4-25 審判の雷
【審判の雷】
そう言えば屋内でぶっ放すのは初めてだなぁ。
まあ、屋内だろうが屋外だろうが、この天術は関係無いんだけどね?
建物の壁や天井を素通りし、城の中を真っ白い光で満たす。そして、家具も調度品も、何も傷付ける事無く、魔族の体だけを白い雷が襲う。
部屋の外から「ギャッ」とか「グぎゃッ」と小さな悲鳴があがり、直後に重い物が床に転がる音。
多分、魔族達が身に着けていた武器や防具が、肉体が消滅した事で床に落ちた音だろう。
おそらく、扉の前だけでなく、この城の中の至る所で同じように悲鳴があがり、同じように魔族の持ち物が転がっている事だろう。
俺の目算では、これで魔王以外の魔族は全滅した筈。
元々今の俺の魔力ならば普通に【審判の雷】を撃っても殺せるだろうに、そこに念を入れて【サンクチュアリ】を咬ませてから撃ったから、全滅間違い無しだ。
【サンクチュアリ】の効果で、魔法防御を張って居たとしても無効だし、その上アホ程弱体化させられてたら俺の高威力の天術を耐えられる訳がない。
ついでに言うと、旭日の剣の装備効果で天術のダメが上乗せされてるしね? これで死んでなかったら、そいつの戦闘力は魔王並みだって事になる。が、そんな“ヤバい臭い”をさせて居るのはガジェット1人だけなので、城の魔族はガジェット以外は全滅したとほぼ確信している。
と言うか、全滅してくれてないと困る……。
【サンクチュアリ】と【審判の雷】は、両方とも神器に付与されていた天術だ。コレを使うって事は、コッチが勇者である事を勘付かれる可能性が高い。
口封じの為に来たのに、口封じしなきゃならない情報を晒してるじゃん……と自分でもツッコミを入れたくなるが―――まあ、でも、ようは全滅させりゃあ良いんだよ。悪党が言うところの「見た奴は全員殺せ」理論だよ。
おっと、そう言えば【魔族】の特性のレベルがカンスト状態から上げられるのか確認したいんだったっけ。
瞼の裏に流れるログを確認する。
『【魔族 Lv.623】
カテゴリー:特性
レアリティ:E
能力補正:魔力
効果:魔法使用可
暗黒/深淵属性強化』
よしよし、ちゃんと上がってるじゃん。
【魔王】の特性様様ですな。
カンストがLv.300だったから、参謀の蝙蝠野郎含めて323人の魔族が死んだって事だな。
一気に300レベル以上アップって……こう言うのもパワーレベリングの一種なのかしら? まあ、どうでも良いか。
とりあえず、命と引き換えにいっぱい経験値をくれた魔族の皆様ありがとう、と言っておこう。
ん? ログが更に流れている事に気付き、下にスクロールさせる。
『【魔王 Lv.8】の特性レベルが上がり【魔王 Lv.9】になりました』
やった! ついでに本命の【魔王】の特性のレベルの上がったじゃん!
本当にありがとう魔族の皆様! 尊い犠牲は無駄にはしないよ。
けど、流石レアリティAの特性だよなぁ……。魔族300以上狩ってようやく1レベルって……しかも、特性の効果で経験値割増で入ってコレだぜ? まあ、でも、その分効果が凄まじいから、レベルの上がり辛さは仕方無いか。
『魔眼【紛い物の幻】のランクが2に上がり、【欺瞞と虚構】に進化しました』
『【欺瞞と虚構】
カテゴリー:魔眼
レアリティ:D
ランク:2
魔力消費:10
視界に捉えている対象に幻を見せます。
この魔眼によって作りだした幻は、対象の五感全てを欺きます。ただし感知魔法やスキルは騙せません』
おっとー、魔眼のランクも上がった!?
今までの【紛い物の幻】が視覚しか騙せなかったのに対し、ランク2の【欺瞞と虚構】は五感全部騙せるのか。あっ、でもその性能分魔力消費がついてる!?
……うーん。魔眼は消費無しで使える気軽さが売りだったんだけどな……? でも、今のMP量ならこの程度の消費は無いも同然だから良いか……うん。
魔族の皆様には足向けて寝られんね。まあ、もう死んでて足向けちゃいけない方向も分かんないから気にせず寝るけど。
っと、ガジェットとの戦闘中だった。
いつまでも自分の内側に意識向けてる場合じゃねえっつうの!
