3-33 魔王達は振り回される
東の大陸の南東に位置する、魔王達の集会場代わりの島。
つい先日、魔王達が集まり、新たに誕生した剣の勇者について話し合ったばかり……なのだが、魔王達が再びこの島に集まっていた―――…。
島のほぼ中央、小高い丘の上に建てられた禍々しい神殿の奥。
魔王達の会議室には巨大な円卓と、それを囲むように12脚の椅子。
椅子に座る、様々な姿の魔王達。
会議場の空気はどこか重い。
しかし、その空気を切り裂くように部屋奥の右側の席に座る女性が口火を切る。
「前回アビスが剣の勇者の元へ行って来るって事で話が纏まった訳だけど、今回集まったのはその報告―――な、の、に! なんでっ! なんでッ、本人が居ないのよ!?」
エトランゼ=B・エトワール。
人魚のような美貌を持つ彼女だが、今は怒りの為に顔は歪み、美しさ2割減である。だが、魔王としての古さ、強さ、共にナンバー2の彼女にそんな事をツッコめる者が居る筈も無い。
そして、彼女が親の仇の如くビシッと指差す自分の隣の席。本来ならば最も古く、最も強い魔王―――アビスが座っているべき席。その席は現在空っぽだった。
つまり、欠席だ。
「主催者!! どうなってるの!!?」
クワっとエトランゼに睨まれ、前回の招集に引き続き主催者をやっている針鼠のようなツンツンした銀髪の魔王、ヴァングリッツ=フラ・J・フィスタルは一瞬ビクッと肩を震わせる。
アビスに比べれば話の分かるエトランゼだが、30年前まではアビスとの喧嘩で平気で大陸を削り、島を沈めていた凶暴さは決して冗談ではない。むしろ、通常時に話が通じる分、我を忘れると手が付けられなくなる度合いはコッチの方が高いくらいだ。
「あー……っと……。『面倒だから行かねえ』だそうだ」
それを聞いた途端に、エトランゼの拳が円卓に叩きつけられ、轟音をたてて真っ二つに割った。
「あんの、阿呆がァッ!」
円卓が割れた衝撃で会議場の空気がビリビリと震える。
周りの魔王達は1人を除いて仰け反る程にビビる。
今エトランゼが叩き割ったのは、ただの木の机ではない。魔力を内包する特殊な木を加工して作られた特別製で、その硬度はアダマンタイト並みとすら言われている。更に言うなら、そこに防御魔法も施されていたのだが……エトランゼのパワーの前には全て無駄だったようだ。
「報告程度の事もまともに出来んのかアイツはぁ!!」
まだまだ怒りの収まらないエトランゼに、誰も何も言えない……と思ったが、1人だけ居た。
「それは、エトが悪いよね」
言ったのは、アビスの席を挟んだ反対側に座っていた巨大なボールのような魔王、デイトナ=C・エヴァーズだった。
美味しそうに果実やら何かの肉やらを口に放り込みながら、特に緊張した様子もない、日常会話をするトーンの声。
元々2人は“最古の血”として100年近い付き合いだ。だからこそ、気心が知れている。
「ちょっとデブ!! なんで私が悪いのよ!!」
……ただ、それが怒りの鎮静に繋がるかどうかはまったく別の話である。
エトランゼから間近で殺気を叩きつけられても、デイトナは長年の慣れからシレッとそれを受け流す。
「だって、アビスが『ちゃんと報告に来る』なんてある訳ないでしょ? それを来ると信じていたんなら、それはエトが悪いよ」
「……………そうね」
ぐうの音の出ない程の正論だった。
あの超絶理不尽、自己中、唯我独尊なアビスが「報告」なんてまともな仕事をする訳がないのだ。
デイトナの言葉で冷静さを取り戻し、優雅に椅子に座り直すエトランゼ。
気まずそうに割れた円卓を見た後―――
「【逆再生】」
パチンっと指を鳴らして魔法を唱える。
すると、割れていた円卓がシュルシュルと巻き戻しされるように元通りになる。
「良いわ。冷静になりましょう皆」
「冷静じゃないのはエト1人だけどね」
デイトナのツッコミを右から左に受け流す。
「ヴァン、主催者でしょう? さっさと話を進めなさいな」
「話止めてたのもエトだけどね」
エトランゼがいい加減カチンッと来てデイトナを睨むが、その突き刺すような視線をスッと顔を逸らして気付かない事にした。
一方、話を進めるように促されたヴァングリッツは、エンシェントブラッドの2人のそんなやり取りを視界に捉えながらも、変に気にしても良い事が無いのでスルーした。
「剣の勇者とアビスが戦闘を行ったのは間違いない。私の国でそれらしい2人が戦っているのを見た者が居る。それに、戦闘跡を私も見たが、あれだけの大規模な爪跡を残せるのはアビスくらいしか居ないと断言できる」
