4-22 魔法剣士vs魔王バジェット
磨かれた鉄のように、ピカピカな体の魔族。
……ぶっちゃけ、最初に見た時はそういう像が動いてるのかと思った……。けど、どうやら参謀の蝙蝠野郎が「魔王様」って呼んでるって事は、このピカピカがこの国を支配するガジェットで間違いないらしい。
コチラに気付かれる前に蝙蝠野郎は瞬殺。
そして―――同時にガジェットを狩りに行く。
魔王ガジェットの背後に創り出した【仮想体】。
鉄の鎧一式とアドバンスの剣である冥哭。本当は俺の手持ちのアイテムの最高火力である旭日の剣の方が良いんだが、アレを使うとコッチが“剣の勇者”だってバレるからな。
最悪の展開として、勝てずに逃げた時の為の最低限の保険だ。
ともかく、初手で首をとれるのならばとってしまいたい―――!!
ガジェットの首を狙って、全力で振り抜かれる【仮想体】の剣。
しかし、ガジェットも阿呆ではなかったらしく、攻撃をされた気配を感じ取って振り返る。
でも―――もう、遅い!!
【仮想体】の超スピードの振りなら、相手の反応より早く首に刃が届く!
そして、俺の予想した通りにガジェットの首に漆黒の刃が届いた―――のだが……
――― ギィンッ
金属同士がぶつかり合う甲高い音。
振られた漆黒の刃は、相手の体に食い込む事無く金属のような表皮で止められて居た。
この野郎……アホみたいに硬いッ!!!
「あっぶないだろうがぁッ!!」
首に触れていた刃を、当たり前のように素手で払い除けながらガジェットが怒る。
いや、まあ、そりゃあ首を落とされかけたんだから怒るだろうけども……。
この人硬過ぎない?
血が出てないどころか、痣すら出来てねえんだけど……。
反撃を食らわないように【仮想体】を下がらせる。
「お、お前……お前が人間共の切り札ってかぁ!?」
あれ? 今どもった? ………もしかしてビビってる……? いや、ねえか。相手は魔王だぞ? 12人の化物だぞ? 多分微妙に噛んだだけだな、うん。
目の前の【仮想体】を警戒しつつ、背後―――生首の転がっていた床をチラッと見る。
「おイッ!! もう1人居るのは分かってるんだからなあッ!!」
なんだろう、コイツ微妙にヘタレっぽい雰囲気だぞ? まあ、でも魔王がヘタレな訳ねえから、俺を油断させる為の演技だろう。悪いが、そんな見え見えの罠にかかってやる程俺もアホではない。
だが、敢えてヘタレな演技をしてるって事は、少なくてもこのピカピカは“敵を格下と思ってない”か“格下相手でも油断しない”奴だって事だ。
そう言う意味じゃ、コイツは俺のやり辛い相手と言える……。
ただ―――俺の観察眼による戦力分析が確かなら、コイツの強さは“そこそこヤバい”だ。
魔王だけあって、他の魔族なんて比べるのも馬鹿馬鹿しい程強い。
けど、決して俺が手も足も出ないような相手じゃない。
アドバンスと同じか、ちょっと下くらいか?
でも、アドバンスの魔眼のように、何かしらのヤバ目な一芸を持ってないとも限らないから、ぶっちゃけこの評価は当てにならない。
さてさて、事前情報何も集められなかったから、このピカピカボディのガジェットの分析はその場その場でするしかねえ。
今のところ分かったのは、コイツが物理防御クソ高いって事。
もう1つは、魔眼を持って居ないか、俺と同じランクの魔眼しか持って居ないって事。さっき幻が見えていたのだから間違いない。俺よりランクの高い魔眼を持って居たら、コッチの効果が勝手に無効にされてた筈だからな。
それと―――これは強さとは関係ないけど、先程チラッと猫の姿を見せたけど、俺を警戒する素振りを見せない……って事は、コイツに俺の情報は伝わって無いって思って良いのか? 慌てて口封じに出て来たけど、俺の取り越し苦労だったかな?
「俺が、魔王バジェット=L・ウェイル・ユラーと知っての行動なのだろうなあ!?」
バジェット……ああっ、そうそうそんな名前だった!
