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4-31 黄金の勇者は色々ぶっちゃける

 あの後、説明もそこそこにとりあえず王様と王妃様も元の姿に戻した。

 2人が着替えるのを待ち、再び部屋へ。そして本格的なお話タイムの始まりである。


「ふむ……久しぶりの人の姿は、なんとも不思議な感覚だな?」


 金色の髪の男性。

 歳のせいか金色が濁り、ところどころ白髪が目立つ。

 しかし、どこか活力に満ちて居て、殺しても死ななそうな生命力が内から滲み出て居る。

 これが元ツヴァルグ王国の王様で、レティの親父さんか……。

 子豚と牛だった時には親子感まったく無かったけど(当たり前だが……)、こうして人に戻ってみると確かにどこか似てるな?


「ふふ、本当に」


 と、横で笑う銀色っぽい髪の女性、っつか王妃様。

 レティと顔そっくり……流石お母さん。

 順調にレティが歳とったらこんな感じになるんだろうなぁ。

 そして、2人が見つめ合って笑う姿を見て心底嬉しそうなレティ。

 まあ、そりゃ嬉しいでしょうよ。後ろでメイドさんもニコニコしそうになるのを必死に堪えてるし……。


「剣の勇者殿、助けて貰った事本当に礼を言う」


 凄い丁寧に言うけど頭は下げんのか? まあ、元とは言え国のトップが勇者相手にだろうと頭は簡単に下げられんか……。

 お偉いさんは色々大変だねえ。こう言う時は一般人で良かったと心底思う。


「(お気になさらず、やるべき事をやっただけだ。と言ってる)」


 俺の勇者語通訳を、猫語通訳のレティが王様達に翻訳する。

 ……二重通訳って本当に絵面が無駄な事この上ないよね……。外交官の人達って、こんな事したりしてるのかしら? だとしたら、俺100回生まれ変わっても外交官にはなれそうにないわ……。

 などと考えていると、笑って居た王様が笑顔を消して真剣な顔になる。


「それで―――勇者殿。助けて貰った上にお願いすると言うのは、恥知らずな事なのかもしれぬが、そなたが来てくれた今こそがこの国を魔王の手より解放する好機だと思うのだ。故に、恥は承知で頼みたい。この国を支配する魔王バジェット=L・ウェイル・ユラーの討伐に、手を貸して貰いたい!」


 シンっと部屋の中が静まり返る。

 俺以外の全員が緊張しているのが伝わって来る。

 剣の勇者が魔王アドバンスを倒したって話は流石に伝わってるだろうし、なれば、同じようにこの国の魔王も、剣の勇者ならば勝てるのではないか―――と希望を抱いてのお願いなのだろう。

 まあ、言っちゃ悪いが、この屋敷の騎士達が500人くらい束になっても、ガジェットを倒せる気はしないからな……。

 だからこそ勇者の力に頼りたい―――ってのは、まあ、分かるんですけども……。


「(協力したいのは山々だけど、それは無理じゃん?)」

「ど、どうしてなんです!?」


 レティが声を荒げる。

 そして、その反応で勇者がどんな答えを口にしたのか理解して、王様達も緊張と不安で顔色が悪くなる。


「(いや、だってさっき倒して来ちゃったし)」


 既に死んでる奴の討伐に協力するなんて物理的に無理です。

 これ以上あの野郎をどうにかしたいなら、除霊師でも呼んで魂を成仏させれば良い。そして俺にはそんな事出来ない。ですので“無理”です。

 

「え……?」


 あ、ヤベッ!? 疲れで思考が回らなくなったせいで、自分がやった事みたいに語ってしまった!!

 慌ててフォローを入れる。


「(……って、勇者様が言ってる……です)」


 勇者の正体が(おれ)だってバレてないよな……?

 内心冷や汗流しながら、唯一俺の言った事を理解しているレティからそっと視線を逸らす。


「レティシア、勇者殿は何と?」

「え……あ、はい。剣の勇者様が先程魔王様を討伐して来たから、それに協力するのは無理だと」


 再び静まり返る部屋。

 先程の、糸が切れるような緊張感のせいではない。

 レティの翻訳した事を頭が呑み込むのに時間がかかったからだ……多分。

 そして、脳味噌が事実を呑み込み―――驚愕。


「何!?」「本当なの!?」「ゆ、勇者がですか!?」


 ぎょっとした顔で黄金の鎧を見る皆様方。

 俺は魔王倒すの2度目だし、その後の後始末をする立場でもないから、特に気にせずに実行しちゃったけど……まあ、普通の精神だったら魔王倒すのは国全体の人間を動かすくらいの大事だもんね?


