」

「やるのは構わないが、くれぐれも荷を護る事を最優先にな」


 御者の鼠頭に言われ口々に「分かってる」と返す。

 そして、影の獣との戦いが始まる。

 木々の間を様々な魔法が飛び交う。しかし、影の獣はその全てを避ける。滑るような軌道で、あるいは単純なスピードで、果ては木の影に潜って移動したり。

 雷や炎の魔法が放たれる度に辺りが明るくなり、何も知らなければ遠目にはお祭り騒ぎに見えたかもしれない。

 ………いや、呑気に見てる場合じゃねえよ! もしかして、これってチャンスじゃないか!?

 チャンスチャンス潜入チャンス的な?

 隣の木の枝に、リスのような動きでヒョイッと飛び移る。

 【隠形】を切らさないように気を付けながら木から木へ飛ぶ。

 異形と影の獣が更に激しくバチバチやり合う。

 異形達は森の中と言う事もあって手を抜いているのか、中々攻撃を当てられなくても焦って居る様子がない。

 一方影の魔物は、絶えず放たれる魔法に阻まれて近付く事が出来ないで居る。

 どちらかが()れて動けば一気に決着がつきそうだ。多分異形達の勝ちって結果で。

 影の魔物は決して弱くない。俺が戦ったら、間違いなく100回やって100回負ける。けど、異形達は更に強い。詳細な能力を計るような力は俺にはないが、それでも背筋を走る悪寒が1人1人の桁違いの強さを教えてくれる。

 異形達が本気になったら、その瞬間に戦いは終わる。

 荷馬車へ侵入するなら、それまでがチャンス―――とは言え、もし発見されればその瞬間に魔物と一緒に殺される可能性は高い。

 慎重に、かつ俊敏に!


 30秒かけて、荷車に飛び移れる枝まで移動。

 問題はここからだ…。

 皮張りの荷車にどうやって入る?

 当然前と後ろは固定されてないから捲れば簡単に入る事が出来る。しかし、前は御者の鼠頭が居るから危険過ぎる。かと言って、後ろは絶賛戦闘中。あの距離まで近付いたら、護衛の異形に見つかる可能性が高い。

 ……詰んどるやないかい―――となりますな、普通なら。

 タイミングを計る。

 異形達が大きな音を放つ攻撃、または魔法を使う瞬間が勝負…!

 少しその場で待って居ると―――牛のような角を持った気色悪い肌の異形が、手の平に大きな火球を生み出す。

 あれは、凄そうだな? よし、行こう!


「おいおい、【クリムゾン】使うのかよ?」

「森燃やすのは大丈夫か? 後で魔王様に怒られても庇ってやらんぞ」

「はんっ、最低限の威力で撃つ。森が燃えたら水系の魔法ですぐに消せば良いだろうが!」


 巨大な火球が、道を横断していた影の魔物を捉える。

 同時に俺は荷車の天井に向かって飛ぶ。


「灰になりな!」


 ドンッと爆発。

 衝撃と熱波が辺りに広がる。

 一瞬―――音と色が無くなったような錯覚。

 腹の中がビリビリとした余韻が響く。

 


*  *  *



 異形の放った火球の爆発―――その時、俺は荷馬車の中に居た。

 あっぶね……!

 外に居たら、間違いなく爆風で吹っ飛ばされてたわ!

 さて、俺がどうやって中に入ったかと言いますと……天井を見上げる。

 天井にあいた小さな穴。

 そして下に転がるアイアンナイフ。

 はい、そうです。荷車の上に飛んで、アイアンナイフを投射(スリングショット)で撃ち下ろして穴を開け、そこから侵入しました。

 穴は小さいけど、猫は頭さえ捻じ込んじまえば後はヌルっと入れるから楽だ。

 天井が破ける音と、ナイフが落ちる音は爆音が消してくれたからバレてない筈。

 小説の怪盗にでもなった気分だな…。


 ともかく―――侵入完了!



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