4-23 六乗結界
何をされた?
突然剣に付与していた属性が消えた。
勿論、俺が消した訳じゃない。
攻撃の直前にガジェットが何やら呟いて居たが……スキルか魔法を使われたか?
ともかく、属性効果が無効にされると言うのなら、少し攻め方を変えなければならない。とりあえず―――力押しで行ってみよう。
【パワーアドバンス】
筋力強化の天術を【仮想体】に飛ばす。
【パワーアドバンス】での強化はそれ程大きくない。でも、唱えるのが【魔王】の特性を装備している俺なら話は別だ。怪物染みた魔力のお陰で、初級レベルの天術でも上級クラスの効果が発揮される。
ガジェットが物理防御高いのは分かっているが、魔法や天術で攻撃力を底上げしてやれば、【仮想体】ならその防御力を抜ける可能性は十分あると踏んで居る。
【仮想体】の振った剣先を握ったまま動こうとしないガジェット。
魔法を唱えて来るような気配はないし、カウンターの1撃を放って来る感じもない。何かを狙って居るのか、それとも攻撃に迷っているだけか? どちらにせよ、相手に合わせてコッチも止まってやる義理はない。
剣を掴んで居るガジェットの腕をぶった斬るつもりで力を込める―――が。
「2つ。天術・魔法を禁ずる」
ガジェットが意味不明な事を言った途端、【仮想体】にかかっていた天術の支援効果が消失し、押し込もうとした力がガクンッと下がりガジェットの手を振り払う事さえできない。
クッソ、なんだこれ!?
さっきは属性無効、今度は天術無効……?
敵が何をしているのか思考する。
だが、それと同時に浮かぶ疑問。
――― ガジェットは、なんで攻撃してこない?
野郎が何かしらの方法でコチラの属性攻撃や天術を潰したのは間違いない。だが、それなら無効にした瞬間は攻撃のチャンスなんじゃないのか? それなのに、なんでガジェットは剣を掴んだままジッとしてるんだ?
俺の疑問を読んだかのように、ガジェットが再び薄く笑う。
「3つ。武具の使用を禁ずる」
は?
と思った瞬間、【仮想体】の動きが止まる。
俺の意思は確かに通っているのに、体をピクリとも動かす事が出来ない。
……いや、【仮想体】は問題無く動いてる。動かないのは、身に纏っている鎧、そして手に持った剣だ!?
ここに居たり、ようやくガジェットの狙いを理解する。
コイツの能力は―――“行動制限”だ!
RPGのボス格がたまに使って来る、コチラのコマンドを封じて行動を制限して来る戦法。
例えば魔法。
例えばアイテム。
例えば物理攻撃。
それによって、戦い方が縛られて、普通に戦えば勝てる筈の相手に苦戦を強いられるって奴。
このピカピカボディの魔王が正しくそれだ。
そんで、恐らく―――コイツの制限を科す条件は“対象の近くに居る事”だ。
わざわざジッとしてたって事は、時間経過で制限が増えて行くか、縛りがきつくなって行く感じだろう。
って事は―――1秒でも早くガジェットから離れないとヤバいって事じゃん!!?
慌てて【仮想体】を引かせようとするが、ガジェットの制限のせいでまったく動けない。
チッ……面倒臭ぇ!
鎧と武器と【仮想体】を丸ごと収集箱に一旦戻す。
「ぬぉ!?」
突然【仮想体】が消えて驚くガジェットを余所に、出来るだけ離れた扉の近く辺りに引っ込めた状態とまったく同じ装備で【仮想体】を創る。
試しに手を握って開いて、握って開いて。
ヨシ、ちゃんと動くな?
離れると“制限”が消えるって事は、ガジェットから一定範囲にだけ効果を及ぼす系の力って事か。
永続効果じゃなくて良かった……。【仮想体】の動きを封じられると、まともに戦えねえからな。
「ま、まさか……転移術式を使えるとは……。いや、違うか? 魔法も天術も封じて居た……と言う事は、何かしらの異能か?」
俺が野郎の分析をしているのと同じように、ガジェットの野郎もコチラの能力を分析している。
コチラの手の内がバレる前にちゃっちゃと勝負をつけたいが……無暗に近付くとあの制限の効果範囲に捕まる……。
出来るだけ距離をとったまま戦いたい―――となれば、魔法でしょう!
