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4-33 猫はとりあえずお別れを言う

 現在地、ジャハルから西に在る山の中腹。

 はい、そうです。

 一昨日の夜に偵察に行った、例の気味の悪い紫肌の魔族が居る屋敷の前だ。

 レティ達王族の呪いを解いた俺は、その足でここに走って来た。

 ………疲れてるのに、そこから全力マラソンするって、俺って本当に働き者じゃない? 誰か俺の事を褒めて良いのよ?

 そう言えば、一応“剣の勇者”の事を話さないように口止めして来たけど大丈夫かな?

 幸いな事に、王族一家とメイドさんくらいにしか姿は見られてないから、多分大丈夫だと思うが……。ってか、大丈夫じゃないと困る。

 そもそも、今までこの国の中で“勇者モドキ”を出さなかったのは、俺の居場所を魔王達に知られたくなかったからだ。最後の最後で仕方なくあの姿を使わざるを得なかったが……うーん……。

 流石に、「魔王を倒したのはこの国の騎士達って事にしてくれ」は、無理があったかなぁ……? いや、でも、そうでも言わなきゃ俺が魔王をシバき殺したのが外に伝わっちゃうし、仕方無いよね? うん、仕方無い仕方無い、本当仕方無いよ、うん。

 話の整合性は、きっと王様が上手い事付けてくれるし、うん、多分、きっと。


 ま、そっちの心配はしてもしょうがねえや。

 俺の残業2つ目を終わらせるとするか。

 クンクンと臭いを探ると、一昨日からこの屋敷の戦力に動きはないようで、変わらず雑魚魔族6人と紫野郎だけだ。

 呑気にここに留まってるって事は、まだ自分等の親玉がぶち殺されて床のシミになった事は知らないらしい。

 まあ、城に居た魔族は【サンクチュアリ】と【審判の雷(ジャッジメントボルト)】のコンボで全殺ししたので、この屋敷に事態を伝えに来る奴がまず居ないんだけどね。


 俺が紫野郎の始末を最後に持って来たのは、レティ達の呪いを俺の力で解けるかどうか確信がなかったからだ。

 もし、俺の使う天術で解除出来なかった場合は、多分他の人間の天術でも無理だ。だから、呪いをかけた張本人である紫野郎に解かせるしかない―――的な事を考えて後回しにした訳だが、実際は簡単に解けたので、紫野郎を生かしておく理由は無い。と言うか、もう1度同じ呪いをかけられる可能性を考えれば、むしろ率先して殺しておかなければならない。

 この屋敷の魔族共が底抜けの馬鹿でもない限りは、魔王が死んだって情報は近いうちに掴むだろうし、そうなれば何処に逃げるか分からん。

 ですので、ここの魔族がここに留まっているうちに始末する。

 ドアの前に立つとコホンッと咳払いして(実際はミャンっと鳴いただけ)、短く丸い前脚で扉をトントンっとノックする。

 ドアの前に立ってると、営業に来てる時の気分が思い出されてちょっと動悸が早くなる。

 暫く待っても反応が無いので、もう1度、今度は強めにドンドンッとノックする。

 すると、家の中でドタドタと誰かが近付いて来る音がして、勢い良く扉が開かれる。


「朝っぱらから五月蠅ぇえんだよッ!!? 誰だ!! 殺すぞッ!!! ………ぁん? 誰も居ねえじゃねえか?」


 出て来たのは酔って顔を赤くした2本角の魔族。

 キョロキョロと辺りを見回すが、ノックした俺を見つけられずに不機嫌そうに「チッ」と舌打ちして戻ろうとする。


「ミィ」


 こんちは(ハーイ)


「ぁあ? なんだこの猫は? まさかさっきのはテメェか? まあ、良いや。丁度小腹が空いてたんだ」


 涎を垂らして俺に手を伸ばす魔族。


「ミャ」


 ついでに。


「ミィミ」


 死ね(バーイ)


 灯の槍を投射。

 油断し切っていた魔族の腹を下から打ち上げるように貫いた赤い三叉槍(トライデント)は、魔族の体を豆腐のように貫通し、天井を突き抜けそうになったのを素早く収集箱(コレクトボックス)に回収。

 槍に貫かれた魔族は、体に穴が開くだけでは留まらず、桁外れの衝撃に体が耐え切れずに上半身が千切れ飛び、クルクルと回転して赤い滴を辺りに撒き散らす。


「ふぇ……?」


 何が起こったのか分からずに空中を舞う魔族の上半身が、灯の槍の属性効果を受けて燃え出す。

 ドンッと一気に火達磨になった体が、クルクルと空中で回る姿は、まるで鼠花火のようだった。


「ミィぃ」


 お邪魔しまーす。

 ボトッと玄関先に落ちた燃える上半身の横をすり抜けて屋敷に入る。

 臭ッ!? 屋敷の中マジで臭ッ!?

