表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/424

4-2 襲う側、襲われる側

 朝飯の焼き魚1匹を食い終わり(普通に旨かった)、今日も元気に【仮想体】の肩に揺られて歩き出す。

 そうそう、そう言えば近頃は黄金(オリハルコン)の鎧は使わないようにしている。

 今や黄金の鎧は旭日の剣と並んで“剣の勇者”とやらの象徴になっている。……まあ、俺が自分で名乗ってる訳じゃないけど……。変に人にその姿を見られると、俺の居場所が外に伝わってしまう訳である。

 アビスの野郎には、鎧の中身が空っぽで、それを操っているのが(おれ)である事を知られてしまっている。もし、それを他の魔王達に伝えていたら、黄金の勇者=(おれ)である事が知られている訳で……、黄金の勇者の居場所が知れれば、マジンとの因縁ある魔王達が襲って来るかもしれないからだ。

 幸いな事に、収集箱(コレクトボックス)の中には、オリハルコンの鎧以外にも、鉄の鎧やミスリルの鎧一式が入っているので代わりはすぐに用意出来た。


 で、今は鉄の鎧の肩で揺られている訳である。


 オリハルコンの鎧に比べて、鉄は冷たくて安っぽい感じがするなぁ……と、どうでも良い評価をしながらせっせと街道を歩いていると、大きな岩と森の木々に挟まれた見通しの悪い場所に差し掛かる。

 

「ミ?」


 その手前50mで立ち止まる。

 道の先から叫ぶような人の声、金属がぶつかる音、それと―――血の臭い。

 巨岩が邪魔で何が起こっているのか見えないが、魔王の特性によって強化された俺の耳と鼻は何が起こっているのかを詳細に教えてくれる。

 【バードアイ】で視界を巨岩の先に飛ばす。


 んーと、なんだ?


 なんだか、“御高い”感じの馬車が止まっていて、それを囲むように見るからに育ちの悪そうな男達と、馬車を守ろうとしているらしい騎士っぽい方達が睨み合っている。

 育ちの悪そうな連中は……なんだ、アレか? 盗賊とか、追い剥ぎとか、そんな感じの方々かしら? そいで、御高い感じの馬車には、金目の物とか、お偉いさんが乗ってるって話か?

 ………過去に魔族の馬車から盗みを働いた俺としては、あんまり盗賊の方々を責められんなぁ……うん。

 まあ、だからって放っておく訳には行かねえな? 助けに入っておくべ。

 とは言え“勇者モドキ”で助けに入る訳には行かんし、このまま鉄の鎧のまま突っ込むか。

 武器は……どうしよう? 旭日の剣は論外として、アドバンスの青竜刀も……あれはあれで結構なレアリティだから身元バレに繋がりかねないんだよなぁ……。もう良いか、普通に鉄の剣持たせておけば。もしピンチになったら、その時に考えよう。

 よーし、じゃ、(おれ)はいつも通りに身を隠しておくか。

 お(あえつら)え向きに森があるし、適当に木にでも上って【隠形】しておこう。……って、あれ? 森の奥に……まあ、良いか、一旦放置だ。緊急性を要する馬車の方を優先だ。


 俺から離れた【仮想体】が、小走りに巨岩の陰でドンパチやってる連中に近付く。


「観念しな!」「ひゃっはははは!」「もうお前等は終わりだよぉ!」「なあなあ、誰が1番多く騎士を殺せるか勝負しねえ?」「そんなもん俺が勝つに決まってんだろうがぁ」「ぁあ? 俺だよ馬鹿が!」


 なんか、賊の方々はアレですな? モヒカンとトゲの付いた肩パッドとかしたら良く似合うと思う。そしてバイクを乗り回したらいい。

 状況は、馬車を守る騎士っぽい連中の劣勢だな。

 騎士連中は決して弱くないだろうが、兎にも角にも背負っている馬車が邪魔過ぎる。

 馬車がどこかのタイミングで無理矢理賊の囲いを突破するって言うんなら別だろうが、あんな大きい(まと)が留まって居れば足手纏い以外の何物でもない。


「くっ…おのれ!」「陣形を崩すな! 何としても馬車を守れ!」「無論です! 神名にかけてでも!」「ここで倒れたら、末代までの恥ですからね!」


 劣勢ではあるが、騎士達の士気は決して低くない。むしろどちらかと言えば高い。

 馬車を守ろうとする使命感の他に、何かしらに対する忠誠心のような物を言葉の端々から感じる。

 まあ良いか。その辺りの事は助けた後だな。

 ギャーギャー言い合いながら斬り合っている連中の背後に【仮想体】が飛び出す。


「ん? チッ、まだ騎士が残ってやがったか!?」「慌てるな、たった1人だろ!」「後ろに立たれるのは鬱陶しい、野郎は速攻で排除するぞ!」


 賊連中が多少慌てた様子で反応する。

 対して騎士達は「え? 誰?」と不審な顔。


「食らえや! 【サンダー】!!」


 賊の1人が雷の天術を【仮想体】に向けて放つ。

 雷撃系の攻撃はとにかくスピードが早い。とは言え、今の俺に反応出来ない程じゃないけど。

 避けれる事は避けれる。けど避けません。

 何故って?


