4-27 デッドエンドハート
脳天から首元にかけて穴の開いたガジェット。
なんだか、余りにも呆気なくぶち抜いちまって申し訳ない気持ちになる……。
それはそうと、付け換えて居た【処刑人】の特性を【魔族】に着け直しておこう。
やっぱ“人型特効”が有るとダメージの通りが大分良い気がするな? キッチリ頭蓋骨貫通して首まで抜けたし。
今後も人型の魔王と戦う時には使おう。
さて、ガジェットは避ける事も受ける事も出来ずに旭日の剣を食らった訳だが……そら、混乱してたから反応出来なかったんだろう。
ガジェットの混乱は当然だ。
なんたって、その混乱は俺が最初から狙って居た物だからな。
問、猫はいつから生首と入れ替わっていたでしょう?
答、始めっから。
ガジェットの参謀である蝙蝠野郎がこの部屋に運び込んだのは、始めから生首。
その後、チョロチョロと隠れて支援や攻撃をしていたのも生首。ちなみに、移動は収集箱に一々戻し、また別の所に出したりしていた。ついでに言うと、チラッとガジェットに姿を見せる時には魔眼で幻を被せるのも忘れない。
始めにガジェットに“生首にかけた幻が解けた”ような幻を見せたのも、全部この絶対的な隙に繋ぐ為の布石―――とか恰好良く言いたいけど、実際のところは自分はずっと天井に隠れて居たかっただけです、はい。
ともかく―――これで1回目の死亡だ。
魔王は例外無く【ダブルハート】のスキルを保有してるから、死んだとしても1度は蘇って来る。まあ、俺と戦う前に1度死んでたなら別だけど……そんな都合のいい話はないだろう。
ほら、ガジェットの脳天の穴がシュルシュルと巻き戻し再生みたいになり始めたし。
後1秒か2秒したら起き上がって来るな。
―――― まあ、でも、別に焦りもしないけど。
初見だったアドバンスの時には、そら、もう「詐欺かよ!?」ってくらいに驚いたもんだが、始めから生き返ると分かっているなら、心構えは出来るし、それを織り込み済みで作戦を立てれば良いだけだ。
それに……俺にとって重要だったのはガジェットが【ダブルハート】を使うまでであり、その後の展開は、もうただの“後始末”と言って良い。
ガジェットの頭の再生が終わり、ユラリと幽霊のように立ち上がる。
「―――ろ、して……やる……!」
鋭い眼光が、ギンッと俺を捉える。
「殺してやる!!!」
燃え滾る憤怒の炎が瞳の奥に見えた。
怖くない―――訳ではないが、ビビりもしない。
今俺が立っている位置はガジェットから6m程の距離。
どうやら六条結界の射程は3mよりも大分広いらしい事が、先程の生首を潰された時に判明した……ので、恐らく今の俺は十中八九結界に捕まっている。
この結界の中で、俺が生きて居られる時間は約6秒しかない。
「今度は本物だよなぁ!? ぁあ!? もう逃げられねえからなあッ!!!」
逃げられない?
勘違いすんなよ? “逃げられない”んじゃねえ、
――― “逃げる必要がねえ”んだよ。
【仮想体】をガジェットの目の前に創り出す。
装備品は何も付けない。
裸の【仮想体】は誰も何も触れる事が出来ない幽霊のような存在だ。
勿論透明だから誰の目にも、耳にも捉えられる事も無い。だから、六条結界の発動条件が「対象を見る事」であるのならば、この状態の【仮想体】は何の制限も受ける事はない。
【仮想体】がガジェットに手を伸ばす。
しかし、その手は体に触れる事なく、金属にしか見えない表皮を素通りして体の内側に吸い込まれる。
――― 詰み手
余裕を見せたのか、それとも俺が動かないからそれに合わせて動かないのか知らんが、棒立ちになってくれてたお陰でやりやすい。
「(精々、冥府で亡者共に謳って聞かせてやれ―――…)」
「ハンッ、必死に命乞いしているのか? だったら無―――」
言葉が終わるのを待たず、最後の一手を収集箱から取り出す。
ガジェットの体の内側……心臓まで突き込まれた【仮想体】の手。
その手の中で―――魔法を発動する!
