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4-12 居候

 牛の王様と鶏の王妃様と面会が終わり―――。

 その後、色んな人の面会やら報告やらがあったらしいが、レティの出番は終わったようでさっさと自室へと引っ込んだ。そして俺もそれに連れられてレティの自室へと引っ張り込まれた。引っ張り込まれたって言うか、転がり込んだ? いや、転がり込んだって言うとヒモ男みたいで嫌じゃない? まあ、どうでも良いか。


「さあ、ブラウン。ここが(わたくし)の部屋なんです」

 

 とレティが自慢げに言ったのが2時間前の事。

 それからは、メイドさんに何やかんやと世話を焼かれるレティの横で、俺が見てきた色んな物の話をせがまれた。

 森の話、川の話、山の話に海の話。半分くらいは“あっち側”の話になってしまったが、まあ、当たり障りない内容しか話してないので大丈夫だろう。

 話の内容はその他にも、食べ物の話や―――隣国の魔王の話とか……。

 流石に「俺がぶち殺した」と真実を語る訳にもいかないので、それとなく魔王の恐ろしさを語り、“剣の勇者様”と杖の勇者様がそれを打ち破ったと話したところ―――


「本当ですかッ!?」


 と、飛び掛からんばかりの勢いで驚かれた。


「姫様、どうなされたのですか?」

「魔王アドレアス様が、剣と杖の勇者様達によって討たれたんですって! ほら、ほらネリア! やっぱり勇者様が居るんです!!」

「………魔王……様、の1人が討たれた事は大変喜ばしいですが……はぁ…勇者ですか」


 メイドさんが吐き捨てるような溜息を吐いてる……。

 なんなの? なんなのその「ケッ、下らねえぜ!」みたいな絶望と怒りの入り混じった目は!? 目力強いこの人がそんな目をすると怖いんですけど? 怖いんですけど!!

 あまりにも怖いので2回言いました。


「もしかしたら、勇者様達がこの国に来てくれるかもしれないんです?」

「それはどうかと。この国を支配する魔王……様が余程の阿呆(あほう)でもない限り、自分と同じ魔王を倒した勇者が来る事を警戒しているでしょうし、もし見つければ即座に殺されるのではないですか? 所詮は役に立つかどうかも分からない勇者ですから」


 すいません。もうすでに勇者の片方がここに居ます。……いや、まあ、正確に言えば勇者じゃないけど。どっちかと言えば魔王ですけど。

 あと、どうでも良いけどメイドさんがむっさ勇者に対して辛辣じゃない……? 俺勇者じゃなくて良かった……お陰で受ける精神的ダメージ0だもん。


「ねえ、ねえブラウン! 勇者様は来てくれるんです?」

「(うーん……どうかなぁ? 少なくても杖の勇者様は来ないんじゃない?)」


 アザリアはあっちの国の中が落ち着くまでは動かないだろうし。

 剣の勇者云々に関しては適当にはぐらかす。変に話してボロを出したら色々面倒な事になるし、アビスの件があるから、剣の勇者の所在は不明にしておいた方が都合がいい。


「勇者様が来て下されば、きっとこの国も良くなるんです。ね?」


 ね? って言われても困るんですけど……。

 本職の勇者ならともかく、ここに居るのは偽物だからねぇ。

 とは言え、こんな無垢な問いかけに泥ぶん投げる必要もないだろう。


「そうですね……」

「(そうなんじゃない……)」


 メイドさんと俺が同じように目を逸らしながら言った。

 世間知らずの御姫様も、俺とメイドさんが心にもないことを言ったのは分かったようで、若干ムスッとした雰囲気を出している。

 ………微妙な空気になってしまった。さっさと話を変えよう。


「(レティや王様達が動物に変えられた呪いって魔王がかけたって言ってたっけ?)」


 適当に思いついた話題を振ってみる。

 家畜の姿についての話題はタブーかとも思ったが、思いついた話題がこれしかなかったので仕方ない。


「はい。あっ、でも正確には呪いをかけたのは別の魔族の方なんです」

「(え? そうなの?)」

「とは言っても、この呪いは魔王様の魔力で維持されているので、魔王様が呪いをかけたと言っても過言ではないのかもしれませんけど」


 マジか。

 微妙な違いが大違い。

 なんたって、魔王以外が呪いをかけたと言うのならば、魔王と関わる事無くレティ達の呪いを解く事が出来るかもしれない。

 呪いをかけたのが魔王ならば魔王に解かせるなり、倒すなりしなければならないのがお決まりだが、呪いをかけたのが別の奴なら、そいつをとっ捕まえて呪いを解かせればそれで解決できる。……まあ、その後で間違いなく魔王に睨まれるだろうけど……。

 別にお節介を焼くつもりはないのだが、こうして世話になっていると、真っ当な大人として「何かしらの恩返しをしないとなぁ」とか思ったり思わなかったり……。


「(その呪いをかけた魔族の居場所とか分からないの?)」

「分かりますよ?」


 え? 嘘? そんな簡単に居場所突き止められるの? 普通のイベントだと、ここから魔族探しのイベントが始まってあっちこっちで聞き込みしたり、追跡のアイテムを集めたりとか、そんな感じの流れになるんじゃないの? こんなイージーモードで良いの?