 異臭騒ぎ一歩手前レベルじゃねえか!? なんで疲れてフラフラの状態で汚部屋探訪しなきゃなんねーんだよ!! マジで腹立つ!

 俺がエントランスでイライラしていると、騒ぎに気付いたのか魔族達が顔を出す。


「うるせぇ!!」「何事だ!」「魔王様に言いつけるぞ!」


 丁度良いから、あれ試してみるか?

 灯の槍に付与してあったのを、収集箱に抽出した天術【審判の炎(ジャッジメントフレア)】。

 ………ただ、消費が怖いな? 名前から察するに、【審判の雷(ジャッジメントボルト)】の仲間なのは間違いないだろうし。

 普段の俺なら多分問題無く使えるだろうけど、MP枯渇気味の状態で使うのはちょっと怖い。

 一応詳細情報確認しとこう。


『【審判の炎(ジャッジメントフレア)

 カテゴリー:天術

 属性:超神聖/炎

 威力:AA

 範囲:C~F

 使用制限:特性【勇者】

 暗黒/深淵属性の対象に対して超特効。

 特性【魔族】【魔王】を持つ対象に対してのみダメージ判定』


 うんうん、やっぱり同じか……いや、違う! 効果範囲がC~Fになってる!? どう言う事だ? ある程度コッチで範囲指定出来ますって事かな?

 まあ、とりあえずやってみるか。


「うぉ!? なんだ、何が燃えてるんだコレ!?」

「クソッ、屋敷が燃えちまう! 早く消せ!」


 動き出した魔族。

 それを制するように【仮想体】に旭日の剣を持たせ、火を消そうと魔法を唱えて居た魔族の1匹の首を即座に刎ね落とす。


「ぁああッ!?」「な、な、なんだ!?」「きょ、旭日の剣!?」「勇者か!? 勇者が居るのかッ!?」


 旭日の剣装備で、超神聖属性の天術は消費2分の1。

 わあわあ騒いでいる魔族達に向けて放つ。


審判の炎(ジャッジメントフレア)


 白い炎が空中を(はし)る―――。

 1番手前に居た魔族が白い炎に触れ、炎上―――と同時に灰も残さず消滅……いや焼滅し、着用していた衣服だけが床に落ち、白い炎は魔族の体を燃やして満足したように四散した。


「ぇ……?」「え? な、……え?」「白い、炎……?」


 うん、なるほど。

 MPの支払いを限界まで絞ると1人分の威力になるのか。

 にしても、この天術、【審判の雷(ジャッジメントボルト)】に比べると随分消費が軽くない? まあ、今のは限界まで範囲狭くして、旭日の剣で消費半分にしてたってものあるけど、元々の消費MPが【審判の雷(ジャッジメントボルト)】の半分以下な気がする。

 だとすると、正直コッチのが使い勝手良くない?

 ある程度範囲指定出来るし。

 【審判の雷(ジャッジメントボルト)】は強いんだけど、バカ広い効果範囲を持つ上に、クソ程目立つから使いどころが難しいんだよ。

 うんうん、これは、とっても良い拾い物じゃない? これで威力は遜色無いってんだから、凄い優秀ですしこの子。


「クソッ、まさかあの猫がやってるのか!?」

「さっさと始末しろ!!」

「いわれるまでもねえよ!! 【バーニングエクシード】!!」


 その魔法は持ってるから良いや……。

 っと、そう言えば天映の盾に付与してあった天術も使ってみるか?


魔滅の盾(インバリットマジック)


 魔族の手から放たれた火球が、バキンッと砕け散る。

 魔法殺しの天術。


『【魔滅の盾(インバリットマジック)

 カテゴリー:天術

 属性:超神聖

 威力:-

 範囲:F

 使用制限:特性【勇者】

 自身を対象に発動された魔法・天術に対して発動する事でその効果の全てを無効にする。

 消費エネルギーは無効にした魔法・天術と同じになる』


 魔法を打ち消され、「あれ?」となっている魔族の首を【仮想体】でチョンパする。

 魔法を完全シャットアウトな天術って訳ですよ。

 正直、【仮想体】には必要無いけど、(おれ)自身にはとっても有り難いですね? だって、この子猫の体じゃ下級の魔法1発でも死にかねないし。

 ただ―――問題なのはアビスの使って来た究極魔法だな?

 消費MPが打ち消す魔法と同じになるのなら、今の俺じゃアレは無効に出来ないって事になる。

 だって【ドラグーンノヴァ】は、未だに“MP不足で発動出来ません”って言われるし……。

 いや、でも天映の盾装備すれば、【魔滅の盾】の消費エネルギー軽減してくれるって説明書きしてあったな? それに属性が超神聖なら、旭日の剣で消費2分の1に出来る筈だし。

 そう考えると、究極魔法相手でも結構なんとかなりそうかも……。

 ヨシ。

 考えも纏まったし、残りの皆様もチャチャッと死んで下さいな?



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