意識を現実へ引き戻しガジェット見ると―――
血を流していた。
「グッ……くぅ、おのれ……まさか究極天術を持ち出してくるなんて、聞いてないぞ……!」
グチャグチャに焼け焦げた右腕から、今なお収まらない熱がシューシューと赤い湯気を立て、焼けた肉の臭いを周囲に振り撒いて居た。
どうやら、右腕を盾にして【審判の雷】から体を守ったらしい。
我ながら馬鹿だと思うが、その姿に驚いてしまった。
――― ダメージが通った!
いや、ガジェットの“六条結界”の話は置いといて、【審判の雷】でちゃんと魔王にダメージを与えられた事に驚いてしまった。
……そうか、いや、そうなのか……。
考えてみれば当然じゃん? アドバンスの時だって、アイツが深淵のマントで身を守ったからノーダメージだっただけで、普通にやったらダメージは通ったんだよ!
こんな正攻法で大ダメージを与えられた事実がようやく呑み込めた。
ああ、ダメだ! アビスに手酷くやられてから、自分の力への信頼が微妙に揺らいでしまって居た。
そうだ。そうだよ! 相手の装備を剥いでから叩き込めば、力押しでもダメージ通せるんじゃん!
いや、いやいや落ち付け俺!
調子に乗るとアビスの時と同じ結果になりかねん……。
相手は魔王だ。
気を抜かず、安易な大ダメージ狙いはしない。
頭をクールダウンし、改めて状況の分析をする。
さて、ダメージが通った訳だが……これは天術が無効にされなかったって事だよな?
【仮想体】を経由しないで撃てば普通に通るって事か? だとすると、奴の六条結果の制限は、猫と【仮想体】で別枠に設定されているのかな。
とすれば、「詰む」なんて言葉を使うにはまだ早いか!
「知っている……知っているぞ……? 今のは、剣の勇者しか使えぬ【審判の雷】だな? それに、その前の弱体化の天術も同じく究極天術の1つか? まさか、勇者が2人居るのか!?」
的外れだバーロー。この場に勇者なんて1人も居ねえよ。
居るのは、
――― 魔王だけだ!!
【仮想体】が持っていた鉄の剣を投擲。
ガジェットは慌てず騒がず、「フンっ」と残っている左手でそれを叩き落とす。
ん……? 剣が結界の効果で停止されなかったな今?
もしかして、別の剣だからか?
制限って、持ち主に関わらず、それぞれの武器や防具に別個にかけられてるのかも……。だとすれば―――!
ガジェットの斜め後ろ辺りの柱の陰から、投射でもう1本鉄の剣をぶん投げてみる。
ただの鉄の剣ではない。【属性変化】で雷属性を付与した鉄の剣だ。
そぉい!!
音速を越えて収集箱から飛び出した鉄の剣は、何にも阻まれる事無くガジェットの背中に届く。
まあ、届いたつっても……。
「ぃたっ!?」
ガジェットの背中にヒットした鉄の剣は、バチッと1度放電したがそれだけで、刺さる事無くガキンッと堅そうな音をたてて弾かれ、足元に2度バウンドして床に転がった。
硬過ぎて、そう簡単にはダメージにはなってくれねえしな……。
けど、ガジェットに当たるまで属性効果が維持されてた。
やっぱり、武器や防具の制限は武器1つ1つ別に設定されてる。って事は、一先ずコッチの武器のストックがある限りは攻撃が出来る。
……問題なのは、そこからどうダメージを通すか、だ。
属性効果が生きて居れば多少はダメージになるっぽいけど……あれ?
六条結界の1つ目の制限が“属性効果”だとすれば、それに引っ掛かる事無くガジェットに届いたのはどう言う事だ?
結界に入った途端に属性効果が無効にされなければおかしくないか?
……。
……。
………もしかして、制限をかけるにも何かしらの条件があるのか?
例えば……制限をかける対象に触れる。
いや、違うな。触れて無くても制限が進んでたじゃねえか。
多分、もっと緩くて軽い制限だ。俺が気付かぬ間に達成されている条件……。
思考をグルグルさせていると、気付かぬ間に目を閉じて居た。
そして瞼の裏に映し出されるログ。
先程の魔眼のランクアップが表示されたままになっている。
魔眼………あッ!?
視覚だ!!
魔眼のように対象を1度見ないと制限がかけられねえのか!?
だからさっきの背後からの攻撃は、1つ目の制限である“属性効果無効”もかからなかったんだ!!