でも良いよね別に? ガジェットと1字違いだし、大した違いじゃないよ、うん。取引先の名前間違えたらただ事じゃないけど、別に魔王は取引先じゃねえし。
「た、戦うと言うのなら、死を覚悟しろよお!?」
なんでそんな必死な感じなのこの人……? 俺よりもアンタの方が死を覚悟してるような必死っぷりなんだけど……。
まあ、でも、また演技でしょ? 知ってるんだからね。
相手が俺に油断して居ないと言うのなら、コッチも締めてかからねえとな!
『【属性変化】により、付与属性を“雷”に変更します』
【仮想体】の持つ剣の刀身が金色に塗り替えられる。
物理防御が高いのは結構な事だが……そう言う手合いを魔法や属性攻撃でボコるのは、古のファミコ●のゲームからの伝統だ。
「属性付与……いや、魔法剣か!? くぅッ……そうか、見えざる敵と一緒に貴様も一緒に忍び込んで来ていたのか!?」
え? 何? 「貴様も一緒に」って、俺アンタとなんか会った事ねえんだけど……誰かと間違えてません?
「………落ち付け、落ち付け……大丈夫、大丈夫だ、勝てるぞ俺……」
なんか、凄いブツブツ言ってるけど本当に大丈夫かコイツ? 小声なうえに早口過ぎて何言ってるか全然分かんないけど……。
はっ!? まさか、こっそり魔法詠唱してるとかじゃないよね!?
「気付いたら魔法を叩き込まれてた」なんて展開はゴメンなので、先手打って攻めて行く。
【仮想体】が走り出す―――。
色んな戦いを経験し、猫が強化された事で、その強化値を人間に換算した数値が【仮想体】にも加算されている。
現在の猫は、猫の体1つで楽勝で魔族をぶち殺せる事から、既に人間を軽く凌駕する能力値になっているのは間違いない。では、その強さを人間に換算した場合どの程度の強さになるかと言うと。
ドンッと床を蹴り出す音と共に、文字通りの“目にも止まらぬ速度”でガジェットとの間合いが詰まる。
「ぬグッ!?」
ガジェットが悲鳴のような声をあげる。
まあ、気持ちは分かる。
総重量軽く100kg以上ある鉄の鎧一式を身に着けた相手が、こんな超高速で動くなんて誰も想像しないじゃん?
でも仕方無いのよ。だって俺、お前と同じ【魔王】だし。
高速の踏み込みから、流れるような動作で雷を帯びた剣を振る。
「クッ……!」
ガジェットがバックステップで逃れようとするが……逃がしません。
【ライトニングボルト】
ステップしようとしていた後ろ足を、コッソリと側面から雷撃魔法を飛ばして引っかける。
狙い違わずガジェットの片足が横にズレて………いや、待って。今の魔法、結構致命打与えるくらいのつもりの、かなり本気目の奴だったんだけど……? 「へへへ、足吹っ飛ばしてやるぜ!」とか思ってたのに、ダメージが薄い……!
コイツ、もしかして物理防御だけじゃなくて魔法防御もクソ高いんじゃねえのか!?
「見えざる敵は支援役と言うわけか……!?」
体勢を崩しながら、先程の魔法がどこから放たれたのか視線を走らせている。
残念ながら、そう簡単には見つかりませんよ俺は。
でも、目の前の【仮想体】から目を離して良いのか?
振られた刃は、もう目の前だぞ?
殺った―――!!
物理防御と魔法防御両方高くても、超高速の踏み込みからの速度の乗った攻撃なら! それに属性付与の+αが乗ってるなら尚の事。
首を落とすまでは行かなくても、そこそこの痛打にはなる筈―――。
その時、ガジェットが半分腰の落ちた体勢のままボソリと呟く。
「【六乗結界】」
なんだ?
と俺が頭の中で疑問を浮かべると同時に、【仮想体】の剣が纏って居た雷がパシュンっと空気の抜けるような音と共に消失し、刀身の色が金から黒に戻る。
――― 属性効果無効!?
付与属性の消えた剣を、ガジェットが無造作に伸ばした手でガッシと受け止める。
かなりの威力が乗っていた筈なのに、ガジェットのピカピカの腕には傷一つついて居ない。
「そう簡単に首はやれないな?」
剣を受け止めたガジェットが、初めて「してやったり」とニィっと口を歪めて笑った。