「ここから西に行った所にある山の中腹でこの町を見張っているとか」

「(……居場所分かってるなら殴り込みかけて呪い解かせれば良いのに……)」

「そんな簡単じゃないんです。居場所が分かった時に、腕の立つ騎士達が向かったらしいのですが、次の朝には全員全身バラバラにされて門の前に転がされて居たって……」


 言うだけでも恐ろしいのか、レティが青褪(あおざ)める。

 そんなレティの子豚の体をメイドが慰めるように「大丈夫です」と抱きしめる。

 ふむふむ……つまり、その呪いをかけたって言う魔族もかなりの強さだって事か……。流石にアドバンスより強いとは考えたくないが……まあ、最悪の展開としてそのくらいの強さは想像しておいて損はないか。

 変に(おご)ると、アビスの時のように鼻っ柱をポッキリ折られて痛い目みるしな? 何事も警戒し過ぎって事はない。



*  *  *



 夜―――。

 陽が落ちて光が去り、暗闇が世界を支配する時間。

 電気のないこの世界では、夜の明かりはもっぱらランプか松明がいいところ。金や魔力が余ってる奴が光源の天術で光を灯すが……まあ、基本的には陽が落ちればどの町も真っ暗だ。元王族が軟禁されているジャハルだって例外ではない。

 そして真っ暗になれば、皆仕事も作業も出来ずに後は寝るだけ。

 そして今日の俺の寝床は……


「どうぞ猫さん」


 メイドさんがコトッと俺の前にバスケットを置く。

 バスケットと言っても決してボールではない。間違っても俺自身をダンクシュートする訳ではない。

 編んだ木で作られた籠の方のバスケットだ。

 若干香ばしい匂いが漂ってくるという事は、パンを入れる為に使われていた奴じゃなかろうか? それが古くなったので丁度良いので俺の寝床にリサイクルされた……と言う裏事情が透けて見える。いや、まあ、良いんですけどね? 中にフワッとした布を敷いてくれる優しさがあるだけで十分ですよ、ええ、本当に。

 ……まあ、床に直置(じかお)きされたのは少し泣きそうになったけど……仕方ないよね? 俺、猫だもん。

 俺が寝床(バスケット)の前で打ちひしがれていると、その間にレティの寝間着への着替えを手伝って居たメイドさんが退室し、部屋の中には猫と子豚だけが残される。……傍目に見たら、完全にペット部屋やん?

 って言うか、一応形的には男女で一部屋なんだけど良いんだろうか? しかも元姫なのに。……まあ、いいか。もう、眠いし……。


「(お休み、レティ……)」


 欠伸を噛み殺しながら挨拶すると、


「ブラウン、一緒に寝ても良いんです?」

「(ダメ)」


 即答してから「よいせ」とバスケットの中に収まる。

 あら? 香ばしい匂いはともかく、寝床としては結構優秀じゃないかしら、このバスケット? 程よい狭さが猫には良い感じだし、底に敷かれた布が思いのほか柔らかくて寝やすいし。

 これなら安眠出来そうだ。

 バスケットの中で足を畳んで丸くなる。

 お休み俺。

 静かに目を閉じる。

 と―――何かがバスケットの中にモソッと入って来て俺を端へと追いやる。

 まあ、何が入ってきたのかは既に分かっていますけども……。


「(レティ……何してんの…?)」


 目を開けると、子豚の体がバスケットの中に収まっていた。


「一緒に寝るんです」

「(寝ないっつうの……)」

「気にしないで下さい」

「(気にするっつうの……)」


 レティとしてはペットと一緒に寝るくらいの軽い気持ちなんだろうけど、まずくない? アンタ元とは言えお姫様よ?


「(狭いし……)」

「狭くないんです」


 いや、普通に狭いよ。

 ピッチリ詰まる事の好きな猫の体としては別に気にならないが、子豚とは言え豚の体のサイズにバスケットが悲鳴をあげている気がするのさ。


「(立派なベッドがあるんだから、そっちで寝ろっつうの……)」

「たまには良いんです」


 言い終わると、目を閉じて寝るモードに入った。

 ダメだこの子。完全に寝る気満々だわ……。

 明日メイドさんが大騒ぎしなきゃ良いけど……。そして俺への風当たりが強くならなければ良いけど……。


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