【エクスプロード】
ガジェットに向かってキラキラとした赤い光が走り、爆発―――……が、起こらない。
手前3m辺りまで近付いた途端、バシュンッと音をたてて光が飛び散り、魔法の発動を無効にされた。
「魔法……か!? まさか、見えざる敵だけでなく貴様も魔法を使えるとは驚きだ……。だが、無駄だ! 貴様の天術も魔法も届かんぞ」
さっき受けた制限が生きてる……!?
いや、手元から放つ事は出来たって事は、制限の範囲外であれば大丈夫って事だ。でも、それとっても意味無くない……?
こりゃぁマズイぞ……魔法が制限を受けてるって事は、当然鎧や剣にかかっていた制限も生きてるって事になる。とすれば、【仮想体】は野郎に近付いた瞬間に再び行動不能にされるって事じゃねえか!?
面倒臭ッ!? コイツの能力マジで面倒臭ッ!?
「それにしても、貴様魔法剣士ではないな? 1つ目の“属性効果”を縛っただけで無効に出来たと言う事は、ただの属性付与だ。……だが、それなのにどうして魔力放出が……まあ、いいか」
俺、魔法剣士だなんて名乗った事1度もねえけど……。
むしろ何で俺が魔法剣士だなんて思われてたのかが疑問でしょうがねえくらいなんだけど?
「だが、理解出来たか? 貴様がどれだけ優れたエンチャントの使い手だろうとも、たとえ魔法が使えようとも、その全てを我が“六乗結界”が無効とする」
ろくじょう結界?
それがコイツの使ってる力の正体か。
“結界”って名前が、いかにも範囲効果っぽいよなぁ……?
じゃあ、“ろくじょう”ってのは何だ? 六畳? 六畳の効果範囲って事? 畳何枚分の効果範囲ですって教えてくれてんの?
「貴様は既に3つ目まで力を縛っている。その鎧姿では、もはや近付く事すら出来んだろう?」
3つ目まで……? 「まだ先が有りますよ」と言いたげな言い回し。
……いや! 実際にまだ先の縛り―――制限があるのか!?
って事は……六畳じゃねえ、六条か!?
コイツの制限は全部で6つあって、そのうち3つまで貰っちまってるってか!?
1つ目は……属性効果……かな?
2つ目は魔法と天術。
3つ目は武具。
この先があるって………何それ、超厄介じゃん……!?
「貴様を片付けたら、す、すぐに“見えざる敵”も片付けてやるからな! どこかに隠れてるのは知ってるんだからな!!」
良く分かんないけど、その“見えざる敵”って呼ばれてるのは猫の事か? 確かに俺の事を的確に表す呼び名だなぁ、と妙に感心してしまった。
「き、聞いて居るか“見えざる敵”!」
はいはい、聞いてる聞いてる。
……そのヘタレな演技、もう止めて良くない? 魔王がヘタレな訳ないのは十分知ってるしさぁ。
「貴様の仲間が何も出来ずに朽ち果てる姿を見ているが良い!」
今まで碌に動こうとしなかったガジェットが、【仮想体】に向かって走り出す。
金属みたいな体してるくせに、動きが速い!?
防御力特化は足が遅いのがお決まりでしょうがッ!!? 足の早い盾役とか、ゲームで居たらインチキ臭い強さじゃん!?
とか、アホな事を思ってる間に距離が詰まり―――ガジェットから約3mの六条結界に【仮想体】が捕まる。
ヤバいっ!? 馬鹿な事考えてて逃げ遅れた!?
逃げようと思った時には鎧と剣がピクリとも動かず、拘束具のように【仮想体】の動きを縛る。
動けない【仮想体】を収集箱に戻そうとした瞬間、4つ目の制限が発動した。
「4つ目。スキルの使用を禁ずる」
は?
【仮想体】が鎧の内側から弾き出された。
俺の中へと【仮想体】が強制的に戻され、動きを制限されて空中に制止している鎧と剣だけがガジェットの前に残る。
鎧と剣を収集箱に戻そうとするが、一切反応しない。
アイテムに対しての【収集家】の支配が届かない―――!?
ちょっと待って!? スキル制限はマジで洒落にならねえぞコレ!?