ヴァングリッツの報告に参加者の顔が少し明るくなる。
最強の存在であるアビスが戦闘を行ったと言う事は、相手の剣の勇者の死を意味するからだ。
目下の不安の種であった勇者が排除されて、皆目に見えて安心したのだ。
が、そんな中にあってエトランゼは怒っていた。
「“アビスくらいしか居ない”? なんなら私が同じ事をやってさしあげましょうか!?」
「エト、多分ここは対抗心燃やすところじゃないよ」
もはや脱線させる気満々な2人は無視する。
「では、剣の勇者の件はこれで片付いた……と言う事で良いのか?」
確認の為にそう聞いたのは、溶岩のような深紅の肌の巨大な鬼の魔王、ギガース=レイド・E。
その問い掛けに、ヴァングリッツは顔を伏せる。
「……いや、それが……見張りの話によると、剣の勇者を先日奴の拠点であるクルガの町の近くで見たらしい」
「生きて……居るのか!?」
「そうらしいな……」
最強と戦って生き残った事実に魔王達の間に動揺が走る。
沈むように重くなる部屋の空気を感じた訳ではないが、エトランゼとデイトナの2人は顔を見合わせて黙る。
それ以外の魔王達は、慌てたように次の展開を話し始める。
「今度は自分が!」だの「本当にアビス殿と戦って生き延びたのか?」だの、暫く好き勝手な話し合いとも呼べない言葉のぶつけ合いが続き、最終的に「アビス以外の最古の血に行って貰う」と言う感じの話が出たのだが―――
「私はパス」
興味無さそうにエトランゼが言うと、それに続くようにデイトナも
「同じく」
「ど、どうしてだ? アビスが倒し損ねた相手とあれば、それを倒せば―――」
「だから嫌なのよ」
ヴァングリッツの言葉をエトランゼがスッパリ斬って捨てた。
しかし、それ以上エトランゼは何も言わない。「説明するのも面倒臭い」と言う事らしい。
仕方無く、デイトナがモシャモシャと口に食べ物を放り込みながら、自分達が嫌がる理由を説明した。
「アビスが剣の勇者に1度は仕掛けたのは間違いないんでしょ?」
「あ、ああ。それは間違いない」
「うん。だったら、剣の勇者はアビスの手から逃れたって事だよね? アビスが「逃がした」のか「逃げられた」のかは分からないけど、どっちにしてもアビスが唾を付けた相手なのは変わらないでしょ」
「つまり……?」
ここまで説明されても理解しない他の魔王達に、焦れたようにエトランゼが口を開く。
「あの脳筋馬鹿のアビスが、1度自分の獲物に定めた相手を横から掻っ攫われたらどうなるかは考えなくても分かるでしょう?」
怒る。
間違いなく怒る。
そして、剣の勇者を倒した魔王に喧嘩を売って来る。
下手をすれば、そのまま魔王間での全面戦争になるかもしれない。そうなれば、世界最強の力が襲いかかる事になる。
「“剣の勇者を野放しにする事”と、“剣の勇者を排除する事でアビスに睨まれる事”どっちがリスクが高いかは考えるまでもないでしょう?」
考えるまでも無く後者の方が圧倒的にリスクが大きい。
剣の勇者であれば、まだ各々の魔王達の力で何とかできる可能性があるが、アビスが全力で暴れ始めたら“世界の終わり”すら覚悟しなければならないレベルの話になるからだ。
「だから、私もデイトナも首を突っ込みたくないと言っているのよ」
「では、剣の勇者の事は……」
「各自勝手に対処すれば良いんじゃない? 流石に剣の勇者が襲って来たのを返り討ちにしたってんなら、アビスだって文句は言わないだろうしね。貴方達だって、魔王を名乗る以上は相応の自負があるのでしょう? だったら、勇者の1人や2人自力でなんとかしなさいな」
突放す様な言い方だが、それが魔族のルールなのだ。
弱者は強者に蹂躙される―――弱肉強食。
魔王であればこそ、その意味を強く理解している。
だからこそ、「自分の力で何とかしろ」と言われれば、そうしない訳には行かない。
助けを求める事は出来る。しかし―――魔王のプライドがそれを許さない。
結果、魔王達は己1人の力での対処を余儀なくされるのだった。
3章 終わり
おまけ
3章終了時点のステータス
名前:無し
種族:猫(雑種)
身体能力値:11(+945)
魔力:4(+900)
収集アイテム数:96種
魔法数:28種
天術数:6種
特性数:2種
魔眼:【紛い物の幻】
装備特性:【魔王 Lv.8】
マスタースキル:【収集者】
派生スキル:【ショットブースト】【隠形】【バードアイ】【制限解除】【仮想体】【毒無効】【アクセルブレス】【自己修復】【属性変化】
ジョブ適正:暗殺者、忍者、魔王、リッパー、マリオネッター