【エクスプロード】
「ぉぐぅ……!?」
一瞬、ガジェットが異変を感じて胸に手を当て顔を歪め、そして―――
その上半身が爆散した。
ゴボォッと破裂した真っ赤な肉片が部屋中に飛び散り、骨と表皮の破片が散弾銃のような勢いで壁や床、天井にまで撃ちこまれた。
ガラスが全部叩き割られ、割れた窓から爆発の衝撃と熱が凄まじい勢いで外に逃げて行く。
そして俺は、その全てを深淵のマントを被ってガードしている。
2秒程で吹き荒れて居た衝撃と爆風が止み、深淵のマントを収集箱に戻す。
謁見の間は―――惨状になっていた。
部屋中に飛び散った血痕と、部屋の真ん中で血の池に倒れる魔王の下半身。
薙ぎ倒された柱と、床に転がる玉座の破片。
スプラッタかゾンビ映画かよ……と、この惨状を作りだした張本人の俺が言ってみる。
金属の体は、そりゃあ硬かったが、それは外からの衝撃に対してのみで、内側からの衝撃には脆かったみたいね? まあ、内側からの衝撃に耐えられる肉体構造してる生物なんて、そもそも居る訳ねーけども。
まともな神経の奴だったら、多分1ヶ月は肉食えなくなるな? まあ、俺は大分狂ってるから特に気にしないけど。
「(―――…これが、対最強用の俺の切り札だ、ってな)」
そう、これが俺がアビスとの再戦に向けて用意した奥の手。
【仮想体】の透過性を使って、相手の体を内側から破壊する……あ~、そう言えば呼び名を考えて無かったな……。
えーと……じゃあ、“デッドエンドハート”とか名付けとくか?
まあ、行き止まりっつか、死んで 終わりだけど。
……にしても……。
上半身粉々になり、物悲しげ転がるガジェットの下半身。
我ながら、エグイ技を考え出したもんだわ……。
食らえば確実に相手の命を奪う、文字通りの“必殺”。
まあ、でも、こんな技になったのは全部アビスとの戦いで使う事を想定しているからだ。
最強たるアビスには、生半可な攻撃力では意味がない。だからこそ、一か八かの即死技だ。
え? こんな技あるなら、最初っから使えば良かったじゃんって?
そう言う訳にもいかんのよ、これ。
デッドエンドハートの1番の強みは“初見殺し”な事だ。
相手が「何が起こったのか分からない」うちに殺してしまう若干卑怯臭いところが重要です。
初見殺しを使う上で1番怖い事は、やはり“対応される事”だ。
俺のデッドエンドハートは、そう簡単に破られる物ではないと自負しているが、決して最強無敵の必殺技ではない事を俺は知っている。
この技の起点である【仮想体】は、裸の状態ならば誰にも認識される事はない―――と思っていたが、アビスは平然と対応して来た。同じように【仮想体】を認識出来る敵が居ないと誰が言える?
もし、仮に、【仮想体】を認識出来なかったとしても、1度技を見せれば、そこから何かしらの対処法を思い付く奴は必ず居る。これは断言しても良い。
だからこそ、デッドエンドハートは“とどめ”でしか使いたくない。
魔王との戦いの初手で使えば、1度目は多分殺せるだろう。だが、【ダブルハート】の効果で蘇って来た相手が対処してくれば2度目はない。
しかも最悪、途中でその相手を逃がす様な事になったら、この技の対処法が外に伝わる事になる。
そうなれば、このデッドエンドハートは必殺でも初見殺しでもなくなってしまう。
そう言う訳で、“確実に相手の息の根を止められる状況”でない限りは使いたくない訳よ。
ああ、あと目撃者が居る状況でも使いたくねえな?
ともかく、「この技の情報を持ってるのが俺1人」である事が、この技が必殺である条件な訳だよ、うん。
ま、だからこそ、これからも使う時には気を付けるって事で。
さーて、そんじゃあ城の中のお宝をゲッチュしにいきますか!!
さぁさあ、楽しいターンの始まりじゃぃい!!
っと、その前に、魔王の死体を放置する訳にもいかんし、燃やして置くか?
【業火】
血の海に沈んだ魔王の下半身を、手持ちの最大火力の炎で焼く。……いや【ドラグーンノヴァ】あるから最大ではないか?
これもある種の火葬になんのかなぁ? とボンヤリ考えている間に、下半身は灰も残さず燃え尽き、床の血溜まりは黒く焦げた汚れになった。
生きてる時は魔法防御むっさ高かったのに、死ぬとそう言う耐久力も下がるのかな? 凄い簡単に燃えちゃったし。
……うーん……流石に壁や天井に飛び散った血肉までは処理してらんねえな……。ま、あとは城に戻って来た時に、人間の皆様が綺麗にしてくれるでしょう。
ヨシ、じゃあ、改めて、アイテム回収の旅に出かけましょうかね。
部屋を後にする前に、もう1度ガジェットを見る。
2分前までこの国を支配していた魔王。今はただの床の焦げ跡。
その焦げ跡に向かって最後の言葉を手向けておく。
「(こんな殺し方で申し訳ねえな? まあ、家畜の姿で10年間晒し者にされるのに比べればどうって事ねえだろ?)」