「勇者殿! あの魔王バジェットを……た、倒してきたと言うのは、本当の事なのか?」


 うん。

 黄金の鎧が頷くと、「信じられない!」って目で見られる。

 この人達は散々ガジェットに苦しめられたから、その怖さを体にも心にも刻み込まれているんだろう。だから、その化け物が気付かぬうちにこの世から消えていた事が信じられないのだろう。

 つっても、本当の事だしな……。どう信じて貰えば良いんだろう?

 こんな事ならガジェットの首残して持ってくれば良かったな……。いや、でも、もし持ってたとしても、ここで出したらレティが気絶するな……? 下手すりゃトラウマもんだよ。

 どうしよう……? ガジェットが持ってた神器見せたらいけるかしら?

 不審がられない程度に目を瞑って、瞼の裏で収集箱(コレクトボックス)のリストを(めく)る。

 するとログが流れていた事に気づく。

 なんだと思ったら、ガジェットの深淵の匣の中に入っていた、正体不明の金属の塊の修復が終わったお知らせだった。


『“壊れた金属片”の修復が終了しました。

 “壊れた金属片”は“生命の王冠”になりました』


『【生命の王冠 Lv.1】

 カテゴリー:防具

 サイズ:中

 レアリティ:C

 所持数:1/10』


『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』


 あら、王冠だったわ。

 ん? 王冠? って事は、これ、もしかして目の前の王様の持ち物じゃない? だとすれば、わざわざ深淵の匣に入れてた理由も分からんでもない。

 王冠と言えば、王様の象徴だ。

 魔王が人間を支配する際、その権限を取り上げる意味を込めて王冠を破壊して見せ、その後取り返しに来る事を危惧して神器と一緒に深淵の匣に放り込んであった……とか、そんな感じの話だろう。

 あの性格悪い魔王なら、人間達の目の前で王冠を踏み潰してションベンかけるくらいはやりそうだし。

 いや、でも、これはラッキーじゃないですか? これ返せば全部解決じゃん? 

 基本的に装備品は手放したくないけど、王冠なんて持ってても防具として使い道もねえし。

 後々この国の人達が王冠の行方を気にして「剣の勇者が盗んだ!」とか言われでもしたら面倒な事この上ないしね?


 【仮想体】の背―――マントの中でコッソリと生命の王冠を収集箱から取り出して持たせる。

 マントを優雅に広げるような動作で王冠を持った手を王様に差し出す。

 ………いや、一応言っておくが別にマントバサッとやったのは俺の意思じゃねえから。そんな格好つけなナルシストっぽい事しないから。手を前に出そうとしたらマントに引っかかってそんな感じになっただけだから。


「これは―――!? 我が国の至宝……生命の王冠か! しかし、これは魔王によって破壊された筈……」


 ビックリしたまま受け取らない王様に、若干無理やり押し付けるようにして王冠を渡す。

 王妃様とレティが揃って「わぁ」と驚きと嬉しさの混じった声を出している。

 ……っつか、レアリティCの防具が国の至宝で良いのか……? 歴史的価値とかなら、まあ……うん……そういうもんかも知れないけど。


「偽物……ではない!? 本物なのか!? ど、どうしてこれを!?」 

「(魔王倒して取り戻したからです……と勇者様が)」


 それ以外にねえじゃん? と言う、要らん一言は引っ込める。

 レティの翻訳を聞くや、渡された王冠を見つめたまま固まってしまった王様。そんな王様と【仮想体】を黙ったまま見比べている王妃様とレティとメイドさん。

 たっぷり5秒ほど王冠を見つめ、全てを受け入れたように、静かにゆっくりと【仮想体】に視線を向ける。

 その目に込められているのは、尊敬、信頼、畏怖、まあ、そんな感じの色々かな?


「なるほど……剣の勇者とは、これ程の者であったか……」


 “これ程”がどの程度の評価なのかは分からないが、少なくても低い評価じゃねえよな? 評価と評判は上げておいて損は無い……つっても、過大評価されてもそれはそれで困るんだけども……。


「剣の勇者よ。そなたがこの時代に生まれてくれた事を……そして、人の味方であった事を神に感謝しよう」



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