 【仮想体】が雷撃の直撃を食らい、衝撃で一歩後ずさる。


『【サンダー】

 カテゴリー:天術

 属性:雷

 威力:D

 範囲:E』


――― 天術を収集したいからに決まってるじゃん。


 魔法の方は色々充実して来たけど、天術の集まりがなんか悪いんだよね? 使って来る敵に中々会えない。そもそも似たような物なのに、魔法と天術を2つのカテゴリーに分けてる意味も不明だし。

 とか考えているうちに、追い打ちの天術が放たれる。


「死ねやッ! 【ファイア】!!」


 男の手から放たれる火球の直撃を受ける。

 ドンッと炎が燃え上がり、【仮想体】の全身を炎が呑み込もうとする。


『【ファイア】

 カテゴリー:天術

 属性:炎

 威力:E

 範囲:E』


 はい、まいどー。

 炎が頑張って鉄の鎧ごと中身を燃やそうとしてますが、凄い勢いで無駄です。なんたって中身無いし。

 雷に焼かれ、炎に巻かれながら、ダメージを感じさせない足取りでゆっくり前に踏み出す。

 え? そうですよ? 「ダメージを感じさせない」って、そもそもダメージなんて1mmも受けて無いですよ? 炎に熱せられて、鉄の鎧が熱くなってるくらいの変化しかねえよ?

 ただ、余裕なコチラとは裏腹に、天術がまったく効いていない事に賊連中がどよめいている。


「き、効いてない……?」「ば、馬鹿野郎そんな訳ねえだろうが!」「そ、そそそ、そうだぜ! きっとやせ我慢してるだけだ!」「手を止めるな! 奴を近付けさせるな!」


 ほーれほれ、もっといっぱい天術撃って来なさい。

 わざとゆっくり近付く事で余裕を見せ、同時に相手を威圧する。相手は攻撃が効かなかった事実と、得体のしれない敵が近付いて来る事で焦り、思考力が鈍る。そんな奴等が取る行動はとっても単純だ。


「く、来るんじゃねえ【スプラッシュ】!」


 男の手の平から水流が飛ぶ。

 火事場での放水のような勢いで【仮想体】の足が止まる。ただ、水を浴びたお陰で鬱陶しい炎が消えたので、結果的にはアザース。


『【スプラッシュ】

 カテゴリー:天術

 属性:水

 威力:D

 範囲:D』


 放水の勢いが衰えると再び【仮想体】が前に向かって歩き始める。


「と、ととと、止まれぇ! 【スラッシュ】!」


 見えない何かが鉄の鎧に当たり、ギィンッと金属が擦れる音が響いた。そして、鎧の表面に小さく刻まれた傷痕。


『【スラッシュ】

 カテゴリー:天術

 属性:斬

 威力:C

 範囲:F』


 見えない刃って事ね。

 良いね、この天術は使い勝手が良さそうだ。

 で? まだ手札は残ってるのかな?

 牛歩戦術で時間をかけて近付くが、それ以上の天術は撃って来ない。もう品切れなのか、まだ何か隠しているのか……。

 後者だとしたら、そんな余裕が無い事を教えてやる必要がある。

 えーっと……じゃあ、今さっき貰った天術を1発返してみましょうか?


【スラッシュ】


 見えない刃が手前に居た賊にヒット。そして―――惨殺(ヒット)

 男の体が縦に真っ二つになり、血肉を撒き散らして森の中へと吹っ飛んで行った。


「え?」


 賊と騎士達が手を止めて、「信じられない物を見た」と言う顔で【仮想体】を見る。

 一方俺も、えらいグロテスクな映像にしてしまった事に、同じような顔をしていた。

 いや、だって……鉄の鎧に小さな傷を付ける程度の天術を撃ったら、まさか斬鉄剣が出るとは誰も思わないじゃん?

 ……でも、考えてみればそうか。魔法も天術も、威力は魔力値に依存しているっぽいし、【魔王】の特性で魔力がクソ程強化されてる俺が撃ったら、一般人と同じ威力になる訳ねーじゃん。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